菅首相の“原発難民”に対する不正直な情報不開示

2011-04-04 06:38:44 | Weblog

 

 4月1日(2011年)金曜日夜8時からのNHK「特報首都圏 “原発避難” どう支えるのか」は原発事故によって避難指示等を受けて避難し、東京武道館を避難所としている福島県人の宙ぶらりんな状態に置かれた避難生活を扱っていた。

 避難指示・自主避難指示がいつ解除されるか分からない先行き不透明な中で、避難によって一度失った住い、職業、人間関係をどう立て直し、どう遣り直すか。避難者の中には4月の新学期から小学校や中学校入学者の子どもを抱えていて、学校を決めるための住い探しも思うに任せない避難者も取り扱っていた。

 番組は「戻りたいですか」を問う調査を行っていた。

 「戻りたくない」      ―― 3%
 「戻りたいが戻れないだろう」――42%
 「戻りたいし、戻れるだろう」――53% 

 津波で家を押し流され、避難所で避難生活を送っている被災者も深刻な不安状況に置かれているのは当然だが、放射能の危険から逃れて、いつ解除されるか分からない避難生活を送っている避難者にしても深刻な不安状況に置かれているはずだ。

 《難生活 16万3000人余》NHK/2011年4月3日 14時55分)が避難者数を次のように伝えている。

 警察庁の纏めで、避難所で今も生活を続けている被災者が東北地方と関東・甲信越地方(岩手・宮城・福島)を中心に17の都と県で16万3710人だと。

 宮城県が521か所の避難所に6万9168人。
 岩手県が373か所の避難所で4万1975人。
 福島県が303か所の避難所で2万8205人。

 上記3県以外の避難所で2万4000人余り。

 この2万4000人余りの殆んどが、原発事故をキッカケに福島県から避難した被災者で、
 新潟県、6593人
 群馬県、3098人
 埼玉県、2821人等となっている。

 今年経済大国世界第2位の座を中国に譲り渡したとは言え、経済大国世界第3位の日本である。その世界的な経済的地位から見ると、宙ぶらりんな生殺し状態に置かれて避難所生活を余儀なくされている津波被災者や原発避難者を見ていると、政府は単なる被災者や避難者であることを越えて津波難民、原発難民の境遇に追いやっているのではないかと疑いたくなる。

 特に原発難民の場合、政府は避難指示や屋内退避の指示を出しただけで、そして屋内退避を自主避難の指示に変えただけで指示を受けた住民の生活支援にどれ程のことをしたのだろうか。殆んどが自治体任せ、本人任せの谷底に投げ込んだ状態となっている。

 3日前の4月1日、震災発生から3週間経過を機に菅首相は首相官邸で記者会見を行ったが、記者との質疑の中で次のような遣り取りがあった。

 記者「日本テレビの青山です。

 福島第一原発の事故についてお伺いします。震災から3週間経って、周辺住民のみならず国民も大きな不安をいまだに抱いていると思うんですけれども、総理はこれまで予断を許さない状況と繰り返しおっしゃってきましたけれども、まずその現状認識と今後どういう対応や手段で事態を収拾させる考えなのか。また、最悪の事態を避けるためにどういうオプションを持っているかなどを具体的にお聞かせください。

 また、いつになれば事態が落ち着くと見ているのか、目途もしくは目標について、率直にお考えをお聞かせください

 菅首相「まず、福島原発事故によって避難など大変御不自由をおかけしている皆さんにおわびを申し上げるとともに、いろいろな形で野菜など被害を受けておられる皆さんにもおわびを申し上げたいと思っております。

 現在の福島原子力発電所の状況についてでありますけれども、先ほど申し上げましたように、専門家の皆さんの力を総結集して、この安定化に取り組んでいるところであります。現在の段階で、まだ十分安定化したというところまでは立ち至っておりません。しかし、先ほども申し上げましたように、あらゆる状況にそなえての対応を準備しておりますので、必ずやそうした安定化にこぎつけることができると考えております。

 時期的なめどについては、今の時点で明確に言うことはまだできない状況にある。精いっぱい努力をしている状況にある。こういうことを申し上げておきます」 

 記者が「いつになれば事態が落ち着くと見ているのか、目途もしくは目標について、率直にお考えをお聞かせください」「率直に」という言葉まで添えて聞いたのに対して、菅首相は「時期的なめどについては、今の時点で明確に言うことはまだできない状況にある」と率直に(?)答えている。

 菅首相にとってはそうではないかもしれないが、原発難民状態に置かれている福島からの避難生活者にとっては事態収束の時期的なめどがつかない程に深刻な状況にあるということであろう。

 だが、後からの質疑応答は次のようになっている。

 記者「朝日新聞の坂尻です。

 原発問題に関して伺います。これまでの対応は自衛隊なり消防なり、かなり日本一国で解決を図ろうとする姿勢が強かったと思うんですが、総理が冒頭でも紹介されたように、ここ最近は国際社会の協力ということを強調されています。これは裏を返すと、国際社会の英知を集めなければならないほど事態は深刻になっているのかということを伺いたいのが1点。

