■200000アクセス突破特別企画
2007年10月4日1712時、Weblog北大路機関はアクセス解析開始から20万アクセスを突破。記念すべき20万アクセス目の閲覧記事は大阪環状線に関する記事(※)でした。
今回特集するのは、16DDHとして設計、建造が進められ2007年8月23日にIHIマリンユナイテッド横浜工場にて“ヘリコプター護衛艦ひゅうが”として進水式を迎えた最新鋭DDHひゅうが型である。横須賀マリンフェスタ見学と同日、横浜にて“ひゅうが”を撮影したのは既報であるが、今回はその詳報に当たる記事である。
海上自衛隊初のヘリコプター搭載護衛艦として1973年4月22日に竣工した護衛艦“はるな”は、満載排水量6500㌧と、それ以前に最大であった“たかつき”型護衛艦の3950㌧を大きく上回る艦で、ヘリコプター三機と5インチ砲二門を搭載する有力な護衛艦で、近代化改修により満載排水量は6800㌧に増加、佐世保から舞鶴へ移動し、日本海防衛の要、第三護衛隊群旗艦に就いた。
しかし、1973年に就役した“はるな”は老朽化が著しいことも事実で、2000年12月15日に発表された「新中期防衛力整備計画」において、“はるな”型の後継艦を2004年、2005年に計画。新型DDHは2004年(平成16年)の名前を用いて16DDHと呼称されることとなった。なお、二番艦は財政難から翌年に変更され、予算承認を受けている。
16DDHは、その能力の主柱に航空機運用能力と指揮管制機能を盛り込んでいる。これは、“はるな”建造の時代、海上自衛隊は対潜水艦任務(ASW)に重点を置くシーレーン防衛を任務の中心に据えていたが、21世紀における海上自衛隊は、国際平和維持活動や人道支援任務、更に今日的にはテロとの戦いという任務が加えられ、よりグローバルな活動を支える上で、自己完結力が求められ、加えてRMAに筆頭を挙げる艦艇のシステム化ネットワーク化に対応するには高度な指揮中枢任務艦が必要となったためである。
ひゅうが型は、基準排水量13500㌧、満載排水量18000㌧であり、DD(駆逐艦)に区分される艦艇では世界最大の規模を有する。全長は197.0㍍、幅33.0㍍、喫水は7.0㍍で、喫水線から飛行甲板までの高さは15.0㍍。主機はCOGAG方式で二軸推進、出力は100000馬力、速力30ノットである。Mk41VLS16セル型一基と20㍉CIWS,三連装短魚雷発射管各二基を武装として搭載しており、乗員は322名、加えて司令部要員25名が乗艦する。
“ひゅうが”には、火器統制装置としてFCS-3の改良型が搭載されている。これについては後述する。“ひゅうが”は、航空機運用に重点を置いた、と前述したが、飛行甲板には四機同時に発艦するヘリスポットがあり、艦内の格納庫には紹介ヘリコプターであれば7機、最大11機が搭載できるとのことである。また、“ひゅうが”は護衛隊群旗艦としての運用を想定しており、C4ISR機能として新しく開発された水上艦用情報処理システムを搭載している。艦内情報はネットワーク化され、海幕システム(MOF)ともリンク、加えて指揮中枢となる多目的エリアがCICとは別に設けられている。
写真のカバーがかけられている部分は搭載艇の収容口であり、カバーがかけられていない部分は舷橋部分にあたる。各種ミサイルを搭載するVLSは、後部甲板上、飛行甲板と同じ高さに装備されている。この位置では発射時のブラストが飛行甲板に係留している艦載機への影響が懸念されるが、同時に飛行甲板の強度がミサイル発射時のブラストに耐えうる程度のものであることも示している。“ひゅうが”は、このような全通飛行甲板を採用したことで、続き番号であるDDH145ではなく、DDH181という新しい番号を拝領している。
