安倍晋三の3年間でインフラ集中国土強靭化対策を"近年"の激甚災害への備えとする無責任

2018-11-30 12:09:25 | 政治
                                     

 11月27日(2018年)に首相官邸で第2回重要インフラの緊急点検に関する関係閣僚会議が開催され、安倍晋三が発言している。

 「首相官邸サイト」

 安倍晋三「近年、災害が激甚化する中、国民の命を守る防災・減災・国土強靱化を進めることは重要かつ喫緊の課題であると痛感しています。このため、重要なインフラが災害時にしっかりとその機能を維持できるよう、洪水や土砂災害対策のためのインフラのほか、災害時に拠点となる病院など防災のための重要インフラについて、また電力や交通インフラのほか、水道や食料に関する施設など国民経済、生活を支える重要インフラについて、総点検を実施し、本日取りまとめました。

 この総点検の結果などを踏まえ、特に緊急に実施すべきものについて、達成目標、実施内容、事業費等を明らかにした防災・減災・国土強靱化のための3カ年緊急対策として年内に取りまとめます。国土強靱化基本計画にも位置付けた上で、3年間集中で実施してまいります。各大臣におかれては、強靱な故郷(ふるさと)、誰もが安心して暮らすことができる故郷をつくり上げるために、総力を挙げて対策を講じるようにお願いいたします」

 「防災・減災・国土強靱化」が3年間集中実施で必要とすることの根拠を"近年"の激甚化している災害への備えだとしている。

 "近年"という言葉の意味は、ネットで見ると、「最近の数年間。ここ数年」と解説されている。どのくらいの年数を言うのかはっきりしないが、正確な年数を曖昧にすることができる便利な言葉としても使うことができる。

 より正確な年数を知るために「数年」で検索すると、「コトバンク」に「デジタル大辞泉」の解説として「2、3か5、6ぐらいの年数」と出ていた。

 最大数の「6年」を当てると、安倍晋三の「近年、災害が激甚化する中」でとの言葉が言わんとしている意味は、「ここ6年ぐらいの間、災害が激甚化している」、それゆえに「国民の命を守る」喫緊の課題として「防災・減災・国土強靱化」の3年間集中実施が必要だとなる。

 だが、ここ6年かそこらの間で災害が激甚化、あるいは大規模化してきたわけではない。そもそもからして異常気象とそれが影響した自然災害の激甚化・大規模化の原因として地球温暖化が言われ出したのはかなり前のことである。地球温暖化に関わる単語としては「鳩山イニシアティブ」とか「京都議定書」とかが頭にある。

 改めてネットで調べてみると、「京都議定書」とは国際連合のもと地球温暖化対策の枠組みを初めて定め、1994年3月に発効した「気候変動枠組条約」に基づき、1997年に京都開催の「地球温暖化防止京都会議」で議決した議定書のことだそうで、二酸化炭素等の有害物質の排出に対する各国の削減率を決めている。

 「鳩山イニシアティブ」とは地球温暖化への対策に必要な二酸化炭素の排出削減のため、民主党政権時代に首相だった鳩山由紀夫が2009年9月に提唱した構想だと「Wikipedia」が紹介している。

 と言うことは、地球温暖化は1994年以前から言われ出していたことになる。より正確な時期は「地球温暖化って、いつから始まったんですか?」環境なぜなぜ110番 学研サイエンスキッズ)で知ることができる。

〈温暖化を最初に指摘したのはスウェーデンの科学者スパンテ・アレニウス。1889年にこのまま二酸化炭素が増え続けると地球の気温が上がると発表しているが、まだそれほどしんこくな問題とはみとめられなかったんだ。

1970年代になって大気の研究が進み、温暖化のしくみが科学的に研究され始め、研究者たちが注目するようになった。

そして、温暖化が世界的な問題となって発表されたのは1985年。オーストラリアのフィラハで地球温暖化を考える初めての世界会議が開かれたのが最初。

1988年に、カナダのトロントで開かれた世界会議では40数か国の研究者や政府関係者が集まり、二酸化炭素の排出をおさえるための具体的な目標などをかかげたんだ。

この年には、温暖化問題を調査する機関・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も設立された。

地球温暖化が始まったのは1850年ごろだけれど、しんこくな問題としてとりあげられ、人々が注目するようになったのは1980年代後半ぐらいからだね。〉――

 地球温暖化が始まったのは1850年頃からで、深刻な問題として取り上げられ、人々が注目するようになったのは1980年代後半ぐらいから。・・・・・

 地球温暖化由来の異常気象によって大雨、洪水、台風やハリケーンの異常発生、海水面の上昇等々、地球を変質させていく様々な悪影響が指摘されるようになっ
た。

 第2次安倍政権の自然災害対策について言うと、2013年12月に「国土強靭化基本法」を制定している。そしてその前文で、〈我が国は、地理的及び自然的な特性から、多くの大規模自然災害等による被害を受け、自然の猛威は想像を超える悲惨な結果をもたらしてきた。我々は、東日本大震災の際、改めて自然の猛威の前に立ち尽くすとともに、その猛威からは逃れることができないことを思い知らされた。〉ことからの大規模自然災害等に対する国家危機管理として、〈今すぐにでも発生し得る大規模自然災害等に備えて早急に事前防災及び減災に係る施策を進めるためには、大規模自然災害等に対する脆弱性を評価し、優先順位を定め、事前に的確な施策を実施して大規模自然災害等に強い国土及び地域を作るとともに、自らの生命及び生活を守ることができるよう地域住民の力を向上させることが必要である。〉云々と国土強靭化の必要性を謳っている。

 この法律に基づいて国土強靱化基本計画を策定、3年間で15兆円の追加投資の方針を決めたと言う。

 この「国土強靭化基本法」は2013年12月制定だから、それ以降の激甚化・大規模化していく自然災害への対策だと言うことなら、それから5年、2013年12月まで遡って発生した自然災害を"近年"の内に入れた対策だとするのは一見、正当性を得るように見えるが、1980年代後半ぐらいから地球温暖化が異常気象や大規模な自然災害をもたらす原因として人々が注目するようになっている以上、そのことまで考えて、対策そのものは"近年"の自然災害を対象とした事前防災及び減災であってはならないはずだ。

