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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上自衛隊アフガニスタン人道支援任務派遣問題を考える⑤ 施設科部隊の能力

2009-09-22 23:10:11 | 国際・政治

◆施設科は土建屋ではなく戦闘工兵

 アフガニスタン派遣に関して、仮に自衛隊を派遣するとして輸送支援はかなりリスクがあるという事を前回掲載した。しかし、学校再建など戦闘工兵である自衛隊に出来るのか、給水支援への需要は、など考えるべき点もあるようにおもう。

Img_0043  陸上自衛隊が得意とする任務は野戦である、最近は市街戦が加わったが、しかし、アフガニスタンで富士総合火力演習を実戦で行うのは、少し国内世論の理解を得るには時間がかかるかもしれない。では、本土防衛のために錬成した対機甲戦を筆頭とした野戦以外の面で、海外で役立つ技術としては、どういったものが挙げられるだろうか。

Img_5367  戦闘任務以外では、給水任務、道路補修、架橋、医療支援、などなどだろうか。他方で、各国軍が戦闘任務以外で実施する任務として挙げられる現地治安部隊の訓練、後は日本国内で現在の与党が提唱している水道施設工事、学校や病院建設は、これまで自衛隊に求められていた能力からすると、少し難しいかもしれない。

Img_5_557   まず誤解のないように最初に記しておくと、陸上自衛隊の施設科部隊は、戦闘工兵として第一線で障害除去にあたり渡河を支援、占領した地域に逆襲に備え野戦築城を行う。建設工兵として後方から第一線までの補給路を維持し、架橋し、後方策源地を構築する。この二つに重点が置かれている。

Img_2366_1_2  戦闘工兵と、建設工兵としての、これらの能力では秀でたものがある。自衛隊の施設科部隊は優秀だ、頼りになる、このことはこれまで幾多の災害派遣で実証されているのだが、それ以外の能力、求められない能力は急に求められても応じられないものがあるのではないか、というのが今回の主題。

Img_2251_2  道路の舗装ならば行う事は出来る。もちろん、かなり地雷が残っているので、リスクはあるのだが、アフガニスタンは未舗装道路が非常に多く、しかも未舗装である前に地図上でのみ道ではあるものの、実態は国道ではなく酷道、県道というよりも険道、という状況にある。建設工兵としてアスファルト道路により後方連絡線を維持できる能力があり、国道の状況改善には施設科部隊は活躍できよう。

Img_2169_1  また、架橋に関しても、戦闘渡河用の装備以外に、恒久的に橋梁として使用することが可能なパネル橋が配備されており、山間部や平野部の国道のほか、国道の建設に障害となる地皺、つまり河川や峡谷に対しても、もちろん限度はあるものの橋梁設備を展開することはできるだろう。

Img_2_978  なお、前回記したとおり、戦略上重要な道路は、建設することが敵対行為と映る可能性も高く、ISAFの戦闘部隊も利用することがあれば、施設科部隊や後方支援部隊が妨害にあう可能性は高く考慮しなくてはならない、これに備えるには、やはり相応の自隊防護能力を有して派遣する必要があるといえる。

Img_3580_1  さて、道路工事は出来るのだが、求められる任務で難しい点から説明しよう。学校建設、これは幾つかの展点で自衛隊に求められた能力よりも異なる技能を要する。アフガニスタンは長期間戦闘が続いたことにより学校そのものが普及していない地域もあり、そこに新たに鉄筋コンクリートなどにより建築物を建設することになると思うのだが、これは難しい。

Img_07311  即ち、陸上自衛隊に鉄筋コンクリートで相応の耐久性を持ち、半永久的に使用可能な建築物を独立して建設する能力があるかと問われれば、駐屯地の司令部や隊舎なども民間の建設会社が行ってきている。自衛隊の任務は野戦であり、市街地に学校や病院のようなビルを建築することは含まれないので、これは致し方ないことだ。

Img_6720  もちろん、陸上自衛隊の施設科部隊には、野戦築城を行う能力は充分ある。野戦築城として平野部に敵砲迫や航空攻撃から自己を生存させ、かつ近接した戦車に有効な打撃を加え、歩兵の前進を喰い止めるための技術は、創設以来研究されている。同じ条件ならば防御陣地に関する野戦築城では、NATOや米軍の水準と比べた場合上である。

Img_5_547  しかし、コンクリートによるトーチカやクリークなどを合わせた永久築城の技術は、そもそも有していない。学校や病院建築の際に、永久築城の技術があれば、コンクリート建造物などの建設に応用できる部分はあるのかもしれないが、野戦築城では土嚢を積み上げた校舎と塹壕の廊下で結ばれた学校になってしまう。

Img_4_782  タリバンや軍閥が授業中に襲撃してきた際には撃退は容易かもしれないが、学校としてはナンセンスであろう。やはり、学校を公示する際に、アフガニスタンの民間建設会社かもちろん日本の民間建設会社でもいいのだが、もしくはその能力のあるISAF工兵部隊を自衛隊が警護する、というのが限界であろうか。

Img_3725  なお、戦乱により教職員、医師ともに不足している。イラクの場合は、イラク戦争前まで社会基盤が維持されていたものを復興するだけの任務であったので、教職員、医師ともに施設復旧を以て学校や病院を再開できる状況であったのだが、アフガニスタンは内線の期間が長過ぎたので、それ以前の状態なのである。

Img_0103  パシュトゥン語やダリ語の出来る医療従事者や教職員の養成も必要となるのだが、語学教育を行う小平駐屯地にも、恐らくこれら地域言語の専門家は少なく、東京外語大学くらいを探さなくてはいないのではないか、この中で教員や医師の人材養成を担える人材、というのはさらに少ないだろう。この点、自衛隊が担える部分は少ない。

Img_0518_1  給水任務はどうか、給水任務といえば、干ばつによる断水から台風や地震における水道施設の破損などの災害派遣で、自衛隊の給水能力はたびたび大きく扱われている。アフガニスタンに対する給水支援での復興支援はできないだろうか。これは幾つかの点で可能であり、幾つかの点で不可能である。

Img_3531  それは、給水を必要とする地域である。繰り返すようにアフガニスタンは山岳地域にある内陸国である。また内戦の時期が長かったこともあり、水道施設そのものが無い地域が多く、高山地帯に水道を引くことは不可能である。もちろん、都市部であれば給水支援を行う意義はあるかもしれないが、都市部でも戦闘が多くない地域では水道が復旧している場所も多いとのこと。

Img_3_520  山間部では、もっとも生活排水が少ない高山部であるので、河川の水は、かなりそのまま利用できるものではあるのだが、こういう地域への給水支援は、もともと戦争前から給水が不要であった地域に、もちろん上流で水が汚染でもされている状況が生じれば別なのだが、戦争前から水道や給水が不要とされていた地域への給水支援、どの程度現地から需要があるのかは測りかねる。

Img_6182  水道設備、という概念の無い地域に水道を持ち込むと、保守管理という負担を強いてしまうため、やはり都市部に限り給水支援を行う、ということが妥当なのだろうか、しかし、どの程度、水道に対する需要があるのか、また、浄水設備等の面で現地の要望があるのか、要望に自衛隊の能力で対応できるのか、ということも吟味する必要があろう。次回は担うべき任務についても、挙げてみたい。

HARUNA

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