「追及」という言葉の意味は「どこまでも追いつめて、責任・欠点などを問いただすこと」と「goo辞書」には出ている。但し責任・欠点などを問い質した、あるいは問い正しただけで終わったのでは真の追及とはならない。問い質した、あるいは問い正した上に相手に自らの責任・欠点――つまりは自らの非を認めさせるところにまで持っていかなければ、真の追及とは言えない。
野党の政府の間違いや不行届、責任不履行、不作為等々に対する追及がこのような役目を果たさず、殆どの追及が尻切れトンボの不成功に終わっているから、追及という批判行為だけが印象に残り、「野党は批判ばかり」、あるいは「立憲は批判ばかり」という悪評価を受けることになる。このような成り行きとなっていることにさえ気づいていない。結果、「批判ばかりではない、政府法案に対する対案も独自法案も提出している」と見当違いな弁解を繰り広げる。いつだったか、かなり前にこういった批判をブログに書いた。
宗教法人旧統一教会の様々な不法行為をマスコミが取り上げ、国会質疑でも取り上げられることになっているが、所有すればさも霊的な感化を受けることができる貴重品であるかのように偽って安物を法外な値段で売りつける霊感商法と信者の信仰心の強さを試す言葉等で不安心理を煽るなどして高額献金に持っていく献金商法で信者の中からハンパではない数の被害者と被害金額を出し、各地で損害賠償請求訴訟を起こされ、被告敗訴の確定例が続出、自殺者も出し、こういったことが今以って尾を引いているからこその、いわゆる"騙される信者"救済の絶対的方法=被害信者を出さないための旧統一教会の解散請求の声をマスコミその他が上げ、国会追及でもあるが、宗教法人の解散請求は唯一宗教法人法の取扱いとなっているから、同法の関連条文を前以ってここに挙げておくことにする。
〈第81条 裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
1 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
2 第2条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は1年以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。〉――
第81条は5項まであるが、強制解散に関わる主たる必要事項はこの1項と2項であるから、他は省くことにする。
1項に言う「法令に違反して」の「法令」とは断るまでもなく、国会の決議を経て制定される法規範である「法律」と、国会の決議を経ないで行政官庁が制定する法規範である「命令」を言い、合わせて「法令」としている。「法令」のうちの「法」の代表的な6法、憲法・刑法・刑事訴訟法・民法・民事訴訟法・商法を「基本六法」とし、この基本六法を纏め、関連法規を載せた書物を「六法全書」と呼び慣わしていることは知られている事実であろう。
当然、宗教法人法第81条の解散命令、〈著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為〉を規制対象とする“法”は主なところでは憲法・刑法・民法といったところになる。
因みに宗教法人法第81条2項の解散命令の条件としている、〈第2条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は1年以上にわたってその目的のための行為をしないこと。〉の「第2条」とは、〈この法律において「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする左に掲げる団体をいう〉を指し、2項は宗教団体それぞれが目的とする宗教活動のすべきこととすべきでないことの明文化ということになる。
以上のことを押さえて、長妻昭と小西洋之の以下の追及を眺めて欲しい。時間のムダと思わせる、別の言葉で表現すると、大山鳴動してネズミ一匹程度の国会追及でしかなかったが、この評価付けの妥当性を判断して欲しい。先ずは長妻昭の追及から。
