北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アメリカロシア対立激化!シリア攻撃受け緊迫と東欧・東部ウクライナに続く鉄のカーテン

2017-04-11 23:44:00 | 国際・政治
■21世紀の冷戦構造が形成
 アメリカのシリア攻撃へ、シリアを支援するロシア政府が強く反発、2009年の弾道ミサイル防衛システム東欧配備決定や2014年のウクライナ東部紛争及びクリミア半島併合に続く新しい緊張を生み、点と線が繋がろうとしています。

 アメリカ国防総省の戦果確認によれば、シリア空軍作戦航空機20機を破壊し、これは可動航空機の二割に達するとの認識です。シリア政府は攻撃された基地の滑走路機能は維持できているとしてアメリカの攻撃失敗を強調しましたが、アメリカ国防総省は滑走路があっても飛ばす航空機や支援設備の無い滑走路は単なる平地に過ぎないとしています。一方、シリア軍の化学兵器備蓄施設については、その破壊により化学剤が飛散することで周辺住民への付随被害が及ぶ危険性からその攻撃を慎重に避けたとのことです。

 アメリカのシリアトマホーク攻撃ですが、アサド政権には軽い御仕置程度の効果しかない、とは軍事専門家の意見の一つですが、アメリカのトランプ大統領としても軽い御仕置御程度であったという認識が必要でしょう。今回トマホーク攻撃を行ったのはアメリカ海軍の駆逐艦二隻、巡航ミサイルが対地攻撃における艦砲射撃の代用と考えれば、アメリカ海軍は膨大な水上戦闘艦の中で二隻の駆逐艦が艦砲射撃をしたに過ぎず、ほんの端緒といえる。

 そして、化学兵器が使用されれば、こうした制裁措置が即座に実行されるという決意表明は、シリアのアサド大統領にとり軽いものではないでしょう、地中海にはより多数の駆逐艦がトマホークを搭載し攻撃可能な海域に遊弋し、50機の戦闘爆撃機を搭載したニミッツ級原子力空母が周辺海域を遊弋しています、更に今回の約三倍という154発のトマホークを搭載したオハイオ級巡航ミサイル潜水艦も今回の“御仕置”には参加していません。

 アメリカ海軍駆逐艦によるシリアへのミサイル攻撃はシリア空軍作戦機の二割を破壊したという戦果評価を示した国防総省発表にたいし、シリア空軍は攻撃を受けた空軍基地の復旧を発表、航空攻撃を再開しました。今回、アメリカ海軍はミサイル駆逐艦2隻からのトマホークミサイル攻撃を実施したのみですので、必要であれば追加のミサイル攻撃や空母航空団からの航空攻撃、無人攻撃機からの攻撃と特殊部隊による特殊作戦という選択肢が残ります。トマホークの弾頭重量は500ポンド爆弾二発分、空母航空団は50機の艦載機を毎日170任務飛行連続出撃が可能で、F/A-18E戦闘攻撃機は8tの各種兵装を搭載可能、この打撃力はトマホークとは比較になりません。

 しかし、今回のミサイル攻撃によりロシアの極めて強い反応が新しい米ロ対立を加速させました。トランプ大統領とプーチン大統領は現段階で双方を直接非難する段階にはなく、慎重に言葉を選び相互を牽制している極めて瀬戸際の段階ではありますが、シリア軍へのロシア軍支援が今後継続された場合はどうなるのか、ロシア軍がシリア軍の装備を補強し、そのシリア軍とアメリカ軍が戦闘に展開する、ヴェトナム戦争の構図が再燃しかねません。具体的にはシリア軍の地対空ミサイルがロシア軍により強化されることが大きな懸念でしょう。

 シリア軍は四度の中東戦争をはさみ、極めて高度な航空打撃力を有するイスラエル空軍の航空攻撃から地上部隊を防護するべく高度な野戦防空部隊を整備してきました。2011年からのシリア内戦によりシリア軍野戦防空システムは大きな被害を被っており、特に整備を放置するだけでも稼働率は著しく低下するため、現時点では最盛期と比較し相当能力は低下していると考えられます。しかし、2017年に入りイスラエル空軍がゴラン高原のシリア軍防空施設へ航空攻撃を実施し防空制圧任務を展開しているため、イスラエル空軍に越境作戦を決断させる程度には健在、ともいえるでしょう。

 ロシアが今回のアメリカ軍によりシリア政府軍攻撃を実施した事への極めて厳しい反発、これはプーチン大統領とアサド大統領の個人的信頼関係に依拠した2011年のシリア内戦勃発からの継続したシリア軍事支援の継続にたいし、この支援基盤である空軍基地をミサイル攻撃により破壊したことはロシア側にとりアメリカが一線を越えた、という認識となったのでしょう。

 現在、ロシア軍のシリア軍事支援は2015年に本格化した航空攻撃や艦隊派遣による巡航ミサイル攻撃、地上戦軍事顧問の派遣などを実施しており、シリア支援への自由シリア軍やISILへの大規模介入は終了していますが、今回のアメリカ軍空爆により、ロシア軍再派遣を行い米軍を牽制する、または地対空ミサイルなどの供与が行われる可能性が高く、すでに黒海艦隊のロシア軍艦艇がシリア南部へ入港しているとの報道もあります。

 危惧する点はロシアとアメリカの直接軍事対決、特に戦術核兵器がシリア領内で使用される可能性や、シリアと国境を接するイスラエルが巻き込まれることで第五次中東戦争へ発展する懸念です。イスラエルとシリアは中東戦争などをへてシリア内戦以前までPKO部隊が停戦監視に当たっていましたが、ゴラン高原PKOはシリア内戦とともに終了しています。

 今回の米ロ対立は、オバマ政権時代とその前の共和党政権であったブッシュ政権末期からのロシアとの対立を更に新しい方面から拡大するリスクが生じていまして、これは日ロ関係への展開へ波及する可能性も否定できません。オバマ政権からの対立は、欧州のアメリカ同盟国と在欧米軍基地防衛を目的とし、欧州へミサイル防衛システムとミサイル防衛対応イージス艦を展開させる事でロシアの核戦力が欧州に対して抑止力を失う危惧から生じたものです。

 ミサイル防衛を巡る対立、基本的に対立の第一線は欧州の東欧でした。この対立は2014年のウクライナ東部紛争により拡大する事となりましたが、ここにシリアを巡る対立が重なる事で、欧州から黒海とクリミア半島ウクライナ東部を通り、シリアを経て地中海まで、新しい鉄のカーテン、東西冷戦の再発への新しい対立構造が構築されようとしているようにみえてなりません。

北大路機関:はるな くらま
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