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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

平成22年度防衛予算概算要求の俯瞰① 主要装備:陸上自衛隊

2009-09-08 18:41:31 | 防衛・安全保障

◆陸上自衛隊の防衛力整備

 今回から数回に分けて平成22年度防衛予算概算要求の俯瞰を提示したい。民主党新政権は、政治主導を提示し、この概算要求はどの程度実現するかは不透明ではあるものの、一つの方向性を形作るのに影響はあると考える。

Img_9120  第一回の今回は、判りやすい主要装備の面を掲載したい。74式戦車耐用年数限界に伴う減勢に対し、新戦車の調達開始、近接戦闘車ファミリーの先陣を切るNBC偵察車の完成、新しい運用モデル確立を目指す中距離多目的誘導弾など、将来の陸上自衛隊装備体系に光をさすような装備品の予算要求がなされている平成22年度防衛予算概算要求となっている。

Img_3804  89式小銃10012丁29億円。89式小銃は、普通科部隊所要がほぼ64式小銃を代替する程度に配備が進んでおり、戦闘職種部隊を周新に配備が進んでいるが、まだ旧式化が進む64式小銃も多数が残っており、教育部隊には初期の64式小銃も現役であることから今年度も調達される。2800~3000程度の調達が続いたが近年、小銃は急ピッチで近代化が進められている。

Img_1671  5.56ミリ機銃MINIMIは195丁4億円が要求されており、12.7ミリ重機関銃も128丁が7億円で要求。5.56ミリ機銃は、軽装甲機動車所用のほか、車載の62式7.62ミリ機銃の代替としても調達されており、一方で射程が比較的長い30口径機銃に関しては5.56ミリ機銃に淘汰される状況が続いている。

Img_4353  対人狙撃銃105丁2億円。普通科連隊の本部管理中隊に順次対人狙撃班が新設されており、これまでの64式小銃を転用した狙撃銃から、精度が高い米軍制式M-24狙撃銃を配備して運用している。また、海上自衛隊にも貸与され、アデン湾海賊対処任務にも用いられており、M-24以外の少数が別に海上自衛隊所要として調達されているようだ。

Img_3748  9ミリ拳銃1004丁2億円。9ミリ機関拳銃ではないようだが、こちらは、現在導入されているシグザウエルP-220の後継拳銃としての新型拳銃となるのか、それとも近接戦闘での拳銃に関する有効性を確認した上での拳銃装備の増強に当たるのかが興味深い。拳銃は、3佐以上の幹部や警務隊、無反動砲要員用などに調達されている。

Img_8471  普通科部隊が第一線などで直接火力支援などに用いる迫撃砲は、81ミリ迫撃砲L-16が5門1億円、120ミリ重迫撃砲RTが4門2億円で要求されている。ほぼ迫撃砲は、旧型の81ミリ迫撃砲や107ミリ迫撃砲から代替されており、調達ペースは最盛期と比べれば非常に鈍っているというのが現状だ。

Img_0145  22年度概算要求では、幾つかの注目すべき点があり、一つは対戦車ミサイル体系の近代化である。まず、従来から装備が進められている96式多目的誘導弾システム、射程10kmと比較的長く光ファイバーにより画像誘導するため間接昇順射撃が可能なこのミサイルシステムは、5セット108億円が要求されている。79式重MATの後継という位置づけのこの装備は、高性能な反面、配備数が限られているのが難点だ。

Img_0633  対戦車ミサイル最大の目玉は新装備の中距離多目的誘導弾13セットが53億円で要求されている点で、写真の64式MATから始まった国産対戦車ミサイル体系は次の一歩に進むこととなる。射程は8km程度とみられ、高機動車に車載で運用、高い機動力と打撃力を有する装備として期待される。このほか、01式軽対戦車誘導弾が100セット116億円が要求されている。

Img_0802  軽装甲機動車、四輪駆動で不整地突破性能よりも路上機動力と価格低減を目指した装甲車であるが、こちらも100両が31億円で要求されている。既に1000両以上が配備されており、陸上自衛隊は徒歩と地形防御に依拠した戦闘から、機動力と装甲防御力を付与され、運用の柔軟性が大幅に向上した装備である。