2022年10月18日衆議院予算委員会 長妻昭「ちょっと気になる点を質問するということですが、ずうっとですね、立憲民主党を含めて野党ヒアリングというのをずっとやってるんですよ。この間、ずっと何十回と。そのときに文化庁の課長さんを呼ぶとですね、ずうっと一貫して解散請求はですね、要件の一つとして法令違反なんですね。その法令違反は刑事に限ると。刑事の確定判決が統一教会本体に出ていないからできないんです。こういう解釈をしているんです。 この解釈を変えない限り、いくら調査しようが、何しようがですね、解散請求ができないんです。解釈変えたんですか。総理」 岸田文雄「宗教法人の解散事由については平成7年(1995年)に東京高等裁判所が示し、平成8年(1996年)に最高裁判所で確定した判決に於いて考え方が示されています。その中に法人の代表役員が法人の名の下で取得した財産や人的・物的組織等を利用して行った行為であること、また社会通念に照らして当該法人の行為であると言えること。そしてもう一つ、刑法等の実定法規の定める禁止規範、または命令規範に違反するものであること。こういった要件を満たし、それが著しく公共の秩序を害すると明らかに認められる行為、又は宗教団体の目的を著しく逸脱したと認められるという行為があることが客観的事実として明白であることが必要。こうした考え方が示されております。 まあ、刑法等の実定法規、このように記されております。これをどう解釈するのか、ということであります。いずれにせよ、今の旧統一教会の問題につきましては民法に於いて組織的な不法行為と認定された事件が2件あるという状況であります。こうした状況の中で具体的な実例をしっかりと積み上げて行くことが重要であるということから、こうした報告徴収、質問権の行使、これを行うことが必要であると判断し、この手続に入ることを決した次第であります」 長妻昭「そうすると政府は解釈を変えたんですかね。その『刑法等』にはですね、民法の使用者責任は入らないと、これ明言されるんですよ、文化庁の課長さんは。国対ヒアリングの場で何度も何度もですね。そうすると、『刑法等』の中に、総理、ちょっと聞いてください、『刑法等』の『等』の中には民法の使用者責任、今仰ったようにですね、認められましたよね、本体の、これ含まれるという、これも含まれるという解釈でよろしいんですね」 文科相永岡桂子「宗教法人法の第81条に定められました宗教法人の解散事由につきましてただ今総理がおっしゃいましたように平成7年のオウム真理教の解散命令事件の際に東京高等裁判所が示し、最高裁判所で確定した決定に於いてその考えが示されております、所轄庁と致しましては解散命令の請求を行うに当たりましても当該決定を踏まえる必要があると考えます。今後、旧統一教会について明らかになった事実を踏まえて、当該決定に示されました要件に該当すると判断した場合には宗教法人法に基づき厳正に対処していきたいと考えております。 具体的には法人の代表役員が法人の名の下で取得した財産や人的・物的組織等を利用して行った行為であること、そして社会通念に照らして当該法人の行為であると言えること。そして刑法等の実定法規の定める禁止規範、または命令規範に違反するものであること。といった要件を満たし、それが著しく公共の秩序を害すると明らかに認められる行為、または宗教団体の目的を著しく逸脱したと認められる行為があることが客観的事実として明白であることが必要との考え方が示されていることと承知をしております」 岸田文雄「先程申し上げた平成8年(1996年)の最高裁判所で最高裁で確定した判決で示された考え方、これは政府としても考え方、変わってはおりません。先程申し上げましたようにその考え方の中に『刑法等』となっているわけですが、そして今回、こうした報告徴収、質問権を行使する手続きに入る理由として、先程申し上げました2件の民法に於ける組織的な不法行為、認定した判決があることと加えて、今回、合同相談窓口に於いても1700件の相談が寄せられた、その中には警察と繋がりがある案件のような案件の中に今言った、刑法を始めとする様々な規範に、その抵触する可能性があるんだと認識しております。それを含めて手続きに入ったところであります。 従来のこの最高裁で示された考え方、政府は引き続き、それを踏襲しております」 長妻昭「これね、何で、これ、私、重要なことなんです。なぜかと言うとですね、旧統一教会の本体については刑事的責任が確定判決で問われていないです。周辺の関連の会社、法人はですね、刑事的責任が確定判決で問われたケースがあるんですね。ところが本体には刑事責任が問われていないんです。総理ね、疑いって言っても、もしじゃあ、国がですね、刑事的訴追をしてですね、そして確定判決が出るまでに相当時間がかかるわけですよね。ですから、私は言っているのは文化庁の課長さんが一貫して言っている政府の解釈を変えない限り、永久に解散請求できないんです。 だから、そこが核心なのです。だから、総理ね、先程ね、判例は踏襲すると仰いました。その判例には『刑法等』と書いてある。『等』。『等』の中には民法の組織的不法行為が入りませんと、こういうふうに政府は明言しているんです。何度でも国対ヒアリングで。では、『等』に民法の組織的不法行為は入るという解釈を変えてやるんですね、ということを聞いているんです」 岸田文雄「先程申し上げたように政府としては考え方は変えておりません。