北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

朝鮮半島有事北朝鮮攻撃の可能性:アメリカの非軍事攻撃選択肢と限定攻撃政治的リスク

2017-04-17 23:14:05 | 国際・政治
■北朝鮮攻撃以外の選択肢
 朝鮮半島有事はどこまでその蓋然性があるのでしょうか。なによりも実際に発生すれば、日本本土への直接的影響も否定できないだけに慎重に情勢を見極める必要があります。

 北朝鮮は土曜日には首都平壌において大規模な軍事パレードを行い、開発中の各種弾道ミサイルが登場しました。軍事パレードにおいて登場したミサイルにはアメリカ本土を狙う開発中の物もありました。加えて次に、日曜日、新型中距離弾道ミサイルの実験を強行しました。実験は失敗、ミサイルは日本海沿岸にて発射から数秒後に空中で爆発しています。

 アメリカは原子力空母カールビンソンと有力な水上戦闘艦部隊を朝鮮半島周辺へ展開させ、必要であればトマホーク巡航ミサイルと空母艦載機による限定空爆を、北朝鮮核関連施設や弾道ミサイル関連施設への攻撃が可能な体制を急速に構築しつつあります。しかし、限定空爆、という選択肢は採用するには同盟国へ北朝鮮からの攻撃というリスクが残ります。

 東京や在日米軍施設への弾道ミサイルによる反撃が起こり得る、アメリカが懸念するのはこの点です。第二次世界大戦で散々爆撃された経験がある我が国は、北朝鮮が対日戦用に準備するノドンミサイルは200発程度、のドンミサイルは弾頭重量が1t程度ですので全部打ち込まれても1945年3月10日の東京大空襲一回と比較すれば遙かに少ないものです。

 現在、日本の世論はミサイル攻撃への盤石性を有していません。自衛隊にはミサイル防衛システムが高度に整備されていますが、予算上広範囲を防空可能なTHAADミサイル等は導入されず、常時防空体制を維持できているのは首都圏中枢の範囲のみです。一方ミサイル防衛システムは元々日本全土を防空する為のものではありませんが、此処に誤解がある。

 一般に日本全土を防空しうるものと誤解している向きがあり、仮に在日米軍基地やその周辺部にミサイル被害が生じた際、日本世論はどの方向へ進むのか不明です。現在はJアラートによりミサイル攻撃を受けた場合、即座に警報を発令する機能は整備されています。しかしシェルターや代替防空壕施設等、万一の際の退避施設や手段は明示されていません。

 仮に限定攻撃をアメリカが実施し、これに対抗する形で日本本土へのミサイル攻撃が行われる可能性は充分あります。実際、北朝鮮は韓国離島に対する無差別砲撃や軍事境界線非武装地帯韓国軍監視哨への攪乱攻撃の実施、平時の韓国国内への武装工作員浸透と韓国軍部隊への襲撃、韓国哨戒艦攻撃事案等、武力攻撃を平時から繰り返した実情があります。

 すると次善策はどうか、アメリカはシリアへのトマホーク攻撃を実施し、北朝鮮への必要に応じアメリカは動く、という通牒を送ったと解せられる行動がありました。アメリカ軍は続いてアフガニスタン国内へ大型爆風爆弾MOABを投下し武装勢力を攻撃、これもk他朝鮮に対して一定の通牒としての波及効果を期した運用といえるかもしれません、即ち示威です。

 アメリカ軍は核実験施設への限定攻撃が可能な装備を誇示する可能性があります。GBU-57大型貫通爆弾MOPという、地下施設を専門に狙う爆弾がありますが、このまま北朝鮮とのアメリカの対峙が続くのであれば、MOPもシリアのISIL地下施設攻撃という名目で、もしくはアフガニスタンのタリバーン洞窟陣地攻撃という名目で使用されるかもしれません。

 GBU-57はバンカーバスターとしてしられるGBU-28では破壊不能な地下施設を狙う大型爆弾で、重すぎて戦略爆撃機にしか搭載できません。不十分とされたGBU-28でも地中30mの硬化シェルターを攻撃可能ですが、GBU-57は成層圏から投下することで地中100mまで貫通し攻撃可能、ステルス性の高いB-2戦略爆撃機から隠密裏に投下する事が可能です。

