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汎用軽機動車(カワサキモータースジャパン製)調達,水陸機動団V-22オスプレイ用特殊車両か

2019-04-16 20:02:05 | 防衛・安全保障
■日本版ポラリスMRZR導入か?
 防衛省は新たに汎用軽機動車という新型装備の取得を開始するようです。詳細は不明ですが従来装備されてこなかった空中機動用の新型特殊車両の可能性があります。

 汎用軽機動車と呼ばれる新装備がカワサキモータースジャパンへ防衛省より発注されました。一般競争入札により選定されたもので、防衛装備庁調達事業部公示によれば陸上自衛隊相浦駐屯地、水陸機動団司令部の置かれる相浦へ納入されるとの事です。汎用軽機動車、その詳細は不明ですが名称から空中機動や水陸機動に際しての小型車両と考えられます。

 水陸機動団へ装備される可能性がほぼ確定している新装備は、考えられるのは空中機動用の、特に陸上自衛隊が新たに導入するMV-22可動翼機へ搭載可能な車両です。現在の自衛隊装備では偵察オートバイ以外、MV-22に搭載できる車両がありません。M-1牽引車、つまりリヤカーをオートバイで牽引する以外、輸送手段が無い状況への処方箋が考えられる。

 1/2tトラック、陸上自衛隊には旧称73式小型トラックという三菱自動車製パジェロを原型とした、従来の所謂ジープ系車両を置き換えた汎用車輌が既に多数調達されており、指揮官連絡から情報収集に各種火器の輸送や標定装置等の母機、果ては日常の巡回や軽輸送まで非常に多用途に運用されています。では汎用軽機動車とはどういったものなのでしょう。

 高機動車はCH-47JA輸送ヘリコプターの機内へ搭載可能ですし、UH-60JA多用途ヘリコプターでは吊下空輸が可能となっています。ただ、吊下げ空輸では航続距離や巡航速度などに大きな制約が加わるのです。だからこそ、UH-1JやUH-60JAが参加する展示演習や訓練展示では偵察オートバイをヘリコプター機内へ搭載し、空輸展開を展示するのですね。

 カワサキモータースジャパンではTERYXというクワッドバイクを大型化した、誤解を恐れずに表現するならばかつて米軍が鳴り物入りで日米合同演習に持ち込んだ軽攻撃車両FAVのようなバギー型の軽車両を更に安定化させたような小型オフロード車を発売しています。1/2tトラックよりも小型で長距離機動には安定性等で不向きですが、不整地踏破力は高い。

 グロウラーITVという、アメリカ海兵隊には同種の小型車両があります。これは海兵隊が従来のCH-46輸送ヘリコプター後継として大量配備しているMV-22可動翼機が貨物室収容最大幅が1.5mと非常に限られたものであり、MV-22に収容するには従来の海兵隊車輌は、一線を退いた一見小型のM-151ケネディジープも含め搭載出来なかった為の装備です。

 M-1161ITV-LSV,M-1163ITV-PM,グロウラーITVは斥候強襲用のM-1161と自衛隊も採用しているフランス製120mm重迫撃砲の牽引型であるM-1163が採用されました。重量は2.058t、自衛隊の1/2tトラックが1.9tで若干重いのですが車幅は26cm狭く、この装備により“空中機動,ヘリを降りればただの人”という降着展開後徒歩機動から解放されました。

 ポラリスMRZR,アメリカ陸軍では特殊作戦車輌としてカワサキTERYXと非常によく似た車両を調達しています。これは車幅が1.5m程度でMV-22への搭載を念頭とした特殊部隊用車両です。元々ポラリス社は山間部林業や狩猟用の車両開発で実績があり、日本では軽トラックを多用しますが、林道さえ未整備の米本土で不整地突破能力が求められたかたち。

 水陸機動団と空中機動、一見その任務は第12旅団や第1空挺団の任務ではないか、と思われるかもしれません。しかし、アメリカ海兵隊のMEU海兵遠征群に所属する海兵大隊が一個中隊を空中機動に充て、一個中隊をAAV-7両用強襲車による上陸、一個中隊を複合高速艇CRRCによる強襲に充てている様に、水陸両用作戦と空中機動作戦は不可分というもの。

