北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛大綱で縮減された戦車、その戦略展開を行うにはどうすればいいのか

2011-02-12 23:49:12 | 防衛・安全保障

◆輸送艇増強?代替打撃手段充実?

 駒門駐屯地祭の観閲行進写真を整理していましたら、その様子をみると二個中隊基幹の戦車大隊というのは、相当機動力を高めなければ広い師団管区を担当できないのかな、と。

Img_2570  こういう記事を掲載している以上、まだ本日は掲載しないのですが、駒門の次の記事。さて、戦車、防衛大綱改訂によりどんどん縮小されまして、これでは生産ラインを維持するためには戦車の車体を利用した自走榴弾砲や戦車回収車等の派生型車両をかなり重視しなければならないのだろうなあ、と。

Img_6529  そう思いつつ、一方で実際に行えば火砲の取得費用が増大する訳ですから、防衛大綱における装備定数縮減が予算縮減を目的とするならば、最低定数を下回った場合、逆に高価になるのではないかな、と。一方で前述の通り装備定数が縮小しても防衛管区が縮小される訳では無いので、戦略機動力を高めなければならない。

Img_4103  また、師団と旅団に自衛隊の基幹部隊編成が二分化された今日では、管区を超えた運用を行う必要が出てくる訳です。そうしなければ、部隊密度の低い旅団管区が真っ先に着上陸地域を誘致してしまう事になりますからね。代わりに偵察警戒車の連隊本部管理中隊への装備や第五中隊や対戦車中隊への装甲戦闘車配備のような代替打撃手段を行うのも予算を圧迫するのですし。

Img_6536  話を戻して、少ない戦車を戦略展開させる、となると、つまり長距離の機動ですが、戦車輸送車の充実、が現実的な唯一の策になるのですが、これが、今まで必要性を何度も強調されつつも十分な数を揃えられていないという実情、そして道路網を用いた移動はゲリラコマンドーの襲撃を受けた場合の脆弱性があるのですよね。

Img_4888  鉄道による輸送、これはここでさんざんその充実の必要性を強調しているのですが、しかし、こちらもゲリラコマンドーの強襲を受ける可能性が高いため極力車両等では無く有事の際には物資のコンテナ輸送に特化して、平時の訓練輸送などに特化するべきなのでしょうけれども、併せて鉄道では戦車は大きすぎて現状では輸送できません。

Img_3534  このあたり、戦車の戦略展開に輸送艦、これを充実させてはどうかな、と。輸送艦は防衛大綱に定数がありませんし、島嶼部防衛とも重なるのですけれども道路上、防衛出動待機命令が発令される以前の事前配備等には規制が出来ない可能性がありますので高速道路を利用するには限度があります。そこで、海上を移動してはどうか、と考える訳。

Img_5906  輸送艦というと、おおすみ型のようなドック型輸送艦的な装備を彷彿される方も多いでしょうけれども、米海軍がドック型揚陸艦からの運用を想定して大量建造したLCU-1610型なんかは、一つの理想形なのかな、と。満載排水量375㌧、速力は11ノットしか出ませんが、M-1戦車二両を輸送できるとのことで、74式や10式戦車であれば3両が輸送可能で14名での運用が可能です。

Img_6897  海上自衛隊では、交通船として形状が揚陸艇型の船艇を基地内の輸送用に運用しています。これは外洋航行能力がありませんけれども、LCU-1610型程度であれば交通船として取得が可能かもしれません。これを地方隊に6~8隻程度配備すれば、道路状況に左右されずに輸送できますし、災害派遣での輸送も充実します。航空攻撃を想定すると万全な案ではありませんが、しかしこれは主要道路でも想定できることですからね。

Img_4422  民間船舶の輸送能力を期待したいところですけれども、平時の演習への移動ではその能力を期待できるのですが、潜水艦の脅威が想定できる状況等では果たして運行できるのか、という不安が残りますので、やはり事前展開を除けば自衛隊地震での移動展開を行わなければならない、と考えます。戦車を減らした分、機動展開が必要になるのですから、その分の輸送手段の確保はなんとかしてほしいところ。

Img_0437  他には空中打撃能力の充実、という事も考えられるのですが、AH-64Dは調達中止になってしまいましたし、とてもでは無いですが、数的充実を図って戦車の代替、遅滞行動を行う空中打撃力とするのは難しいでしょう、予算は有限なのですからね。まあ、輸送艇の充実も少なくない費用を要するのではあるのですが、空中打撃手段よりは、と。

Img_0886  戦車定数を縮減した事で、駒門駐屯地祭の写真を見ていまして、これからどうなるのだろう、と考え、機動力の展開を突き詰めて考えた結果、こういう事になったのですが、それよりも、せめて冷戦終結後の90年代に制定された防衛大綱定数、戦車900両に戻して、基盤的防衛力における打撃力としては、そうする訳にはいかないのか、その方が予算も最小限で何とかなるのでは、と思った次第。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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戦車=早装軌車と解釈するならば、不足分は装輪の... (雨辰)
2011-02-13 00:32:44
戦車=早装軌車と解釈するならば、不足分は装輪の軌道戦闘車で埋めるしかないのではないでしょうか。
新大綱の定数下では、装輪車の自走や空輸での高速移動性を生かして初動での対処の時間を稼ぎ、その間に虎の子の戦車大隊を集結して任に当たらせる戦略しかないのではないかと思います。

そのためにも島嶼対処のみでなく、本土防衛にも当然大量輸送可能な輸送艦の配備は不可欠と思われますが、現状ははるな様のご指摘のようにこちらに対する視点が欠落しているように思われます。
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久々にコメントいたします。 (ドナルド)
2011-02-13 18:01:26
久々にコメントいたします。