 GBU-28は湾岸戦争後にイラク軍の地下司令部を攻撃するべく開発されたものですが、イラク軍は地下50m以上の大深度地下施設に司令部を置いたと分析されたため、対抗して100m以上地下を叩くことが可能な新兵器が開発されたわけです。映画シンゴジラにて米軍がゴジラ攻撃用にこの改良型を運用する描写がありましたが、ゴジラは痛そうでしたね。

 実際に軍事行動を実施する事には相当なリスクがありますし、限定攻撃を行う際には反撃を想定した軍属や軍人家族の韓国国内や日本国内からの撤収や、ミサイル防衛部隊の増強という必要があり、現時点でこれだけの準備がアメリカ、そして日本や韓国が行っているかについては、その兆候は無く、韓国軍では予備役の動員もおこなわわれていません。

 示威行動により可能な範囲内でアメリカ本土への核攻撃リスクを抑える状況変化を期待しているのではないか。この示すところは、アメリカはカールビンソン空母戦闘群を展開させる事で北朝鮮へ軍事圧力をかけると共に、周辺国、暗に中国への同調圧力を掛けているよう読み取れます。そして中国への譲歩を示すように、様々な施策を講じているようです。

 米中首脳会談が行われましたが、一つの懸案となっているTHAAD韓国配備、在韓米軍へのTHAAD防空システム配備の一時棚上げを示唆しています。THAADは在韓米軍を北朝鮮ミサイルから防護する装備ですが、中国は自国ミサイルの韓国への示威効果が低下するとして反発しています。このTHAADが一時的に棚上げされる可能性が報道されました。

 THAADはアメリカが北朝鮮への軍事攻撃を真剣に検討するならば、在韓米軍施設を防護するために即座に配備が必要な装備です。これを政治的に棚上げする事は軍事的合理性に適いません。勿論、アメリカ海軍はイージス艦の朝鮮半島周辺展開を増強している為、THAAD以外にイージス艦のSM-3ミサイルにより迎撃できる体制は構築しているのですが、ね。

 中国は平和的に、この問題の鎮静化を要望しています。これに対しアメリカのトランプ政権は、中国側が必要な制裁措置を取らない為に現状が醸成されたとの批判を続けています。勿論、北朝鮮がグアム周辺等へのミサイル実験、核実験の連続を行えば、限定攻撃の可能性はあります。しかし、軍事攻撃以外にも強硬な手段を執る余地は残っているのです。

 在韓米軍への戦術核兵器前方展開、限定攻撃を除く非軍事手段として考え得る現実的にもっとも強硬なアメリカの選択肢は1992年に撤去した韓国国内の米軍核戦力を再度展開させることでしょう。具体的にはB-61戦術核爆弾を烏山基地などへ展開し、もしくはグアムのアンダーセン基地へ韓国配備準備として展開し牽制するという選択肢も考えられます。

 B-61は通常の戦闘機からも投射可能で、必要に応じアメリカ空軍のF-15E戦闘爆撃機や韓国空軍のF-15K戦闘爆撃機などからの運用を行える体制を構築することは北朝鮮への大きな抑止力となります。日本と韓国はアメリカ本土のミニットマン大陸間弾道ミサイルによる核の傘に守られていますが、守られていると入っても現物が手元にない状況がある。

 太平洋の向こう側では安心できない韓国世論などがあり得るでしょう。しかし、B-61核爆弾の在韓米軍配備が行われたならば、韓国世論は一定程度落ち着く可能性があります。勿論、これは非軍事攻撃という選択肢の中での最も強硬な手段ではあるのですが。この他、北朝鮮に対し、かつてイランへ行った水準以上の経済封鎖を行う選択肢もあり得るでしょう。

 ただ、最大の危惧はアメリカが軍事行動に出る可能性が捨てきれず、同程度の可能性として日本本土へのミサイル攻撃が実施されるという危惧に対して、相応の対応策が構築されていない実情があります。北朝鮮が核実験を繰り返した場合にアメリカが軍事行動への分水嶺を越えたと判断するのか、直接的な砲撃等挑発行為が実施されるまでは分水嶺を越えないのか。注意深く見てゆく必要があります。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする