北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

朝鮮半島危機,カールビンソン日本海展開とTHAAD在韓米軍配備に挑む北朝鮮ミサイル

2017-05-01 23:00:29 | 国際・政治
■日本海,偶発衝突の危機
 朝鮮半島情勢について、幸い前回先月20日に紹介したとおり、軍事圧力を強める段階であり即座の軍事衝突の危惧よりは現状は“圧力と対話”という状況です、しかし偶発衝突の危惧は否めません。

 朝鮮半島情勢、29日のカールビンソン空母打撃群日本海展開と弾道ミサイル迎撃へ在韓米軍へのTHAADミサイル部隊の展開完了、巡航ミサイル原潜ミシガンの釜山入港、海上自衛隊護衛艦いずも米艦護衛任務初実施、B-1/B-52戦略爆撃機西太平洋警戒飛行、米空軍によるミニットマンⅢICBM発射実験実施、緊迫の度合いは高まっているように見えます。

 我が国にとり朝鮮半島有事は対岸の火事ではなく、北東アジア地域の安定要諦である我が国本土へのミサイル攻撃や特殊部隊による攪乱作戦の可能性があり、重ねて隣国韓国には多くの邦人が居留旅行中である為、朝鮮半島有事に際しては邦人救出作戦の実施を真剣に県と云しなければなりません、なにより首都ソウルは北朝鮮砲兵の射程内にあるのです。

 北朝鮮は我が国はじめ周辺国とアメリカを恫喝するプロパガンダを乱発すると共に朝鮮人民軍は400門の火砲を沿岸に並べ一大軍事デモンストレーションを実施した他、更に新型弾道ミサイル発射実験を一昨日にも実施し、ミサイルは空中で爆散し発射実験は失敗に終わりましたが、ミサイル発射に伴うJR北陸新幹線や東京メトロは全線緊急停止しました。

 日本海からの空母カールビンソンによる警戒態勢は、空母艦載機70機を搭載するカールビンソンは、イージス駆逐艦やイージス巡洋艦を伴い遊弋しており、多数のイージス艦により北朝鮮が実施可能な航空攻撃やミサイル攻撃や潜水艦攻撃を確実に阻止できる艦隊からはF/A-18E等を用い打撃力を投射、艦内には艦載機用3000tの弾薬が搭載されています。

 THAADミサイル、在韓米軍配備が27日までに完了しました。韓国が供する南部星州のロッテグループゴルフ場へ搬入、先月中に迎撃態勢に入ったものとされ、在韓米軍基地に搬入されていたTHAADシステムが米韓関係や中韓政治問題を念頭に、一時配備延期が示唆されていたものの、相次ぐ北朝鮮ミサイル演習へ対応するかたちでの配備となっています。

 ミニットマンⅢ発射実験、27日に実施されました。射程10000km、米本土から北朝鮮を確実に捕捉するとともに硬質サイロに収められ、475ktのW-87核弾頭を3機搭載しています。実験は6700km離れたマーシャル諸島目標海域へ着弾、空軍にはより新しく強力なピースキーパー大陸間弾道弾がありましたが第二次戦略核兵器削減条約により廃止されています。

 しかし、明日にも米軍のミサイル攻撃、というほどの緊迫度は幸いありません。厚木基地日米親善桜祭りは先週末無事開催、今週末には岩国基地日米友好祭開催予定です。また、原子力空母ロナルドレーガンも定期整備により横須賀基地へ停泊したまま、ゴールデンウィークの軍港めぐり遊覧船観客を基地から出迎えている状況、開戦準備徴候はありません。

 弾道ミサイルについてですが、昨今大きな変化が生じつつあります。これはミサイル実験の失敗が目に見えて増大している点です。29日未明に北朝鮮内陸部北倉付近から移動発射装置から弾道ミサイル1発が発射されるも直後に爆発し内陸部に落下、5日と16日にも東部の咸鏡南道新浦付近から発射していますが、こちらも発射直後に爆発し失敗しました。

 失敗が連続する北朝鮮ミサイルですが、背景には移動発射装置の問題と潜水艦発射弾道弾の陸上型設計変更への失敗等考えられる。特に移動発射装置は従来中国製の装輪型を採用するも経済制裁により輸入不能、ミサイル運搬車両を国産出来ずT-62戦車を改造し装軌式運搬装置とする苦肉の策を採り、この振動がミサイルへ影響を及ぼした可能性もあります。