従来の護衛隊群は、哨戒ヘリコプター三機を搭載するヘリコプター護衛艦を中心に、ミサイル護衛艦二隻と汎用護衛艦五隻が連携し対潜戦闘を展開していたが、弾道ミサイル脅威の拡散により、2007年度末には、護衛隊群を対潜戦闘に重点を置くDDHグループ、ミサイル防衛に対応するDDGグループという二つのタスクフォース編成に改編する構想があり、16DDH計画の艦型拡大に影響を及ぼしたと考えられる。
ひゅうが型護衛艦のもう一つの任務は、掃海ヘリコプターの運用である。掃海輸送ヘリコプターMCH-101として、部隊運用の研究が進められているが、MCH-101の搭載を前提として“ひゅうが”型は設計されている。これにより、従来では考えられない地域への迅速な機雷除去任務に対応することができる。
また、ひゅうが型護衛艦は現行の掃海ヘリコプターMH-53の着艦にも耐えうる甲板強度を有しており、強度としてはVTOL戦闘機の運用も可能では、といわれている。VTOL機は垂直離陸を行う上でジェットをそのまま甲板に吹き付ける為、甲板強度の問題が提示されるが、簡易空母用の耐熱マットなども海外では開発されており、その必要があれば能力を追加することは可能である。
なお、航空機運用に不可欠なエレベータは、航空機用、物資弾薬用各二基計四基が配置されている。
ひゅうが型の主力艦載機はSH-60Jの改良型であるSH-60Kになるが、従来の対潜哨戒用途の装備に加えて、ヘルファイアASMによる水上高速目標対処能力や、器材を下ろせば輸送ヘリコプターとしても運用でき、在外邦人救出任務や国際平和維持活動に対して、任務遂行に柔軟性を与えることが期待できる。
はるな型護衛艦の後継として16DDHの計画が進められ、当初は艦の前部に5インチ砲とVLSを、中央に上部構造物と格納庫を設置し、後部に飛行甲板を配置するというモスクワ級ヘリコプター巡洋艦のような計画、上部構造物の前後にヘリコプター甲板を設置するという、豪州海軍のニューポート級揚陸艦改造案のようなものが提案されたが、最終的に全通飛行甲板案に落ち着いた経緯がある。
全通飛行甲板としては1998ねんから2003年にかけて3隻が就役した“おおすみ”型輸送艦がある。当初、全通甲板の前部は車輌甲板として用いられていた為、実質的には発着能力を有するドック型輸送艦という運用が為されていたが、2004年のスマトラ島沖津波災害に対する人道支援任務では、ローターを取り外した陸上自衛隊のUH-60JA多用途ヘリコプターを艦内の車輌甲板に搭載し、全通飛行甲板としての運用を行っている。
“おおすみ”型と“ひゅうが”型は、輸送艦とヘリコプター搭載護衛艦という区分の違いがあり、一概には比較できないが、例えば大規模災害時などでは、“おおすみ”型を支援する各種ヘリコプターを“ひゅうが”型が搭載するという運用もあろうし、更には、一種のヘリパットとして“おおすみ”型に“ひゅうが”型のヘリコプターを搭載、重整備は“ひゅうが”型が行う、という運用も今後は考えられよう。
“ひゅうが”型は、護衛艦としては直線を中心に形成したステルス性の高い上部構造物設計を採用しており、イージス護衛艦“あたご”型から本格的に採用されたステルスマストを搭載している。ただ、モノポールマストであっても、ここまで電子装備を搭載するとステルス性は低下し、近年一部の先進国では塔のようなパゴダ型マストを採用する艦が増えつつあるようだ。なお、こうした用途の艦では艦尾部分に航空機エンジン整備区画とその排気口を設置するのだが、“ひゅうが”型にはこうした排気口が見当たらないのが気にはなる。
写真は、“ひゅうが”の艦橋部分。四角い部分は、FCS-3改である。射撃指揮装置3型は、従来の射撃指揮装置2型(FCS-2)の後継として導入されたもので、D(L)バンドレーダーOPS-14,ミサイル追尾用のI(X)バンドレーダーのFCS-2,各種火砲の誘導装置を統合したもので、G(C)バンドレーダーが採用されている。オランダのAPARやフランスのARABELはXバンドレーダーを採用しているが、長距離目標の索敵にはG(C)バンドレーダーの方が優れている為採用されたと考えられる。
