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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

白い朝に目覚めて

2017年02月11日 | 日記
 目覚めたら、白い朝だった。

 昨日から降った雪が芝生やツツジ、常緑の植栽の葉の上に積もっていたのだ。しばらくして、東方からの朝の陽光が中庭に差し込み、ケヤキの冬樹形のシルエットをマンションの白い壁面のカンヴァスにしてくっきりと映し出すようになる。

 ぼんやりと一週間ほど前、木曜日のできごとを反芻してみる。

 午前10時すぎ、新幹線で新横浜から三十分くらい乗車するとJR三島駅に到着する。駅前ロータリーからの美術館行連絡バス、目指すは目前にそびえている富士山ろくの「クレマチスの丘」と名付けられた風光明媚な庭園美術館だ。クレマチスの花の季節には早すぎるが、この時期の澄んだ空気の中の情景もなかなかのもので期待が高まる。
 まずは、杉本博司が内装と坪庭を設計した写真美術館。モノクロの動物写真展「せかいをさがしに」を見て回る、古代の岩積の石棺のような苔庭、白くてシャープな空間に浸る。

 センターコートに戻って、ゆるやかな通路を上ると視界がぱっと開けて、芝生広場のむこうにコンクリート打ち放しの彫刻庭園美術館と三島市街が望めた。こんどはゆるやかな下りとなり、石庭を通って小さな入口から下るとすぐに美術館内に誘われる。イタリア人彫刻家ヴァンジの作品が並ぶその美術館を出ると、クレマチスガーデンと呼ばれる第二の芝生広場が広がる。芝生の端に円形の小さな池があって、中央に水の流れる女像のブロンズ彫刻が佇み、夏になると睡蓮の花が浮かぶ様子を想像できる。これはやはり、春から初夏にもういちど訪れてみるべきだろう。

 カジュアルなイタリアン・レストランでピザをつまんでひと休みの後は、別荘地をぬけて小さな渓谷の上に架かる吊り橋を渡って、すこし離れたエリアにあるベルナール・ビュッフェ美術館へ移動する。ここまでの景観の変化もあきることがない。入口正面で楠の大木が迎えてくれる。建物の設計は菊竹清訓で、1973年に開館してもう45年になるが古さを感じさせない。ふとどこかで見てきたかのような気がしてきて、そういえば、箱根彫刻の森美術館の分館ピカソ館みたいだ。あちらも同じ菊竹の設計だろうか。
 館内にはいれば当然、B.ビュッフェ一色、この人の尖って暗い印象のある絵は好みが分かれるだろう。意外にも都会の摩天楼を描くと、この画家のスタイルにマッチしているのがおもしろい。大空間のキリスト像の連作は、ひたすら痛々しく悲惨な印象ではあるが、館内の雰囲気は白基調のせいか妙に明るい印象だ。ここ富士山麓に、エコール・ド・パリ最後の世代の大コレクションがあるのが不思議な気がしてくる。


 帰りの三島駅行きのバス、振り返ると冠雪の富士山が覆いかぶさってくるかのようだ。その日は三島駅から隣の沼津まで移動し、まだ明るいうちに駅前の真新しい宿にチェックインして、翌日の御殿場線の旅に備えることに。

 やさしく羊を数えた長い夜に、クレマチスの花の精の深い夢を見る。


ヴァンジ彫刻庭園美術館の芝生広場から、箱根外輪山の連なりを望む。


御殿場東山のとらや工房特製どら焼き、焼印が富士の形に「と」を組み合わせたもの。