Hung Chung Chih / Shutterstock.com

米中の貿易戦争は、金融市場に大きな不安をもたらした。
だが、この問題もいずれは収束を迎えることになるだろう。メキシコとカナダとの貿易問題と同じように、米政府が終わらせることになると考えられる。
一方、中国の債務問題は、米国には終わらせることができない。
 
この問題は中国、そして世界の経済に大きな問題をもたらす可能性がある。
 
つまり、中国にとって最大の問題は、貿易戦争ではない。
 
国内外にバブル経済の危険を招きかねない、自国の債務の増加だ。
公平を期するために言えば、米国にも債務の問題はある。日本もそうだ。
 
各国・地域の経済関連データを提供するトレーディング・エコノミクスによれば、政府債務の対GDP比は米国が105.40%、日本が250%となっている。
両国ともに、非常に高い比率だ。ただ、これらの数値はかなり正確なものであり、広く知られている。
 
そのため両国の債券価格と債券利回りは、投資家がポートフォリオに債券を組み込む際のリスクプレミアムにも明確に反映されている。
中国の政府債務の対GDP比は、公式には47.60%という低い比率だ。
 
だが、その数値を“非公式に”把握するのは簡単ではない。
 
それは、政府が貸し手であり、同時に借り手でもあるためだ。
 
国有企業(SOE)と郷鎮企業(TVE)が国有銀行から借り入れをしているように、政府の一部門が別の部門に融資をしている。
それでも、いくつかの非公式な推計は発表されている。
 
例えば、国際金融協会(IIF)は先ごろ、中国の政府債務の対GDP比は300%に達するとの見方を示した。
 
ギリシャとの類似点
中国の経済成長は、鈍化することが予想されている。
 
仏銀行大手BNPパリバは、「中国の経済成長は貿易戦争がなくても来年、世界経済の動向と歩調を合わせて減速するだろう」とみている。
さらに悪いことに、政府が貸し手であり借り手であるということは、信用リスクは分散されるのではなく、そこに集中しているということだ。
 
債務危機が起きたギリシャと同じように、システミック・リスクは高いということになる。
さらに、政府が同時にこれら2つの役割を持つことは、規制する立場にあるという政府の第3の役割との間に矛盾を生んでいる。政府は規制当局として、貸し手と借り手が守るべきルールを設定しているのだ。
 
金融危機が発生した場合には、このことが債権者の救済を複雑にする。
ギリシャが抱えていた債務の「ヘアカット(既存債券の一部放棄)」が同国経済に多大な影響を及ぼした要因の一つには、政府系銀行と年金基金が一般政府と政府系企業各社の債権者だったことがある。
 
ギリシャはヘアカットによって、損失を政府の一部門から別の部門に移したのだ。
 
つまり、損失をカバーするための新たな融資の必要性が生じた。
中国の状況は、ギリシャより一層深刻な可能性がある。
 
政府は銀行と年金基金、企業を同時に所有している。
 
国有銀行が国有企業に直接、融資を行い、まるで“福祉機関”のように機能している。
 
さらに、銀行は中国経済の成長を後押しし、“投資バブル”を招いた土地開発業者にも貸し付けを行っている。
ギリシャと中国の債務状況や財政構造の類似点は、非常に重要なポイントだ。
 
だが、両国には大きな違いがある。中国はギリシャに比べ、巨大だということだ。
 
中国で金融危機が発生すれば、世界経済への影響は莫大なものになるだろう。