だからこそ、先程申し上げた1700件の相談事例の中に警察につないだ案件があると。こうした事態を受けて、よりこの実態を把握するためにこの報告徴収、質問権の行使、これらが必要であると認識をして、手続きに入ったということでございます」 長妻昭「すると、総理ですね、民法は入らないと。言うことだとすると、結局何年かかるんだって話なんですね。相談で刑事的なことも来ている、ってね、お話ありました。刑事的な訴追の疑いを受ける事例も、それは法令上はですね、確定判決なんですよ。じゃあ、これを警察が捜査して、そしてそれを起訴して、そして裁判で相当争えば、最高裁まで行くでしょう。そして確定判決が出て、初めてということになっちゃうわけです。民法を認めないと。何年か、3年か4年か、5年かかりますよ。 総理、昨日ですね、誰も、野党の人間が聞いていないのに総理は明覚寺は解散請求から解散まで3年かかったと仰ったわけで、そういう長いスパンを、総理、考えておられるんですかねえ。刑事だけに限るってことは変えないんですか、解釈を」 岸田文雄「あの、昨日オウム真理教の例を、そして明覚寺事件の例を挙げたのは殺人罪で起訴された案件。でも、7ヶ月かかった。そして詐欺罪が確定している案件、であっても、3年かかった。こうした事例を挙げるより今回の件についても事実をしっかりと積み上げる必要があると考えたからこそ、今回この報告徴収、質問権の行使に踏み切ったと説明をさせて頂いたという次第であります。是非、手続きを進める上からも、この報告徴収、質問権の行使は重要であると認識をしております」 長妻昭「これですね、あの解散請求、解散命令っていうのは最大の予防なんですよ。本当に被害者の方、何人もお会いしました。自殺者も多いんです。生活保護になっておられる方も多いんですよ。防がなきゃいけないんですよね。そういう意味でもう1回、お尋ねすると、重要なことなんで、じゃあ、刑事的な判決に限定するということでよろしいんですね。この解散請求の法令違反という解釈は」 岸田文雄「先程から申し上げているように平成8年の最高裁の判決で示された判断はこれを維持しているということであります」 長妻昭「そうすると、刑事的確定判決に限定されるという解釈ですね」 岸田文雄「判決の中で示されているように『刑法等』の実定法規の定める禁止規範、または命令規範に違反するものがあるという考え方、これを堅持しているという申し上げております」 長妻昭「禁止規定等命令違反というのは民法のですね、今仰った不法行為ですね、組織的行為、これは入らないという理解ですね」 岸田文雄「仰ったように民法の不法行為、これは入らないという解釈であります」 長妻昭「これではっきりしました。今、はっきりしました。私はこれ信用できません。質問権含めて、つまりですね、被害者弁護団の方々が声明を出して、法律には『法令』って書いてあるんです。別に民法も刑法も何も書いてないんです。それで、それも今の判例も、オウムの判例なんです。刑事的事件の判例に書いてあっただけの話なんで、そういう解釈に固執する限りですね、刑事的訴追して確定判決が出る。それもいくつも出る。それを待つということになるんでね、私は何年もかかるというふうに思わざるを得ないんです。総理の本気度が問われますんで、ダメですよ、これ。解釈をもうちょっと整理して頂きたいということを私は申し上げます。それでちょっと質問に入りますから・・・」 委員長が長妻が次の質問に入る前に岸田に答弁の機会を与える。 岸田文雄「過去の例を見ても、日数がかかるからこそ、今回の案件についても、事実関係を積み上げる必要があるという問題意識から、この手続に入っているというわけであります。是非、できるだけ迅速に手続きを進めるためにも報告徴収、質問権の行使、迅速に行なっていきたいと思います」 長妻昭「これね、今の反論になっていないですね。私が申し上げているのはこの刑事に拘るわけですね、民法はダメだというふうに。そうすると、今ですね、旧統一教会の本体は刑事的な確定判決ってないんです、今。周辺ではありますよ、周辺の団体には。だから、一から今やると、何年もかかると言わざるを得ない得ないですね。ですから、本気度が問われるっていうことを言ってるわけです。 角度を変えて、次、質問に入りますが、統一教会関係のですね、ネットでの会議とかいうところの発言録が流出報道がございました・・・・」 |
文科相の永岡桂子は何のために答弁に立ったのだろう。岸田文雄が既に答弁しているほぼ同じ内容を役人の書いた原稿を読み上げただけで、野党議員が制止しようと立ち上がって委員長席に近づいたが、強引に最後まで読み上げて引き下がっていった。
最初に「実定法規」という言葉が何度も出てくるが、ネットで調べてみると、「実定法」という表記で意味・説明がなされている。【実定法】「慣習や立法のような人間の行為によってつくりだされ、一定の時代と社会において実効性をもっている法。制定法・慣習法・判例法など」(goo辞書)
