ロシア政府はウクライナ東部の「親ロシア派が独立宣言した地域:共和国」を承認した。米国の軍事援助を受けて強力化していくウクライナ政府軍から、ロシア系住民と彼らの「共和国」を守る手段を手にするのが目的だろう。ソ連邦の解体やユーゴスラビア崩壊の中で、「民族の自決権」を旗印にいろいろな地域が「独立」を宣言したが、それがまたその地域内の一部に住む人々の「独立」宣言を誘発していった。
ソ連邦の中の「共和国」がどの程度本当の意味で「一つの国」であったのか、よく分からない。大きな共和国の中にはまた別の集団が多数を占める地域が存在するし、どこまでの「まとまり」であれば独立を宣言して良いかという国際的基準があるわけでもない。結局、「強い国から承認を得られれば独立国家になれるのだ」という、暗黙の了解?というか現実理解というか、があるだけなのだろう。
NATOが「コソボを守るため」にセルビアを攻撃したとき、「コソボを独立させる為ではない」と言ったが、その後ほとぼりが冷めるのを待って?コソボ自治州が一方的に独立宣言すると、米国は早々に承認している。その時にセルビアとロシアは「騙された」と強く非難したのを覚えている。現ロシア政権は、コソボと新ロシア派地域の独立承認は同じだと考えるのだろう。実際、アメリカ主導と思えるコソボ独立承認の波は西ヨーロッパの主な国を巻き込むことに成功したが、自国内に民族紛争を抱える国の多くはコソボ独立承認に踏み切れなかった。
ロシア・プーチン大統領はウクライナの親ロシア派が独立宣言をした時に、「コソボと同じだ」と言っていたように記憶する。紛争拡大を怖れたフランス・ドイツが間に入って「ミンスク合意」を作り停戦したが、ウクライナはその合意内容にある「親ロシア派地域の自治権」を認めて来なかった。その間に、米国はウクライナ軍強化のための援助を続けており、今の時点でどこまで強化されたかは別として、やがてはウクライナ政府軍が親ロシア派地域を制圧する力を付ける可能性があるとロシア政府が考えても、単なる妄想とも言い切れないだろう。
当然、ロシアはそうなる前に親ロシア派地域への武器支援を行うことになるだろうが、それを考えても「独立を承認してしまった上で、その国の要請に応じて軍事支援を行う」と言う方がやり易いと言うことだろう。ロシア政府・プーチン氏は「アメリカがやるなら自分達も同じことをやる」という考え方で一貫していて、「詳しく見れば同じではない」という反論は受け入れるつもりが無いだろう。要するに、ロシア政府が「アメリカがやった」と言っていることは、「ロシアもやる」ということなのだ。何故ならロシアは米国と張り合っているのであって、「米国もロシアを弱体化させようと様々な手を使って来たし、これからもそうだ」と考えているのだから。
ロシアにとってNATOはアメリカ主導の「ロシア封じ込め」を目的とする軍事同盟だと考えている。それを被害妄想だと言っても、ロシア政府を納得させることは不可能だろう。ソ連邦崩壊で一旦は仮想敵国が消えたように見えたNATOだが、セルビア攻撃によって「欧米が必要性を認めた場合は加盟国以外の紛争であっても軍事介入する軍事機構に変貌した」とロシア政府は受取ったのだろう。その軍事機構がロシア人の住む隣国国境からミサイルで10分足らずのモスクワを狙っている、という状況を思い浮かべただけで「それならば、いっその事今のうちに」という決断を下したのだろう。
いかなる軍事行動・戦争も賛成するつもりは無いが、ロシア政府・プーチン氏が演説でも語ったように、「ロシアが国として成り立つかどうかの瀬戸際にある」と分析しているのだとすれば、軍事行動はかなりの規模で強いものになり兼ねないと危惧する。ロシア政府にそう思わせるような米国の「見えない動き」が果たしてあったのかどうか、それは闇の中だ。少し前だが、ウクライナの大統領が「中立でも良い」と弱気になっていると聞き、米国が慌てて「中立を受入れてはいけない」と説得するための特使を派遣したというニュースを聞いたが、自分としては「米国は、なぜウクライナが中立ではいけないのか?」が分からない。
ウクライナの安全を第一に考えれば、ウクライナの中立を盾に「ロシアの軍事進攻が絶対に無い」という確約を取り付ける策もあったのでは?と。NATO加盟についても「NATO参入はウクライナ自信が決めること」の一点張りだが、米国やその他NATO諸国も加入に反対する権利は持っているのではないか、と思う。もしかして、加入要請があれば「自動的に加入」って、そんな奔放な軍事機構なのか?。それとも、NATO側が「ウクライナの加入は、NATO側の圧倒的優位の確立・・・軍事的勝利」とでも考えているのなら、その仮想敵国に当たるロシア側の「軍事的脅威・恐怖」は当たっていることになる。
米国に「なぜ、そこまで軍事的な圧倒的優位が必要なのか」と問えば、それは「ロシアには米国を狙う核兵器があるから」という返事が返ってくるのだろう。カリブ海に新ソ連・新ロシアの国が出来るとそれは容赦なく叩き潰して来た米国である。人が異なると言っても、米大統領が「キューバ侵攻も有り得る」と平気で口にできるのは、米国においてそれが単なる個人的妄想じゃ無いからだ。結局のところ、米国もロシア同様に「核による脅し合い」を続けているということ。そう考えると、ロシアを冷たくあしらう反面でウクライナを「口で」支え、一方では「ウクライナには米軍を送らない」と、ロシア政府に「暗黙の了解」とも取れるシグナルを発信していた米国の「裏の思惑」も覗いてみたくはなる。
引いて考えて見ると判るが、ウクライナが「泥沼の紛争」に陥れば、ロシアは資力と武力を浪費し、弱体化していくだろう。かつて米国がベトナム戦争で疲弊したように。ましてはウクライナはロシアの「兄弟国」「広く見れば、共通の歴史を持つ同胞」でもある。それが互いに泥沼の戦争を続けるとなれば、精神的にも社会的にもロシアが受ける打撃は「ベトナム戦争」の比ではない。当然、NATOはその片方に武器援助を続けながら見ていればいいわけで、かなり有利な状況を作り出せることになる。
現在の米国やNATOの首脳陣たちは「素晴らしい人格者」なのだから、そんな悪どい計画は立てないとは思うが?、仮にこれが「戦国時代の武将同士の勢力争い」だったとすれば、歴史家は誰しも「その戦略家ぶり」に感心するはずだ。普段「武力が無ければ他国に攻撃されるのだ」と説いている政治家たちが、一斉に「現代は戦国時代とは違って人道主義の時代」?などと言い始めるとすれば、それこそ「裏に何かあるのでは」と疑いたくなる。
但し、もしもロシアと中国が本格的に「同盟関係」を築くようなことになれば、行く行く「とんでもない悪手」と言われかねない惧れもある。北京五輪前の中ロ首脳会談、プーチン氏の目の座った「確信犯」ぶりを見ていると、「それもあり得るか」かと。今後は「経済も軍事も米・EU/NATOから切り離し、中ロ同盟の中で発展を目指そう(宇宙開発も?)」なんてことに?。国連での中国の態度が注目される。中国もまた、自国の利益を最大化するために米国とロシアを上手く操って漁夫の利を得ようとするのだろう。
軍事作戦が始まれば人命が無くなることになるのだから、その事態を「命」と無関係の政治・戦略の面だけを上げて「ああだこうだ」と言うなんて、不謹慎に間違いない。しかし、これがさらなる大きな戦争の引き金にならないように、と思うと、「思いつめた強権主義の武闘派」を不用意に追い込んでほしくは無かったと思えてくる。