一平のペンとギター

僕らしい小説を書き、僕らしい歌をうたう、ぞ♪、ペンとギターの一平です。ギター弾き語りと小説書きの二刀流。

一年を振り返って「人」ー (1)大きなカタツムリ

2007-02-05 11:10:12 | Weblog

            ○大きなカタツムリ

                          

 10月1日、日曜日、11:00 am.

 僕は、北上聖書バプテスト教会の礼拝堂にいた。

 起立した会衆が歌う賛美歌の合唱が、礼拝堂に響いている。オルガンの、空気が漏れるような音が、合唱を支える。会堂のステンドグラスの窓から差し込んでくる日光が虹色に光っている。と、歌声とオルガンの音の流れに、突如、太い、低い音が、飛び込んできた。腹の底に響く音だ。やがて、その音が、歌声とオルガンの音に合流して、ひとつの太い音の川になって、流れた。オルガン奏者の横を見ると、1人の男の人が、立ったまま、肩から、大きなカタツムリみたいな楽器を抱えて、いた。腹の底に響く低音の出所は、そのカタツムリだった。

 礼拝で、賛美歌の合唱のとき、あのような楽器で伴奏するのを、僕は始めて見た。それに、めったに聞いたことがない音。 へー、珍しいなあ、と思った。この教会は、音楽に力を注いでいるんだな。と感心した。それにしても、前代未聞の賛美歌合唱の伴奏だ!

 その朝。

 僕は、ホテルのチェックアウト寸前に、眼が覚めた。窓のカーテンを開けると、まぶしいほどの朝の光が射し込んできた。昨夜の酒が残っていて、顔が、ぽっ、ぽっ、ほてっている。

 そうだ、スナック「北上夜曲」で、自棄酒を飲み、やけ歌を歌い、泥酔して、ホテルに帰ってきたのだった。そのまま、ベッドの転がり込んだ、ことを思い出した。そして、昨日の一日が蘇ってきた。思いもよらぬ落選。屈辱。そして落胆。さらに、三好さんには振られて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ふと、心に聞こえた声があった。

「今日は、日曜日・・・・・・・。そうだ、この町の、どこか教会へ行こう、、とにかく、祈りたい、、、、、、、、、、、、、、、、、。」     こんな心の状態になるとき、ふっと聞こえてくる声だ。ずっと、忘れていた。祈りたい、、、、。

 ホテルのフロントで、チェックアウトをするとき、近所に教会がありますかね、と聞いたら、「ここから歩いて、15分ぐらいのところにありました」と言って、顔見知りになったフロントの八木さんが、ホテル周辺の地図を持ってきて、ホテルから教会までの道を、赤いサインペンで塗りつぶしてくれた。ホテルに着いた日、部屋に入ったら、なんだか忘れたが、何かが足りなかった。で、フロントに電話したら、来たのが、中年の、腰の低い、蝶ネクタイの従業員だった。僕が部屋に入ってすぐ、ケースから出して、ベッドの上に置いておいたギターを不思議そうに彼が見た事が、きっかけで、話すようになった。弾き語りでコンクールに出場すること。仕事をやめ、好きな歌を歌っていること、を僕は話した。すると、彼も、自分のことを話し出した。会社に勤めて、10数年後に、脳梗塞で倒れ、手術した。今迄の仕事が出来なくなり、会社をやめ、リハビリ後、このホテルの従業員になったと言う。当たり前のことが出来ることが、どんなに嬉しいか、しみじみ思うと、言う。高校生の息子がいる、ので、がんばらねば、、と。僕の瞼に同じ年代の、教え子の顔が、いくつも、浮かんだ。なんだか、他人事のような気がしなくなって、話込んでしまった。

 八木さんは、「自転車なら5分で行けます」と言って、ホテルの玄関先にあった自転車を貸してくれた。荷物は、フロントでお預かりしてもいいです、とも言った。

 見知らぬ町を、僕は、ペダルをこいで走った。秋の朝のヒヤッする風が、二日酔いでポットポッほてる顔にあたる。僕の頭の中は、すでに、礼拝堂で、頭をたれて、膝まずいて、ただただ、無、になって祈っている。まるで、真夏の暑い日、はやく、海に飛び込みたくて、海辺に向かって自転車を走らせているみたいに、僕は、ペダルをこいでいた。

