一週間ほど前の昼過ぎ、空が晴れているのを確かめようと家の窓を開けた時に「懐かし秋の空気の匂いがする」と思った。それが何だったか直ぐに思い出せず、柔らかい風の感触なのか、カラッと乾燥した空気の感触か、と考えながら庭を見渡してみた。庭の隅の木に、薄いオレンジ色の小さな花が咲いていた。「ああ、金木犀の香りだった」と思い出し、外へ出て家の周りを歩いてみた。気付かなかったのだが、あちこちの金木犀の木にたくさんの小さな花が咲いていた。雨が続いた後の温かい晴天の日だったので、一気に咲いたのだろう。
そして今日、「私、金木犀の香りがまったく分からないんですよ・・」というトークが流れて来た。「それを口にするたび、周りの人に驚かれてしまって・・・」と。この地方に住んでいる限り、秋のこの時期に町を歩けば毎日何処かで金木犀のいい香りに出会うはずだが、いい大人になってもまだそれに気付いたことが無いとは、この人はどういう風にこれまで過ごしてきたのだろうか。さらに、「何人かにそれを教えてもらったにもかかわらず、未だに分からない」と聞けば、もう、車用でもトイレ用でもいいから「金木犀の香り」と書いてある芳香剤を買ってもらうしかない、と思ってしまった。
多分、同じような人は他にもいるのかも知れない。金木犀の香りを知らないからと言ってそれを咎めるつもりも、理由も無いのだが、この時期の大切な、それも折角の心地良い季節の香りを知らずに過ごして居るとしたら、すぐにでも「花のついた金木犀の一枝」を宅急便で届けてあげたいような気分になる。