試験艦“あすか”艦橋部分に搭載されたFCS-3.従来はレーダー捜索と目標追尾を別々に行っていたが、これでは同時多目標追尾に支障を来す為、これを統合したMFR(多機能レーダー)が必要とされた。これがFCS-3である。また、併せてACDS(発展型戦術情報処理装置)が開発されており、これらの構成は、イージスシステムとの共通点も多い。
また、試験艦“あすか”にて開発が進められていたOQQ-21ソナーシステムも“ひゅうが”には搭載されている。これは大出力の低周波アレイソナーと、側面アレイソナーを統合化したものであるが、側面アレイソナーについては予算上の問題から削られているとのこと。OQQ-21は長大な形状が特色であったが、形状がどうなったのかには興味が湧く。つまり、形状が側面アレイソナーが後日装備可能かについてだ。
ここで、ひゅうが型について一点疑問となるのは、ベアトラップを搭載していないため、通常のヘリコプターキャリアとおなじ着艦方式を行うのであれば、停止状態の艦に横から進入し着艦を行う。対して、通常の護衛艦やヘリコプター護衛艦は、ベアトラップ着艦拘束装置により艦と航空機と連動し、航行中であっても荒天時であっても着艦を可能とする。
ひゅうが型護衛艦が着艦時に艦を停止させる必要があるならば、艦隊行動において同時着艦する際に、航行中に着艦させる僚艦との距離が生じるような気がしてならない。SH-60Kは30ノットで航行中の艦に連続着艦可能なのだろうか(従来DDHも三機目はベアトラップを使用せずに着艦するようだが)。別行動するというならば問題ないのだが、実質一個護衛隊とDDHから成る改編後の護衛隊群編成では、数的に単艦行動を強いられる。その為のFCS-3を初めとした強力な個艦防御装備、といわれればそれまでなのだが、運用の開拓を期待したい。
ヘリコプター護衛艦ひゅうが、その完成は2009年3月の就役とされており、現在の計画では、配備先は第一護衛隊群DDHグループとされている。また、舞鶴の護衛艦“はるな”は除籍され、恐らく“しらね”が舞鶴に配備されるといわれている。今年度末の護衛艦隊編成改編により、旧護衛艦隊のタスクフォース編成の部隊と、旧地方隊のタイプフォース部隊が統合運用されるのだが、どうせならば全ての艦艇を三群に分け、タイプ運用すれば、とも思う(そうすれば必要に応じてタスクフォースが組める)。どういった運用となるかは不詳ながら、試行錯誤が進められるのだろう。
はるな型二番艦の“ひえい”後継艦も2006年に予算が承認されており、2320号艦、18DDH,DDH182として2011年3月に就役する計画である。こうして、海上自衛隊にヘリコプター運用を定着させた“はるな”型護衛艦は、全て退役することとなる。“しらね”型の“しらね”は2010年、“くらま”の後継艦は2012年に予算が盛り込まれるはずであり、新型となるのだろうか。
さて、建造中の“ひゅうが”を岸壁から見学するには、横浜市磯子区の新磯子町、磯子海釣施設方面から対岸の新杉田町にあるIHIの造船所を眺めるのが一番だ。磯子駅からタクシーで電源開発のジェイパワー前、少ないがバスもあるようだ(ジェイパワー前バス停というのがあった)。
九月上旬には、艤装工事を進めるべく造船所の海側へ移ったため、首都高速道路本牧線走行中の車内からみえた、という話も聞いたが、最近、再びジェイパワー前から見える位置に移動したとも伝わっている。文字通り海釣りの名所にあり、牧歌的な情景の向こうにイージス艦や新型ヘリコプター護衛艦が並んでいる、不思議な情景である。
HARUNA
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