 信号を左折し、小さな旅館の隣に、「北上聖書バプテスト教会」、小さな教会があった。

  僕は、、礼拝堂の末席に坐った。全身の力を抜いて、頭を垂れた。そして、両手をあわせ、指を交差させて、お互いの手を握った。目をつぶる。そのまま、じっとしている。顔が、ぽっ、ぽっ、ほてってる。

 シーンと静まり返った会堂の空気。沈黙する人の気配。やがて、自分の背中が丸まっていることにきずく。背筋を、ピンと伸ばす。シーンと静まり返った会堂の音。会衆の誰かがする咳の音が響いて、消え、また、シーンとなる。僕は、背筋をぴんと張ったまま、全身の力を、また抜きなおして、真っ暗闇の中に身をゆだねる。

 まだ、僕が教会を知らなかった、20才の頃、黙想した、鎌倉の「居士林」と言う座禅道場の、あの静寂な空気が思い出される。ただただ坐る。脚の痺れと闘い、襲ってくる眠気と闘う。トロリ、とすると、目の前に、素足が現れ、きずくと、バシンという音とともに、僕の肩に痛みが走る。座禅僧が、座禅者を覚醒させるために、木のむちで打つ。打座だ。バシンという音、と張り詰めた空気。

 少年の頃、真夜中に、目が覚め、聞こえてきた、しんしん、と降りしきる雪の音。

 昨日、舞台に立ったとき、スポットライトを浴びて、会場内がシーンとした、あの刹那。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 僕の心臓の鼓動が、ドクドク、ドクドク、なっている。

 オルガンが鳴り、合唱の歌声が起こった。僕は、われに返り、起立して、賛美歌に耳を傾けた。

  不思議だ。と、いつも思う。深く、長く、全身全霊で祈った後は、目に涙が溢れる。なぜか、わからない。心が、ふっと、われに返る。

 礼拝が終わっても、やはり、昨日の落胆と屈辱は、消えない、が、われに返った。目が潤んでいた。

 教会では、はじめて、その教会に礼拝に来た人を、礼拝の最後に、会衆に紹介する。何処の教会でも。 今まで、日曜日に、僕が飛び込んだ、ボストンの、ロンドンの、シドニーの、函館の、札幌の、小田原の、宮崎の、、、教会が、皆そうだった。

 「はじめて、いらした、山中一平さん、ひと言、なにか」

 「横浜から来ました。昨日、《北上夜曲歌唱コンクール》に出場しました。今日、帰ります。」

 「あら、それは、よくいらっしゃいました。で、教会は、初めてで、いらっしゃいますか?」

 「いいえ、横浜の、教会に通っています。30才のとき、受洗しました。でも幽霊会員です。」

 「コンクールは、いかがでしたか。」

 「いや、落選しました。でも、2年前も出場しました。そのときは、特別賞《そよ風賞》を頂いたのですが、今年は、駄目でした。あの、ギター、一本で、弾き語りしたんです。ちょっと、落ち込んでます。で、来ました」

 「それは、残念でしたね。でも、今日は、よくいらっしゃいました」 

 めったに、新参者は、ないらしく、初めての礼拝者、は僕ひとりだけ、だった。僕は、席を立って、顔を合わせる礼拝者の、ひとりひとりに、頭を下げて、礼拝堂の出口に立った。

 と、その時だった。

 礼拝中、オルガンの横で、立ったまま、大きなカタツムリを吹いていた男の人が、僕を追ってきて、僕に声を掛けた。

 「あの、山中さん、でしたね。今日、午後2時から、ホルンコンサートを、ここでやるんですが、聴いてゆきませんか。あの、私が、吹くんですが」

 「はあ、、、、?そうですか?」

 「私も、横浜なんですよ。」

 「あらー、そうでしたか」

 「でー、今日ですね、私、12曲,吹く、のですが、途中、休憩を入れたいのです。唇が腫れちゃうんです。12曲、続けると。山中さん、途中、弾き語りを、やっていただけませんか、4,5曲、、、、。よろしかったら、お願いしたいのですが・・・・・・」

