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伊勢湾機雷戦訓練二〇一六 機雷戦艦艇一七隻の四日市港一般公開(2016.02.11) 中篇

2016-02-14 21:56:18 | 海上自衛隊 催事
■自衛隊機雷戦艦艇一七隻
 機雷戦艦艇一七隻の四日市港一般公開、今回は掃海艇すがしま型、掃海艦やえやま型一般公開の様子を紹介します。

海上自衛隊の掃海艇は、1979年に一番艦が就役した掃海艇はつしま型の就役から大きな転換点を迎えました、機雷掃海方式として海上自衛隊は掃海具を曳航し係維機雷や磁気機雷と音響機雷を処分する方式に加え、S-4機雷処分具を搭載し掃海艇よりも前に位置する機雷を処分する機雷掃討能力を付与することとなり、機雷掃海から確実な機雷掃討へ転換した訳です。

はつしま型は満載排水量520tの木造掃海艇で、後期型と併せ実に32隻が建造されました。その中枢となるS-4掃海具ですが、初の国産機雷掃討器具として完成しました。機雷掃討器具とは掃海艇よりも前方の機雷を処分する一種の水中ロボットですが、前型に当たる掃海艇たかみ型は機雷掃海と水中処分員を乗せ、水中ロボットに代えて人間が危険な任務に当たりました。

水中処分員が掃海艇よりも前方に展開するという方式で機雷掃討任務に充てる苦肉の策を採っており、S-4機雷処分器具の搭載は文字通り海上自衛隊の掃海に革命的変化を及ぼしたものでした。機雷掃討は、掃海艇がソナーにより機雷を発見、この目標をS-4が航行し機雷処分用爆雷を投下し処分します。ただ、国産最初の機雷処分器具であったS-4にはカメラが搭載されておらず文字通り手さぐりでの機雷掃討を行います。

もちろん、S-4にはマジックハンドは搭載されていますが、感覚がないので手さぐりといっても方法はS-4のソナー探知映像を掃海艇が機雷探知ソナーにより追尾し機雷のソナー反応と重なった瞬間S-4から処分用爆雷を投下する、非常に不安な方式を採っています。この最初の実任務は多国間協同の実機雷掃海、ペルシャ湾掃海任務、ガルフドーン作戦でした。

1991年の湾岸戦争戦闘終了後、イラク軍が大量に敷設しタンカー航行に大きな不安要素となった機雷原の処理に関する有志連合による掃海任務へ海上自衛隊は掃海艇うわじま型を派遣しましたが、ペルシャ湾は海流が早く、そもそも海上自衛隊が任務として処分した第二次大戦型機雷よりもソナーへ反響が少ない新型機雷が大量に敷設されており、灼熱の中東の気候と併せ困難な任務でした。

S-4について、新型機雷へは併せて厳しい海底地形や潮流からソナー画像と掃海器具に依頼の影を重ねる方式では実際の対応が難しく、海上自衛隊は水中処分員を展開させ掃討する危険な方式を余儀なくされました。このため、より新しい機雷掃海器具を搭載し、我が国が有事の際に想定しなければならない最新の機雷へ対処能力を構築する必要に迫られました。

うわじま型掃海艇は、はつしま型掃海艇に続き建造されたもので新型掃海器具S-7を搭載していますジェーン年鑑では後期はつしま型に区分されるものですが、はつしま型掃海艇にS-7機雷処分器具を搭載したものです。S-4の能力限界はペルシャ湾派遣前に既に指摘されており、S-7は元々S-4の後継として開発が進められているものでした。S-4の限界は、浅海域に行動が限定されたことです。

S-7は中深度域での機雷掃討を可能とする装備です。S-4はカメラを搭載していませんでしたので、一定以上の水深に敷設された機雷へ対処する場合、距離が増大する事から掃海艇のソナーでの追尾が難しく、また機雷の真贋判定にもカメラの有無が響きます、しかし、水中処分員の潜水にも限度があり、中深度域に対応する機雷掃討任務用掃海艇の建造必要性を受け建造されました。

現在現役艇が残っている海上自衛隊掃海艇としては最古参のものとなりますが、9隻が建造されました。満載排水量570tの木造掃海艇で、S-7機雷処分器具からは水中TVカメラと超音波近距離ソナーが搭載され、掃海艇には新型の機雷探知ソナーZQS-3を搭載、機雷掃討能力が強化されており、湾岸戦争の時点では一番艇が就役直後の状態にありました。ただ、完熟訓練中であり、ペルシャ湾派遣が見送られた、というもの。

