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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

富士総合火力演習2009 詳報③ 前段演習の高射特科と航空火力

2009-09-03 23:08:13 | 陸上自衛隊 駐屯地祭

◆平成21年度富士総合火力演習

 今回で第三回目となる富士総合火力演習2009前段演習。陸上自衛隊の火力戦闘の様相を展示する本演習において前段演習は、各種火器の運用を展示する目的の演習だ。

Img_1246  富士総合火力演習は、基本的に富士駐屯地に置かれた富士学校隷下の富士教導団、普通科、機甲科、特科の幹部教育及び専門教育、戦術研究と新装備試験を行う部隊が実施するのだが、今回は下志津駐屯地に置かれた高射学校、高射特科幹部教育及び専門教育、戦術研究と新装備試験を行う高射教導隊の車両が参加していた。

Img_4083  普通科部隊の火力展示は続く。84㍉無反動砲から発射された砲弾の炸裂。スウェーデンで設計された携帯式の砲で、10名前後から編成される普通科小銃班において、時には450㍉以上の鋼板を貫徹する対戦車火器として、時には700㍍以上離れた機銃陣地や障害などの敵火力拠点を破砕する直接支援火力として、場合によっては空中炸裂により敵歩兵突撃を阻止し、夜間には照明弾の発射にも用いられる頼もしい装備だ。唯一にして最大の欠点は16kgという重い重量と大きな砲弾。

Img_8037  96式装輪装甲車は、89式小銃やMINIMI分隊機銃、対戦車火器を装備した小銃班を高速で輸送し、近傍に着弾する火砲の砲弾や軽機関銃の掃射から乗車人員を防護、100km/h以上の路上速度を活かし最前線へ駆けつけると、敵歩兵との金節戦闘や陣地占領を行う最後の瞬間に人員を降車させ、その任務を達成する。

Img_4053  96式装輪装甲車からの12.7㍉重機関銃の射撃。20世紀初頭に開発された古い基本設計の12.7㍉重機関銃は、堅牢な基本設計と整備性の良さから、各国で運用されている。命中すると胴体が千切れるほどの高威力を有し、撃たれる側には射程も長く天敵のような存在。銃身など各部は重いという欠点はあるが、対地、対空、海上自衛隊では対水上射撃にも用いられる多用途性、それを補って余りある性能を発揮する。

Img_8049  路上性能に優れた96式装輪装甲車は、単価が一億円前後と、同種の各国装備と比して同程度の価格ではあるものの、陸上自衛隊にはまだ300両程度が配備されている程度で、陸上自衛隊装甲車体系にみれば、その数は決して少なくは無いものの、これまでの装甲車体系は陣地での対戦車戦闘を重視した冷戦時代の運用を前提としたもので、普通科以外にも各部隊の本部車両にも使われており、国際平和維持活動や部隊数削減に伴う機動力強化の需要に鑑みれば、現行の十倍程度は必要なのでは、とも考える次第。

Img_8064  87式自走自走機関砲の射撃展示。レーダーと35ミリ機関砲を統合した自走高射機関砲で、師団対空戦闘情報システムに連動し脅威目標情報を受信、自身の捜索レーダーも50km程度の索敵能力を有する。車内には440発の機関砲弾が収められており、内420発が対空用機関砲弾。毎秒17発の射撃が可能で、各目標に20発づつ射撃したとしても21目標に対応する。

Img_8066  87式自走高射機関砲の射撃展示。よく、ドイツが開発したゲパルト自走高射機関砲と比較されるが、87式の方が新しいこともあり、火器管制装置などの関係上、ゲパルトは3~4kmでの交戦を想定しているが、87式は6km先の目標との交戦が可能である。6kmの時点で不発弾発生阻止のために弾底信管が自動炸裂するようになっているのだが、射程6kmであれば、対戦車ミサイルを装備したヘリへもかなり有効に対処することが可能だ。

Img_8074  87式は、高性能な一方、高価なこともあり、高射教導隊以外には第7高射特科連隊、第2高射特科大隊などに装備されているのみ。牽引式の35ミリ高射機関砲の後継となるべく開発された車両であるが、安価な93式近距離地対空誘導弾により代替が完了しつつある。もっとも、35ミリ機関砲弾はミサイルと異なり、絶対欺瞞に惑わされず目標に直進し、且つ砲弾の近代化も進められている。師団高射特科大隊に一個中隊程度配備すれば、戦車の野戦防空でこの上ない威力を発揮するとも思うのだが。他には、地上掃討にも威力を発揮しそうだ。

Img_8075  AH-1S対戦車ヘリコプターの展示。20㍉機関砲と70㍉ロケット弾、そして射程3750㍍のTOW対戦車ミサイルを搭載し、低空から戦車に襲い掛かる陸上自衛隊航空打撃力の根幹を担う装備、96機が配備された。地皺が多い国土には不可欠な装備であるが、後継のAH-64D戦闘ヘリコプターは10機で突如調達中止となり、いきなり調達中止となったことで防衛省に要請されライセンス生産の準備を整えた富士重工は莫大な損害をこうむり、民事訴訟の準備とともに約500億円の損害賠償を国に求めるという状況になっている。多少高価でも、航続距離や運用能力、その他の面でAH-1Sの後継はAH-64Dしか無いとも思うのだが。

Img_8090  TOWミサイルの発射。ワイヤーにより目標まで誘導する対戦車ミサイルで、メーカーの資料などによれば誘導さえ行えば敵攻撃ヘリの排除にも用いることが出来るとされる。射撃の直前まで木立や谷間に待機し、観測ヘリコプターからの目標情報に応じて急浮上し、ミサイルを戦車に対して射撃する。

Img_8091  対戦車ヘリコプターは、北部、東北、東部、中部、西部の各方面隊隷下に編成されている方面航空隊の対戦車ヘリコプター隊に装備されており、各16機の対戦車ヘリコプターが日夜訓練を続けている。AH-64Dであれば、一個飛行隊定数が米軍の場合で12機、日本の場合縮小編成を採れば8~9機で完結させることも不可能ではなく、96機のAH-1Sを50~60機で代替も可能。やはりAH-64Dを調達継続した方が、結果的にコストを低く収められるのだが、調達中止、はたして陸上自衛隊はAH-1Zなどを導入するのか、航空打撃力の放棄を選ぶのか、AH-X選定にも興味がもたれる。

Img_8048  ヘリコプターに搭載する対戦車ミサイル、AH-1S用のTOWとAH-64D用のヘルファイアの二種であるが、基本的に対戦車ミサイルは国産してきた日本において、現在、数少ない種類の米国製対戦車ミサイルとなっている。AH-1SからのTOWミサイルの展示を以て、航空打撃力の展示は終了した。

Img_8097  90式戦車の進入。74式戦車と90式戦車が、今日の陸上自衛隊戦車体系を構築しており、前段演習は、この射撃展示へと進む。戦車は、今日地上に存在する装備体系にあって、最強度の打撃力と最高度の防御力に機動力を兼ね備えた装備品で、対戦車戦闘から機動打撃に至るまで多種多様に用いることができ、現代戦の一つの側面は、如何に相手の戦車を無力化するか、という点が大きい。

つづく

HARUNA

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コメント (4)
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