 大体からして東日本大震災は約1100年前の869年(平安時代前期の貞観11年)に発生した想定地震規模マグニチュード8.3以上、同じ三陸沖を震源としてい
る貞観地震の再来と言われている。(Wikipedia) 東京電力は2008年に貞観地震を参考に巨大地震時の津波規模を試算、福島第1原発の5~6号機に来る津波が10.2メートル、防波堤南側からの遡上高は15.7メートルという結果を纏めた(「日経電子版」(2011/8/24))たが、その対策を怠った。

 こういった事態も、"近年"の自然災害を対象とした事前防災及び減災であってはならない例となる。いわば事前防災及び減災等を柱とした国土強靭化は"近年"の自然災害を対象とした備えとするのではなく、災害大国日本を構成してきた遠い過去から"近年"までの自然災害を対象とした対策でなければならない。

 だが、安倍晋三の意識は"近年"の自然災害を対象とした備えとなっている。そのことを対象とした備えとしている以上、対象そのものの"近年"の自然災害に対して、いわば2012年12月第2次安倍政権発足以降の自然災害に対して自身の政権下の起きているにも関わらず、自身を責任外に置くメリットが生じる。

 無責任だから口から出てきた"近年"の言葉であるはずだ。責任感が強かったなら、遠い過去の大規模自然災害のみならず、世界中に発生している大規模自然災害まで視野に入れた言葉を口にしていただろう。

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安倍晋三の対ロシア北方四島不法占拠説曖昧化は歯舞・色丹二島返還のみで終わらせる意図からか

2018-11-29 12:05:32 | 政治
                                     
 北方四島に対する日本の基本的立場は次の外務省サイトに記載されている。文飾は当方。

 「日本の領土をめぐる情勢 北方領土」(外務省平成28年5月17日)

 日本の基本的立場

(1)北方領土は、ロシアによる不法占拠が続いていますが、日本固有の領土であり、この点については例えば米国政府も一貫して日本の立場を支持しています。政府は、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するという基本的方針に基づいて、ロシア政府との間で強い意思をもって交渉を行っています。

(2)北方領土問題の解決に当たって、我が国としては、1)北方領土の日本への帰属が確認されるのであれば、実際の返還の時期及び態様については、柔軟に対応する、2)北方領土に現在居住しているロシア人住民については、その人権、利益及び希望は、北方領土返還後も十分尊重していくこととしています。

(3)我が国固有の領土である北方領土に対するロシアによる不法占拠が続いている状況の中で、第三国の民間人が当該地域で経済活動を行うことを含め、北方領土においてあたかもロシア側の「管轄権」に服したかのごとき行為を行うこと、または、あたかも北方領土に対するロシアの「管轄権」を前提としたかのごとき行為を行うこと等は、北方領土問題に対する我が国の立場と相容れず、容認できません。  したがって、日本国政府は、広く日本国民に対して、1989年(平成元年)の閣議了解で、北方領土問題の解決までの間、ロシアの不法占拠の下で北方領土に入域することを行わないよう要請しています。

(4)また、政府は、第三国国民がロシアの査証を取得した上で北方四島へ入域する、または第三国企業が北方領土において経済活動を行っているという情報に接した場合、従来から、しかるべく事実関係を確認の上、申入れを行ってきています。

 つまり北方四島は日本固有の領土であり、現在旧ソ連から始まるロシアによって「不法占拠」された状況にあることをロシアに対する日本の基本的立場としている。

 と言うことは、当たり前のことだが、日本政府は北方四島が日本固有の領土であることとロシアが北方四島を「不法占拠」していることとは相互的な一体性を持たせた関係として把握していることになる。前者が否定されれば、後者も否定される。後者が肯定されることによって前者も肯定され得る。

 当然、北方四島を日本固有の領土であるとする限り、この一体性は表裏一体の確固たるカードとして扱い、決して切り離すことはできない。「不法占拠」であることを否定した場合、否定とまでいかなくても、日本の基本的立場から外した場合、北方四島を日本固有の領土とすることも日本の基本的立場から外す危うさを抱えかねない。

 極端なことを言うと、もし「不法占拠」だとするカードを取り下げた場合、北方四島は日本固有の領土であるとするカードの正当性は根拠を失うか、あるいは根拠を弱めることになり、逆に「北方四島は第2次世界大戦の結果ソ連領となった」とするロシア側のカードの正当性を強めることになる。

 にも関わらず、2018年11月26日衆院予算委で無所属の会幹事長の大串博志との質疑応答で安倍晋三はこの「不法占拠」なるカードをプーチンとの領土交渉を進めるために曖昧化する戦術に出た様子が否応もなしに浮かび上がることとなった。
 
 このことは1956年の日ロ共同宣言に基づいた歯舞・色丹の二島返還交渉に関係することなのだろか。

 大串博志「日ロ、北方四島に関して質問させて頂きたいと思います。私、超党派議員連盟、北方領土返還促進として、四島交流促進の超党派の議員連盟の仕事をさせて頂いております。会長は岸田文雄(自民党)政調会長さんです。私はそこで幹事長をさせて頂いおります。

 まあ、四島返還、これは日本の国民全体の、私は願い、思い、そして決意だというふうに思います。先程の総理の答弁を聞いていると、大変不安になった感じが致しました。多く国民の今回のプーチン大統領との合意に関してそう思ってるんじゃないかと思います。

 端的に総理に基本的な認識を総理に聞かせて頂きたいと思いますが、北方四島は現在ロシアに不法占拠された状態にある、こういう認識でよろしゅうございますね」

 安倍晋三「政府の法的立場には変わりはないということでございます」

 大串博志「あのー、はっきり言ってください。北方四島は現在ロシアによって不法占拠されている状態にある。この認識でよろしいですね。総理」

 河野太郎「これから日ロで交渉しようとするときにですね、政府の考え方ですとか、交渉の方針ですとか、内容というものを対外的に申し上げるのは日本の国益になりませんので、今一切、差し控えさせて頂いているところでございます。ご了解を、理解を頂きたいと思います」

 大串博志「これね、大問題の答弁ですよ。これまで累次の政府答弁に於いての北方領土、北方四島はロシアに於いて不法占拠されてると、いうことを
政府の答弁書でも累次、確認してこられている。日本の北方四島を交渉する、北方四島問題を交渉するに於いても一番基本的なポジションなのです。それを蔑ろにしてしまうんですか。

