北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

核兵器禁止条約交渉開始,核無き世界目指す当事国不在の交渉と核不拡散条約空文化の危惧

2017-04-03 20:30:59 | 国際・政治
■核兵器国核保有国不在の交渉
 核なき世界を望むのは諸国民と為政者の変わらぬ願いですが、それ以上に自国が核攻撃されない為の手段として世界は核廃絶を祈念しつつ、その手段については世界はいまだ一致を視ません。

 核兵器禁止条約の国連における交渉が開始され、核兵器国すべてと核保有国すべて、さらに日本やNATO加盟国すべてが参加しない、利害関係国無視の不可思議な交渉となっています。交渉参加国は国連加盟国の過半数を越える大きなものですが、核兵器に関する問題を討議する機会でもありながら、核兵器国と核保有国が参加しない枠組みへの意義については、残念ながら実効性について考えさせられる要素が少なすぎます。

 仮に、核兵器禁止条約へ核兵器国と核保有国への核兵器禁止条約締約国間での経済制裁などの措置を含めることができたならば、新しい国際公序を醸成する事ができる可能性を含みますが、核兵器禁止条約が仮に可決され成立した場合、現在の核拡散防止条約秩序を置き換えるものとなりえますが、懸念すべき要素は核兵器非合法化が核拡散防止秩序の上位国際公序を形成し、結果的に核兵器国以外の核保有国増大に歯止めがかからない状況が醸成される点でしょう。

 核兵器非合法化の枠組み構築へ、実質的に機能する国際公序の形成に日本は積極的に参加し、核拡散防止条約や包括的核実験禁止条約の成立を牽引したのは日本、唯一の戦争被曝国である我が国の主導が大きな意味を持ちましたが、今回の核兵器禁止条約への枠組みへ日本が参加しない背景には、核拡散防止条約の上位国際公序に、核兵器国が参加していない枠組みを構築しては、核兵器国と核保有国を念頭に置かない核兵器禁止枠組みが構築され、核兵器をもつ国々の固定化を招きかねないという憂慮があるのでしょう。

 核拡散防止条約は、核兵器保有国を増大させないという大きな視点から、すでに条約が成立した時点で公然と核兵器の保有を宣言した諸国を核兵器国と位置づけ、締約国に核兵器国が並んで参加することに成功しました。核拡散防止条約成立後に核兵器を開発した諸国は核保有国とし、核拡散防止条約の履行義務に反し、制裁などが行われます。新しい核開発を経ての核保有国を見る度に、核不拡散秩序の失敗を痛感しがちですが、制裁措置により、そもそも核保有を断念する諸国の方が多いという視点を忘れてはなりません。

 この核拡散防止条約については、実質的に国際慣習法化し、締約国以外にも核兵器開発を基本的に禁止する枠組みを醸成しており、この強行規範としての機能が、過去には北朝鮮核開発にともなう核拡散防止条約離脱という行動そのものを経済制裁などの事由としました。現在推進される核兵器禁止条約は、核拡散防止条約よりも進んだ核兵器規制を目指したものではありますが、核兵器国と核保有国が参加していないのでは意味がありません。

 一方、核兵器禁止条約形成への参加国は、核拡散防止条約へ明確に違反した諸国への制裁措置等を、たとえば北朝鮮核開発や核実験に際し十分に実施し、その開発を阻止する為の努力を怠っています。これでは、形式的に核兵器を禁止する儀礼的な宣言を盛り込んだものと成りかねません。それでは、この核兵器禁止条約が核拡散防止条約の上位公序として形成される点はどのような問題があるのでしょうか。

 核軍縮義務、核拡散防止条約にはこの現在保有する核兵器国の核軍縮を努力目標として明示する義務を含んでいます。これにより核拡散防止条約は新しい核保有国を、核兵器国以外の核開発を事実上認めないことで、第一段階として核兵器の総数が増大しない枠組みを構築した上で、第二段階として核兵器の保有を認められている核兵器国に対して歯手放しではなく、核兵器の縮小を求めているわけです。

 併せて、戦略核兵器削減交渉や中距離核戦力全廃条約といった、確実な核兵器削減への道程を歩んでおり、核拡散防止条約秩序は、核兵器の総数削減へ非常に大きな意味と意義を有しているわけです。しかし、核兵器禁止条約は核兵器国が参加しないことで核軍縮義務を盛り込んだ場合でも、これを実行につなげることはできず、結果的に核軍縮の流れを一時的に停滞させる可能性が否定できません。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (2)
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