十二月のしぐれ雨、師走の三河からの旅はそんな空模様ではじまった。もっと正確にいうと自宅を出て、まほろ駅午前八時ちょうど発の小田急ロマンスカーはこね3号7号車3A席に座り、小田原に向かっていたときからすでに今回の旅は始まっていたのだけれど。
小田原駅から新幹線に乗り換えて豊橋へ、そこから名鉄名古屋本線を乗り継いで山あいの住宅地がまじった鄙びた風景の中を進んでゆく。途中、岡崎に近くなるとようやく郊外らしい街並みが続き、知立で名鉄三河線に乗り換える。ここで来年2月中旬に「世界劇場会議フォーラム」が開催※されるので、もしかしたら再度訪れることになるかもしれないと思ってホームから周囲を見回す。まだ、それほど再開発の波に洗われていないのどかな地方都市のようだ。それからしばらくして豊田市駅には正午すこし前に着く。ここまでくるともう、名古屋近郊の中核都市の貌が見えてくる。
※これって記憶違いで再確認したところ、フォーラム2016の開催会場は可児市文化創造センター(岐阜県)。
ブルーのコートを着た笑顔の友人が改札前で待っていてくれた。そのまま駅前のデッキを渡り、徒歩で十五分の豊田市美術館に向かう。愛知環状鉄道の高架をくぐって左方向へ緩やかな坂を上った先が旧七州城郭跡で、そこにすっと水平線方向横長にたたずむのが、開館二十周年を機にリニューアルしたばかりの美術館だ。
以前最初に訪れた時とは逆の裏ルートからのアプローチが新鮮で、目的地に近づくにつれて高揚感が増してくる。上りきった丘の上は公園のようであり、周囲を見わたせる絶好のランドスケープ、アメリカの環境デザイナー、ピーター・ウオーカーによる設計で、人工池に映る建物姿が印象的である。さらに谷口吉生設計の建物本館前と人口池の間に横一直線に伸びる深緑色のパーゴラ(日陰棚)が風景を引き締めて美しく、効果的な周囲とのコラボレーションとなっている。建物正面の乳白色のグリット面の集合体は、リニューアルで幾分白さを増したようでこれまた清々しい。
お腹がすいていたので、眺めのよいミュージアム内レストランへ。ここからは中庭テラスの彫刻作品、「色の浮遊 三つの破裂した小屋」が見える。立方形の外観はミラー仕様で周囲を写し、それぞれの内側が赤、青、黄と塗り分けられている。あとで外に出て近づいてみると美術館本体やテラス周囲と視覚的に共鳴して構想され、設置されていることに気がつく。ここで童心に帰ってかくれんぼごっこをしてみると、互いの実像と虚像が入りまじって実に楽しい。
この池の端には、能舞台のような形状の突きだしがあって歩み出てみる。そこに佇むブルーのコートに城のタートルネックセーター、格子柄ズボン姿の解放された笑顔は、青空を水平に区切るパーゴラと雨があがってその澄んだ青空を映した水面のひかりを受けて爽やかだ。ちょっと北欧の風景の中の透き通った情景を連像させ、全体の風景と一体になっている。ふと、昨年の今頃公開されたスウェーデン映画「ストックホルムでワルツを」を思いだし、また観てみたくなった!
隣接の日本庭園童子苑の茶室でお茶をいただき、外に出るとあたりはすっかり夕暮れ時で、闇が増してくる中、東には上弦のお月様、西方向は澄んだ空がかすかに光ってまぶしい。人工池の水面には、行燈のような美術館の逆さ姿が映っている。その美しさにふうと深呼吸、池の周囲を巡りながら暗闇にすうと浮かび上がる美術館をふたりして眺めていると、初めて出逢ったときに想像していたその夜の姿が夢の中のようで、しばしのあいだを慈しむ。
小田原駅から新幹線に乗り換えて豊橋へ、そこから名鉄名古屋本線を乗り継いで山あいの住宅地がまじった鄙びた風景の中を進んでゆく。途中、岡崎に近くなるとようやく郊外らしい街並みが続き、知立で名鉄三河線に乗り換える。ここで来年2月中旬に「世界劇場会議フォーラム」が開催※されるので、もしかしたら再度訪れることになるかもしれないと思ってホームから周囲を見回す。まだ、それほど再開発の波に洗われていないのどかな地方都市のようだ。それからしばらくして豊田市駅には正午すこし前に着く。ここまでくるともう、名古屋近郊の中核都市の貌が見えてくる。
※これって記憶違いで再確認したところ、フォーラム2016の開催会場は可児市文化創造センター(岐阜県)。
ブルーのコートを着た笑顔の友人が改札前で待っていてくれた。そのまま駅前のデッキを渡り、徒歩で十五分の豊田市美術館に向かう。愛知環状鉄道の高架をくぐって左方向へ緩やかな坂を上った先が旧七州城郭跡で、そこにすっと水平線方向横長にたたずむのが、開館二十周年を機にリニューアルしたばかりの美術館だ。
以前最初に訪れた時とは逆の裏ルートからのアプローチが新鮮で、目的地に近づくにつれて高揚感が増してくる。上りきった丘の上は公園のようであり、周囲を見わたせる絶好のランドスケープ、アメリカの環境デザイナー、ピーター・ウオーカーによる設計で、人工池に映る建物姿が印象的である。さらに谷口吉生設計の建物本館前と人口池の間に横一直線に伸びる深緑色のパーゴラ(日陰棚)が風景を引き締めて美しく、効果的な周囲とのコラボレーションとなっている。建物正面の乳白色のグリット面の集合体は、リニューアルで幾分白さを増したようでこれまた清々しい。
お腹がすいていたので、眺めのよいミュージアム内レストランへ。ここからは中庭テラスの彫刻作品、「色の浮遊 三つの破裂した小屋」が見える。立方形の外観はミラー仕様で周囲を写し、それぞれの内側が赤、青、黄と塗り分けられている。あとで外に出て近づいてみると美術館本体やテラス周囲と視覚的に共鳴して構想され、設置されていることに気がつく。ここで童心に帰ってかくれんぼごっこをしてみると、互いの実像と虚像が入りまじって実に楽しい。
この池の端には、能舞台のような形状の突きだしがあって歩み出てみる。そこに佇むブルーのコートに城のタートルネックセーター、格子柄ズボン姿の解放された笑顔は、青空を水平に区切るパーゴラと雨があがってその澄んだ青空を映した水面のひかりを受けて爽やかだ。ちょっと北欧の風景の中の透き通った情景を連像させ、全体の風景と一体になっている。ふと、昨年の今頃公開されたスウェーデン映画「ストックホルムでワルツを」を思いだし、また観てみたくなった!
隣接の日本庭園童子苑の茶室でお茶をいただき、外に出るとあたりはすっかり夕暮れ時で、闇が増してくる中、東には上弦のお月様、西方向は澄んだ空がかすかに光ってまぶしい。人工池の水面には、行燈のような美術館の逆さ姿が映っている。その美しさにふうと深呼吸、池の周囲を巡りながら暗闇にすうと浮かび上がる美術館をふたりして眺めていると、初めて出逢ったときに想像していたその夜の姿が夢の中のようで、しばしのあいだを慈しむ。