世の中の二乗>75の二乗

話せば長くなる話をする。知っても特にならない話をする。

親の心配

2010年06月19日 20時00分23秒 | Weblog
古本屋で吉田知子という作家の本を買って読んでいる。
この作家は講談社文芸文庫編「戦後短編小説再発見10」の中に入っていた「お供え」という作品で初めて知った。
もともと小島信夫の「馬」が入っていたから買った本だが、全部読んだ中でこの「お供え」がなんか記憶に残った。
それで、古本屋で吉田知子という名前にはピンと来なかったけど、『「お供え」含む6編』という文字に反応して手に取ってみたらやっぱり、あの「お供え」だった。
「お供え」は不思議な話だ。
読んだのがずっと前のことなので詳しい内容は忘れてしまったけど、
不思議な話だなあというのはずっと覚えている。
一人で暮らしている女の人の家に、毎朝花が置いてある。
玄関の両脇に盛塩みたいに。交通事故現場の花みたいに。
女の人は気持ち悪がって、毎朝見つけるたびに処分する。
犯人を突き止めようと、早い時間から玄関脇に立って監視してみたりもする。
しかしそんなときには花は置かれない。
知り合いに話してみても「誰かあなたを好きな人が置いていくんだ」とか「花くらい害があるわけじゃないからいいじゃない」と取り合ってくれない。
女の人の苛立ちは増していくばかりになる。
そんなある日、今度は花に加えて旗が玄関の脇に突き立てたられている。
そこから少しづつ女の人の生活が変わっていくという話。
何の目的かわからない人為的な「お供え」ものに対する女の人の胸中がスリリングな展開に沿って丁寧に書いてある。
一歩づつ背後から人が近づいて来るみたいな感じ。
後ろの人は、全然知らない人のような、すごく親しい人のような、怖さと安心がいっしょくたになったみたいな気配がする。
読んでいる間ずっとそんな風に感じた。
今回買った、吉田知子の短編集「お供え」の中の作品は、全部そんな風に感じた。
途中では後ろを振り返ることはできない。不安だし、気がせくけどできない。
最後になって、背中の後ろぎりぎりまで迫った顔を振り返るまではそれが鬼か人かわからない。
そんな話たち。おもしろい。
なかでも私は「迷蕨」と「海梯」がおもしろかった。
わらび取りに行ってどんどんわらびを取っていくうちにいつの間にか一度会っただけの親類や死んだ身内の集まりへ参加することになってしまった「迷蕨」。
昔は仲がよかったけど今は疎遠になってしまった従姉妹と海を歩いて思い出を思い出していくうちに何が記憶で何が現実かわからなくなってしまう「海梯」。
私はたぶん、思い出が現実をぱくんと食べてしまうような話が好きなんだと思う。
吉田知子の作品はそういう話がよく出てきて、
それはなんか、肥田さんの書く話にも通じる世界で、
だから私はそういう思い出に飲み込まれてしまう話が好きなんだと思った。
話としてはけっこう突飛なんだけど、
主人公が危ういながらもつるりつるりと物語に入っていくのが心地いい。

職場。
書類の整理をしていて面接時の用紙を手に取る。
保護者が記入する「(子供の)気になる点、困っている点」の欄には
「指しゃぶりが直りません」や「喘息なので心配しています」など親にしたら切実な子供の悩みが書いてある。
ただ、すこし見当違いというか、気にしなきゃいけないのはほんとにそこなのかい、という回答もある。
ある子の親はこう書いた。
「降りることのできない場所へのぼります。」
おや、と思う。
たしかに自分の力で降りることのできない場所へ子どもがのぼってしまうことは危険だ。
怪我をする可能性があるし、周りに迷惑をかける可能性だってあるからだ。
にもかかわらず、おやと思ってしまう。
「降りることのできない場所」というまじめな書きくちがそう思わせるのかもしれない。
そこへ「のぼります」という宣言のような報告。
この一文で私が思い描くのは、何か決意を秘めた人物がもう二度と降りることのない地面に別れを告げてゆっくりとでも着実に上を目指して高い塔をのぼっていく姿だ。
およそ「子供の気になる点」的世界から離れた言葉たち。
たぶん、これは子供が「向こう見ずな性格である」もしくは「大人の言うことを聞かない傾向がある」ということだと思う。
まじめに考え具体的に書きすぎたせいで要点がぼやけてしまった。
子供を客観視できなくなるのが親バカで、こういうのを親バカというんだなあと思った。
親の愛はこんな用紙からもあふれ出ている。

今日の夢はすごかった。
白熊を3対3で戦わせるショーを見学する夢だった。
しかも、白熊同士の殺し合いを見る部屋はまさに白熊たちが戦っているおんなじ部屋なのだ。
白っぽい広い部屋に各人が好きなところに椅子だけ置いて、まず3匹の白熊が入ってくる。
私はもう怖くて怖くて、
白熊と柵なしでおんなじ部屋にいるのだけでも怖いのに
殺しあう6匹の白熊と同じ部屋にいたら絶対こっちにも襲いかかってくるじゃんと思っている。
でも私以外の数人はぜんぜんそんなこと考えていない様子で、きゃいきゃいその場の空気を楽しんでいる。
嫌だ、怖い、ここにいたくないと思っていると対戦相手のもう3匹が入ってきた。
ぐるるるとか言い合ってる。
こええええええええ。
と、興奮した白くまの一匹が椅子に座っている女の頭をごんと床へたたきつけた。
ゆか血みどろ。きゃーとか、わーとか。なるわなそりゃ。やっぱり。
そしたらもうそこは地獄絵図。
白熊たちが観客に次々と襲いかかわり、かじったり、ひっかいたり、ごんてしたり。
人間逃げる逃げる。けどすぐ捕まってごん。
白熊の毛がどんどん赤く染まっていく。
うわあ、こえええええええ。
で、目が覚めました。
覚めたあともこえええええとしばらく思いました。