盲目の太鼓打ち・・・瑞穂市巣南
昔、昔。
その年はいつもの年よりも、雨が多かった。
村の衆は思った。もしも堤が切れたら、大変なことになる。
家や田畑は流されてしまう。
村の衆は総出で、土嚢をつくり、堤へ運んだ。
雨と汗で、みんな雨と汗で大変疲れた。
しかし、夜の見張りを誰かがしなければならない
誰かがするとよいと考えていても誰も危険な仕事をしたくなかった。
そのうち誰かがだしぬけに言った。
「今日この仕事をしなかった者がいる。そいつに夜の仕事をやらせよう。あそこの盲のやつは十八なる。
あれに太鼓を持たせて、足元に水が来たら太鼓を打たせるのや」
そこの村には、生まれつき盲目の男がいた。
貧しい百姓の末っ子で、家の者にも、村の人にも厄介者扱いされていた。
連れてきたその男は、太鼓を胸に下げさせられ、ばちを両手に持たされた。
雨は少しもやみそうもなかった。
盲目の男をそんなところに立たせておいて、太鼓がなったら、安全なところに逃げていこうという心つもりであった。
ところが男は初めて村の衆に頼りにされたから、にこにこして、いかにも満足そうであった。
そして川の音はだんだん大きくなって、吠えるように聞こえてきた。
男は川の水がどのへんまで来たかと足で探ってみた。
すぐそこまで来ていた、、もう叩こうかと思ったがまだやと思い直した。
そのうち堤の上を水が洗った。
「さあ、たたくんじゃ」と男は一心に太鼓を叩き続けた。
「太鼓の音が聞こえたぞ。さあ、逃げるぞ。」
何度も堤の上を水が超える。
そして堤が切れて、勢いよく水の流れる音がした。
男の体が太鼓とともに、流されたのはそれからまもなくであった。
流されながらも、男は太鼓を打ち続けた。
二日して川下で、男の死体があがった。
その後も川の水がふえると、川下の方から太鼓の音が聞こえてくるそうであった。
(完)