Img_5626  96式装輪装甲車は19両が24億円で要求。普通科部隊一個小銃班を戦闘機動させるための装備であるが、北海道以外の部隊では、装軌式の73式装甲車を置き換える形で戦車大隊本部などにも装備が進んでいる。軽装甲機動車と比べて不整地突破能力も高いのだが、普通科部隊に広範に装備されるには至っていない。後継となる近接戦闘車が開発中であり、こちらは意外と急ピッチで配備されるかもしれない。

Img_6057  新戦車58両561億円の要求。恐らく22年度概算要求は、90式戦車の後継となる新戦車の調達が開始されることだろう。74式戦車が年間50両程度退役しており、こちらを置き換えるために58両が要求されている。一括調達というよりは、文字通り急激に減勢する74式戦車の置き換えという意味合いが強い。

Img_9674  99式自走155ミリ榴弾砲は9両が82億円で要求。自走榴弾砲はロシアからの圧力を受け、且つ平野が多く機動打撃の重要性が高い北部方面隊に配備されているが、北部方面隊特科部隊は減勢傾向にあり、75式自走榴弾砲の減勢と併せて、調達はまずまず順調。他方で、北部方面隊以外の方面隊隷下の師団・旅団特科部隊に配備されている牽引式榴弾砲FH-70の後継は、そろそろ真剣に考えなければならない時期に来ている。

Img_9853  高射特科関連では、方面隊直轄の高射特科群へ配備する03式中距離地対空誘導弾が一個中隊270億円、要求されている。射程は約60km、低空進入する航空機から限定的には弾道弾にまで対処できる装備だ。このほか、自隊防空に用いられる91式携帯地対空誘導弾が30セット15億円、要求されている。

Img_9878  NBC偵察車11両69億円、現在は生物化学偵察車の配備が進められており、化学警報装置の配備も始まっているが、82式指揮通信車のファミリーにあたる現行の化学防護車を代替する新型の装甲車、NBC偵察車が新規に要求され、注目である。このほか、87式偵察警戒車も3両が8億円で要求されている。

Img_3853  以上が陸上自衛隊が要求した車両や火砲、火器、誘導弾関連の装備であるが、加えて車両・通信器材・施設機材として950億円が要求されている。施設機材や後方支援車両関係でも旧式化が進んでいる装備は多く、加えて国際平和維持活動への参加が増加すれば、これら車両への防弾などが課題として浮上してくるだろう。

Img_6917  航空機関連では、まず、陸上自衛隊の観測ヘリコプターであるOH-1を4機、81億円で要求されている。一方で観測ヘリコプターOH-6Dの後継としては機数が足りない。空対空ミサイルを搭載し、複合センサーによる高度な偵察・観測能力を有するのだが、調達費用は高く、一方で新練習ヘリコプターとして1機が3億円で要求されており、場合によってはOH-1は対戦車ヘリ隊所要のみが調達され、他の観測ヘリには新練習ヘリコプターが充てられるという可能性もあるかもしれない。

Img_9189  UH-60JA多用途ヘリコプターは5機が161円で要求されている。航続距離が長く、生存性に優れ、夜間飛行や洋上飛行も可能な高性能多用途ヘリコプターである一方、やはり価格は高く、UH-1Jとのハイローミックスとなっている。UH-1Jについては既に一括調達されているため、22年度概算要求には盛り込まれていない。

Img_6277  また、輸送ヘリコプターCH-47JAが二機が142億円で要求されている。CH-47Jの耐用年数限界に伴う退役が始まっており、この代替としてJA型が要求されることとなっている。他方で、AH-64D戦闘ヘリコプターの要求は盛り込まれておらず、ライセンス生産準備により損失を被った富士重工は約500億円の損害賠償請求を提出することとなっている。

 海上自衛隊、航空自衛隊については、次回掲載予定。

HARUNA

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コメント (4)
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