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『ベイシティ刑事』最終回

2023-10-21 21:57:12 | 刑事ドラマ'80年代

時は’80年代後半。『Gメン’75』『西部警察』『特捜最前線』、そして『太陽にほえろ!』といった“刑事ドラマの代名詞”たちが長い歴史にピリオドを打ち、それらと入れ代わるように現れて大ヒットしたのが日本テレビの『あぶない刑事(デカ)』。

そしてフジテレビが月9枠“トレンディドラマ”の第1弾『君の瞳をタイホする!』をスタートさせ、グラサン姿の井上陽水さんが日産セフィーロのCMでニヤニヤしながら「皆さんお元気ですか?」と語りかけて来たのが1988年で、世はまさに「食う寝る遊ぶ」の時代。

その前年の4月にテレビ朝日&東映コンビが現在の『相棒』へと連なる“水曜21時枠の刑事ドラマ”第1弾『大都会25時』をスタートさせるも不発に終わり、第2弾として10月に送り出したのが『ベイシティ刑事(コップ)』全24話でした。

誰がどう見ても『あぶない刑事』の亜流ではあるんだけど、横浜・港町署に設置された捜査課の左遷部署“別動班”って設定は、むしろ藤竜也さんが’78年にレギュラー出演された日テレ火曜21時枠の刑事ドラマ『大追跡』を彷彿させ、これは世良公則さんとの“バディ物”というより石川秀美さん、いかりや長介さんも加えた“チーム物”と捉えるべきかも知れません。

アドリブ満載の軽〜いノリも『大追跡』ですでに完成されてたし、そのチームに柴田恭兵さんもおられたことを思えば、『あぶない刑事』も『ベイシティ刑事』も『大追跡』から派生したブラザーであり、たまたま放映時期が少しズレただけ。(つまり二番煎じとは違う)

『あぶデカ』のブランドスーツとは対照的にラフなファッションや、オールディーズ・ナンバーを使ったBGM等にも“時代に迎合しない”反骨心が感じられ、あえてヒューマン路線に回帰する後番組『はぐれ刑事純情派』にも同じことが言えそうです。

けど、残念ながら『ベイシティ刑事』はヒットしませんでした。とっても分かりやすい『あぶデカ』のオシャレさと違って、ちょっとひねくれた『ベイシティ〜』のソレは視聴者たち……ことに若い女性層には伝わりにくかった。

オッサンの懐古趣味とか銃器へのこだわりとか、いかりや長介とか石川秀美とか、そんなのがチャンネル権を握る女性たちに受けるワケがないw

だからコケるべくしてコケた番組ではあるんだけど、今となっては時代にも女性にも媚びなかった、創り手たちの頑固な姿勢がとっても眩しいです。




☆第24話 (最終回)『男たちのラストショー』(1988.3.23.OA/脚本=日暮裕一/監督=村川 透)

この時代のアクション物にドラマ性を求めても仕方ありません。テーマだのメッセージだの、マジメに伝えようとすればするほど「ダサい」とか「寒い」とか言われ、だから倉本聰さんや山田太一さんといった大御所の脚本家たちがテレビから次々に手を引いちゃった。

今回はさすがに最終回ってことで、お荷物部署“別動班”に解散命令が下るというイベントはあるにせよ、そこに悲壮感はカケラもない。



「ダメだこりゃ」

もはや老齢で家のローンも残ってる山崎班長(いかりや長介)だけは異動命令に従うしか無いけど、まだまだ若い小池(藤 竜也)、星野(世良公則)、河合(石川秀美)はすぐに転職先を思案。そりゃあの時代ですから仕事はいくらでもあります。

「俺だってな、潔く辞表を叩きつけてえよ。女房やガキがいなけりゃな」



「でもな、短い間だったけど一応、親方気分を味わわせてもらったんだ。お前らには感謝してるよ」

「…………」

本当は小池たちだって、悔しいし哀しいに決まってます。そんな想いを’70年代なら夕日や海に向かって叫ぶところだけど、’80年代は地下射撃場で弾丸を湯水のごとく撃ちまくって発散するという贅沢さ。



そう言えばあの時代、私自身はバブルの恩恵を受けた実感があまり無いんだけど、唯一、通ってた映像専門学校の課題制作で16ミリフィルムを湯水のように使っても叱られなかったのが、現在だとあり得ない贅沢さだったと思います。



足元に転がる空薬莢をわざわざ撮るなんてマニアックな演出が、日本のTVドラマで見られたのも多分『ベイシティ刑事』が初めて。だけど喜ぶのはガンマニアだけで、肝心の顧客(女性視聴者たち)には何も響きませんw

さて、別動班の解散を決めたのは捜査課長の桜井(神山 繁)なんだけど、その張本人が恥も外聞もなく、小池たちに協力を要請して来ます。



ヤクザだけをターゲットにする凄腕の“始末屋”を逮捕に向かった捜査課の部下たちが全員、逆にそいつに捕まったから救出して欲しいと言う。

基本は事なかれ主義の山崎班長もさすがに黙ってられません。

「そいつは身勝手過ぎやしませんかね?」

「そうか、それじゃキミもこいつらと一緒に退職するのか?」



「……仕方ありません。私は、小池たちに命令することは出来ません!」



家のローンが残ってる班長をクビにさせるワケにも行かず、小池と星野が立ち上がります。

「どこへ行くんだ?」

「ちょっと、こいつと別れを惜しみに」

そう言って小池は“ジョン”ことS&W・M29センチネルアームズカスタムを、そして星野は“マギー”ことコルトM1911ゴールドカップナショナルマッチ・コンバットカスタムを取り出すのでした。

