世の中の二乗>75の二乗

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エンターテイメントミュージカル

2010年06月06日 11時30分45秒 | Weblog
舞台のビデオを2本見た。
松尾スズキ作・演「キレイ」と寺山修司作・蜷川幸雄演出「身毒丸」。

「キレイ」はミュージカルなので、歌って踊る。
ケガレが二人一役なのはなんとなくわかるけど、
ハリコナは阿部サダヲだけでよかったんではないかと思った。
というか、頭よくなったハリコナを阿部サダヲがやる演技が見たかった。
ケガレの二人が非の打ちどころのない美人なので、
どんな目にあっても相変わらずキレイなので、
なんかちょっとそこが薄っぺらかった。
きったない女がどんどんきれいに見えていくつくり方の方が私は好きだ。
そんな薄っぺらで綺麗なケガレよりも、令嬢の方が断然よかった。
魚市場でダウン症の男の子より自分を選んでエビが噛み付いたことで自分の卑しさに気づき、「偽善をやっている」と口にしながら慈善事業をして、戦場にいる婚約者に「本当の自分を見せなくてすむから、離れているあなたが好き」とときめいて、「ここが金持ちの部屋よ」と自慢してた貧乏人に自分の会社をゆすられて、「いいのよ、友達じゃない」と微笑む。
最後は人の身代わりなって「(いいことをする)チャンス!」と叫んで死んでいく。
この人はどこまでも自分は卑しくて自分がやってるのは全て偽善だと知っていながら、いいことをする。
根性は腐ってるけど、全部自分のためだけど、この人は人を救う行いをした。
もうそこにはいいも悪いもなくて、業とか本音とか、そういう核みたいなものを見せつけられている気がする。
こういうすげえヒロインを生み出した松尾スズキはすごいなあと思った。

「身毒丸」。藤原竜也と白石加代子。
最初に言っておきますが、これはエンターテイメントミュージカルです。
歌って踊ってハッピーにはほど遠い内容ですが、間違いなく楽しむための娯楽です。
なので非常にわかりやすい。
今はどういう状況で、この人はどう思っているか、この人はどういう気持ちなのか、
ぜんぶ教えてくれます。
髪を振り乱して身毒と継母が顔を歪ませてくんずほぐれつバタンバタンやってるまわりで、「身毒よ、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」と歌が盛り立ててくれるので、「ああこのシーンは継母が身毒を呪っているところなんだなあ」とわかり、非常に親切です。
「カミキリムシよ、女どもの髪を切れ!」というと、
大きい化物カミキリムシが出てきて女たちがギャーとなるので、
「身毒が恐ろしい呪いの言葉をはいてる場面です」と教えてくれます。
この作品は想像していたよりずっとずっとわかりやすくて、楽しかったし、さすがと思った。
全部説明してくれるので、頭を働かせずにすむ。いい娯楽だ。
が、最後、二人が人ごみに紛れていくシーンで、
二人はこの物語から出て行くことで誰にも何も言われない、何も説明しなくていい世界に行こうとしているんだと思いあたり、この作品を見る目が覆った。
あんた達には今までの私たちのどろどろしたお話をあげる。
十分におもしろがって見ればいい。
でもこれからの私たちについては語らないし、あんた達には見せない。
私たちのこれからはお話にはしない。
あんた達はまた誰かのお話を見つけて楽しめばいい。
もう私たちのことは放っておいて。
二人の後姿はそう言ってるみたいだった。
最後の最後でうなった。