要するに実定法とは国会が制定した成文化された法律である制定法(憲法、刑法、民法、その他その他――国会の決議を経て制定される法規範である「法律」に当たる)から共通する成文は持たないものの、社会的に、あるいは地域によって一定の拘束力を持つ生活習慣上の決まり事や判例等をを指すことになる。
長妻が岸田文雄に「解釈変えたんですか」と言っていることは、解散請求要件の法令違反には刑法も民法も入っていたが、民法除外、刑法限定へと解釈変更したのかの意味を取ることになる。明覚寺解散もオウム真理教解散も刑事裁判であって、民法の法令違反を要件とし、解散命令を出した民事裁判が一度もないということからの刑法限定ということなら、民法除外は政府側の元々の原則と言うことになる。長妻は民法除外を不当としているのだから、この原則をストレートに否定すべきを、否定できずに、逆にこの原則に則る場合の事態を想定、統一教会本体に刑事の確定判決が出ていないから、本体への解散請求はできないことになると、その障害を繰り返し訴えることしかできない。政府側の解釈変更を願っても、跳ね返されるだけで、それがハードルとなる以上、別の攻めどころを探って、戦法を変えるということもしなければならないのだが、解釈変更の追及に重点を置いていて、柔軟な攻め手を見せることができなかった。裏を返すと、追及に臨機応変さや柔軟性を欠いていた。結果、時間のムダとなり、カエルの面に小便程度の追及しかできなかった。
大体からしてこの解散請求の要件について「ずっと何十回と」行った野党ヒアリングをいつ頃から始めて当該国会質疑にまでどのくらいの期間を経ているのかは分からないが、この期間内にこの手の役人の理論を打ち破ることができなければ、首相以下の閣僚が野党からの質問通告を受けて、通告された質問に添って役人が答弁原稿を作成、首相以下の閣僚がその原稿を読み上げることで答弁とすることが主流となっている国会質疑の構造から言って、望みの答弁を手に入れることは先ず不可能なことを弁えなければならなかったが、弁えることができず、役人の理論の打開を岸田に求めようとしたから、野党ヒアリングと同じ展開を招く時間のムダを費やすことになった。
岸田文雄の答弁が示している旧統一教会に対する解散の認定要件は、平成7年(1995年)に東京高等裁判所が行ったオウム真理教に対する解散命令判決に対してオウム真理教がその判決を不服とする抗告を最高裁判所に行い、平成8年(1996年)に最高裁判所は抗告棄却を決定、オウム真理教の解散が確定、この経緯に於ける東京高等裁判所が示した解散事由を参考に解散の認定要件とする姿勢を取っている。
解散の認定要件
1. 法人の代表役員が法人の名の下で取得した財産や人的・物的組織等を利用して行った行為であること
2. 社会通念に照らして当該法人の行為であると言えること
3. 刑法等の実定法規の定める禁止規範、または命令規範に違反するものであること
これらの行為・違反を解散の決定要件とする条件
1.著しく公共の秩序を害すると明らかに認められる行為であること
2.宗教団体の目的を著しく逸脱したと認められる行為であること
3.両行為が客観的事実として明白であること
以上であるが、岸田は「刑法等の実定法規、このように記されております。これをどう解釈するのか」と「刑法等の実定法規」の文言を二度持ち出して、解釈が決まっていないかのような態度を見せるが、東京高裁の宗教法人オウム真理教解散命令事件判決を旧統一教会解散請求の判断基準にすると決めている以上、「どう解釈するのか」は決まっていなければならない。事実最終的には「仰ったように民法の不法行為、これは入らないという解釈であります」と答弁しているのだから、刑法のみの法令違反を解散請求の判断基準としていて、民法の法令違反は解散請求の判断基準としていないことがはっきりとすることになる。
対して長妻昭は最後の抵抗(最後の足掻き?)を見せて、「法律(=宗教法人法解散請求第81条)には『法令』って書いてあるんです。別に民法も刑法も何も書いてないんです。それで、それも今の判例も、オウムの判例なんです。刑事的事件の判例に書いてあっただけの話なんで、そういう解釈に固執する限りですね・・・総理の本気度が問われます」云々と抗議するが、文字解釈の妥当性に正面からぶつかるのではなく、岸田文雄の本気度のレベルで文字解釈を網にかけるようでは長妻昭自身の本気度が問われる追及の程度となりかねない。結局のところ、文化庁の課長相手に野党ヒアリングを「ずっと何十回と」やってきたも関わらず、課長の発言から一歩も出ない結末を手にしただけで終わることになった。追及に時間を掛けたが、何の成果も見い出すことができなかった。何のことはない、攻めどころを間違えただけである。
