ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#340

2020-04-21 00:00:16 | 刑事ドラマ'70年代










 
☆第340話『勝利者』(1989.2.2.OA/脚本=小川 英&高橋紀子/監督=木下 亮)

柴崎という男が時限爆弾で殺害され、その現場で目撃された沢(山西道広)という写真家の顔写真を見て長さん(下川辰平)が驚きます。

数年前、ビル荒しの犯人を長さんが捕まえる際に協力した警備員が、その沢という男。体力には自信のある長さんを凌ぐほどのパワーと持久力で犯人を追った沢が、とても印象的で長さんはよく憶えていたのでした。

あれから写真家に転身した沢は、大手企業「クラウンウイスキー」の専属カメラマンに起用されたばかりで順風満帆。いきなり長さんが訪ねて来ても笑顔で迎え、殺人を犯すような陰は微塵も感じられません。

顔を毛むくじゃらにしてついて来たロッキー(木之元 亮)に「シンデレラボーイと呼ばれてるそうですね」と言われ、沢はサラッとこう答えます。

「いや、僕はそうは思ってませんよ。むしろ幸運だったのは僕を起用したクラウンウイスキーの方ですからね」

冗談めかしてはいるものの、沢がかなりの自信家であることが伺えます。同居してる妹=ゆり子(戸川京子)も、そんな兄を誇らしく思ってる様子。

だけど長さんは、沢の部屋に目撃情報と同じジャケットがあることを見逃しませんでした。持ち前の粘り腰で捜査すればするほど、沢への疑惑は深まるばかり。

そんな長さんにご立腹のゆり子に呼び出され、沢が写真の現像に使ってる廃屋の地下室を訪ねた長さんは、殺す気満々の沢の襲撃を受ける羽目になります。やっぱり犯人は沢だった!

しかし体力じゃ負けない長さんは互角に闘い、あと一歩のところまで追い詰めるんだけど、あろうことか沢が殺人の証拠、すなわち長さんの遺体を吹き飛ばすつもりで用意してた爆弾が暴発! 部屋の出入口が瓦礫で塞がれ、長さんと沢、そしてゆり子が密室に閉じ込められてしまうのでした。

残念ながら長さんの拳銃は、ゆり子に奪われてしまいます。長さんの説得にも彼女は耳を貸しません。ずっと沢に頼って生きて来たゆり子にとって、彼は絶対的な存在なのでした。

「お兄ちゃんは強くて正しいのよ。お兄ちゃんのすることが間違ってる筈なんか無いのよ!」

一方、藤堂チームの面々は長さん流の地道な捜査により、爆殺事件の真相に迫ってました。

どうやらクラウンウイスキーの専務が数年前に起こした轢き逃げ事故が全ての発端で、殺された柴崎はその秘密を握っていた。そして柴崎が死んだ3日後に、沢がクラウンウイスキーの専属カメラマンに採用された。そう、専務がそれと引き換えに殺しを依頼したに違いない!

そこまで判ったのに沢は行方不明で、おまけに長さんまで連絡がつかなくなり、ボス(石原裕次郎)は厭な予感を覚えます。

そのころ地下室では、沢が残った起爆管を長さんの拳銃で撃って爆発させ、出入口を塞いだ瓦礫を吹き飛ばすというミッションにチャレンジしてました。地下に保管してたせいで起爆剤が湿っており、導火線では爆破出来ないのでした。

が、至近距離から撃つワケにもいかず、素人の沢には起爆管に命中させることが出来ません。残った弾丸は僅か1発!

「貸しなさい、俺が撃つ」

「ダメだ、こいつは残しとく!」

「出たくないのか? ここを出たら……」

「俺に命令するな! どうするかは俺が決める!」

妹の命も懸かってるというのに、沢は頑として拳銃を返そうとしません。

残された方法は、ただ1つ。起爆剤を分解し、ドライヤーで火薬を乾かすという超アナログでインポッシブルなミッション。当然、ドライヤーの熱で起爆したら一巻の終わりです。

「あんた、死にたいのか?」

「離れていろ。たぶん、死ぬのは俺一人で済む」

一人で黙々と決死のミッションに挑む長さんを、ゆり子と二人離れた場所から眺める沢は、冷ややかに笑います。

「死ぬぞ、あいつ。しかし、あんな馬鹿げた仕事はあいつ向きだよ」

「…………」

そんな兄の横顔を、ゆり子はただじっと見つめるのでした。

一夜明け、なんとか無事に起爆剤を乾かした長さんは、それを出入口にセットします。

「早く火を点けろ! グズグズするなっ!」

「お兄ちゃん、あのまま火を点けたら、あの人……」

「やらせるんだ! あいつは刑事だ。自分を犠牲にしても人命を救うのが仕事なんだ。そうだろ刑事さん!」

「……かいかぶるなよ。俺はそんな聖人君子じゃない。俺はただ、やらなきゃならないことを、やってるだけだ」

果たして爆破は決行され、出入口を塞いでた瓦礫は見事に排除され、長さんも満身創痍ながら何とか死なずに済みました。

しかし到底自力では動けない長さんを、沢は人質に使うために連れて行くことを決め、ゆり子にタクシーを呼びに行かせます。

ところが、代わりにやって来たのは藤堂チームの刑事たち。沢はあっけなく御用となり、その自白により殺人を依頼した専務も逮捕されるのでした。

「教えろよ、なぜあの場所が判った? 教えろよ!」

取調室でわめく沢の前に、ボスが現れます。

「お前の逮捕を願った人がいるんだ」

「なにっ?」

ボスの傍らにいるのは、これまで自分を頼りきってた筈の妹。

「ゆり子……」

みじめな兄の姿を見て、ゆり子は逃げるように廊下の端まで走り、号泣するのでした。

そんな彼女に駆け寄ろうとする長さんを、ボスが引き留めます。

「分かったんだよ、あの子には。誰が一番強い男かってことが。分かったから、悲しいんだ」

この兄妹の生い立ちについては言及されてませんが、恐らく両親は離婚したか死別したかで、ゆり子は兄以外に頼れる人間がいなかったんでしょう。

沢も沢なりに、妹の期待に応えるべく頑張って来たはず。だから長さんに負けない体力と、爆弾を造るだけの知力も備えてたワケです。

けれど、犯罪に走った時点で彼の負け。この世の中、正しく生きていく方がイバラの道。ラクな道を選んで堕落した沢は結局、弱かったんでしょう。

ゆり子役の戸川京子さんは、当時若冠14歳とは思えない演技力で、このエピソードを見応えあるものにしてくれました。

歌手・戸川純さんの妹としても知られる子役出身の女優さんで、モデル、タレント、ミュージシャンとしても活躍されたけど、2002年に自ら命を絶たれてしまいました。とても明るいキャラクターだったので衝撃を受けた記憶があります。合掌。

『太陽にほえろ!』には'85年放映の第663話にもご登場されたほか、刑事ドラマは『大捜査線』『同シリーズ・追跡』『はみだし刑事情熱系PART2』『同PART5』等にゲスト出演。'92年の『裏刑事/URADEKA』では主人公に殺しの依頼を通達するエージェント・芹沢雅子役でレギュラー出演されてます。
 

コメント
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