 偶発的衝突、現在の朝鮮半島情勢で懸念されるのは北朝鮮が日本海のアメリカ海軍艦艇に対し、保有するロメオ級潜水艦やオーサ級ミサイル艇等を用いて攻撃する、沿岸からシルクワーム対艦ミサイル等での攻撃や空対艦ミサイル運用が可能というIl-28爆撃機やSu-25攻撃機による攻撃を行う挑発行動が米軍の本格的な反撃を招く段階危機拡大の危惧です。

 航空戦力では北朝鮮空軍は我が国航空自衛隊は勿論、アメリカ空軍や韓国空軍に遠く及びません。旧式機を含めれば空軍戦力は1200機と膨大ですが、比較的新しいMiG-29やMiG-23にSu-25が合計でも100機程度、レーダー誘導ミサイルを運用できず航続距離の短いMiG-21等が主力、空母カールビンソン一隻の艦載機と比較しても全く話になりません。

 海軍力でも海上自衛隊やアメリカ海軍とは比較にならず1000t以上の水上戦闘艦は僅かに3隻、現在2隻を建造中との事ですが魚雷艇と旧式ミサイル艇が主力、潜水艦はソ連草創期のロメオ級潜水艦を運用し、恐らくミサイル艇では日米の艦載ヘリコプターを相手に日米艦艇を捕捉する以前に一方的に撃沈される事でしょう、戦力差は北朝鮮が自覚しています。

 人民軍の主力は陸軍力で、長期間の徴兵期間により100万の常備軍を維持しているものです。100万という規模はアメリカ陸軍の二倍以上となります。ただ、人口で韓国の半分の国が韓国の二倍の陸軍力を維持している訳ですので徴兵期間は韓国の四倍、これが経済活動を圧迫し、北朝鮮の国内総生産GDPは邦貨換算で4兆円程、軍の近代化にも限度がある。

 核開発と弾道ミサイル開発を進める北朝鮮ですが、限られた国家予算と国内資源から核開発とミサイル開発を行う事で、陸軍兵力の近代化や海空軍の作戦能力維持へ大きな影響が出ています。例えば勇壮な軍事パレードに展開する新鋭戦車も車体部分を視ればソ連製T-62戦車派生型で、主力の自走火砲等も密閉砲塔を有さない旧式のものが目立っています。

 偶発的な危険性、戦力差が明白ならば軍事行動に至らないというものは単なる数値の上で、例えば過去には1981年シドラ湾事件としてリビア軍がアメリカ海軍空母部隊に対し、指導者の面子に拘る形で数回に渡り無謀な攻撃に出た事例があります。例えば、日本海のアメリカ空母に向け弾道ミサイルを攪乱射撃で攻撃する、という可能性などが考えられる。

 対艦弾道弾を北朝鮮が開発している、という一部報道がありますが、あれは停泊中の空母を攻撃するもので脅威ではありません。巨大な空母ですが海洋はそれ以上に広く、洋上の空母を捕捉するには多数の哨戒機や潜水艦と衛星監視網を複合運用せねばなりません、が北朝鮮にはどれも無く、大まかな位置が分からねば弾道ミサイルでは攻撃できないのです。

 しかし、日本海へ弾道ミサイル実験や弾道ミサイル演習を行った場合、アメリカ海軍に向けて、実態に軍事的脅威度の多寡に関わらず飛翔させるという事で、極めて危険な挑発行動として軍事的にアメリカ軍が報復を行う可能性に繋がります。この点のリスクを北朝鮮指導部がどの程度正確に認識しているかで、危機の蓋然性は大きく変わってくるでしょう。

 邦人保護という観点から朝鮮半島情勢は非常に大きな関心事となります。冒頭にも記しましたが、韓国最大の都市で邦人が旅行や商用留学等で多数居留所在するソウルは北朝鮮の砲兵火力射程内にある為、有事の際には非常に危険な場所となります。邦人救出や米軍行動支援等、課題は余りに大きく、平和裏に北朝鮮の核廃絶等、情勢の鎮静化が願われます。

北大路機関:はるな くらま
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