長妻昭は東京高等裁判所が判決で示したオウム真理教解散の認定要件のうちの「刑法等の実定法規の定める禁止規範、または命令規範に違反するものであること」の「実定法規」の種類、「刑法等」に関して、「『等』の中には」とまで発言したものの、「等」という言葉の意味の解釈に特化して攻めるのではなく、「『等』に民法の組織的不法行為は入るという解釈を変えてやるんですね」と政府側の民法除外の解釈変更路線を自分の方から既成事実となっているかのような見当違いの問題意識を見せてまでいる。言葉の意味の解釈に特化して攻めていたなら、このような問題意識を見せることはない。生ぬるさだけが目立つ。
「等」の言葉の意味は、「同種のものを並べて、その他にもまだあることを表す」(goo辞書)であって、つまり「刑法等」とは刑法に限ったことではなく、社会秩序を維持するための強制的な法規範という点で同種ものとなる民法、その他をも含んで「刑法等」と表記していることになるのだから、そのことに留意した追及に重点を置くべきを、それができなかった。この手の凡ミスは今に始まったことではない。
宗教法人法第81条解散請求の第1項で要件としている、〈法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。〉の「法令」という言葉の意味は既に触れたように、国会の決議を経て制定される法規範である「法律」と、国会の決議を経ないで行政官庁が制定する法規範である「命令」を合わせた表記となっている以上、「法令」のうちの「法」は刑法のみならず、民法、その他を含むことになるだけではなく、裁判所の宗教法人に対する法律違反に基づいた強制解散命令は宗教法人法第81条解散請求の条文を基礎として判決文が構成されることになる関係から、第81条2項の「法令に違反して」の「法令」は東京高裁判決で示した解散の認定要件の一つ、「刑法等の実定法規の定める禁止規範、または命令規範に違反するものであること」の「刑法等」と対応関係を取ることになることからも、「等」が刑法のみに限定しない、民法、その他も含む言葉、あるいは単語であることの証明としなければならない。
もし東京高等裁判所が刑法のみの法律違反に限定して「刑法等」の言葉を使っていたのだとしたら、宗教法人法第81条2項の「法令に違反して」の「法令」も刑法のみに限定していることになっていて、それを受けた意味限定と言うことになり、言葉の使い方として奇妙な不整合を発生させることになるし、全ての国語関係の辞書の「法令」なる単語の意味を、〈国会の決議を経て制定される法規範のうちの「刑法」と、国会の決議を経ないで行政官庁が制定する法規範のうちの刑法関連の「命令」を指す。〉と書き改めなければ、不整合は解けないことになる。
似たようなことを言うが、長妻昭は野党ヒアリングでの文化庁の課長相手の「ずっと何十回」を岸田文雄相手に繰り返したに過ぎなかった。不毛と言うだけで、時間を掛けたことに反して何の発展もない時間のムダそのものだった。
岸田文雄は2022年10月18日の衆院予算委での長妻昭に対する解散要件「民法の不法行為は入らないとの解釈」は翌日10月19日の参院予算委員会では小西洋之に対して「民法の不法行為も含まれる」と答弁変更することになった。このことを以って長妻昭が答弁変更のキッカケを作ったのは自分だと思ったとしたら、もはや救いようがない。小西洋之にしても岸田の答弁変更を「衆議院での質疑に敬意を表しながら」と長妻の追及がさもキッカケになったとばかりに花を持たせているが、小西洋之自身が厳しい追及の目を欠いていたから、このような評価が口をついただけのことであって、結果的に仲間内を持ち上げる独り善がりなお門違いの形を取ったに過ぎない。
両者の追及が余儀なくさせた軌道修正ではなく、岸田文雄が自分から軌道修正した答弁変更に過ぎない。言葉の厳格な意味解釈に照らすと、元々から民法も含まなければならない宗教法人法第81条解散請求の建付けとなっている。この元々からをそのとおりだと認めさせることができなかったのだから、たいした追及であるはずはない。大体が刑事上の犯罪行為と民事上の不法行為それぞれを比較して、どちらがより悪質かと答を出そうとすること自体が間違った判断であって、刑事上の犯罪行為はそれぞれの犯罪行為との比較で、民事上の不法行為はそれぞれの不法行為との比較で悪質性の程度を判断すべきであることは自明の理であろう。民事上の不法行為の中でも旧統一教会の霊感商法の遣り口と収奪金額や強制献金の遣り口、その金額を一覧すれば、特にその悪質性の程度は飛び抜けていることが簡単に理解できる。もし岸田政権が解散請求要件とする法令違反を民法除外・刑法限定としたなら、旧統一教会の悪質性を遣り過すことになる。あるいは問題視していないことになる。長妻昭にしても、小西洋之にしても、こういった点すら、追及できなかった。
