ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

教育事情。あの国、この国。

2010-09-01 20:02:52 | 社会
時は国際大競争の時代。持てる資源をいかに活用し、競争をいかに勝ち抜いていくか・・・その資源の一つが、人材。その人材を育てる基礎は、言うまでもなく学校教育ですね。今では、各国共通のテストを行い、国別の順位までつけていますから、次代を担う子供たちの教育には、いっそう力を入れざるを得ませんね。

こうした背景があるからでしょうか、文部大臣ともなると他国の教育事情が気になるようで、フランスのシャテル文相(Luc Chatel)も26日からデンマークへ視察の旅へ。ル・モンド(電子版)が紹介しています。

8月26日はまだ夏休みで、視察なんて名目だけ。実際は単なる旅行じゃないか、とご心配の向きもあるかもしれませんが、ご心配なく。寒さの厳しいデンマークでは冬休みが長いからでしょうか、新学期は8月初めに始まるそうで、今年は11日からすでに授業が再開されています。デンマークの夏休みは、ドイツ、リヒテンシュタイン、オランダと並んで6週間と短い。一方のフランスは9週間で、新学期は9月2日にならないと始まりません。しかし、ヨーロッパでは9週間が平均的なんだそうです・・・日本は、地域による差はありますが、基本は6週間。エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)の分類する「直系家族」社会(“la famille souche”)に同じく属している日本とドイツ、夏休みの長さでも同じなんですね。

夏休み以外にも、フランスとデンマークの教育事情には、さまざまな違いがあるそうです。地理的にはそれほど遠くないのですが、所変わればで、かなり異なっているようです・・・まず、年間の授業日数ですが、フランスでは小学校が144日、中学校で178日なのに対し、デンマークではおよそ200日だそうです。OECDのデータでも、フランスは36週(実質的には35週)なのに対し、デンマークは42週。

しかも、週ごとの授業日数も異なっていて、デンマークでは5日登校しますが、フランスでは2008年から土曜日の授業が廃止されたので月・火・木・金の4日だけ。1日の授業時間も異なっており、デンマークでは、小学校では12時か12時30分、中学校でも14時か15時には終了してしまうとか・・・フランスでは夕方、多くの親や関係者が小学校の建物入口まで子供を迎えに来ています。確か16時30分までしっかり授業があったと思います。

またデンマークでは6歳から16歳までの義務教育が一貫教育になっているが、フランスでは小学校(l'école primaire)と中学校(le collège)で分断されている・・・一貫教育のほうが、カリキュラムの組み方など、やりやすいのでしょうか。日本でも、小中とか、中高の一貫教育が増えてきていますよね。

裁量権についても、大きな違いがあるそうです。デンマークでは、国は大きな教育目標などを策定するだけで、細部は各学校に任せている。例えば、総時間数の中で、教科ごとにどのように時間配分するかといったことも、各学校が自ら決めることができる。もちろん、最低限必要な時間数は、国が決めるそうですが・・・フランスでは、1968年の五月革命で学生たちが大学の自治の拡大を要求し、勝ち取りましたが、義務教育に関しては今でも中央政府が決定権を持ち、各学校にはあまり裁量権を与えていないのかもしれないですね。

教師と生徒の関係にも違いがあります。デンマークでは、生徒は教師をファースト・ネームで呼ぶ。また、短い夏休みなのに、教師の休みはさらに短い・・・新学期の授業の準備とか、やることはいくらでもあるのでしょうね。一方、教師も労働者とみなすせいでしょうか、フランスの教師たちは、子供たちと同じく長いヴァカンスをしっかり楽しんでいます。

教育にかける予算も異なる。GDPに占める教育費の割合が、デンマークは7.5%に達し、OECD加盟国中3位だそうです。1位はイスラエル、2位がアイスランド、4位は韓国。一方のフランスは、6%。教育にかける熱意の差が出ているのでしょうか。因みに日本は2005年の資料で、わずか4.9%。OECD加盟国中下から7番目。しかも私費負担部分が大きく、公的支出は対GDP比3.4%で、最下位。わたしたちの税金は、どこへ行ってしまったのでしょうか。飛行機の飛ばない日もある飛行場、巨大な釣り堀と化した輸出港、目的のはっきりしないダム、通行するクルマもまばらな自動車道・・・もっと教育に投資を! もっと人材に投資を!

ここまで見てくると、デンマークの教育事情には何も問題がないように思われてしまいますが、世の中、そう甘くはない。各国共通のテストが行われ始めている。例えば、PISA(各国の15歳を対象とした生徒の学習到達度調査。読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーが主要分野)。2000年調査分では、デンマークは参加31カ国中16位。がっかりの結果だったそうです。しかも、2003年、2006年の調査でも、大きな改善は見られなかった・・・この調査で特にいい結果を残しているのは、フィンランド。シャテル文相も、もしまだ視察に行ってないなら、フィンランドへ行くべきですね。

今回の視察目的は、あくまで他国の現状を知ることであって、フランスの教育モデルを探しに行くことではないと、シャテル文相は、あらかじめ繰り返し言っていたそうです。しかも、フランスの学校の年間スケジュールは3年さかのぼって決定されているため、デンマークから帰って急に変更というわけにはいかないそうです。しかし、フランスも教育改革に少しずつは取り組んでいて、9月の新年度から124の中学・高校で、午前中は教室での授業、午後はスポーツというカリキュラムを行って、その是非を判断することになっているそうです。

地下資源に決して恵まれているわけではない、日本。人材こそ、明日への活力。日本が人材の宝庫になるよう、教育には「知恵」と「お金」、惜しんではいけないのではないでしょうか。充実した教育、その結果としての科学立国。日本の目指す道ではないかと思っているのですが・・・