 今の外務大臣の答弁でいいんですか、総理。もう一回総理」

 安倍晋三「えー、北方領土はですね、我が国の主権を有する島々であります。この立場に変わりはないというところでございます」

 大串博志「不法占拠をロシアによってされているのかどうか、この一点なんです。お願いします。(河野太郎が答弁に立とうとする)総理ですよ。なぜ総理が答えられないんですか。『交渉をやっているのは私なんです』とさっき総理は仰ってるんですから」

 河野太郎「これから日ロの機微な交渉やろうというときに先程総理からも答弁がありましたけども、場外乱闘になることは日本にとって決してメリットはありません。様々なことについての交渉は交渉の場の中で行いますので、交渉の外で日本の政府の考え方、方針、そういったものを申し上げれば、当然、ロシア側もそれに対してコメントをしなければならなくなり、場外乱闘になります。それは日本にとって決してメリットにならないことをご理解を頂きたいと思います」

 大串博志「これまで交渉をずっとやってきておりました。その中で政府は累次の政府答弁、あるいは政府答弁書の中でも、北方四島はロシアが今不法占拠しているんだということを言われてこられたんです。交渉に影響があるから、こちらの立場を言わないとなると、つまりこちらの立場が譲歩した立場から議論し始めていると言わざるを得ないじゃないですか。だから、心配してるんですよ。

 この点はね、総理は(19)56年の日ソ共同宣言を基礎として議論を加速させることを合意したというふうにプーチン大統領と今度は合意されたことも、私は非常に心配するところに繋がっていくと思います。それはなぜかと言うとですね、その後も、56年以降も日ソ間、日ロ間では領土問題に関して色んな交渉を積み重ねて、日本の立場を向こうに述べられてきているんです。

 北方四島の領土問題、帰属の問題、四島に関して帰属の問題を解決して、平和条約を解決するということ。総理は先程、日本の立場だとおっしゃいましたけど、日本の立場だけではないんです。

 (19)93年の『東京宣言』に於いては日ロの合意事項として紙にちゃんと書かれている。北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結すると、日ロの合意事項として書かれているんですよ。

 今回のプーチンとの合意事項の中には北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を結ぶという合意はなされていないのですか」

 安倍晋三「今までの日ソ間を含めて日ロ間の交渉をずっと見ておりますとね、確かにこちらの立場、主張というのは変わっておりません。ただ国会での遣り取りが原因となってですね、交渉が止まったことは実はあるんです。ご承知のとおりだと思いますよ。

 ロシアの中にもですね、この平和条約交渉については実は進めたくないと言う方がたくさんおられるのは当然だと思います。実際にはそこにロシア人が今住んでいるわけであります。そういう、いわばこの現状にある中で私たちは今、私たちの正当性を主張し、えー、これに挑戦しているわけであります。

 そこで新たなアプローチとしてはですね、今まで過去に囚われて、お互いを非難し合うのはやめようということなんですよ。四島の未来を共に描きながらですね、解決策、お互いが受入れ可能な、お互いが受入れ可能なですね、交渉ですから、私たちの主張をしていれば、それで済むということではないんです。目一杯主張していればいいということでは、それで何十年間、全然変わらなかったのは事実であります。

 ですから、今やるべきことは私たちは両国が受入れ可能な解決策に至るということだろうと思うわけでございます。そこで今、例として言われた、93年の東京宣言、そして2001年のイルクーツク宣言、イルクーツク宣言のときは私は官房副長官として森総理と共にイルクーツクに行っておりましたが、交渉の過程から知っております。

 これも勿論、重要な文書であります。同時に、では何で今度、えー、1956年の共同宣言を基礎としてということにしたかと言えばですね、これはまさに両国の議会が、これは承認、批准をしている、これは唯一の宣言であるわけであります。で、そこで我々はこっから始めよう、この56年宣言ですらですね、向こうも
(聞き取れない。ソ連側の批准が手間取ったということか?)長い期間もあったというのも事実であります。プーチン大統領はまさに森総理と会談を行ったときにですね、この56年の宣言のときにもプーチン大統領としてもこれを重視するという基本的な考え方を示されている中に於いてですね、今回まさにここを、これをですね、基礎として、且つ平和条約交渉を加速させるということで合意したという意味は大変大きいと考えているところでございます。

 これはそう簡単なことではないですし、ロシアの中にでもですね、現状の中で反対する人もいるでしょうし、四島に住んでいる人だっているんですから。この人達がですね、あくまでも反対したなら、あくまでも反対したらですね、これは交渉がうまくいかない中での交渉だって言うことはご理解いただきたいとこのように思います」

 大串博志「交渉が難しいことはよく分かります。且つ新しいアプローチを考えていかなければならないこともよく分かります。ただ日本の立場を余りに弱めるような形になってしまうと、私は非常にやっぱり結果として最終的な結果が先程二島返還になるのか、(二島)先行になるのかということがありましたけど、結果が伴わないんじゃないかと、二島すら還ってこないんじゃないかと、そういう結果になるんじゃないかということを心配しているわけであります。

 加えて申しますと、先程東京宣言93年は日ロ間の合意事項として四島の帰属の問題をちゃんと四島の名前も記した上で、これを解決して平和条約を結ぶということを両方、両国間で合意しているんですよ。で、56年共同宣言が基礎、両国の議会でも承認されたと言われましたけど、それでも国交を回復するための文書ですから、国会で承認されたのは当然ですよ。それはそれでいいんです。

 ただ56年以降、日本の立場をロシアに認めさせるために色んな外交努力が行われ、そして積み上げてきた結果、得られた結果、それが東京宣言なんです。その立場を今回一気に逆戻りして、56年日ソ共同宣言にまで戻って、私はそれは日本の立場が弱まっているというふうに非常に心配している。

 東京宣言に戻るということを是非、総理にはこれからの交渉の中でも合意事項として、合意事項としてプーチン大統領との間では話し合って頂きたいと私は思います」

 消費税の問題に移る。

 1993年の「東京宣言」から平和条約締結の前提としている帰属交渉の対象としている島を見てみる。

 〈日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国関係における困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識に共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する。〉
 
 択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の全島を帰属交渉の対象としている。

では、2001年の「イルクーツク宣言」

 〈1993年の日露関係に関する東京宣言に基づき、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題を解決することにより、平和条約を締結し、もって両国間の関係を完全に正常化するため、今後の交渉を促進することで合意した。〉