 エアクッション揚陸艇LCAC等から戦車や装甲車を揚陸させる情景が上陸作戦の代名詞的な存在ではあるのですが、もし海岸線に敵の無反動砲が一門でも生き残っているならば、貴重なLCACさえ一発で大破しかねませんし、上陸作業中に敵戦車が1個小隊でも殴り込まれれば、勿論艦砲その他で撃破は出来ましょうが、それまでの瞬間損耗は計り知れない。

 上陸作戦に際し最大の懸念は海岸堡確立前の浮動している状況で敵に内陸から逆襲される事です。空中機動部隊は兎に角内陸から海岸線への接近経路を数時間から十数時間確保し持久し、海岸堡確立を支えます。対戦車ミサイルや迫撃砲を海岸線への接近経路へ展開させる事で、敵の戦車部隊が上陸後の準備を進める海岸線が脅かされる事だけは回避できる。

 この為にアメリカ海兵隊はMV-22やCH-53を沖縄に配備し、自衛隊も空中機動用の車両が必要となった。汎用軽機動車はその為の装備でしょう。具体的には、MV-22等に搭載し海岸線から10km圏内の斥候任務に充てる他、対戦車火器や60mm迫撃砲の機動運用に充てる事が考えられ、水陸両用作戦の他、邦人救出任務等にも空港警備へ寄与するでしょう。

 邦人救出任務、政府は自衛隊が導入予定のMV-22可動翼機17機のうち数機を特殊作戦用のCV-22へ調達を変更し、在外邦人救出任務へ充てることなどを計画しています。この場合も、敵対勢力などが邦人救出への妨害を行う最悪の事態が発生した場合、着陸している輸送機は地上攻撃に対し脆弱です、この為に空港施設外縁の警戒を行う用途が考えられる。

 汎用軽機動車がカワサキTERYXであるかは未知数ですが、この種の車両は水陸機動団の他、特殊作戦群や空中機動旅団である第12旅団や緊急展開部隊である第1空挺団、また邦人救出任務に充てられる中央即応連隊に必要ですし、普通科連隊などの本部管理中隊施設作業小隊等に若干でも配備されるならば、様々な用途に活躍しましょう。広範な装備化を期待したいですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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6 コメント

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Unknown (北京亭すぶた)
2019-04-17 07:16:53
川崎だと、モリタと共同開発した消防車のベースとなった『MULE』というのもありますな。ジムニーか4×4の軽トラにディーゼルエンジン積んだ物をスズキに造らせるのかと思ったんですが。
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Unknown (軍事オタク)
2019-04-18 09:18:33
カワサキTERYXだとポラリスMRZRより
車長が1メートル短いので、長くするのかな?
ロールバーは固定だからポラリスMRZRのように
可動式にするのかな?
車高高いと機内に入らないしね。
排気量は少ないです。これはどうなるんだ?
エンジン積み替えまでやるのか?
やならないのかな?
カワサキにどこまでやらせるのか?
120mm迫撃砲の牽引はどうする?
できなければどうするのかな?
グロウラーITV買うのかな?
ガソリン車なので引火を嫌って陸自は絶対に装備してこなかったようだけど、ガソリン車導入に踏み切ったのかな?
米軍でも装備してるしね。

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Unknown (パラベラム9)
2019-04-18 17:21:22
自衛隊も世界の流れに合わせ進化していきますね。
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Unknown (ねこまんま)
2019-04-19 22:06:22
上陸して海岸線を確保してから車両を揚陸可能になるまでの移動指令部?
軍事用にカモ色にめる塗り直して指揮用の無線機を搭載するだけなら市販製品で十分だと思います。

でも、四輪バイクも大昔から作っていた点と、水上バイクを作っているので、軍事用のTERYXは楽しみです。
最近、スーパーチャージャーも搭載したモンスターも登場したので、ぜひとも、エンジンを乗せ変えて欲しいですね。
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Unknown (パラベラム9)
2019-04-20 09:00:17
口の悪い軍事評論家(清谷信一)ではありませんが、あえてグロウラーを調達するという選択肢も、ありかもしれません。
初期の頃はグロウラーを主力としつつ川崎と防衛装備庁で国産の戦闘型全地形対応車を開発するのもありかと。
まあ、どれをとってもメリット・デメリットとがありますからこれが一番いいとは言いませんが。
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Unknown (北京亭すぶた)
2019-04-20 15:18:13
MULEだったら市販でディーゼルエンジン選べます。たぶんGlowlerの代わりには十分でしょう。TERYXにはディーゼルなさそうです。
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