小西洋之は10月19日の参院予算委員会で岸田文雄が「民法の不法行為も含まれる」とした軌道修正に向けて軽く笑いながら「朝令暮改にも程がありますよね」とそのレベルの受け止め方をしているが、軌道修正に対して踏み出す方向を間違えている。首相答弁に対するこの程度の嗅覚、この程度の食いつき方では「立憲は批判ばかり」の評価から抜け出すのは容易ではない。
では、小西洋之の追及が長妻昭同様に如何に時間のムダ、冗長なだけで、カエルの面に小便程度の国会追及であったかどうか、その質疑応答を見てみることにする。
2022年10月19日参議院予算委員会 小西洋之「小西洋之です。統一教会の問題から質問を致します。昨日の衆議院の審議で岸田総理は宗教法人法の解散命令の要件には不法行為責任などの民法違反は該当しないと繰り返し明言をしました。これこそこの4月以来、私たち立憲民主党が追及をしてきた自民党と旧統一教会の癒着の成れの果てであり、またその癒着の構造の結晶ともいうべき暴挙でございます。 これから具体的に証拠を以って民法排除の解釈が宗教法人法に違反する違法な解釈行為であったと立証し、厳しく追及致しますが、その前に念の為に最後の機会をご提供申し上げますが、岸田総理、宗教法人法の解散命令の要件に不法行為責任などの民法違反は該当しないという政府答弁を撤回修正するお考えはありませんでしょうか」 岸田文雄「ご指摘のように宗教法人法の解散命令の要件として東京高等裁判所で示した刑法等の実定法規の定める禁止規範、または命令規範について民法上の不法行為は入らないと答弁致しましたのは、この決定の内容についてのお尋ねがありましたので、これまでの考え方を説明したものであります。これまでは東京高等裁判所決定に基づき『刑法等の実定法規の定める禁止規範、または命令規範』は刑法など、罰則により担保された実定法規の典型例と解してきたところであります。 この点につきまして政府に於きましても改めて関係省庁が集まりまして議論を行いました。そして昨日の議論も踏まえまして改めて政府としての考え方を整理させて頂きました。ご指摘のこの東京高等裁判所の決定、これはオウム真理教に対する解散命令という個別事案に添って出されたものであります。一方、旧統一教会については近時、法人自身の組織的な不法行為責任を認めた民事判決の例があることに加えて、法務省の合同相談窓口に多くの相談が寄せられ、中には法テラス(日本司法支援センター)や警察などに紹介されていることを踏まえて、報告徴収、質問権の行使のあり方について詰めの作業を行っているところであります。 それによって政府としましては今後これらの事実関係を十分分析の上、東京高裁決定に示されている内容を参考に行為の組織性や悪質性・継続性などが認められ、宗教法人法に定める法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為、または宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたと考えられる場合には個別事案に応じて解散命令の請求について判断すべきであると考えております。 よって、政府の考え方を整理した上で行為の組織性や悪質性・継続性などが明らかとなり、宗教法人法の(解散命令の)要件に該当すると認められる場合には民法の不法行為も入りうると考え方を整理した次第であります。改めて政府の考え方を整理した上で答弁させていただきます」 小西洋之「あの、今、岸田総理から明確にですね、宗教法人法の(解散命令の)要件が該当すると仰って頂いたことをもう一度あとで確認し致しますけども民法の不法行為責任については、によって宗教法人法の解散命令の請求ができると。それは宗教法人法の法律解釈としてできるという政府見解でよろしいでしょうか」 岸田文雄「はい、個別事案に応じてすべきである。結果としてご指摘のように民法の不法行為も該当する。このように政府としては考え方を整理させて頂きました」 小西洋之「まあ、私も12年間、国会議員をしていますけども、朝令暮改にも程がありますよね。(軽く笑ってから)まさに癒着構造のですね、冒頭に申し上げた、自民党政治と旧統一教会の癒着構造の名笑撃(?)、それも成れの果てだと思うんですが、しかし今の総理の答弁変更、解釈変更、というのは解釈の修正・撤回だと思いますが、それは被害者、あと国民、また日本の法の支配のために非常に重要な一歩だと思います。 あの、これから質問させて頂きますけども行使されるという宗教法人法の質問権などを直接に行使頂くためには今の政府のお考えというのはもう少しきちんと確認させて頂く必要があります。