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装軌装甲共通車両(89式装甲戦闘車後継)装備実験隊が試験【2】将来装輪戦闘車両の計画中座

2020-02-03 20:00:21 | 先端軍事テクノロジー
■軽量戦闘車両システムへの道
 89式装甲戦闘車後継として砲塔の利用という方針ながらも展望が開けた事は朗報で、87式偵察警戒車砲塔の再利用なども今後期待したいところです。

 装備実験隊の新型装甲車両。装軌式装甲車の開発が20億円程度で実現している事に一種の驚きを覚えます。実際問題として、89式装甲戦闘車の後継となる車両については1990年代から開発の部分研究は為されており、現場での噂レベルでは試作車両の存在についてお教えいただいた事もありますが、この時期に陸上自衛隊は装軌車両に非常に冷淡でした。

 将来装輪戦闘車両。陸上自衛隊は丁度アメリカがストライカー装輪装甲車による装甲戦闘車型を中心に派生型を含め309両からなる装備体系、ストライカー旅団戦闘団の新編を煤得ていた頃から、この将来装輪戦闘車両という車両体系による陸上自衛隊版のストライカー旅団を構築する方向で各種車輛統合化を研究していました。ただ、紆余曲折もあります。

 16式機動戦闘車、現実問題としてこの将来装輪戦闘車両が実用化された事例はこの一点であり、16式機動戦闘車を開発した三菱重工では独自案として装甲輸送型などを提案はしていますが、国際装備見本市での模型展示にとどまり、なかなか制式化への動きがありません。装輪装甲車(改)、こうした中で2014年に防衛省は96式装輪装甲車の後継に動きが。

 装輪装甲車(改)として全く新しい車両の開発を開始し、小松製作所があたりました。防衛省は装甲車の車体を努めて2.5m以内としつつ最大で3.0mという要求仕様を明示し、また必要な防御力や野戦運用に用いる装甲車を要求しています。この努めて2.5mとは道路運送車両法にもとづく車両限界、これを超えれば特殊大型車両となり、平時運用に支障が出ます。

 特殊大型車両は駐屯地内や演習場では自由に通行できますが、演習場までの駐屯地からの一般道を走行する際には道路管理者への通行時間帯や通行経路の届け出が各車両ごとに必要となります。三菱重工は道路運送車両法よりは戦闘車両としての防御力や安定性を含めた機動力で開発を想定し、2.98mの車両を提案、車幅は機動戦闘車と同じものでした。

 小松製作所は平時の演習場や転地訓練での利便性を重視し2.5mの車両を提案、小松製作所案が採用されたかたちです。その後に小松案は無理に車幅を抑えたことで将来発展性や転覆限界までの実用性が低いとされ2018年に防衛省は不採用を発表、対して将来発展性は仕様書になかったものとして激怒した小松製作所は装備開発等防衛事業撤退を発表しました。

 19式装輪自走榴弾砲。昨年富士総合火力演習に置いて装備実験隊が試作車両を初公開した自衛隊の新型自走榴弾砲は、もともとこの将来装輪戦闘車両と車体やエンジン駆動系部分を統合化する計画でしたが、実際には道路運送車両法の車両限界に抑えるには国産車両は全長が過大であり、結局、ドイツのMAN社製八輪トラックが流用される事となっている。

 NBC偵察車、陸上自衛隊は将来装輪戦闘車両と車体を流用できうる装甲車両を同時期に調達しています。実は開発中止となった装輪装甲車(改)の原型車輛はNBC偵察車であり、無理に装甲人員輸送車仕様とせず、日本版MRAP耐爆車両として施設科や通信科と武器科に衛生科へその形状のまま配備させるべきだったと思うのですが、これは実現していません。

 結果的に自衛隊装甲車両は統合化の機会ではあったのですが、紆余曲折というべきでしょうか、福島第一原発事故後の迅速な実用化を期したNBC偵察車と同時期の中国による南西方面軍事圧力を受けての統合機動防衛力整備への16式機動戦闘車の開発等、共通化よりは迅速な制式化という拙速が影響しまして、結果多種少数生産という現状に収斂しています。

 さて、将来装輪戦闘車両に視点を戻しますと、ここで新型車両を開発した時点で16式機動戦闘車との共通化は断念されたことを意味します。実のところ単一車両を基本とした装輪装甲車への統合化、という流れは事実上見合わせとなったのですが、軽量戦闘車両システムとして続く装備計画の概要を防衛装備庁が発表しています。これは概念研究ともいうが。

 軽量戦闘車両システムは統合電気推進車輛やインホイールドモーター技術による整備簡略化等を念頭に、共通車体に高初速大口径砲や機関砲を搭載した装輪装甲車群を用い、兵站負担を局限しつつ日本型の内線作戦というべき、機動打撃力を軽量且つ安価に実現させる構想が防衛装備庁技術シンポジウムなどで示されていました。即ち、装輪式、なのですね。

 装備実験隊の新型装甲車両は、しかし、既存技術の応用、10式戦車を量産し近年まで99式自走榴弾砲を量産していた三菱重工の技術に頼る事で、必要な不整地突破能力と機動打撃を発揮する装軌式車両を安価に開発する事が出来た訳で、装輪式一辺倒という印象が強かった陸上自衛隊の車両体系に、従来型の重戦力への理解が残っていた事は、幸いでした。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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Unknown (軍事オタク)
2020-02-04 10:53:36
装軌式の装甲車は絶対に必要。
装輪式は戦略機動性は高いが不整地(泥炭地や以前の雲仙普賢岳災害派遣のような状況等を含む)走破力では全く及ばない。
機甲師団や機甲旅団、武器学校等に必ず残すべきですね。
第7師団を中心に配備すべき。
小松撤退は三菱に集約と考えれば良いことだと思う。
日本は軍用航空機や軍用ヘリ等製造数が少ないのにメーカーが多すぎる。
やる気が無くて軍事的な技術力も?な無理に小松に製作させる必要もないかと。
三菱のキャパが気になりますが・・・
しかし、実験車両の様に89式の砲塔、新型でも基本形状はそのまま使うのですかね?
直す必要が無ければそれでもよいとは思います。
追加装甲や手直しでやるとかですかね?
まあとりあえず砲塔は実験で載せているのかもしれませんが。

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