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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

中東危機と自衛隊アラビア海派遣【4】アーネストウィル作戦とプレイングマンティス作戦

2020-02-04 20:19:48 | 国際・政治
■イランイラク戦争海上護衛戦
 イランが商船に対する無差別攻撃を行うのかという危惧は、実際イランイラク戦争で実施したし昨年も発生したとして回答できます。

 イランイラク戦争を回顧しますと、アメリカ海軍は独自で船団護衛を行い、その上でイラン海軍の攻撃が本格化した際には水上戦闘艦と空母航空団を投入し本格的な制圧作戦に展開しました。第二次世界大戦終戦後、久しくアメリカ海軍が水上戦闘艦同士の海戦に投入されなかった為、船団護衛の先に行われた安定化作戦は戦後最大規模の海戦ともいわれる。

 サミュエルBロバーツ、ミサイルフリゲイトがこのアーネストウィル作戦のクウェートタンカー護衛中に触雷し大破、付近を機雷掃海した結果、事前に臨検した際のイラン向け物資から確認された機雷と重なる識別番号の機雷が発見され、任務は船団護衛のアーネストウィル作戦からプレイングマンティス作戦というイラン海軍制圧作戦へと展開しています。

 プレイングマンティス作戦は、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦、スプルーアンス級駆逐艦、チャールスAアダムス級ミサイル駆逐艦、O-Hペリー級ミサイルフリゲイト、ノックス級フリゲイト、合計8隻とドック型揚陸艦トレントンが参加、3個戦闘群に分れ攻撃、イラン海軍虎の子フリゲイト1隻を含む8隻を撃沈、更にフリゲイト1隻を大破させました。

 イラン海軍はイラン革命前に輸入し備蓄していたハープーン対艦ミサイルを使用、皮肉にもこれがハープーンミサイルの実戦初使用となりましたが、アメリカ海軍ミサイル駆逐艦による迎撃により攻撃は失敗、実はこれがアメリカの経験した初の対艦ミサイル戦、逆に原子力空母エンタープライズより発進のA-6攻撃機航空攻撃により大打撃を被りました。

 プレイングマンティス作戦、この一連の戦闘によりイラン海軍が被った損耗は大きく、イラン海軍はこの後に基地施設から動かない艦隊温存主義に移行、海軍以外の革命防衛隊による武装モーターボートによる攪乱攻撃のみが継続され、これらの小型舟艇はOH-6観測ヘリコプターの特殊戦型により制圧、結果的に8隻でホルムズ海峡を守り切ったかたち。

 無差別攻撃は最大の脅威ではありますが、イラン側にも実施に制限があります、それは欧州各国をはじめ世界からの軍事介入と経済制裁強化の口実を与えること。ただ、2019年に頻発した小型舟艇による被害は、イラン政府が関与していないとの大義名分、イラン政府とイラン最高評議会は別の政治主体であり、イラン内政への特殊性を鑑みる必要があるでしょう。

 革命防衛隊とイラン軍は別組織です。外交を担うイラン政府よりも国家元首はイスラム最高評議会、イラン革命防衛隊はイスラム最高評議会に直属しており、人員規模では自衛隊よりも大きな革命防衛隊はイラン政府とは別系統の組織である、この為に革命防衛隊の小型舟艇が実行した事案に対し、イラン政府は無関係で把握していないと言い得るのですね。

 イラン政府の意志とは別に、革命防衛隊によるタンカー攻撃という事案はあり得ます。機雷、もう一つの脅威は革命防衛隊による機雷敷設です、機雷はもっとも費用対効果の高い武器とされ、一個数十万の機雷でもイージス艦を撃破し得ます、実際、第二次世界大戦以降のアメリカ海軍大型艦艇で大破以上に追い込まれたのは二例を除き全て機雷によるもの。

 二例の一つはイージス艦に対する自爆ボート、もう一つはフリゲイトへの対艦ミサイル誤射でした。機雷はイランイラク戦争でも船舶被害が生じており、実際に海峡を封鎖せずとも、機雷敷設を示唆するだけで海上保険料が暴騰するとともに船舶航行に影響が生じ、世界経済へ影響を及ぼすことが可能です。また機雷には隠密裏に敷設できる強みもあります。

 ホルムズ海峡機雷敷設。実はこの問題は2015年に平和安全法制、所謂安全保障関連法制が整備された際に、自衛隊の活動範囲をグローバル化する必要性がある一例として提示された具体例でした。当時、ホルムズ海峡機雷封鎖の懸念にイラン政府が抗議しましたが、イランイラク戦争で敷設された事例があるのは前述の通り、妥当性のある懸念といえました。

 今回、自衛隊が派遣した護衛艦と哨戒機では、残念ながら機雷への対処は難しいでしょう。MCH-101掃海輸送ヘリコプターを緊急展開するならば、機雷掃海が可能でしょう。MCH-101はレーザーセンサーと航空掃海器具による航空掃海が可能であり、護衛艦からも運用が可能だ。MCH-101は大型ヘリコプターであり、通常、汎用護衛艦には積みません。

 二月初旬に、海上自衛隊は伊勢湾において定例の伊勢湾機雷戦訓練を実施します。現在のところ、アメリカ海軍からも参加があり、日米合同訓練という構図となりますが、所謂水中処分員のみの参加となるのか、または掃海任務が妨害を受けるという状況までを俯瞰した訓練となるのかで、海上自衛隊アラビア海派遣への姿勢も読み取れるのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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