総理は今の説明の中で東京高裁の決定に示されている内容を参考にと仰いました。あくまで政府としては東京高裁の決定で示されていると政府が理解している宗教法人法の解釈、政府の解釈ですね、それは重要なものであって、それについては縛られる。あるいはそれを踏まえて行われると、そういう理解でよろしいでしょうか」 岸田文雄「宗教法人法に基づく事案の判例がありますので、政府と致しましてはその東京高裁の決定につきましては参考にさせて頂く。しっかりと基本的な考え方に於いて参考にさせて頂く。それは当然のことであると思います。ただ、それぞれ個別事案に応じて状況、そして事態は様々でありますので、旧統一教会の事案につきましては現状をしっかりと把握した上で法律を適用していきたい、こうした考え方を整理した次第であります」 小西洋之「あの、81条の解散命令の要件を政府はどう認識するかはですね、質問権を適切に行使して、私は解散命令の請求は直ちに行うことは法律的にできるし、しなければいけないというふうに考えておりますけども、被害者救済、被害防止のために極めて重要でございます。ですので、政府の81条の解散権の解釈ですね、条文の81条の解釈というものをしっかりと確認させて頂きたいと思います。 今フリップを掲げさせて頂いたのは解散命令の要件、この法令に違反しているということは、これがキーワードでございます。
『法令に違反して』と言うのをきのうまで岸田総理は『民法は入らない』言っていたのですが、今入るというふうに言い始めたわけでございます。ところが一つ目の文字の塊でございますけども、昭和31年の国会答弁でございますが、『この法令に違反して云々というような文言は』、『他の一般のいろいろな法規に違反するという場合をさしているわけであります』。『他の一般のいろんな』ですから、総理よろしいですか、全ての法令が入るわけです。その証拠にその下の文字の塊、赤い部分でございますけども、これは宗教法人に関する宗務行政(?)ですね。文化庁にも務められ、国会答弁もなさっていた、文化庁の元職員の方が書いた逐条解説。文化庁でこれを基に実務をやっていると言われている、いわゆる法令解釈の虎の巻でございますが、そこにはこう書いてあります。『「法令」とは、宗教法人法はもちろん、あらゆる法律、命令・条例などを指す』というふうに言っているわけでございます。そしてつまり違法行為をやっている場合、役員だけではなくて、職員も違法行為を行っている場合のことを指すんだというふうなことを言っているわけでございます。
これは今フリップでお示しいているところですが、解散命令、81条の解釈を東京高裁の決定で述べているところでございます。先ず、なぜこういう制度を作るのかその理由・目的についての裁判所の判断がございます。一つ目ですけれども、『宗教団体が・・・一夫多妻、麻薬使用等の犯罪や反道徳的・反社会的行動を犯したことがあるという内外の数多くの歴史上明らかな事実に鑑み、』、キーワードはよろしいですか、『犯罪』ですね。岸田総理はどう言っていたか、刑罰ですよ。『犯罪』、ただ犯罪ではない『反道徳的・反社会的行動』。例えば詐欺とか一夫多妻というのは民法違反になるんですね。 |
小西洋之は岸田文雄が前日衆院予算委の答弁どおりに宗教法人法第81条解散命令1項解散要件に民法の法令違反は除外し、刑法の法令違反のみを対象とするとの答弁を予定して、追及を組み立て、質問通告しておいたのだろう。ところが予定に反して岸田文雄が民法の法令違反除外を撤回、対象内とする軌道修正を図った。当然、民法の法令違反除外は誤りだったことになる。単なる錯誤による間違いか、解釈の間違いか、どちらの間違いであっても、間違うこと自体が旧統一教会の問題が世間を騒がしている関係から、行政として旧統一教会の問題に向き合う姿勢の真摯さが問われることになる。
そこで小西洋之としては宗教法人法第81条解散請求がなぜ刑法の法令違反のみを対象とし、民法の法令違反は除外する誤った判断に至ったのか、その根拠と経緯と、さらに刑法の法令違反のみならず、民法の法令違反をも対象内と判断するに至った軌道修正の詳しい根拠と経緯を追及して、行政として旧統一教会の問題に向き合う姿勢の真摯さの程度を問い詰め、真摯さの程度に応じた責任を問わなければならなかった。
例えば小西洋之はフリップで示した1956年(昭和31年)6月3日の衆議院法務委員会国会答弁ではあらゆる法律違反を含めているが、旧統一教会の法律違反関して昨日までは刑法に限り、民法を除外するとした根拠・理由は何なのかと追及することもできた。