 2点目は、先ほども質問がありました具体的なオプションなんですが、今、福島第一原発でやっていることは、とにかく冷却しなければいけない。真水を注入して冷却作業を続ける一方で、汚染水の処理も同時に進めなければならないという一進一退の攻防が続いているんですが、このオプションを当面続けなければならないのか。あるいは具体的にこれ以外のオプションというものが取り得るのかどうか。そこをお聞かせください」

 菅首相「まず国際社会との関係ですが、米国からは非常に早い段階からいろいろな提案をいただいておりまして、私が少なくとも受け止めているところで言えば、そういった申し出に対してほぼすべてといいますか、必要なものについてはすべて是非お願いするという姿勢で臨んでまいりました。現在、統合本部を中心にして事業者、原子力安全・保安院、あるいは原子力安全委員会も含めて連日、米国の専門家との間でいろいろな課題について協議をし、あるいはいろいろな準備をいたしております。そういう意味で当初から、特に米国に関しては、この対策に対して全面的な協力をいただき、共同して事に当たってきているところであります。加えて、先ほど申し上げたように、フランスやIAEA、更に多くの国から、この原子力事故に関しての協力要請もいただいておりまして、相当の協力をお願いいたしているところであります。

 それで、どういうオプションがあるのかということを言われましたけれども、これは基本的にはそれぞれ専門家集団が協議をする中で、対応を日々、スケジュールを立てて進めているところであります。私の理解をするところによれば、やはり冷却ということは極めて重要な、そして継続しなければならない一つの作業である。それに伴って現在、水の汚染とかいろいろなことが発生しておりますけれども、そうしたものに対してもきちんと対応しなければならない。こういう冷却が将来、冷却機能としてきちんと回復をする。そのところまでしっかりとつなげていくことがやはり一つのまず目標であろう。このように考えております」

 記者は「国際社会の英知を集めなければならないほど事態は深刻になっているのか」と聞いた。事態の深刻の程度に応じて事態収束の時期的な目途がある程度推測できる。

 対して菅首相は米国から全面的な協力をいただき、共同して事に当たっている、フランスやIAEA、その他の国から協力の申し出があり、相当の協力をお願いしていると答えたのみで、記者の質問に真正面から答えていない。

 ある意味原発難民とも言える避難生活者にとって一番知りたいことは現在の宙ぶらりんな生殺し状態からいつ解放されるかということであろう。長期に亘るなら、その覚悟も必要であるし、次ぎの生活に踏み出すために東電からの補償も必要になる。

 だが、事態収束の「時期的なめどについては、今の時点で明確に言うことはまだできない状況にある」の限りなく不明確、あるいはどっちつかずの答しか用意できない上に事態の深刻の程度に関しては真正面からの答を避けた。

 ということなら、現在の宙ぶらりんな状態をなおさら宙ぶらりんな状態に追い遣るだけのことではないだろうか。

 事故収束の時期的なめどと事態の深刻の程度の情報に関して知りたい・聞きたいとする避難生活者の内心の声に菅首相は耳を傾け、親切に答えることをしなかった。また原発事故がいつ頃収束するのか知りたいとする内心の声を発しているのは放射能の危険から逃れて避難生活を送っている福島県人のみならず、多くの国民も同じであるはずである。

 いわば菅首相は多くの国民が知りたいと思っていることを真正面から受けて止めて真摯に答えることをしなかった。

 この4月1日の菅首相記者会見から2日後の3日朝、細野首相補佐官が記者会見で次のように述べている。《“数か月以内に漏出食い止め”》NHK/2011年4月3日 11時6分)

 細野首相補佐官「非常に深刻に受け止めている。海にどういう影響があるのか早急に調べて国民に公開したい。また、2号機のタービン建屋の地下にたまっている大量の水を移し替えないと、また同じようなことが起こる可能性があり、できるだけ早く水を移さなければならない。住民は、放射性物質の外部への放出がいつ止まるのか、いちばん不安に思っている。原発は、危機的な状況を脱していないが、若干の落ち着きを取り戻しており、今後は、これ以上放射性物質を出さないことに重点を移すべきだ。少なくとも数か月のうちに、そうした状況にしたい

 「数か月」という時期も至って曖昧だが、記事題名が既に伝えているように、「少なくとも数か月のうちに」漏出を止めたいと言った。

 菅首相の記者会見からたった2日後である。菅首相は首相官邸に設置した原子力災害対策本部と地震緊急災害対策本部の本部長を務め、東電本店に設置した政府と東電による統合対策本部の本部長も務めている。

 細野首相補佐官が知り得る情報を菅首相が知り得なかったということは考えられない。この関係からすると、4月1日の菅首相の「時期的なめどについては、今の時点で明確に言うことはまだできない状況にある」、事態の深刻の程度に関しては答を避けたでは国民になおさら不安を与える。修正を図って国民の不安を取り除くために「数か月」という「時期的なめど」を持ち出した疑いが出てくる。

 いずれにしても、細野首相補佐官が知り得る情報を菅首相が知り得ないことはないはずであるという関係から言うと、首相記者会見で示した発言、態度が現在の原発の状況を正直に表現していると見るべきだろう。

 いくら正直な発言・態度だったとしても、国民に対する不正直な情報不開示であることに変わりはないし、このことは同時に菅首相の国民に対する態度が不正直であることに相当するはずである。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする