北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アメリカ情報漏洩問題,トランプ大統領・クシュナー上級顧問・フリン前大統領補佐官問題

2017-05-29 20:43:46 | 国際・政治
■情報漏洩は国家の致命的問題
 アメリカ情報漏洩問題、続いています。日本も過去、大韓航空撃墜事件に際し自衛隊の情報網を暴露され危機的状況に陥りました、この問題の概要と深刻度を考えてみましょう。

 トランプ大統領のロシアラブロフ外相とのホワイトハウス会談でのイスラエル情報機関情報無断開示、娘婿クシュナー大統領上級顧問のロシア大使秘密接触及びロシア大使館内のアメリカ情報提供機構設置打診疑惑、政権移行過渡期の対ロシア経済制裁解除秘密交渉と報酬受領発覚により更迭されたフリン前大統領補佐官問題、イギリスがアメリカ当局へ提供のマンチェスター自爆テロ捜査情報のメディア開示、此処のところ情報漏えいが多い。

 イスラエル首相はロシアへ渡った情報は敵国イランと共有されるとして激怒し、アメリカへの情報共有の在り方について厳しい見方をしている、とはトランプ大統領初の外遊である中東歴訪での首脳会談の一幕です。フリン前大統領補佐官へはFBIの捜査が及び、クシュナー大統領上級顧問へはFBIの直接操作は及んでいませんが情報開示許可証取消の可能性が、イギリス首相はG7サミット席上でトランプ大統領へ厳しい抗議を行いました。この背景を考えてみましょう。

 日本も1983年にアメリカ政府の施策により、冷戦時代の数年間、北海道でのソ連通信傍受が全くできなくなり危機的状況に陥った事件がありました。1983年の大韓航空機撃墜事件、樺太上空で大韓航空のジャンボ旅客機がソ連を領空侵犯、ソ連軍機警告を無視し飛行を継続した為撃墜された事件ですが、当時のアメリカ政府は日本提供のソ連軍通信情報を国連安全保障理事会で開示し強く抗議、これを契機にソ連が通信体系を全て変更したもの。

 陸上幕僚監部調査部第2課別室、現在の情報本部に当たる我が国情報機関は北海道を含め全国に通信調査施設を展開させ、不審な電波情報の解析にあたっています。これは日本への武力攻撃兆候等を精査するための欠く事の出来ない情報収集なのですが、国連安保理でのアメリカの開示により、日本側がソ連防空軍を含めソ連軍通信を全て傍受出来る事はが判明し、全ての通信体制を見直しましたが、これにより日本は冷戦時代の最中に、ソ連側の情報を収集する手段を数年間失った事であり、重大な問題としかいえません。

 アメリカで現在政権を揺るがす危機にあるのは、クシュナー大統領上級顧問によるロシア政府との接触について、です。ロシア大使との非公式接触が数回に上る事が判明、クシュナー大統領上級顧問以外にもロシア政府との非公式接触を繰り返している事から、ロシアへのアメリカ機密情報漏えいを含めた疑惑を根拠づける事実が判明しており、クシュナー大統領上級顧問はフリン前大統領補佐官につづいてFBIによる関心対象となりました。

 クシュナー大統領上級顧問によるロシア政府との接触について、トランプ大統領はフェイクニュースであると反論しました。また、トランプ政権の要人がロシア政府関係者と非公式接触をしている事実は無いとして、ロシアとの非公式接触を自ら認めトランプ大統領により更迭されたフリン前大統領補佐官も含め、公式接触は無いと発言を修正しようとしています。しかし、これとは別件の選挙戦中におけるフリン前大統領補佐官問題捜査に当ったFBI長官をトランプ大統領は更迭しており、事実無根の一言では説明は、できない。

 フリン前大統領補佐官問題、これはトランプ大統領の選挙戦陶磁からロシア大使館員や情報機関関係者と秘密裏に接触しい峰別件でロシア企業から多額の報酬を得ていたもの。この捜査にあたったイェイツ前司法長官代行はフリン前大統領補佐官について、ロシアの影響下にあった、としました。アメリカ大統領選挙において、ロシア情報機関の構成、対ロ強硬派であるクリントン候補への情報暴露攻撃やフェイクニュースの組織的流布、一方でトランプ陣営へは大きな動きが無く、ロシアへ宥和的な発言を歓迎していましたが、一方で水面下のつながりとしては懸念すべき要素があったようです。

 情報というものは、兵器以上に国家の命運を左右するものですが、これを一度でも漏洩されたならば、外交関係には大きく影響します。一例としてイギリスのアメリカ当局へのテロ関連情報共有の一時停止事案があります。これはイギリス捜査当局のテロ捜査情報がアメリカ当局からメディアへ不正に開示された問題について、イギリス当局は当面の間のテロ関連情報に関する英米間の情報連携を停止すると発表しました。フリン前大統領補佐官のロシア問題に加えクシュナー大統領上級顧問のロシア疑惑、情報機関の情報は国家の命運を左右するものであり、摩擦は大きな影響と波紋を呼んでいます。

 アメリカ政府の混乱、トランプ大統領はフリン前大統領補佐官問題とクシュナー大統領上級顧問問題の火消しに躍起です、場合によっては大統領が弾劾される可能性もある。こうした中で、アメリカという超大国の意思決定能力が、発足間もない政権に打撃を与える問題の火消しに注力される事は、言い換えればその分に投じるべき外交安全保障問題や通商問題に関する意思決定を阻害しているという状況があります。これは相手国には付け入る口実ともなる。

 南シナ海の公海上において中国軍機が哨戒中のアメリカ海軍機へ異常接近しました。これは米海軍のP-3C哨戒機へ中国空軍のJ-10戦闘機2機が異常接近したもので中国政府へ懸念を伝える方針を示していましたが、これについて中国政府は声明で事実ではない、と批判しています。米中は中国が不法占拠し人工島の造成と飛行場建設を進めるフィリピン領ミスチーフ環礁へアメリカ海軍が航行の自由作戦を実施した事で緊張状態にあります。中国側の挑発背景には、内政問題に揺れるアメリカへの搖動を突いたかたち。

 北朝鮮の毎週日曜日に実施されるミサイル実験、今回は月曜日に実施されましたが、我が国排他的経済水域内へ落下しました。隠岐の島から300kmの距離に着弾したものとみられ、今回は短射程のスカッドミサイルが使用されたものとみられますが、在韓米軍基地などを標的とする新型短距離弾道ミサイルの可能性も否定できません。G7サミット終了を狙ったミサイル実験となりました。アメリカ海軍は原子力空母カールビンソン、ロナルドレーガン、ニミッツ、を向かわせていますが、トランプ政権は過去二回のミサイル実験ほど関心を示す余裕がありません。

 ドイツのメルケル首相がアメリカの凋落を印象付ける発言を行いました。サミットの終了後に欧州が同盟国だけに依存することはできないと述べたもので、安全保障や防衛協力での一連のトランプ大統領の発言に加えて、通商政策や気候変動など規範の醸成におけるアメリカの役割が大きく後退している事を指摘し、世界における国際公序の形成には欧州が自らの責務を果たす必要が出ているとの認識です。しかし、同時にこの発言は、アメリカ政府の求心力や、国力を活かす指導体制が欠落しつつある、との厳しい指摘ともいえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする