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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

朝鮮半島有事北朝鮮攻撃の可能性:金正恩の北朝鮮核とミサイル実験へ米トランプ政権の施策

2017-04-15 22:20:02 | 防衛・安全保障
■朝鮮半島有事危惧の現実化
 朝鮮半島有事の切迫、周辺事態に挙げられる朝鮮半島有事、果たして今回はどのように展開するのでしょうか。

 朝鮮半島情勢が風雲急を告げる緊迫した状況となっています。朝鮮半島有事、日本からは日本海を越えた対岸の隣国ですが、この地域での有事は我が国へ大きな影響を及ぼすもので、決して対岸の火事とは言い切れません。そして現代の北朝鮮ミサイル戦力は日本本土へ充分大きな脅威を及ぼす水準であり状況次第でミサイル防衛戦の第一線となりかねない。

 北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル実験、更にまもなく準備が完了すると観られる六回目の核実験準備を受け、朝鮮半島情勢の緊迫度合いが増してきました。カールビンソン空母戦闘群の豪州沖からの朝鮮半島沖急派を受け、具体的には北朝鮮の六度目の核実験など、アメリカが想定するレッドラインを越えたと判断した場合、不測の事態が発生する可能性が高い。

 アメリカのトランプ大統領は、北朝鮮情勢とその脅威度を慎重に見極めようとしています。見極めるとは、米本土へ及ぶ脅威が感化できない水準へ達する前に必要であれば必要な全ての措置をとるとの意味です。トランプ大統領は大統領選当時には北東アジア情勢へ極力不関与の姿勢を示し、日本と北朝鮮の紛争に巻き込まれたくないとの発言がありました。

 日本が核武装すればよい、北朝鮮の核戦力に日本が脅かされるのであれば日本が核武装すればよい、との発言をしています。日朝間の紛争とみていましたが、しかし、北朝鮮の核戦力は核兵器国であるアメリカを標的としており、米本土への核攻撃態勢が確立するまで核開発及びミサイル開発は継続される実状に鑑み、積極的な姿勢を示すよう転換しました。

 ただ、軍事行動が実施される場合でも限定攻撃に留まるでしょう。限定攻撃に留まると判断する根拠は、在日米軍基地や在韓米軍基地の増派状況が大規模な航空攻撃を実施するには不十分であり、北朝鮮国内の多数が整備される軍事目標を無力化するには、現在朝鮮半島へ向かっているカールビンソン空母戦闘群だけでは全く不十分といわざるを得ません。

 アメリカが本格的な軍事行動を行う際には、グアムや在日米軍基地への大規模な航空部隊増派と在韓米国民の退避体制確立、弾道ミサイル防衛部隊の増強が為されなければ十分ではありません。充分行わなければ韓国の首都ソウルは北朝鮮の野砲やロケット弾の射程内にあり、東京や上海と北京に並ぶ北東アジア有数の大都市圏が危険に曝されるのです。

 航空攻撃を実施する場合、アジア地域にアメリカはかなり強力な航空戦力を展開させています。在日米軍は嘉手納基地に有力な戦闘機部隊が展開していますが制空戦闘任務にあたるF-15飛行隊が主力で、対地攻撃に当たる航空部隊は三沢基地のF-16飛行隊、韓国の烏山基地に展開するF-16飛行隊、F/A-18やF-35Bを運用する岩国基地の海兵航空部隊など。

 これに第七艦隊の水上戦闘艦艇から運用されるトマホーク巡航ミサイル、太平洋艦隊のオハイオ級巡航ミサイル原潜の打撃力はかなり規模ですが、同盟国へ北朝鮮ミサイル攻撃等の事態拡大を阻止するには第一撃で大半の北朝鮮弾道ミサイルや南北国境付近のロケット砲兵戦力を無力化する必要があり、平時に西太平洋へ配備される戦力では不十分なのです。

 トマホークによる限定攻撃の可能性はどうか。アメリカ海軍は先週、実際にミサイル駆逐艦によるミサイル攻撃をシリアへ行いました。シリアの化学兵器サリンの使用を受け、アメリカは59発のトマホークをシリア国内の空軍基地へ投射し、シリア空軍戦力の二割を無力化しました、この種の限定攻撃が北朝鮮に対しても行われる可能性はあるのでしょうか。