 1993年の「東京宣言」に引き続いて2001年のイルクーツク宣言でも、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の全島を帰属交渉の対象とし、平和条約締結の前提としている。

 要するに大串博志が言いたかったことを纏めると、1956年の日ソ共同宣言に基づいて色丹島と歯舞群島を帰属交渉の対象とするのは1993年の「東京宣言」からも、2001年の「イルクーツク宣言」からも後退していることになるのではないか、この後退が「不法占拠」という日本の基本的立場を蔑ろにすることになり、その結果、「二島すら還ってこないんじゃないか」と心配し、「東京宣言に戻って欲しい」との願いとなったということなのだろう。

 安倍晋三はシンガポールで行われたASEAN首脳会議に合わせて11月13日(2018年)に行った通算23回目となるプーチンとの首脳会談で1956年の日ソ共同宣言に基づいて歯舞・色丹の帰属を交渉のテーブルに載せることで合意した。但しこのことが歯舞・色丹の二島に限った返還交渉なのか、二島先行返還交渉であって、この解決後に国後・択捉二島継続返還交渉に移る二段階方式なのかが当然の問題となった。

 その後安倍晋三はシンガポールからAPEC首脳会議が行われるパプアニューギニアに移動の途中、オーストラリアに立ち寄り、11月16日に内外記者会見を開き、そこで次のように手の内を明かしている。

 安倍晋三「従来から政府が説明してきているとおり、日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります。従って今回の1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるとの合意は、領土問題を解決して平和条約を締結するという従来の我が国の方針と何ら矛盾するものではありません」

 要するに歯舞と色丹二島先行返還交渉・国後と択捉二島継続返還交渉の二段階方式であり、四島全体を帰属対象としているのだと手の内を明らかにした。だとすると、北方四島が日本固有の領土であることとロシアが北方四島を「不法占拠」していることの相互的な一体性を壊さずに交渉カードとすることは問題をこじらせる恐れがあるからと曖昧にする態度は理解できるが、二段階方式であることを明確に国民に伝えなければならない。

 なぜなら、プーチンも認識し、合意していなければならない二段階方式だからである。認識と合意を経ていなかった場合、二段階方式を進める障害そのものとなる。

 プーチンが二段階方式であることの認識も合意もなくを1956年の日ソ共同宣言に基づいた歯舞・色丹二島返還交渉だとのみ認識していたなら、二段階方式はプーチンに対する詐欺となり、あとでどう言い繕っても、それは機能することなく、そうなれば、安倍晋三は日本国民ばかりか、ロシア国民に対しても詐欺行為を働いたことになる。

 詐欺の証拠となるのが11月16日のオーストラリアでの内外記者会見での安倍晋三の「従来から政府が説明してきているとおり、日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」発言であり、大串博志に対して「政府の法的立場には変わりはないということでございます」、あるいは「北方領土はですね、我が国の主権を有する島々であります。この立場に変わりはないというところでございます」との文言ということになる。

 果たしてプーチンは二段階方式だと認識していたのだろか。プーチンが2018年11月15日に首脳会談の結果についてロシアメディアの取材に答えた発言。

 プーチン「日本はかつてこの宣言を議会で批准しながら実行しなかった。しかしきのう、日本の首相がこの問題を日ソ共同宣言に基づいて協議する用意があると言ってきた。

 日ソ共同宣言には平和条約の締結のあとに2つの島を引き渡すと書かれているが、引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない。これは本格的な検討を必要とする」(NHK NEWS WEB

 この発言のどこからも二段階方式だとの認識は窺うことはできない。もしプーチンが領土交渉は安倍晋三と合意した二段階方式だと認識していながら、歯舞と色丹の交渉のみだと発言していたとしたら、二段階方式であることを誰に対しても隠していることになり、それは安倍晋三と同様にロシア国民ばかりか、日本国民に対する詐欺行為となる。

 詐欺行為を犯してまで、特にロシア国民まで騙そうとしているとしたら、プーチンにとって致命的な打撃となるだろう。

 要するに歯舞・色丹のみを帰属交渉の対象とすることで合意した通算23回目となる2018年11月13日のプーチンとの首脳会談であり、国後島と択捉島を除いているからこそ、北方四島が日本固有の領土であることとロシアが北方四島を「不法占拠」していることとの相互的な一体性を崩さざるを得ず、後者を交渉のカードとすること避ける意図が働いた曖昧化の疑いが出てくる。

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安倍晋三の移民政策:リーマンショック級不況到来時の人余り現象対応の危機管理なしなら、外国人との共生はウソ

2018-11-27 11:41:16 | 政治
                                     
 安倍政権は201811月14日、新たな在留資格創設の出入国管理法改正に基づいて人手不足が顕著な14業種での来年度からの5年間で最大34万5150人の外国人労働者受入れを発表した。以下に2018年11月14日付「毎日新聞」記事から、「見込み人数」の一覧を参考引用しておいた。

 人手不足感の多寡に対応した5年目までの「業種別受入れ見込み人数」の累計で最も多いのは介護職の5万人~6万人。次が外食の4万1千人から、5万三千人。次が建設の3万人~4万人。その次が農業の1万8千人から3万6500人。

 一般的には給与・労働時間・労働環境等の従業員満足度と人手不足数は反比例する。最も人手不足数の大きい介護職に関して、「介護サービス業従業員満足度調査」(リクルートキャリア/2017.01.23)に次のような記述が載っている。

〈介護職従事者の従業員満足度(勤めている施設に「満足している」)は45.6%。現在介護職従事者の従業員満足度が「満足・計」であれば、約8割が勤続意向あり(勤めている施設で「働き続けたいと思う」)と回答。満足度が「どちらともいえない」では3割弱、「不満・計」では1割強に低下。〉――

 そして、〈【従業員満足度の高い職場では、人材流出率が低い】〉との小見出しの文章は満足度と人材流出率が反比例していることを示している。多分、中以下の小・零細規模の介護事業所程、従業員満足度の低さからより人材流出率が高く、人手不足感がより大きい傾向にあると思われる。その人手不足がさらに人間関係の悪化や労働意欲の低下を招いて、従業員満足度を阻害していく悪循環が見えてくる。

 2017年8月5日付「日経電子版」には、〈厚生労働省所管の公益財団法人「介護労働安定センター」は5日までに、2015年10月からの1年間に全国の介護職員の16.7%が退職したとの調査結果を公表した。前年に比べ離職率は0.2ポイント悪化、全産業平均の15%(15年)も上回り、人手不足が常態化している状況が裏付けられた。〉との記述がある。