「そう、それにはちょうど手頃なヤマよ」

ピストルの名前が何であろうと女性たちは知ったことじゃないけど、ここがこの最終回で一番熱いシーン。胸を打つような展開はもう二度とありませんw それがバブルという時代。

凄腕の“始末屋”=水谷を演じるメインゲストも、喜ぶのは私みたいな『太陽にほえろ!』ファンだけで、その中でも女性にはあまり人気が無かったであろう、この人。



『ベイシティ刑事』には2度目のご登場となる、元“ブルース刑事”の又野誠治さん。私は好きだったけど、この人が意識しまくってた松田優作さんほどのスケール感やカリスマ性を皆が感じないのも、まあ理解できます。

時代が違えば“ボギー”世良さんと再び組んでの刑事役もあり得たと思うのに、悪役専門アクターに収まっちゃったのは個人的に残念です。

それはともかく元ブルースは、自分が囚人として乗せられる予定だった護送車を港町署の表に乗りつけ、人質にした捜査課のボンクラ刑事たちを並べて、プラスチック爆弾を掲げます。



「このスイッチ押せばどうなるか分かるよな?」

「ハッタリかまして後で恥かくなよ」

「星野、あの男にハッタリはねえぞ」



又野さんが第7話で演じた悪党とは別キャラみたいだけど、今回も藤さん演じる小池刑事と因縁がある設定。

そんな元ブルースの要求は、裏切った雇い主にギャラの2億円を取り立てろというもの。タイムリミットは翌日の午前8時。

雇い主の正体を知ってるのは、連絡役を担ってた謎の美女(日向明子)だけ。捜査課に密告して元ブルースを「売った」のもこの女。



県警本部は元ブルースの要求を無視して強行逮捕する構えだけど、小池&星野は謎の美女を探し出して命懸けで拉致し、雇い主の正体が暴力団の幹部であることを聞き出します。

県警本部による強行逮捕を阻止する意図もあり、小池は進捗状況を元ブルースに伝えるべく護送車に乗り込みます。



「小池さんよ、俺は楽しみだぜ。あんたみたいなヤツと張り合えるのがよ」



「水谷、俺と相棒はワンセットだ。俺が二人いると思ってくれ」

そしてワンセットの小池&星野が決行したのは、第9話で刑務所へ送った金庫破りの名人(三上 寛)を脱獄させ、一緒にヤクザ幹部の屋敷に忍び込んで隠し金を全て盗み出すという、本気で刑事を辞める前提のミッション。



「よし、最後のお勤めだ。締まって行こうぜ!」



一方、桜井課長らに逃走用の高速艇を用意させた元ブルースは、このまま逃げるべきだと手下に言われても聞き入れません。

「ダメだ。約束だからな、小池との」

「信じるんですか? 相手はデカですよ!」

「テメエらには解んねえよ!」

ヤクザしか殺らない元ブルースに小池は一目置いており、そんな小池に元ブルースもシンパシーを抱いてる。

殺し屋と刑事の友情になんか、私はまったくリアリティーを感じないし共感もしないけど、このあたりは香港映画の影響かも知れません。


ともかく、タイムリミットぎりぎりに到着した小池&星野は、高速艇に乗り込んで約束どおり2億円を元ブルースに手渡し、港で見守る同僚たちに宣言します。

「人質を無事、解放しました! 小池警部補、只今をもって退職します!」

「星野巡査長、右に同じ! お世話になりました!」



「ところで相談なんだが……」



「俺も約束は守る。おたくらの行きたい所へ連れてってやる」

小池&星野が行きたい場所とは、警察官でなくてもカネさえあれば拳銃がいくらでも撃てる、ハワイという名の楽園。

そこで永住する夢に一步近づいたその時、何者かがライフルで元ブルースたちを、そして星野にも弾丸をぶち込んだ!



えっ、なんで? 撃ったのはどうやら警察側のスナイパーらしいけど、いったい誰の命令で? なんで星野まで撃っちゃうの?

……って、釈然としないまま展開が進んじゃうんだけど、そう言えば元ブルースの雇い主を探す過程の中で、ヤクザ幹部のバックにさらなる黒幕=県警本部の人間が絡んでることを臭わせてました。

それって、今回はレビューを書くために注意深く観てたから思い出せたものの、最初に観たときは完全に忘れてたから「なんじゃこりゃ?」って感じでした。

説明過多になるのも良くないけど、説明不足はもっと良くない。ましてや最終回のラストシーンなんだし!



「星野、いよいよ憧れのハワイだ! 向こうに着いたら、すぐにお前の射撃場の土地探しだ、な?」

「そいつはいいな……楽しみだ」

ところが! 元ブルースの手下が撃たれたときに手放した時限爆弾は、午前8時に起爆装置がセットされており……



『傷だらけの天使』や『俺たちの勲章』における“挫折の美学”がアメリカン・ニューシネマのダイレクトな影響だったとすれば、この『ベイシティ刑事』最終回のそれはオマージュというか、もはやパロディですよね。

別に笑わせようって意図は無いにせよ、ストレートに(哀しげに)それをやるのは照れくさい。だからあえて軽〜くやっちゃう。なにせ「食う寝る遊ぶ」の時代だから。

返す返すも、そして良くも悪くも、あの頃、僕らのニッポンがホントおかしな事になってましたよね。いや、2023年現在はもっとおかしいかも知れないけれど……


 


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