北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

9.11同時多発テロから十年、3.11東日本大震災から半年 世界の変化と日本の変容

2011-09-11 23:20:38 | 北大路機関特別企画

同時多発テロから十年が経ちました。そして東日本大震災発災から半年を経たことにもなります。

9.11同時多発テロ、あの日から世界は、という表現はよく用いられる表現なのですが、現実問題として航空保安体制を含め多くの変革を強いられることとなりました。確かに、世界貿易センタービルへの航空機の激突と超高層ビルの崩壊、燃え上がるペンタゴン、その様子がリアルタイムで報じられたことは強い印象を与えました。

ポピュリズムへの影響、そういうことも挙げたいのですが、敢えてその象徴的な事態以前にも駆逐艦コール爆破など、いや世界貿易センタービルそのものも1993年には爆弾テロの標的となっていますので、一つの分岐点ではあったものの、いずれ均衡の天秤が破綻することは、これは政治家の方が発言し物議を醸している言葉ではないですが歴史の必然だったのでしょうか。

いろいろ研究を進めてきまして、結局のところ、ジョンロールズが挙げたような原初状態といいますか、機会均等こそがアメリカが掲げる正義、即ち民主主義の原点になる、ということなのかな、とここ数年間は考えています。だからこそ、いわば押し付けというような印象を外部から与えるという、アメリカの正義の視点なのだろう、思います。

だからこそ、そもそも平等や均衡が根本的に相いれない、要するに単純な二元論では割り切れない文化圏との、サミュエルハンティントンではありませんけれども、衝突する要素があったのでしょう。単純な正義の押し付け合いではなく、原初状態での平等が民主主義を支えるという観念、二元論だけでは相容れないという観念、全く異質な正義ですので、なるほど必然とも言い切れるのでしょう。

すると、グローバリゼーションという言葉で一括りにされるような、いわばラセットが提示したような、世界が移動や通信に要する時間や労力の低下により、かつて通じ合うことが無かった二つのものが交流、通じたことで生じた、技術革新ゆえの必然がこの衝突だったのだろうか、と。

しかし、如何に内面にも踏み込み要因を検証しようとも、アメリカが建国以来最長の期間にわたり戦争を継続している、アフガン空爆開始は同時多発テロから9日後でしたか12日後でしたか、開始された武力紛争は、その烈度こそ変化しているものの継続しているという現実は別の次元として考えなければなりません。

その後の、そもそも社会主義革命により政権を獲得したイラクのフセイン政権と、イスラム原理主義を掲げているアルカイーダ、実際にアフガニスタンへの社会主義波及を期したソ連の行動に反発した戦いがアルカイーダを生んだのですけれども、一番相容れない同士が結託している、と解釈し2003年に戦火はイラクに飛び火しました。

イラクでの軍事行動とともにアフガニスタンが手薄となり、この期間、特にイラク戦争後の消耗戦争としか言えないような長期の治安作戦とともに、その時期にアフガニスタンの戦況は悪化、悪循環が生じたことでその循環は、強制的に立ちきす撤退という言葉で断ち切られようとしているのですが、時間がかかり過ぎています。

もっともイラクへは当初の政権崩壊とともに新しい政権への移行が成り立つと考えたものの、そのために打撃力のみを重視した編成、協同交戦能力による攻撃のみを考えそののちを考えなかった編成と派遣規模がのちの治安作戦長期化を招いたのですけれども。

さて、ここで一つの問題なのですけれども、その間にアメリカは幾つもの次世代軍事装備体系の構築を断念しました。治安作戦は非常な予算を要するものです。まず本来主要標的とされないような後方車両などが主たる目標となり、当然防護力と自衛力が必要となります。また、歩兵の簡易爆発物からの防護も不可欠となり、大型装甲車に匹敵する価格の治安車両を万単位で調達することになったのです。

軍産複合体、といいますか、今回は言わゆる先端装備、といいますと唯一の例外を無人機装備体系としまして、復興の実現と民心安定、そして人件費と糧食や駐留経費という一番軍事兵器として想定されるようなもの以外に多くの予算を強いられることになった、といえるかもしれません。