 あくまでも平均だから、一般的には規模が小さくなるに連れて離職率は高い傾向にあるはずだ。

 「介護人材確保対策 (参考資料)」(厚生政策情報センター)から次の図を載せておいた。

 断るまでもないことだが、有効求人倍率とは有効求職者数に対する有効求人数の比率であることを確認しておく。分かりやすく言うと、企業からの求人1人に対して仕事を求めている者(求職者)が何人いるかの割合を表す。有効求人倍率1が求人数と求職者数の調和が取れた状態で、人余りでもなく、人手不足でもない状況となる。有効求人倍率1以上は人手不足状況、1以下は人余り状況ということになる。

 2008年9月のリーマンショック当座、失業率が一気に高い数字を示しながら、介護分野の有効求人倍率は1を超える人手不足の状況を示している。このことは不人気業種であることの証明でもあろう。

 2009年と2010年の失業率は5.1と変わらないにも関わらず、介護分野の有効求人倍率はリーマンショック前の2.31から一気に1.48に下がっているのに対して全産業は0.44から0.48へと逆に上がっている。この状況は全産業のいずれかから介護分野への少なくない人の移動を見ることができる。この移動を読み解くと、リーマンショックによる不況で仕事を失い、生活の維持のために止むを得ない選択が見えてくる。そのために全産業の有効求人倍率が僅かに上昇して人余り状況が少し改善した。

 ところが、リーマンショックから立ち直って景気を回復していく過程で介護分野と全産業共に有効求人倍率は上昇していく。全産業の有効求人倍率は2015年に1を超えて1.20の人手不足となるが、対して介護分野は一貫して有効求人倍率が上昇、2013年に2を超えて、2.22となり、2016年には3.02まで上がって、更に人手不足の様相を強めていく。

 全産業が景気回復に連動して有効求人倍率の上昇傾向を見せるのは当然だが(但し家庭レベルの景気回復とは必ずしも連動するとは限らない)、介護分野の有効求人倍率が全産業のそれに対して一貫して2倍以上という人手不足状況は不人気業種であることを表している。
 
 待遇等に対する従業員満足度が低くて、それゆえに離職率も高く、有効求人倍率が高止まりの不人気業種である介護職の外国人材受入れ拡大策(安倍晋三の移民政策)で、5年目までの「業種別受入れ見込み人数」の累計で最も多い5万人~6万人となっている。但し今後何らかの不況に見舞われて、2008年9月のリーマンショックの不況時に極度の人余り現象から、やれ「派遣切りだ」、「雇い止めだ」、「コストカットだ」といった人減らしの情け容赦もない混乱が見られたのと同じ状況に陥った場合、日本人が優先的に人員整理の対象になるのか、あるいは外国人材が優先的なのかといった問題が起きてくる。

 優先順位によって、外国人が日本人の仕事を奪っている、あるいはその逆に日本人がだけが大事にされて、外国人は不公扱いを受けているといった非難や混乱が予想されることになる。

 リーマンショック時のように他産業から介護分野への人の移動も起きる。そのとき人手不足が解消していないことが十分に予想される介護分野にとって日本人を優先的に採用するのだろうか、あるいは外国人材を優先的に採用するのだろうか。

 外国人材優先採用の場合は日本人と同等の報酬の支払いを改正法律で義務付けていたとしても、同じ義務付けのある外国人技能実習制度で実習実施者の多くが守らなかったように人件費カットで少しでも利益を上げようとする業者の存在はなくならない実態を考えると、外国人優先採用といった事態が必然化し、外国人が日本人の仕事を奪っているといった状況に陥らない保証はない。

 あるいは日本人と同等の報酬を守っていたとしても、外国人採用を優先させて、全体の賃上げをストップさせることで人件費を抑制させる手もある。世の中全体が人余り状況となるから、賃上げストップに対して声を上げることが難しくなるしし、日本人と同等の報酬を守ることもできる。

 外国人材を受入れる以上、リーマンショックのような不況に見舞われた場合の日本人・外国人双方に対する雇用に関わる危機管理をも外国人材受入れ拡大制度(安倍晋三の移民政策)を含めた入国管理法改正案に規定すべきだろう。安倍晋三は消費税増税の条件に「リーマン・ショックのようなことが起こらない限り」との危機管理を付したが、入国管理法改正案では何も手を打たないでは不公平が生じる。謳っているところの外国人との共生をウソにする。

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安倍晋三の「幼児教育・保育無償化」の口から出任せ紛いの国全額負担の公約が17年総選挙大勝利の一端となった

2018-11-26 11:39:41 | 政治

 安倍晋三が2017年9月25日に記者会見を開き、9月28日に衆院を解散することを告げた。「安倍晋三記者会見」(首相官邸サイト)

 安倍晋三「子供たちには無限の可能性が眠っています。どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば専修学校、大学に進学できる社会へと改革する。所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たちに限って高等教育の無償化を必ず実現する決意です。

     ・・・・・・・・・・・・・

 幼児教育の無償化も一気に進めます。2020年度までに3~5歳まで、全ての子供たちの幼稚園や保育園の費用を無償化します。0~2歳児も、所得の低い世帯では全面的に無償化します。待機児童解消を目指す安倍内閣の決意は揺らぎません。本年6月に策定した子育て安心プランを前倒しし、2020年度までに32万人分の受皿整備を進めます」

 次に財源。

 安倍晋三「子育て、介護。現役世代が直面するこの2つの大きな不安の解消に大胆に政策資源を投入することで、我が国の社会保障制度を全世代型へと大きく転換します。急速に少子高齢化が進む中、国民の皆様の支持を得て、今、実行しなければならない、そう決意しました。2兆円規模の新たな政策を実施することで、この大改革を成し遂げてまいります。

 しかし、そのつけを未来の世代に回すようなことがあってはならない。人づくり革命を力強く進めていくためには、その安定財源として、再来年10月に予定される消費税率10%への引上げによる財源を活用しなければならないと、私は判断いたしました。2%の引上げにより5兆円強の税収となります。現在の予定では、この税収の5分の1だけを社会保障の充実に使い、残りの5分の4である4兆円余りは借金の返済に使うこととなっています。この考え方は、消費税を5%から10%へと引き上げる際の前提であり、国民の皆様にお約束していたことであります。