うわじま型掃海艇から機雷掃討任務が強化された背景には、機雷との戦いは狐との化かし合いに似ている部分があり、音響機雷も磁気機雷も、機雷に爆発するまでの感応回数を自由に設定する事が出来ます、二回三回と感知しなければ爆発しない機雷、十回二十回は我慢する設定とすれば、掃海艇が掃海器具を使い安全に通過して、その数回か十数回後に通行する船舶を撃破する事も出来るということ。

機雷との戦いは狐との化かし合いに似ているとは爆発までの感知回数を自由に設定できるためで、掃海器具を引っ張って通行できたのでこの航路は安全航路だ、と宣言するよりは、ソナーで機雷をひとつひとつ発見し、確実に爆破して処分することが理想といえるでしょう。多数の機雷が敷設された場合には相当には時間を要しますが、機雷敷設の手段が潜水艦や航空機が含まれ、一度に大量運搬できない為、大量敷設を隠密裏に行う事は難しくなりました。

やえやま型掃海艦は、うわじま型掃海艇の手の届かないところを掃海します。前述の沈底機雷ですが、物凄く深い所に敷設された場合どうするのでしょうか。そんな深い所を通る船は無いので安全、と思われる方が多いでしょうが海軍には潜水艦という水中の深い所を専門に航行する艦船がありまして、そして深い海底に設置し潜水艦を狙う深深度沈底機雷というものがあるのです。

そして普通の掃海艇では機雷探知ソナーをあまり深い所まで探知する事が想定されていません。やえやま型掃海艦は木造で満載排水量1200t、期せずして量産された木造軍艦としては現在世界最大の艦艇となるのですが、深海の機雷を探知するSLQ-32VDS機雷戦ソナーと深海の機雷を掃討するS-7/2型機雷処分器具を搭載、S-8深深度掃海器具なども搭載し、潜水艦の航路へ機雷を配置された場合に備えています。

やえやま型掃海艦、同型艦は3隻建造され、三隻そろって横須賀へ配備されていますが、後継艦は木造からFRP製掃海艦となりました。やえやま型が深深度機雷に対応し、うわじま型掃海艇が中深度機雷に対応、特に掃海艦を深深度機雷に対応させ、掃海艇は浅海面専用の掃海艇を全て中深度敷設機雷への対応能力を付与する、という二段構えの機雷掃討態勢を構築する事となりました。

すがしま型掃海艇は12隻建造された現在海上自衛隊の主力掃海艇です。はつしま型掃海艇はペルシャ湾においてS-4機雷掃海器具がカメラを有さない為に大変な苦労となりましたが、それだけではなく、対機雷システムにイギリスのNAUTIS-M情報処理システムを搭載したところにあります、ソナーが発見した目標を機雷かを標定し航路情報に併せ表示します。

国産に限界を考え、海外製に位置から教えを乞うたかたち。機雷掃討器具はPAP-104,フランス製の機雷掃討器具です。PAP-104はバッテリー式の機雷掃討器具で、搭載する機雷戦ソナーはイギリス製TYPE-2093ソナーとNAUTIS-Mを併用する事で1200m先の機雷を探知可能となっており、目標位置を同時追跡し一発の機雷だけではなく複数の機雷を標定可能です。

ただ、音響掃海と磁気掃海については、海外製掃海器具が機雷掃討に重点を大型化している為、常時搭載する事は無く、必要に応じ搭載する機雷掃討重視型という設計です。NAUTIS-Mを搭載する掃海艇すがしま型は、満載排水量590t、特徴的な外観、艦橋構造物の前に置かれた大型の張り出し部分にソナー部分の可変深度ソナーや機雷戦CICが設置されています。

上部構造物が大型化しましたが、加えて煙突部分を単一から二基並列型へ改める事で、二つの煙突の中央部から後方を確認できるように配慮されています、実際は其処まで利便性が高くなかったようですが上部構造物の大きさが本型の外見上の特色となっています、そして上部構造物の大きさはこの後に建造される海上自衛隊掃海艇の新旧識別点となりました。

すがしま型の大型の構造物はCICと可変深度ソナーなど器材と設備の大型化が挙げられるのですが、実は掃海艇は戦闘配置が全て上部構造物に集中し出来るだけ乗員が甲板に出る配置を採ります、護衛艦などの水上戦闘艦は見張り員等を除き基本的に艦内に入ります、潜水艦などは潜るときは全員艦内、というのは当然ですが、掃海艇が外に出る理由には、機雷に触雷した際、艦内にいた方が危険という運用上の必要性からで、浸水しても離脱が容易となるようCICも上部構造物に設けられたためというものです。

北大路機関:はるな くらま
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