結果として、F-22戦闘機の配備数縮小、F-35統合打撃戦闘機計画の難航、E-10統合情報管制機の中止、次世代駆逐艦DD-21ズムウォルト級の生産縮小と価格高騰、同様に沿海域戦闘艦LCS計画の難航と座礁、将来戦闘システムFCS計画の中止、ストライカー旅団戦闘団普及計画の縮小、次世代偵察ヘリコプター計画の大幅遅延、歩兵用将来戦闘システム計画の遅延などなど、重大な結果を招きました。これすべてテロとの戦い、と挙げられる一連のものがなければ、というものでしょう。

ここからが重要なのですが、その間に中国軍の近代化は大幅に進みました。十年前は数隻単位だった大型水上戦闘艦はいまや数十隻となり現在は練習空母の運用に着手、これが実用化できるかは未知数ですが、将来的に六隻という大規模な水準を整備させる方針のまま、推進されているのはご承知の通り。

中国の近代化は、大きすぎるため所要の成果というよりは習作になるのでしょうけれどもステルス戦闘機や空母艦載機という分野、加えて陸軍でも戦車について一定の水準にたっするもの、ヘリコプターについても進展するものが見えております。そして、1996年でしたか、台湾海峡危機の状況と大差ない両国の緊張関係のもと推移しているのです。

ロシア軍についても、ようやく冷戦時代のソ連が引きずったものから昇華を果たしつつあり、特に石油価格高騰がバクーの油田地帯の付加価値を大きく高めたことで艦隊の再建、航空戦力近代化の促進、陸軍力の段階的近代化というものが再開されるに至りました。

特に2008年のグルジア戦争を契機にいわゆる正面装備体系のみの純粋な近代化だけではなく、ネットワーク戦、もっともこれを最初に提示したのは40年ほど前にソ連から出た論文が元だったはずなのですが、その能力の不足からくる教訓を活かせるように変革に着手したとされます。

アメリカが構築するはずであった次世代装備体系、というものの抑止力は、まさにこうした状況下に威力を発揮することになっていたはずです。迅速に展開して打撃力と行使し、その範囲は世界規模、正面戦力に対する衝撃力は想定される全ての脅威に対抗可能、というもの。

打撃力だけですので、正面戦力に依拠して複郭式の装備体系に依拠する従来型の大規模武力紛争への対処能力は大きく、特にその抑止力が、大国であれば大国であるほど大きく小夜するはずでした。虎の子の艦隊や航空団を失うリスク、というものが出てきますから、そういうことになるのでしょう。

しかし、テロ、となりますと非対称の戦い、といわれるのですが、打撃力だけでは通じえないものが出てくるのでして必然の結果として次世代装備は、優先度を下げられ、特にアフガニスタンとイラクという第二次世界大戦以来の二正面作戦を強いられたわけですから優先度を下げた、ものまでもを維持して継続することはできなかったわけですね。そして、新しい脅威に対処が難しいという十年前の状況が再来しつつあるやもしれません。

これは困ったものです。中ロとは日本にとり隣国であり、具合の悪いことに係争関係にあります。中国海軍の動向、ロシア海軍の動向、ロシア空軍の動向、なるほど、冷戦時代、というほどではないにしてもその上昇度合いでは、かつての冷戦時代の始まりを髣髴させるものではないでしょうか。

重ねて、ですがNATOの弱体化というものがアメリカの安全保障環境に影響を及ぼすのではと危惧します。NATOはリビア空爆で露呈したように、共通運用基盤と共通後方支援基盤、継戦能力に優れた組織体系を構築してきました。そうしなければ単一勢力として巨大な戦力を有するソ連軍に対抗できなかった、という冷戦時代の必然があったわけですからね。

ところが、冷戦終結以降、この共通運用基盤と共通後方支援基盤が、結局のところ共有地の悲劇といいますか、互いの備品を有事の際に融通してもらえれば対処できるだろうということで備蓄と正面装備を削りすぎたきらいがあります。だからこそ、リビア空爆の主導権をアメリカからNATOが握っても、長期化にいたった、こういえるわけです。

イギリスを例にとれば、もっとも財政難が背景にあるのですけれども、これを言い出せば欧州の国々で財政に万全の自信がある国は例外的ですのでこれを踏まえまして、陸軍は戦車全廃方向、火砲火力は激減、海軍水上戦闘艦は十隻超に縮小、戦略ミサイル原潜は廃止案、空母艦載機全廃、空母建造計画半減、哨戒機全廃予定、空軍戦闘機維持費捻出不可能、基地複数閉鎖、練習機不足などなど。

