◆日本の戦闘機生産技術は戦後初めて絶たれる
三菱重工小牧南工場において生産されている航空自衛隊のF-2支援戦闘機がいよいよ来週の二機の納入を以て完納となります。
日本では航空自衛隊最初の戦闘機であるF-86F以来、F-104,F-4EJ,F-15Jと継続的にライセンス生産を実施してきましたが、今回のF-2完全納入をもって次の発注がないことから戦闘機生産ラインが閉鎖となります。企業にとり稼働しないラインを維持する負担は言うまでもないほどに大きく、一時的に日本での戦闘機生産は絶たれることになりました。
しかし、戦闘機生産基盤が閉鎖となることは今後これまでのように維持部品を日本国内で調達できなくなることを意味していまして、日本はNATOのような多国間共通運用基盤も有していませんから、今後の運用に少なくない不安を持っている事案です。しかしこの重大な事案に対して政治家はあまり危機感をもって迎えられていないのではないか、という印象があります。これについての防衛大臣臨時記者会見の様子を引用してみましょう。
Q:来週の27日に、F-2支援戦闘機、今国内で製造している唯一の戦闘機が製造終了、最後の2機がロールアウトし、それでしばらく戦闘機の製造というのが中断することになる中で、国内産業の衰退というのも懸念されていますけれども、今後、防衛省・自衛隊としてどのように対応されていくのでしょうか。
A:こういう国内の武器の製造をしているいろいろな技術なり、民間の仕事というのは、それなりに需要がないと維持できないということが言えると思いますから、そういうことは当然念頭にはありますけれども、しかしこういう問題は我々も中・長期的計画の中でいろいろな装備品を整えていこうという計画ですから、あまりそういうことだけに拘る必要もないと思います。
しっかりと外国と技術的にいろんな面で協力できるところとか、お互いにそういう面での協力をし合いながら、それぞれの国々は皆、今経済的にも厳しい背景を抱えておりますから、そういう中で軍事産業のそういう基盤ということも念頭におきながら、しっかりと取り組んでいくということだろうと思います。http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2011/09/22.html
中長期的に装備を整えてゆく、ということを発言していますが、戦闘機を整備したとしても列機に並ぶ機体の稼働率が半分となってしまえば、必要定数をさらに上げるか、より効果で高性能な航空機を導入しなくては抑止力を維持することはできなくなります。与党議員数ではないのですから、数さえそろえば質は問わない、という発想はいかがなものでしょうか。
外国といろいろな技術面での協力を行い、という発言を行っているのですが現時点で日本の参画できる次世代戦闘機計画はありません、F-35のJSF計画でも参画し協力できるという時期は十年ほど前に過ぎてしまっています。それならば、ライセンス生産できる機体をいち早く整備することのほうが現実的でしょう。
海外から長期運用支援契約とともに戦闘機を導入する、というのは安易な方策ですが有事の際にも支援契約が、例えば基地や拠点周辺への攻撃やテロ攻撃により停止しないか、ということを考えた場合、実際にそうした事例はサウジなどで発生しているのでどうしてもリスクが大きくなります。抑止力が破綻した場合、戦闘機は有事にもっとも使われるのですからね。
経済的な問題を提示しているのですが、上記のとおり抑止力を維持する稼働数を確保するためには韓国や台湾またオーストラリアとの共通運用基盤と有事には部品供給は集団的自衛権の行使とみなされますので憲法解釈も含め整備するか、これが選択肢の一つ。
選択肢のもう一つは一定数を国内でライセンス生産して防衛産業の維持と復元を図るか、稼働率の激減を見越して直接輸入により現状の二倍近い数を取得して防空能力を維持するか。戦後初めて日本の戦闘機生産が経たれることになりますから、しっかりと受け止めねばなりません。
北大路機関:はるな
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