 この消費税の使い道を私は思い切って変えたい。子育て世代への投資と社会保障の安定化とにバランスよく充当し、あわせて財政再建も確実に実現する。そうした道を追求してまいります。増税分を借金の返済ばかりでなく、少子化対策などの歳出により多く回すことで、3年前の8%に引き上げたときのような景気への悪影響も軽減できます」

 消費税2%の引上げによる税収5兆円強の5分の1は社会保障の充実、5分の4は借金返済と使い途は決まっていたが、この使い途を「私は思い切って変えたい」

 だが、以上の冒頭発言からは高等教育無償化と幼児教育無償化に具体的にどの割合で振り向けるかは見えてこない。だから、質疑応答で記者が尋ねることになったのだろう。

 芳村読売新聞記者「読売新聞のと申します。

 先ほど2兆円の経済政策というお話がありましたが、財源については、消費増税の使途の変更で全て賄うおつもりなのか、また、足りない場合はさらなる国民、企業への負担増も考えられているのでしょうか。よろしくお願いします」

 安倍晋三「財源の問題でありますが、先ほどおおむね2兆円必要であるというお話をさせていただいたところであります。その中で、消費税について、この安定化財源との関係においては、おおむね半々ということになるのだろうと思いますが、それ以外、例えば党において、保険について、こども保険という議論もありました。保険でどれぐらい対応するのかどうかという議論もあると思います。保険ということになれば、企業の負担も出てくるということかもしれませんが、そうしたことも含めて、党内において具体的には議論していくことになると思いますが、大宗は消費税から充当していきたいと考えております」――

 「先ほどおおむね2兆円必要であるというお話をさせていただいた」と言っていることは「2兆円規模の新たな政策を実施する」とした"社会保障制度の全世代型転換政策"を指しているはずである。この中に幼児教育の無償化、高等教育の無償化を入れているということなのだろうが、この両無償化に2兆円を充当させる予定でいるということなのだろうか、はっきりと判断できなかったから、確かめることができる記事をネットで探してみた。

 「消費増税による増収分の使途変更(幼児教育の無償化等に向けた新たな財源案)」みずほ総合研究所/2017年9月26日)

 〈社会保障の充実に回される1兆円強を除く約4兆円について、教育無償化などにも2兆円程度を充当できるよう使途を見直すという意味合いであると解される。〉

 みずほ総合研究所にしても、「意味合いであると解される」と推測しなければならない、明確な断定を許さない安倍晋三の発言ということなのだろう。

 要するに消費税を5%から10%へと引き上げるときの取り決め通りに8%から10%増税時の予想税収5兆円の5分の1に当たる1兆円はそのままの従来からの社会保障制度の充実に、残る4兆円のうち2兆円を教育無償化に回して全世代型の社会保障制度に持っていき、最後の2兆円を国の借金に回すということになる。

 安倍晋三はこの記者会見で国難とまで位置づけて北朝鮮の脅威を言い立てて国民の危機意識に訴えたことと、特に多くの国民生活に直結する幼児教育の無償化と高等教育の無償化が功を奏したのだろう、2017年10月の総選挙で与党自民党は単独で絶対安定多数の266を超える291議席を獲得、公明党の35議席を加えて憲法改正発議に必要な3分の2以上の議席を獲得する大勝利を手に入れることになった。

 ところが、2017年9月25日の解散記者会見から約1年以上経過した2018年11月14日になって、東京都内開催の全国市長会の会合で内閣府から無償化の財源を地方も負担することが求められたと、2018年11月15日付「asahi.com」記事が伝えている。

 具体的には現在の負担割合を来年10月から開始の幼児教育・保育の無償化でも維持する案だという。

 記事から負担の内訳を見てみる。

 私立保育所と私立幼稚園 国2分の1・都道府県4分の1・市町村4分の1
 公立保育所と公立幼稚園 市町村全額負担
 認可外保育施設や一時預かり等 国3分の1・都道府県3分の1・市町村3分の1

 記事は、〈今は利用者が負担する保育料などが必要経費に加わるため、負担割合は同じでも、国、都道府県、市町村それぞれの負担は増えることになる。〉と解説している。

 件の記者会見では幼児教育にしても、保育無償化にしても、安倍晋三は「子供たちには無限の可能性が眠っています」だ、「幼児教育の無償化も一気に進めます」だ、「消費税の使い道を私は思い切って変えたい」だなどと自分を主体とした勇ましい発言に努めたのみで、地方にも負担を求めるとは一言も言っていなかったのだから、誰もが国が財源の全額を負担するものだと思って聞いていたはずだ。それ程にも勇ましいブチ上げ方だった。そして2017年9月25日のこの記者会見以後、1年以上も、国の負担だと多くの国民が信じていたはずだ。

 意に反しての地方のこの負担増は安倍晋三の記者会見での口振りを吹き飛ばすもので、全国市長会としたら、寝耳に水だったに違いない。

 但し寝耳に水で済ます訳にはいかない。地方にも負担を求めると言うと聞こえはいいが、国が財源を負担するような口振りで公約していたのだから、実質、地方への皺寄せとなる。

 このような食い違いの原因を記事は、〈政府が昨年の衆院選の際、詳細を詰めずに無償化を打ち出したツケが表面化している。〉と解説している。要するに安倍晋三は無償化を口から出任せ紛いの無責任さでブチ上げた。

 記事が伝えている市長それぞれの反対意見を見てみる。

 谷畑英吾滋賀県湖南市長「私どもは6月6日と8月30日に(菅義偉)官房長官から『無償化については全額国費で負担するので、市町村には迷惑をかけない』とのお話をいただいた。地方に財政負担を突然強いるのは、地方自治法の趣旨から逸脱している。地方は何とでもなると思っているのか」

 菅義偉が過去に全額国費負担を確約していたなら、安倍晋三は2017年9月25日の記者会見では無償化を確証がないままに全額国費負担の積りで公約としてブチ上げていたことになる。