 この点について考えてみますと、オハイオ級巡航ミサイル潜水艦など152発のトマホークミサイルを搭載する投射手段があり、同時に600発程度のミサイルを北朝鮮限定攻撃へ用いることは可能ですが、北朝鮮の対日戦用及び対韓国戦用の弾道ミサイルをこれだけでは無力化することは難しいのが現実としてあります。何より、ミサイルの位置が分からない。

 北朝鮮ミサイルは移動発射装置により自動車化されているため、発射されるまでその位置は正確にはわかりません。今日、人工衛星により多くの地上目標を監視することができるようになっていますが、これは固定施設などを定点撮影する場合に限ったもので、移動するミサイル発射装置を常時監視する事は、特にトンネルや森林に秘匿されれば分りません。

 ミサイル移動発射装置、大きさは新幹線車両1両分ほどのものですが、これを北海道の1.4倍もの面積をもつ北朝鮮全土から巧みに偽装された発射装置を探しだし、常時追跡するには現在の監視体制では全く不十分で、例えば常時十数機の高高度無人偵察機とその数倍の数の無人偵察機を上空飛行させ監視任務に充てない限り、追跡は実質、不可能でしょう。

 核関連施設への限定空爆、という可能性について。アメリカが用い得る手段として一定程度可能性が大きなものはこの選択肢です。北朝鮮の豊渓里核実験場を空母艦載機か岩国のF-35B戦闘機、若しくは烏山基地か三沢基地のF-16戦闘機により精密誘導爆弾により正確に破壊する。岩国のF-35Bであれば環太平洋地域唯一のステルス機部隊となっています。

 有人航空機を北朝鮮上空へ展開させる事は、防空制圧が必要となります。即ち、北朝鮮にはきわめて密度の高い地対空ミサイル部隊が展開し、時代遅れですが目視照準の高射砲部隊、更に高射機関砲部隊が高密度に配置されています。これは朝鮮戦争再燃へアメリカ軍との戦闘を想定し、航空優勢を喪失する前提で陸上部隊を航空攻撃から守る為のものです。

 トマホーク巡航ミサイルは、この種のリスクを回避できる長距離打撃力ですが、残念ながらトマホークは地下施設を破壊する設計ではなく、坑道入り口部分を正確に破壊するものです。一時的に機能を喪失させられますが、掘り返す事で復旧し、これだけでは残念ながら核開発を止める事は出来ません。また、弾道ミサイルによる同盟国への反撃はあり得る。

 北朝鮮に対し巡航ミサイルによる攻撃を行う事は、核開発を短期的に停止させる効能はあるものの長期的には開発を中止に追い込むには至らず、在韓米軍基地や在日米軍基地へ弾道ミサイルを誘発する事となり、この弾道ミサイル部隊への報復攻撃が重ねられるならば、戦略上の禁忌、戦力逐次投入ともなりかねません。ここに北朝鮮限定攻撃の難しさがある。

 もっとも、アメリカは打つ手なしの状態ではありません。アメリカは米軍が保有する通常爆弾では最大のMOAB大規模爆風爆弾をアフガニスタンにおいて実戦使用しました。これは制式名称をGBU43Bといい、高熱を発するアルミ粉塵充填のトリトナール爆薬を用いた10t近い超大型爆弾で、高熱により大気を刺激、極めて広範囲に爆風被害を与える装備です。

 具体的には弾道ミサイルなどの移動発射装置やミサイル本体へ爆風圧を叩きつけ無力化することが可能で、アフガニスタンでの使用はアメリカ軍での説明ではISILの地下施設などを狙ったとの発表ですが、地下施設を攻撃するならば、もう少し安価なバンカーバスター地中貫通爆弾をF-15E戦闘爆撃機から投射すれば事足りる事で、少々威力過剰というもの。言い換えれば北朝鮮への示威行動としてGBU43Bが用いられたといえるかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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