韓国がGSOMIA「終了通告の効力停止」、逃げ道なしの苦境を元駐韓大使が解説
GSOMIAを巡って逃げ場のない状況に 追い込まれ、屈した文在寅大統領
韓国の文在寅大統領は22日夕方、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄するとした決定を、土壇場になって効力停止すると決断。数カ月間のドタバタの末、協定は終了せず、効力維持ということになった。
一方、日本の経済産業省は同日、韓国向けの輸出管理強化について、韓国当局と局長対話を行う方針を明らかにした。
輸出管理に関する協議は3年以上行われておらず、そのことも日本が管理を強化する原因となってきたが、韓国当局がWTO提訴を取り下げる決定を下したのを受け、二国間の局長協議を行うことにした。
韓国側としては、日本と協議をすることになったと説明するきっかけとなるだろう。
ただ、今回の発表で重要なことは、GSOMIA破棄の効力停止は「条件付きではない」ということだ。
韓国側はGSOMIA破棄の効力停止の決断は、輸出管理について当局間で対話するという条件を日本側が飲んだからだ、と国内向けに説明したいだろう。
しかし日本側が韓国側の期待するような形の協議には応じなかったため、条件付きにはならなかったのでないか。
日本の経産省は、輸出管理に関する政策対話とGSOMIAは関係ないと明言している。
日本側としての協議の意義は、韓国政府が杜撰な輸出管理を改めることで、韓国側への許可をよりしやすくすることだろう。
文在寅政権が姿勢を改めたのは、米国の強い圧力に屈したためであるが、同時に日本政府の毅然とした対応によって、従来の主張を通せなくなったということでもある。
だが、GSOMIAについては、韓国政府はそうした「真実」を国内で説明する必要はなく、諸般の情勢から国益にかなうと判断したと言って、国民の納得を得れば、政権が負う傷は最小限に抑えられるだろう。
そのために、文在寅大統領はことの顛末を国民に説明するという「嫌なこと」を避けるのではなく、積極的に国益とは何かについて、直接国民に語るべきだった。
4日前の19日、文在寅大統領は韓国文化放送(MBC)が生放送した「国民との対話」で、「最後の瞬間まで努力する」と余韻を残していた。
しかし実際に述べたことは、「韓国が日本安保の防波堤になっているが、日本が安保的に韓国を信頼せず輸出統制を行なった」と従来の主張を繰り返しただけであった。
韓国のリアルメーターによる世論調査(15日)では、GSOMIAを「破棄すべき」は55.4%と、「延長すべきだ」の33.2%を上回り、前回(6日)よりも7.1%上昇した。
特に文政権の支持が多い革新層では「破棄すべきだ」という意見が強く、これを撤回すれば、文在寅大統領に対する支持も揺らぐといわれていた。
しかし、こうした逃げ場のない状況を作り出してきたのは、文在寅大統領本人である。
韓国でも、外交部、国防部など実際に安全保障を担当する部局は破棄に反対してきた。北朝鮮の最近の挑発行動を見ると、破棄を撤回すべきという人々の危機感は高まっていた。
保守層と改革層での意見対立がある中で、これを撤回できるのは大統領だけだった。
「国民との対話」で「最後の瞬間まで努力する」などと述べているが、やっていることといえば日本の譲歩を求めているだけで、韓国の国益を考えた指導力など微塵も発揮していなかった。
これが、文在寅大統領の「劇場政治」だが、土壇場で国益に基づいた判断を下したことは幸いだった。
ハリー・ハリス駐韓米大使は、「米国の朝鮮半島の防御に関連した能力に影響を及ぼしたことに失望した」として「在韓米軍と韓国軍はより大きな脅威に置かれることになる」と指摘していた。
GSOMIAを巡って日米韓を巻き込んだ一連のドタバタ劇を演出した文在寅大統領は、韓国の安全保障を危機にさらしてきた。
また、GSOMIAは、日米韓の安全保障上の連携にとどまらず、広く内政、経済、外交面で韓国に深刻な打撃を与えるとの現実を認識させられたのが、今回の一連の動きである。
GSOMIAは日米韓連携の象徴 それを理解しない文在寅大統領
土壇場でGSOMIA破棄を思いとどまったことで、韓国は国際的に孤立する事態を免れた。