こうした連鎖が欧州に伝播すれば、アメリカ国内でも国防への関心が下がること、特に正面戦力への予算配分が難しくなるのではないか、そういう漠然とした危惧があります。欧州はISAFとしてアフガニスタンへ兵力を派遣していますので維持できている部分がある、と仮定すれば、十年後はどうなるのか。

日本、そういう意味でこの十年間での変化は、これも劇的でした。十年前にだれが陸上自衛隊イラク派遣、海上自衛隊ソマリア沖海賊対処任務、こういう任務を想定できたでしょうか。当時の脅威は北朝鮮の弾道ミサイルとゲリラコマンドー、これだけだったわけですからね。

この点で、法律面での日本の危機管理面への対応は躍進、民主党政権ができることは予測できなかった、といいますか政権交代後の政治がここまで麻の如く乱れ、とは想像もできなかったのですけれども、それ以前はかなり想定不可能な危機に対する対処が可能な法基盤を整備することはできました。護衛艦は大型化、新型輸送機と哨戒機の開発、装甲車の普及など、防衛面は、まあ、言いたいことは山ほどあるにしても前進した分野はあります。

ただ、アメリカがテロとの戦いにより実施することができなかった正面装備や次世代装備の不足による抑止力低下、この影響を大きく受けるのは、同時に軍事力の近代化と増強を行った中ロに直面している日本、ということになります。まあ、韓国と台湾も含まれることになるのではあるのですが。

しかし、日本国内では、今ではごく少数ながら、特に二大政党制というものを実質建前と本音の領域におき反対野党としての地位を担ってきた政党が与党になった、ということもあるのでしょうけれども、中国への警戒は叫ばれるようになりつつも、大多数は欧州の通常戦力削減に同調しよう、という流れが多数を占めてきました。

欧州における通常戦力削減は、これなどステファンクラズナーで読み解けるところがおおいのですけれども、1970年代の欧州安全保障協力会議、遡れば50年代からの努力が結実しての緊張緩和と信頼醸成の賜物でして、全くこの地域の緊張緩和と信頼醸成に力を注がず、戦力はないものと公言してきた日本がいきなりその恩恵に与れるものではありません。

そして欧州におけるこの動向は、情報優位の獲得、協同交戦能力の整備への通信と情報共有への資金捻出という質的向上、これこそが実のところ徴兵制廃止と正面装備縮小の比率に対して国防費の総額への影響が合致しない重要な部分なのですが、日本の財政難は縮小に伴う防衛費縮減の効果を求め、質的向上を許しませんでした。

これは東日本大震災の災害派遣を見ればわかるのですが、情報優位と協同交戦能力、この概念が普及していませんでした。まあ、台風12号災害派遣に際して野田新総理がわあわざ上空から視察を行うほど、情報共有は難しく肉眼をはじめとした当事者としての五感に頼るほかない現状があるのですけれども、問題でしょう。

困ったことです。加えて同時に、東日本大震災災害派遣ではアメリカの大きな支援を受けることができたのですけれども、同盟国とはいえすべてを頼ることができないという現実、日本列島は日本により最大限何とかしなければならない、という実際のものを知ること、知らされることになりました。

これは必然として、日本は想定される脅威に対して、独力で対処する、他力本願からの脱却、いやいやこれは自己責任という言葉が相応しいのでしょうか、東日本大震災で知った経験とともに、同時多発テロから十年間でのアメリカの軍事力の変容いや偏向と、中ロの近代化、こういうものを考える必要があると考えます。

同時に、これは東日本大震災発災と原子力事故以降提示していることですが、防衛ということ、憲法九条を盾に取った一つの安全保障上の鎖国でしょうか、ここから出て脱原発におけるエネルギー確保にも進んでゆかなければならなくなるでしょう。自己責任、自国責任ともいえるのか、そうしたうえで想定される想定外、そういう事態に対応できるものは、考えなければなりません。同時多発テロから十年、東日本大震災から半年、このように考えたわけです。

北大路機関:はるな

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