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【映画講評】ゴジラvsビオランテ(1989)【5】検証:ICBM迎撃用92式メーサータンク

2018-12-25 20:12:32 | 映画
■原作の75式自走榴弾砲を代替
 映画講評ゴジラvsビオランテ、間が空いてしまいましたが今回が最終回という事で。92式メーサータンクについて、原作では75式自走榴弾砲が活躍していたのですが、ね。

 92式メーサータンク、マイクロ波を共振筒から誘導放出によって指向性を持たせ発振する電磁波兵器で高出力マイクロ波照射により表層を加熱する。ゴジラvsビオランテは1989年に公開され、1984年公開の映画ゴジラが1985年を想定としており、概ね1990年頃が舞台であると考えられています。したがって、試作車両が投入されたものと考えられます。

 陸上自衛隊へ配備される車両で、劇中では大阪湾を上陸し若狭湾原発地域へ向かうゴジラ迎撃に丹波山中にて展開される防衛線に配置されていました。車体構造は八輪大型車体上に主砲を背負い式に搭載した旋回式砲塔を配置しており、興味深いのは背負い式に搭載する主砲に対し、光学や電子装置等、火器管制装置に当る照準装置を搭載していない点です。

 メーザーは上記の通り指向性のあるマイクロ波照射という構造ですが、発電効率を高めた超伝導発電システムによりプラズマを発生して得られる中間子ニュートリノを加熱、砲身部分のミラーにより収束し照射する構造とのこと。ニュートリノは質量を有する事が確認されていますが物体に影響を及ぼす熱量を、人工的に加熱させる技術は現在も未開発です。

 大陸間弾道ミサイルICBMの迎撃が目的とされ、92式メーサータンク射程12kmの500万ボルトメーサー砲を有する。ICBM迎撃用として12km射程は、核弾頭を搭載するICBMは地中の目標、例えば敵ICBMの地下硬化サイロ破壊や地下司令部中枢破壊、こうした用途にもちいる場合を除き爆風と熱線による広範囲を破壊する場合、一定高度で反応させる。

 500万ボルトメーサー砲、この電圧の定義が不明確ですが電圧故に射程が12kmに留められるという部分は、弾道ミサイル迎撃において終末段階の迎撃にのみ有効であり、地表12km以上の高度でICBMの弾頭が炸裂する場合には、迎撃不能である事を意味します。ただし、1980年イランイラク戦争時における戦術弾道弾攻撃への迎撃には有用でしょう。

 自衛隊が劇中、ゴジラ迎撃を実施したのは、三原山からの出現後小田原に上陸し芦ノ湖へ進出した際の第1師団の芦ノ湖周辺への警戒配備、芦ノ湖から太平洋上に逃れたゴジラが上陸すると想定された伊勢湾への着上陸阻止への水際配備、大阪湾から上陸したゴジラへの小規模部隊による大阪市内遊撃戦、丹波山中に配置された内陸誘致防衛線、四度です。

 第1師団による芦ノ湖周辺の警戒配備は、板妻駐屯地第34普通科連隊と市ヶ谷駐屯地第32普通科連隊が警戒配備として展開しており、劇中普通科連隊が1990年代改編の普通科連隊のような79式対舟艇対戦車誘導弾所謂重MATを装備する対戦車中隊を隷下においているかは別ですが、近傍の第1戦車大隊を展開させておらず、警戒出動という戦闘序列でした。

 伊勢湾は、1985年ゴジラ上陸が核物質を狙い静岡県井浜原子力発電所を攻撃した事を受けての警戒配備です。この井浜原発は静岡県浜岡原発が作品世界では井浜という地名に建設されたものと考えられています。これにより本州太平洋岸の原発は全て稼動していない、恐らく茨城県東海第一原発、東海第二原発も核燃料を搬出したものと考えられるでしょう。

 伊勢湾着上陸が想定されたのは、小田原から太平洋に逃れたゴジラが核物質を奪取するべく、日本海側の若狭湾原発集中地域、美浜原発、高浜原発、敦賀原発、動燃ふげん、この稼動中の原子力発電所を狙うものと想定し、相模湾から若狭湾へ本州縦断を想定しての最短距離が伊勢湾から関ヶ原地峡と琵琶湖を経由し、侵攻するものと考えられたためです。

 しかし、伊勢湾防衛に際してはこの92式メーサータンクは展開していませんでした。自衛隊は伊勢湾内に護衛艦隊を展開させ、上空に航空攻撃部隊と特殊無人攻撃機スーパーX2,志摩半島と知多半島及び渥美半島へ陸上自衛隊を展開させ水際防御を図るのですが、愛知県三重県沿岸部に展開した陸上自衛隊部隊映像が出されるのですけれども、展開していない。

 志摩半島と知多半島及び渥美半島へ展開する陸上自衛隊部隊、成程富士総合火力演習の最終段階の様にヘリコプターと装甲車両が戦果拡張に向けて待機している様子そのもので、あの演習が実戦に即している点を再確認できるものですが、92式メーサータンクは配備されていません。直接照準方式です、海岸反射面陣地の掩砲所に配備されるとも考えにくい。

 伊勢湾決戦に92式メーサータンクが配備されなかった理由ですが、恐らく車体が大型過ぎ弾道ミサイル迎撃用という機動運用を想定しない構造から、現地組み立て方式の装備なのかもしれません。特に前述したとおり火器管制装置を外見上搭載していない為、単純照準用の砲側照準器は有しているかもしれませんが、別に照準支援を必要とするのでしょう。

 L-90高射機関砲を想像していただくと分かりやすいかもしれません、L-90双連35mm高射機関砲はスーパーフレーダーマウス火器管制レーダーと有線接続し極めて有効な高射射撃が可能となっています。元々92式メーサータンクは弾道ミサイル迎撃用なのですから、独立した照準装置を搭載しようとした場合、大型で、車体が肥大化しすぎる可能性もある。

 92式メーサータンク、主契約企業は不明です。全長16m、全幅9.5m、全高4.8m、主機空冷-水冷併用2サイクル2気筒ディーゼルエンジン4基重量85t、速度47km/h,となっていますので、残念ながら高速道路網を移動する用途には適していません。車幅9.5mは単純計算で四車線道路が必要、全高も4.8mありますので高架部分やトンネル通行の制限から名神高速等を通行する事はできません。

 丹波山中に92式メーサータンクが配備された理由ですが、近傍には陸上自衛隊饗庭野演習場があり、隣接して航空自衛隊饗庭分屯基地があります。京都府日本海側には経ヶ岬分屯基地にレーダーサイトが置かれている為、例えばガメラレーダーの様な移動式Xバンドレーダーを自走化させたものか、航空自衛隊レーダーサイトと連接運用が基本なのでしょう。

 92式メーサータンクが丹波山中でのゴジラ防衛線に展開した理由ですが、大型過ぎ基本的に戦略機動を想定したものではありません。すると可能性として自走能力は、92式メーサータンクそのものを標的とした弾道ミサイル防衛能力を無力化する為の巡航ミサイルや短距離弾道弾飽和攻撃から防護するための、対空疎開用の自走手段となるのかもしれません。

 若狭湾原発密集地域、美浜原発、高浜原発、敦賀原発、動燃ふげん、もともと92式メーサータンクは周辺国の弾道ミサイル攻撃から原子力発電所を防護するためにこの地域へ配備する事が前提となっていたのかもしれません、こう考えますと射程12kmという終末迎撃用の性能についても、また伊勢湾まで進出しなかった理由というものにも納得がいくもの。

 射程12kmという96式多目的誘導弾システム以上の射程を有しながらもゴジラとの有視界戦闘により損耗を強いられた背景は、もともと対空疎開用以外に自走しないものであると考えれば、内臓動力炉は非常用であり本来は有線による外部電力により最大射程を発揮するもので、自走時には内臓非常電源のみ、射程が著しく短縮する可能性も、考えられます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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