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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

オークラ・ランターン

2015年09月08日 | 音楽
 九月、しとしと秋雨が続く。先月末で、ホテルオークラ東京本館が建て替えのため、営業を終了した。昭和高度成長の時代、東京オリンピックに先立つ1962年5月の開業で、きたる2020年オリンピックを見据えての営業判断のようだ。別館は残るが、建替え後の新館は、ミラーガラス張りの垂直高層ビルが二棟が建つ予定だそうだ。
 「ホテルオークラ 見納め」と見出しがある朝日新聞夕刊8.26付には、共同設計者の谷口吉生氏のコメントが寄せられている。父親の谷口吉郎が設計した本館ロビーについて
 「現在のものを復原しつつ、現代にふさわしいものとして生まれ変わらせる。ホテル二棟と大倉集古館に囲まれた広場も設計する。次の50年、100年も生き続けられるデザインを目指す」とあって、これはもう惜しむよりも期待して待つしかないだろう。
 最近の話題になった近代建築建替事例としては、旧東京中央郵便局のファサードを遺して背後に高層ビルを実現した「KITTE」(賛否両論があったが完成したビルはうまく前者の記憶を取り入れて現代的な再生をなしている)と隈研吾が関わった新・歌舞伎座などがあげられるだろうが、はたしてオークラの場合はどうなるだろう。

 名残のオークラ本館を最終日の前日、閉館を惜しむかのような雨の中、お別れ見学に出かけた、その際の本館ロビーの情景から。なんといっても、天井から吊り下げられた、和風モダンという表現がぴったりな「オークラ・ランターン」が落ち着いた空間に静かに浮かび上がる、その飴色のひかりと造形の美しさ!五角形面の切子ガラス玉をつなげたようなデザインで、古墳古代の宝飾をモデルにしているらしい。その連なりがメインロビー天井には八本二列に下がっている。庭側に面して雪明り障子と柱ごとに床おきの角行燈がおかれた落ち着いた空間は、静謐な心地よさにあふれている。
 床には、ベージュ系の市松模様のカーペットが敷きつめられ、梅の花を模したという低いテーブルと椅子は、別れを惜しむ人々でひっきりなしの状態だった。NHKの撮影クルーも来ていて、やがてその様子は特集番組となって放送されるようだ。
この本館、竣工が53年前でほぼこれまでの自分の人生歴と重なるのが、遇縁とはいえなんだか感慨深い。

 本館正面はいってすぐの六連の明り、この先に掘り下げられた高い天井のロビーが拡がる

 



 ロビー銘版:玄関広場 メインロビー 1962 設計:谷口吉郎 壁画:富本憲吉  
ホテルオークラ設計:大成観光株式会社設計委員会 施工:大成建設株式会社 竣工:昭和37年5月31日