戦車部隊、というか随伴の機械化歩兵を含めた機甲部隊の戦略機動力は、現状では心もとない、という視点、全く賛成です。個人的には、戦車が900両だろうと400両だろうと関係なく、戦略機動力は必要だと思います。

戦略レベルでの戦いの基本は、相手に遊兵を作り、自分の遊兵をなくし、戦術的局面で常に相手よりも大兵力で戦いに臨むことで、兵力の損耗を防ぐこと。戦術的には最新の戦術を用い、情報収集能力と機動力、火力を駆使して敵の主戦力を無効化し、こちらの主戦力で相手の弱点を突くことにあると思います。すなわち、欲しい時に欲しい戦力を、心身・機械的にフレッシュな状態で戦場へ投入する力、適切な戦術を駆使できるような適切な装備と日々の訓練、そして(最も重要なのは)十分な補給を確保することです。

ですが、ここでLCU/LCTを整備するというのはちょっと違う気がします。陸上自衛隊は規模が小さく実戦経験が浅いのですから、やはりここは変な工夫ではなく、王道を行くべきだと思います。すなわち、戦車と同数、400-450両の戦車キャリアーを導入すべきです。高速道路をもちいて、時速80kmで戦略機動する。下道でも平均時速30kmレベルで機動できます。最後の50kmくらいは自走するとしても、戦車の駆動系の負荷が少なくフレッシュな状態で戦場付近へ急速展開する能力をもたらします。また、戦車輸送が終了すれば、そのトレーラーを用いて補給支援を徹底すべきです。弾薬、燃料、食料、予備の砲芯、交換用のパワーパック、交換用の装甲、施設関係の消耗品。戦車を戦略機動するような戦況であれば、輸送すべき物は山のように(戦車の重量そのものを遥かにしのぐレベルで)ある訳で、このトレーラーが無駄になることはないと思います(コンテナなども運べるような工夫が、荷台に必要でしょうけど)。上記の戦略的に重要な2点(機動力+補給力)を同時に強化できる。

LCU/LCTなどは低速で、しかも戦車も最大4両程度しか搭載できません。戦車56両の大隊を輸送しようとすれば、14隻ものLCTが必要なわけです。これだけ数のLCTが12ktくらいで隊列を組んで海上機動すれば、相当目立つ上に速力が低く、海上では防御が難しいことも考えると、格好の標的になってしまうのではないでしょうか?むしろ、1万トン、速力20ktクラスの民間フェリーを数隻チャーターして、旅団全体丸ごとを、海上自衛隊の大規模な護衛部隊をつけて一気に輸送する方が良いと思います。むしろこう言った訓練を日頃から頻繁にこなしておくことが重要ではないでしょうか?船という乗り物の最大の利点は、船体が大きいほど輸送効率(重量も速力も)が良いということにあります。小型船舶を沢山そろえるのは、ちょっと。。もちろん、沖縄など陸上輸送が不可能な地域に、4-5隻の輸送艇を配備する必要はあると思います。

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雨辰 様 こんにちは (はるな)
2011-02-14 12:54:48
雨辰 様 こんにちは

機動戦闘車ですが、AMX-10RC等の資料を調べる機会があり、一発必中で無ければ装甲が薄い分一発でやられてしまうので、高度なFCSを必要とします、そして前にメルカヴァMk3とMk4の資料を調べた際にFCSが全体価格のかなりの部分を占めているとありましたので、相当高くなるか使えないものになるか二者択一なのかな、と。

戦車の輸送ですが、これはかなり大きな問題で、戦車定数そのものが縮小されるのですから、より重要度は増してゆくのだろう、と。これが高くつくようであれば分散した前方展開、つまり従来の体制に戻す意義も高くなってゆくようにも。

ところで、今回提示の揚陸艇による輸送、蟻輸送という言葉を思い出してしまいました。護衛の哨戒艇やミサイル艇は必要になりそうですね。
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ドナルド 様 こんにちは (はるな)
2011-02-14 12:59:21
ドナルド 様 こんにちは

戦略輸送能力ですが、米軍も湾岸戦争でその有無が厳しく問われました一方で、道交法の車幅規制により諸外国の安価な戦車輸送車を輸入しても使う事が出来ない、という厳しい現実があるのですよね、だから90式ではなく、10式戦車が必要になってしまう。二桁国道まで車幅3.2m以内の輸送車両が通行可能なように拡幅工事をすれば、輸送は民間も含め革新的な飛躍が出来ますし、久々の大型公共事業にもなります。戦車輸送車の抜本的拡充に対して、当方が疑問符をつけるのはこうした一点がある訳でして、海上ならば渋滞も気性も少ない、というところが利点です。天候には左右されますが、ね。

戦車大隊の輸送ですが、支援車両やその他の装備を輸送しようとすれば、おおすみ型でも3~4隻が必要になるでしょう。すると米軍のアルゴル級輸送艦のような大型艦が一つの理想形になるのでしょうけれども、船団が大きくなりますと、目立つので格好の攻撃対象になってしまいそうにも・・・。フランス軍や米海兵隊では、歩兵中隊に戦車小隊と工兵小隊に戦砲班を配属させた中隊戦闘団が山間部や市街地等の戦闘で評価を高めているとのことで、分散運用を考えた場合には利点があるのかな、と。また大型フェリーと異なり、埠頭設備が無くとも揚陸が可能でしからね。変な話、揚陸艇でしたら機雷敷設やミサイル艇への補給等にも汎用性が上がります。

フェリーのチャーターですが、しかし数隻程度を一週間や二週間まとめて同時にチャーター出来るほどの余裕が海運業界になるのでしょうかね、このあたり情報が少ないので興味があります。
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