 「えええー!僕が、、、、ですか。弾き語り、、を、、、、!?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 「わかりました。やります。やらせてください」

 「ありがとうございます。これ、プログラムです」

 僕の目の前にB4版の色紙を半分に折った《ホルンコンサート inチャペル》という、プログラムが差し出された。

 という訳で、その日、教会の礼拝堂で、♪ギター弾き語り、をすることになった♪!!!!!!!!。

 いつからか、僕は、ぼんやりと、僕の教会の礼拝堂で、一度、弾き語りをしたいなあ、と、思うようになった。教会員になって30年。教会の聖歌隊員を務めたこともあった。パートはテナー。時には、副隊長も務めた。いつからか、合唱隊の1員、ではなく、僕1人で、ギター、1本で、礼拝堂の壇上で、弾き歌いたい、と、思うようになった。が、畏れ多い。僕のような汚れた分際で、礼拝堂で、1人歌うなんて、畏れ多い。でも、歌えるようになりたい、と思った。が、ずっと、後のことだろう、実現するのは、と思っていた。死ぬまでに一度は、必ず実現したいと、、、。と、これまた、ぼんやり考えていたのだった。

 が、それが、今、実現する。のだ。!

 僕は、身震いした。ぽっ、ぽっ、ほてっていた顔に、つめたい水をぶっ掛けられたように、ぱっと、目が覚めた。

 僕は、舞い上がって、自転車のペダルを、颯爽と、こいだ。教会で、食事の用意があるから、食べて、一休みしてください。コンサートは2時からですから、15分くらい前に、来てくだされば、と、ホルン奏者の男の人が、僕に言った。が、僕は、断って、ホテルに帰って、ギターを持ってきます。食事は、外でします。2時20分前に、来ます。と言い残して、教会を後にしたのだった。1人になって、心を沈めて、これから実現する夢、に身も心も、備えたかった。

 駅前の、1,2度、入った事のある、喫茶店に行った。コーヒーを一口、タバコを一服。人見心地が着いたが、心臓が、ドキドキ、心が、うきうき、舞い上がっている。朝飯を食っていないことに気ずく。腹が、すごく減っている。ハンバーグランチを食った。美味かった。満腹。

 先ほど、ホルン奏者の男がくれた、プログラム、を開いてみた。左のページに、演奏者のプロフィール、が、右のページに、演奏曲目、が印刷されていた。

 【     ホルンコンサート、へようこそ!

                    ホルンについて

  ホルン(Horn)は金管楽器の一種。イタリア語ではCorno(コルノ)、フランス語ではCor(コール)と言い、もともと「角」を意味しますが、古くから聖書でもおなじみの「角笛」を意味していました。大きくゆったりした管からは豊かで自然な響きが奏でられるホルンですが、「世界一難しい楽器」として、オーボエとともにギネスに認定されているそうです。

 (へー、あの楽器が、ホルン、というのか。角笛・・・。)         

   演奏者、プロフィール:ホルン奏者 宮田四郎氏

 1966年、東京芸術大学卒業、同大学管弦楽研究部講師就任。同年秋、第35回日本音楽コンクール(NHK・毎日新聞社共催)第1位入賞。1986年より、NHK交響楽団に5年間在籍し、その間しばらく芸術大学付属高校と国立音楽大学講師を兼任。1973年春よりドイツ留学。1974年秋より、東京交響楽団に主席奏者として11年間在籍。NHKFM放送と教育テレビに室内楽や独奏者として多数出演。その後、・・・・・・。

 (いやー、こりゃ、すげー人だ。一流の、ホルン奏者、だ。僕、とは、月とスッポン、だ。弾き語り、で言えば、こうせつ、さだまさし、千春、、、というレベルの人だ。!?!?!!♪ そんな方、の演奏の、合間、に、素人の自称弾き語り路上シンガー、の僕が、歌う、、、なんて・・・・・!どうしよう・・・・・・か?!!!!!!!!?) 

                             ・・・・・・つづく。

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