だが、小西洋之の追及はそういった方向に進まずに軌道修正を「被害者、あと国民、また日本の法の支配のために非常に重要な一歩だ」と歓迎し、今日の冒頭の答弁で既に過去のものとした民法の法令違反除外・刑法の法令違反のみ対象の政府見解を相手に国会答弁や東京高裁判決、逐条解説、法人法第81条の条文を用いて、それぞれの見解や文字解釈から言って民法の法令違反も含まれるんだと後追いで講釈する馬鹿丁寧を費やし、そのたびに岸田文雄から民法の法令違反に加えて「組織性・悪質性・継続性などが明らかであり、宗教法人法の要件に該当する場合」と条件追加を受け、それが5回まで繰り返させている。基本の条件は原則となるものだから、言質を取るにしては繰り返しが多過ぎ、時間のムダで、甲斐のない努力としか言いようがない。特に「これから具体的に証拠を以って民法排除の解釈が宗教法人法に違反する違法な解釈行為であったと立証し、厳しく追及致しますが」と勇ましく前置きしたものの、この点に関しても"厳しい追及"とはなっていなかっただけではなく、民法の法令違反除外は誤った政府解釈だった、なぜこのような誤った判断に立つことになったのか、そのように追及する方向に進ませる意図を全然示すことはなかったのだから、切れ味も何も感じることはできなかった。
このように中身のない追及ではあったものの、早口に次々と言葉を繰り出す能力は目を見張るものがあり、結果的に小賢しさだけが目立ったのは当方だけの印象なのだろうか。この小賢しさは東京高裁がオウム真理教解散命令事件判決で宗教法人の違法行為の例の一つとして挙げたに過ぎない「一夫多妻」を持ち出して、旧統一教会の解散問題とは何の関わりもないにも関わらず、「事実上の一夫多妻をやっているのは日本にもいらっしゃって、テレビでも登場されていますけども、刑罰ないんですよね」と如何にも物知りふうに余分な事柄にまで手を突っ込む点に典型的に現れている。
岸田文雄が刑法のみの法令違反を解散要件に位置づけた理由を、「これまでは東京高等裁判所決定に基づき『刑法等の実定法規の定める禁止規範、または命令規範』は刑法など、罰則により担保された実定法規の典型例と解してきたところであります」とその根拠を述べ、同じ趣旨のことをもう一度繰り返している。但し前日の長妻昭に対しては、同様のことは述べていない。宗教法人オウム真理教解散命令事件は刑事裁判だから、オウム真理教が犯した「禁止規範又は命令規範違反」は必然、刑法上の違反を示していることになり、刑法という「実定法規の典型例」として現れることになるが、だからと言って、刑法に限ったことにしたなら、東京高等裁判所が判断とした「刑法等」とする言葉の使い方は矛盾することになる。なぜなら、「実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反」したことに基づいて与える罰則自体は、対象とする犯罪行為に違いはあっても、刑事、民事共通の裁判行為であって、刑事、民事いずれか一方の裁判行為とすることはできないし、「実定法規」という言葉自体が刑法も民法も、その他の実定法も含む言葉遣いとなっているからである。
当然、東京高等裁判所は「刑法等」の「等」の言葉を使うことによって罰則は刑法の「禁止規範又は命令規範違反」のみに与える性格のものではないことを世間に知らしめたことになり、岸田政権が2022年10月18日の衆議院予算委員会の時点まで民法の法令違反は宗教法人の解散請求要件には含めないを政府見解としていたことは誤った判断だったということだけではなく、旧統一教会の巧妙な霊感商法を受けた高額商品の売付け被害や高額献金被害に対する政府の解決姿勢の熱心さに関係することになる言葉の解釈、論理の解釈の能力の問題に帰すことになり、誤った判断とこの能力の問題が信者の被害救済の遅れを生じさせていることは十分に予想できる。それ相応の責任問題が生じるはずだが、小西洋之は宗教法人の解散要件に民法の法令違反も対象となることの論拠の提示のみに熱心で、民法の法令違反除外が信者の被害救済の遅れを生じせしめていた可能性とそのことの責任問題にまでは注意を払うこともなかった。
また、岸田文雄が軌道修正の経緯を「政府に於きましても改めて関係省庁が集まりまして議論を行いました。そして昨日の議論も踏まえまして改めて政府としての考え方を整理させて頂きました」と述べているが、どのような「議論」を行った結果、刑法の法令違反のみを対象とし民法の法令違反を除外としてきたことは誤った判断であり、刑法の法令違反と共に民法の法令違反を加えることが正しい判断だと「整理」することになったのか、その顛末を聞き出し、明らかにしなければ、野党議員の立場からの政府追及者としての資格はないに等しい。小西洋之はその資格もなく、国会質疑の場に立っていたことになる。
このことは小西洋之一人だけのことではなく、長妻昭にも同じことが言えるし、他の野党議員も似たり寄ったりの立場にいると言える。そしてこの程度の追及者に国会議員としての資格を与え、それ相応の給与を税金から支払っている。