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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

センダンの紫の花

2016年06月02日 | 日記
 日中、梅雨前の快晴となって気持ち良く過ごせた。そのせいか今宵は星空がくっきりと見える。久しぶりに、天上の位置に北斗七星を見つけた。南東天空に輝いているのは、地球に最接近の火星だろうか、ややオレンジがかって明るく見える。

 これからはアジサイと花菖蒲の季節となっていくのだろうけれど、いまの時期、近所の水道みちや公園を散歩しているとヤマボウシとクチナシの白い花が、鮮やかな新緑の中から浮かびだすように清楚な感じで咲いている。
 ふと先日、センダンの木の花はまだ咲いているのか気になって、何処か近くで見られるところはないだろうかと思案していたら、成瀬の堂之坂公苑のことが頭をよぎった。それですぐに隣町にあるその小さな公苑まで行ってみた。まほろ市内の住宅地に囲まれた一角の堂之坂公苑、入口には門構えがある。もともとは旗本の米蔵のあった地所なんだそう。こじんまりとしているけれどもなかなか珍しい植栽もあり、よく手入れされた気持ちの良い庭園である。これがもし個人のものだったらじつに立派なもので、あまり混むといったこともなく、知る人ぞ知るといった穴場的な静かなところだ。入ってすぐの位置にヒマラヤ杉の大木が二本、その先に小さな芝生広場がひろがっていて、周囲には柿、梅、桜など植えられ、続く遊歩道奥には松や銀杏の大木ものぞめる。

 すこし奥まった場所、見上げた大木の枝の先に淡い紫の霞のような感じで花の集合体がまだ残っていて、風に吹かれてるそのたびにその細かいひとつひとつの花々が散り落ちてきていた。都内青山にある根津美術館庭園にも同じくらいの立派なセンダンの木があったことを思い出した。
 その場で地上に落ちてきた虫の様なその花を拾い上げてみると、ほんの小さな細長い五弁の花びらが褒章みたいな造形をしていて、ほのかな芳香がする。樹皮や果実は生薬の原料になるのだそうで、小さな花でもどことなく品が漂ってありがたく感じ、掌のうえでじっと見入る。夏の木立の陰影を想像していると、またふらりと訪れてみたい気がしてきた。

 しばらくしてその公苑をでてから、すこし成瀬の町並みを歩いてみる。
 
 このあたり、昭和五十年代に横浜線の成瀬駅ができてから宅地化がすすんだ地域だ。駅前から恩田川の方向へ向かってゆるく坂が下り、道の両側の並木の枝ぶりもちょうどよい緑陰をつくっていていい感じだ。道沿いのお店も地元志向で明るく落ち着いている、典型的郊外の成熟した取りすましたところのない、テレビドラマに出てきそうな街並みといえるだろうか。
 やっぱり、1980年代に大ヒットしたテレビドラマ「金曜日の妻たちへ」のロケ地となった雰囲気はいまも残っている。当時の世相の中で、このような街並みこそが中流のすこし上の大衆意識をくすぐる典型的な景色であったのだろう。適度な豊かさ、新しい価値観を共有したコミュニティ、かすかな退屈と退廃の予感の中で、仲良し世代夫婦関係を超えた男と女の甘くて苦い背徳の物語が展開されていった。

 昼食をとろうと入ったお店は、元酒屋が始めたお店らしかったが、ご近所の主婦同士のランチ会でまことににぎやかで、平日だったのに自営業やブルーカラー、ましてサラリーマンらしき男性の姿は皆無だった。今日は木曜日、週末を控えて密かな住宅街ドラマの予感はあるにしても、このまちはひとまず平穏のようである。

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