フィクション『同族会社を辞め、一から出直しオババが生き延びる方法』

同族会社の情けから脱出し、我が信ずる道を歩む決心をしたオババ。情報の洪水をうまく泳ぎ抜く方法を雑多な人々から教えを乞う。

これがわたし

2020-09-05 22:00:16 | ショートショート

小さい頃親が事務所に入れてくれた。

お芝居をしてドラマに出るのが私の日常だった。

学校生活もあったけど、子役としての活動は面白かった。

中学校や高校の時はあまり目立つといじめに遭いそうだったから、

クラスの中ではかなり大人しくしていた。

大人になって、いろんなドラマに出た。

芝居は面白い。自分で工夫したり、先輩たちにいろんなことを教えてもらった。

テレビだけではなく舞台の仕事もあって、

世間を驚かせるような役もやってのけた。

それをやり遂げるのが私の役目だから。

と思っていたし、頑張れば世間の評価が上がって、期待された。

だけど、芝居って、何だろう。

カメラが回っているとき、みんなが期待しているような演技をする。

表情を作る。

舞台でもそう、自分じゃない自分を演じるとみんな拍手をしてくれた。

舞台を降りれば、素の自分に戻れる。

そのはずだった。

いつの間にか、プライベートでも友達と会うときでも芝居をしていた。

大げさな表情、明るい笑顔、彼らが私に求めるものを、私は見せるようになった。

無理して。

暗い顔は似合わない。

らしくない。

と言われそうで。

ひどく疲れるようになった。

本当はこんなことしたくないと思うようになった。

だけど、親は、「普通の人ができないことをしているの、すごいことよ」という。

私だって、その世界にいる自分のことをすごいと思う。

でも、友達にさえ作り笑顔を見せ続けなければならないことが続くと、

やめたくなる。

ああ、世間に期待されているのに、やめるわけにはいかない。

このまま演技を続けるしかないのか。

時々誰もいないところで、動物のように吠えた。

そして我に返って、自分の今のことを思い出した。

ああ、もうやめたい。

どこかに逃げたい。

逃げたい。

ここからいなくなりたい。

どうしたらいいだろう。

私はロープに手をかけた……

コメント
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