これまでの韓国の発展は、日米韓の協力が基礎にあった。したがって、GSOMIA破棄による日米韓連携からの離脱は、韓国にとって居心地のいい場所をなくすことにつながる。<iframe class="teads-resize" style="margin: 0px !important; padding: 0px !important; border: currentColor !important; width: 100% !important; height: 0px !important; display: block !important; min-height: 0px !important; border-image: none;"></iframe>
すでに忘れた人も多いとは思うが、1970年代までの南北の関係では、政治、経済、外交面で韓国よりも北朝鮮の方が優位にあった。
外交的にも北朝鮮と関係を結んでいる国の方が多い時期があり、経済的にも、北朝鮮には地下資源があったため、韓国よりも優勢であった。
こうした状況を変えたのは、韓国が日米韓協力の一員として発展したからだ。
半面、北朝鮮はソ連、中国の対立もあり、主体思想に基づき、自主路線で進んできた。その差が、現在の経済格差に反映されている。
また、北朝鮮の核問題解決に協力してきたのは、日米であって中国ではない。
むしろ中国はTHAADの配備を巡って韓国に報復してきている。日米が韓国を助けずして、他に韓国を助ける国はあるだろうか。
こうした現実を文在寅大統領は理解していなかった。
保守政権が成し遂げた「漢江の奇跡」を否定する人だから、日韓との連携に重きを置いていないのかもしれない。
一連の騒動を経験して、日本も米国も、韓国は日米韓連携の一員なのか疑念を持つことになったが、破棄を思いとどまったことで少なくとも見放すことはないだろう。
安全保障面では日韓関係よりも 米韓関係への影響が大きい
米国が韓国に強い圧力をかけた背景は、GSOMIAが軍事的に日韓関係よりも、米国により重要な意味を持つからだ。
これまでGSOMIAが日韓の安全保障面で果たした役割の主なものは、北朝鮮のミサイル発射の探知と航路追跡。
日韓の軍事情報共有はまだ日が浅く、韓国側の脱北者などの人間を通じた情報など、機微な分野での情報共有はそれほど活発ではなかったようだ。
したがって仮にGSOMIAを破棄した場合、日韓が安保面で被る影響は、それほど大きくはないとの分析が主流だった。
他方、米国が朝鮮半島で実行する軍事行動には制約が出てくる。
日韓でGSOMIAがなくなれば、日米、日韓での軍事行動の際に、GSOMIAに参加していない国の保有する機密情報を使うことができなくなるからだ。
GSOMIAがある状態での有事の際、米軍と韓国軍、米軍と自衛隊は速やかに共同で軍事作戦を実行する。
そして、共同作戦を行うにあたっては、米軍は独自に入手した情報に、日本や韓国から得た情報を全て加えて作戦を立案する。
その際には「日本から得たものだから、日米共同作戦にしか使用しない」といった区別はしない。
日韓にGSOMIAがないと、日米韓の共同作戦に支障をきたすことになる。
韓国は、米国からGSOMIAに残るよう再三の働きかけを受けているにもかかわらず、ギリギリまで破棄の決定を見直そうとしなかった。
この過程を米国はどのように受け止めるであろうか。米国にしてみれば、韓国はもはや同盟国として信頼できない相手だと考えざるを得ないのではないだろうか。
韓国は、米国が嫌がるGSOMIA破棄を持ち出すことで、米国から日本に働きかけさせようとしたようだが、これは下手な戦術的計略で、戦略を誤ったということだった。
日韓関係は韓国側の 思う通りにはならない
日韓関係では、これまで緊迫する場面が多々あった。しかし、その度にこれを乗り越えてきたのは、国民感情を刺激することの少ない問題をまず解決し、雰囲気を良くしたところでより難しい問題に取り組むという、外交的知恵であった。
GSOMIA問題が前進したことで、日韓に残された大きな懸案は元徴用工をめぐる大法院判決の取り扱いの問題となる。
日本は、元徴用工問題が日韓関係の根本を覆す問題であり、日韓請求権協定を全面的に尊重するものでなければ、一切の譲歩はできないとの立場である。
GSOMIAにおいても韓国側は日本の原則的立場の変更を求めてきた。GSOMIAで日本が原則的立場を一切譲らなかったことで、元徴用工の問題でも日本は譲らないという教訓を、韓国側が得てくれればと思う。
GSOMIA破棄凍結で、韓国は かろうじて日米韓の一員と認められる
米国はGSOMIAを日米韓連携の重要な要素と見ていると同時に、対中牽制という枠組みでも見ている。
韓国がGSOMIAを破棄したならば、今後米国は、韓国に対して米国を取るのか中国を取るのか、さまざまな側面で決断を求めてきたであろう。