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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

オリオン座三連星、ラ・コリーナのこと

2017年11月12日 | 日記
 立冬がすぎて木枯らしの吹く中、いっそう日暮れの早さを感じる今日この頃である。昨夜、仕事で遅くなり家路に急いで向かう途中、ふと見上げた夜空には冴え冴えといくつかの星が輝いている。その東の空の方向に、この季節はじめてのオリオン座三連星を見つけた。毎年十一月に入って夜の冷え込みが増してくるこの時期に、この星座を見上げるたびにそうか、もうそんな季節になったんだとしみじみ思う。だからこの日の夜は、ことしのオリオン座三連星天体観測記念日ということにしようか。

 そしてきょうはよく晴れた青空のもと、都内北区赤羽まででかける。公営住宅建て替えのため、この秋に引っ越ししたばかりの叔母の新居を訪問することにしていたからで、新宿までまっすぐ出るのはすいぶんと久しぶりだ。相模大野から小田急線の快速急行に乗リ合わせ、午前十時前には新宿に到着。改札をでてすぐ、しばらくの間デパートの開店を待つ。やがてエスカレータが動きだし、地階の食品売り場へと移動する。まったく都会とは便利にできているものだ。日曜日だからか開店早々の売り場は早くも来場の人々でにぎわって華々しい。
 まずは、手土産にカステラと日本茶を買い求める。それぞれ長崎と京都の老舗、まあお祝いだからすこし日常から飛躍した、ささやかな高揚感をあたえてくれるものがいいという消費者心理をくすぐる都市装置がデパートという空間だと実感する。
 それからすこし歩きすすんだ一番奥には、滋賀県近江八幡の老舗和菓子屋「たねや」のショーケースが目に入る。季節柄、栗を材料としたきんとん、羊羹、どらやきなど価格はそれなりのものだが、洗練されたしつらえと包装デザインがおいしさをひきたてている。ここでは、和菓子の味覚は素材に季節感と雰囲気が決定的に大事な要素なのだと教えてくれている。

 一昨年その近江八幡にある、たねやグループのフラッグショップ「ラ・コリーナ近江八幡」を訪れたことを憶い出す。駅からしばらくバスにのっていった、八幡山と呼ばれるたおやかな丘のふもとにひろがる北之庄町の広大な敷地に、そのユニークな横長の草屋根をのせた白壁の外観をみせていた。緑の屋根のかたちは、背景の八幡山の風景の連なりと呼応し、そこに溶け込んでいるかのようで、実物の建物をみるのは初めてなのに不思議と懐かしい感情を抱かせる。縄文あたりか中世中東にある砦を彷彿とさせるような、あのフジモリ建築の魅力全開である。

 わたしが三十年ほど前、W.M.ヴォーリズの残した建築を目にするため、はじめてこの地を訪れた時、ここは滋賀厚生年金休暇センターと呼ばれた公共の宿泊とスポーツ施設があって、敷地面積は12万平方メートルもあったという。そのときに宿泊した記憶は、いまでも周囲の外溝や生け垣にかすかな片鱗として残っているように見えた。その先には、いまもヴォーリズ記念病院と小さな教会堂が健在で、こちらの新旧のたたずまいもひたすら懐かしかった。
 そのセンター施設は、今世紀に入ってからの行政改革のあおりであえなく廃止、その後の紆余曲折をへて、ほぼ全域が現在のたねやグループの所有となったわけだ。かつてのヴォーリズが目にした当時は、水田を中心にのどかな里山の風景が拡がっていたと思われるから、ラ・コリーナが目指そうとしている姿は、もともとこの地にあった風土の遺伝子を内包して、大地に潜んでいた種子が発芽し、成長しているかのように思えるのだ。

 日曜日、新宿駅すぐのデパートの地下食品売場を巡る中で、そして赤羽から帰ってきてこうしてパソコンに向かいながら、さまざまな思い出が浮かびあがってくる。また、琵琶湖周辺と近江八幡を訪れてみたい。