平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

その人は売春婦だった(高橋英雄さんの個人誌『神人』2005年4月号より)

2005年05月07日 | 最近読んだ本や雑誌から
神人列伝(13)

その人は売春婦だった   高橋英雄

昭和20年8月9日
ソ連軍は突然 国境を破って
満州に攻め入って来た
ソ連の大軍はたちまち日本軍をけちらし
南下し全満州を占領してしまった
幾多の兵士や一般人の血が流れた

ソ連軍は囚人部隊だったという
無学文盲、強盗、強姦、殺人鬼どもだった
日本人はソ連兵の目に触れないよう
婦女子を男装させ家の中にかくしたが
動物的臭覚で忽ちかぎつけ
女を出せ! と機関銃をつきつけた
幾多の女性が彼らの獣欲の犠牲になった

ある集団にもついに牙がむけられた
一人の女性を出さなければならなくなった
行ったら最後ひどい目にあうのは必定
生きて帰れないのはわかっていた
だから皆 下を向き息をひそめるだけだった
その時
「私が行きましょう」
と起ち上がった女性がいた
みんなはホッとした
ソ連兵は彼女を連れ去った

彼女は娼婦だった
みんなに侮辱され軽蔑されていた売春婦だった
彼女の人身御供によって
日本人の女性たちは助かった

観音様は三三に身を変じ
人々を救うという
彼女は娼婦に身を変じた観音さまだった
極限の状態に身がおかれると
人間の本性が現われる
売春婦だった彼女の神性が現われたのである

【編集後記より】
神人列伝に書かれた女性の話は、当時、少女だった婦人からきいた実話で、たまたま海外からの引揚者の話の中の一つのエピソードでした。勿論、この売春婦だった人は帰らぬ人となりました。生き残った人々が彼女の菩提をとむらったかどうかはわかりませんが、少女も今は80に近い人となり、世界平和の祈りを祈る人となっておりますので、売春婦に身を現じた観音さまも満足していることでしょう。

 こういう無名の人々の行跡は、年とともに過去に葬りさられますが、終戦60周年を迎える本年、たまたま引揚者の一人の口のはにのぼり、無名婦人の天命がこれで完うされたことになったと思います。