 この無責任も然ることながら、その積りを1年後にあっさりと投げ捨ててしまった安倍晋三の無責任も立派の一言を与えなければならない。

 別の市長「1年後の無償化開始を延期してほしい」

 同じ内容を伝えている「NHK NEWS WEB」記事から、市長の発言を見てみる。

 「無償化は国が決めた政策なので、必要な財源はすべて国が賄うべきだ」

 「無償化の負担が消費税の増収分を上回り、赤字になってしまう」

 反対の市長が大勢を占めているということは安倍晋三の地方創生がさして機能しているとは言えない状況にあることを否応なしに浮かび上がらせることになる。

 このような口から出任せ紛いの「幼児教育・保育無償化」国費全額負担の公約が2017年10月総選挙の大勝利の大きな一因となった。

 全くいい加減な話だが、このいい加減さは安倍晋三が抱えている性格の一端としてあるものであろう。

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安倍晋三が仕掛けた従軍慰安婦日韓合意の一から分かる歴史認識に向けたカラクリ 偉そうな口を叩く資格はなし

2018-11-23 12:33:51 | 政治
                                     
 韓国が2015年12月28日の日韓外相会談で日韓間の慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した日韓合意に基づいて主として韓国人元慰安に対する「支援」という体裁のいい名称をつけた、実質的には賠償に当たるカネの支払いを任務とする、日本側拠出金10億円を財源とした韓国側設立の「和解・癒やし財団」の解散の方針を公表した。そしてこの方針は国内から財団の解散を求める声が強まっていたことを受けた措置だとしているが、文在寅(ムンジェイン)大統領の歴史認識にも関係していないはずはない。

 対して安倍晋三が首相官邸エントランスで記者団の質問に答えている。

 《安倍晋三:「和解・癒やし財団」の解散に関する方針の発表についての会見》(首相官邸サイト/2018年11月21日)

 安倍晋三「3年前の日韓合意は最終的かつ不可逆的な解決であります。日本は国際社会の一員としてこの約束を誠実に履行してきました。

 国際約束が守られないのであれば、国と国との関係が成り立たなくなってしまいます。韓国には国際社会の一員として責任ある対応を望みたいと思います」

 単に国と国との約束ではなく、国際社会への発信ともなる約束なのだから、それを破ることになると、国際社会を場とした国と国との関係が成立しなくなる、約束した以上、国際社会の一員として責任ある対応を取るべきだといった趣旨の発言となる。

 なかなか手厳しい正当性ある立派な発言に見える。

 先ず従軍慰安婦に関わる韓国側の歴史認識を見てみる。大体のことは理解しているが、より公式性を持たせるためにネットを探したところ、次のサイトに行き当たった。英文は省略して和訳分のみを記載する。適宜文飾を施した。

 《韓国政府の公式見解に関して》誰かの妄想・はてなブログ版/2013年5月15日)

 ▸従軍慰安婦

韓国女性家族部(Ministry of Gender Equality and Family)の下にHERMUSEUMというサイトがあります。“E-Museum for the victims of Japanese military sexual slavery”とあるように日本軍従軍慰安婦に関する電子資料館です。ハングル版が正だと思いますが、私はハングルが読めませんので英語版の方を参照しています。
 
日本の従軍慰安婦とは何か?

「慰安婦」とは戦時中に日本の旧植民地(朝鮮や台湾など)や占領地(中国、フィリピン、インドネシアなど)から強制募集され、意に反して性奴隷として奉仕させられた若い女性に対する婉曲表現である。日本軍、官僚及び民間業者が20万人もの女性を騙し、誘い、あるいは連れ去って、日本の植民地や占領地の至る所で性奴隷として売春を強要した。これらの女性は「comfort women」、「comfort girls」、「従軍慰安婦( military comfort women)」「military-serving women」などと呼ばれてきましたが、現在では性奴隷として犠牲になったことを意味する「military sex slaves」として定義されている。
  
何のために慰安所(軍用売春宿)を作ったのか?

(訳)
日本軍による中国侵略中に、日本兵は頻繁に中国の民間人女性を強姦したため、占領地住民に強い反日感情を生じさせた。また、日本軍は性病による戦力低下に苦しんだ。

そこで日本軍当局は、戦場に「慰安所」を設立して、日本兵の性欲を満足させ、更なる戦力低下を防ごうとした。

歴史家の指摘するところによると、1904年から1905年にかけての日露戦争の初期に性病による深刻な戦力低下に苦しみ、兵士の性感染症を検査できる施設を必要とした。1931年の満州事変に続く1932年の第一次上海事変で、日本兵による上海周辺の民間人女性の強姦がさらに増加したため、海軍に続いて陸軍も「慰安所
(軍用売春宿)」を設立した(日本兵の記録、公文書を参照)。

「慰安所」には2種類あった。1)日本軍によって直接設立運営されたものがいくつか、2)他は民間人によって運営されたもの、である。民間人によって運営された慰安所であっても、企画、許可、統制、監督したのは日本軍である。「慰安所」の規則は、コンドームの使用と性病検査を主眼とし、軍医による検査がほぼ週に1回実施されていた(日本の公文書、連合軍の公文書を参照)。

しかし、目撃者たちは軍用売春宿設置後でさえも日本兵は民間人女性に対する強姦をやめなかったと述べている。

 出所元のアドレスが記されているが、アクセスすると、韓国語で「ページが見つかりません。」(グーグル辞書で翻訳)と出て、記載文書に対する事実か否かの検証ができないが、韓国人元慰安婦が賠償を求めたり支援を求めたりすること自体が自ら応募して従軍慰安婦になったわけではなく、何らかの不法な扱いを受けていたことの事実を証明することになるし、ここに書いてあることは韓国側の一般的な歴史認識として流布されてもいる。

 いずれにしても20万人という人数については色々と説があるが、〈日本軍、官僚及び民間業者が20万人もの女性を騙し、誘い、あるいは連れ去って、日本の植民地や占領地の至る所で性奴隷として売春を強要した。〉、いわば日本軍もが関与した強制連行と強制売春が韓国に於ける従軍慰安婦に関わる一般的な歴史認識となっている。

 2015年12月28日の日韓外相会談合意後の公式発表を見てみる。日本軍の関与があったかどうかについて言及している個所のみを抜粋する。

 「日韓両外相共同記者発表」(外務省/2015年12月28日)

〈1 岸田外務大臣

 (1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。

安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。〉――

 韓国側の従軍慰安婦に関わる一般的な歴史認識からしたら、「当時の軍の関与の下に」云々の文
言は安倍政権側が強制連行と強制売春に関して旧日本軍の関与を事実認定したとの解釈を当然取ることになる。

 この解釈に基づくと、〈安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。〉は強制連行と強制売春に向けた「心からおわびと反省の気持ち」ということになる。

 だが、実際は強制連行と強制売春に関しての日本軍の関与は認めていなかった。

 2016年1月18日の参議院予算委員会

 中山恭子「今回の共同記者発表は極めて偏ったものであり、大きな問題を起こしたと考えております。共同記者発表では『慰安婦問題が当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本の責任を痛感している』。

 すべての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復の代替として日本のために戦った日本の軍人たちの名誉と尊厳が救いのない程に傷つけられています。さらに日本人全体がケダモノのように把えられ、日本の名誉が繰返しがつかない程、傷つけられています。

 外務大臣にお伺い致します。今回の共同発表が著しく国益を損なうものであることに思いを致さなかったのでしょうか」

 対して岸田文雄は、この合意は「従来から表明してきた歴代の内閣の立場を踏まえたものであり」、「この立場は全く変わっておりません」と答えている。

 この答弁に納得せず、中山恭子は質問を安倍晋三に変えて、なお追及している。

 中山恭子「安倍総理は、私たちの子や孫、その先の世代の子供たちにいつまでも謝罪し続ける宿命を負わせるわけにはいかないと発言されています。私も同じ思いでございます。しかし、御覧いただきましたように、この日韓外相共同記者発表の直後から、事実とは異なる曲解された日本人観が拡散しています。

 日本政府が自ら日本の軍が元慰安婦の名誉と尊厳を深く傷つけたと認めたことで、日本が女性の性奴隷化を行った国であるなどとの見方が世界の中に定着することとなりました」

 安倍晋三「海外のプレスを含め正しくない事実による誹謗中傷があるのは事実でございます。性奴隷 あるいは 20万人 といった事実ではない。この批判を浴びせているのは事実でありまして、それに対しましては政府としては、それは事実ではないということはしっかりと示していきたいと思いますが、政府としてはこれまでに政府が発見した資料の中には、軍や官憲による所謂強制連行を直接示すような記述は見当たらなかったという立場を辻本清美議員の質問主意書に対する答弁書として平成19年、これは第1次安倍内閣の時でありましたが、閣議決定をしておりまして、その立場には全く変わりがないということでございまして、改めて申し上げておきたいと思います。

 また 当時の軍の関与の下にというのは、慰安所は当時の軍当局の要請により設営されたものであること、慰安婦所の設置、管理及び慰安婦の移送について旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与したこと、慰安婦の募集については軍の要請を受けた業者が主にこれにあたったこと、であると従来から述べてきている通りであります。

 いずれにいたしましても重要なことは今回の合意が、今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に異なっておりまして、史上初めて日韓両政府が一緒になって慰安婦問題が最終的且つ不可逆的に解決されたことを確認した点にあるわけでありまして、私は私たちの子や孫そしてその先の世代の子供たちに謝罪し続ける宿命を背負わせるわけにはいかないと考えておりまして、今回の合意はその決意を実行に移すために決断したものであります」――

 要するに日韓が合意した「当時の軍の関与の下に」とは「慰安婦所の設置、管理及び慰安婦の移送」についてのみであって、強制連行と強制売春への日本軍の関与を認めた合意ではなく、歴代の内閣の立場と何ら変わりはないとの答弁となる。

 ではなぜ韓国大統領朴槿恵は自身の歴史認識とも国民一般的の歴史認識とは相容れないにも関わらず、合意したのだろうか。「当時の軍の関与の下に」との文言に騙されて合意することになったのか、この「関与」が強制連行と強制売春を意味しないと知りながら、妥協することになったのだろうか。

 朴槿恵政権時代は財閥支配の経済構造からの様々な矛盾の噴出と世界的な景気後退を受けて国家経済が低迷する中、歴史認識の違いから日本との関係が悪化し、中国に急接近し、ある意味、その庇護を受けることになった。

 そして朴槿恵は2013年6月に訪中した際、伊藤博文を1909年10月26日に中国黒竜江省のハルビン駅頭でピストルで狙撃、暗殺した、日本では犯罪人とされているが、韓国では英雄とされている安重根の記念碑の設置を提案、日中関係も悪化していたことから国家主席の習近平が承諾、2014年1月20日、「安重根義士記念館」が一般公開されることになった出来事は歴史認識に於いても経済関係に於いても中韓が蜜月時代を迎えていた象徴的事例とすることができる。

 但し安倍政権はこの記念碑設置に反発、官房長官菅義偉は「アン・ジュングン(安重根)はわが国初代の内閣総理大臣を殺害し、死刑判決を受けたテロリストだと認識している。日本と韓国の立場は異なっているが、一方的な評価に基づいて韓国・中国が連携し、国際的に展開するような動きは 地域の平和と協力の関係構築に資するものではないと言わざるを得ない」(NHK NEWS WEB/2014年1月20日 12時27分)と批判、犯罪者からより悪質・凶悪なテロリストに格上げしている。

 だが、中国急接近によっても韓国経済は一向に改善しなかった。「韓国経済、今年の下半期も明るくはならない」東洋経済オンライン/2015/07/05 15:30)によると2014年4月からのネットで調べてみると、2014年の4月からの経済成長率は3四半期連続の0%台で、2015年も同様の傾向が続くと予想されていたと言う。

 このような政権運営の苦境に対して更に2014年4月16日の大型旅客船「セウォル(世越)」の転覆・沈没事故に対する救助活動の不手際や政府の危機管理能力に対する信頼低下が原因で71%あった大統領支持率が40%台後半にまで一気に低下することになった。(「Wikipedia」から)

 こういったジリ貧状態からの脱出のために朴槿恵としたら、歴史認識の違いを言っているどころではなくなり、日韓関係の改善を力とした政権運営の建て直しと国家経済の建て直しの背に腹は代えられない必要性に迫られて、「当時の軍の関与の下に」云々が強制連行と強制売春が行われたことを認めたものではなく、慰安婦所の設置や管理及び慰安婦の移送のみを意味しているに過ぎないことを弁えていながら、日本側の思惑に乗って2015年12月28日の従軍慰安婦日韓合意に至ったという可能性は否定できない。

 いわば日本側が強制連行と強制売春を認める意味を持たせていない文脈で「当時の軍の関与の下に」という文言を使い、それが韓国側の歴史認識に反する日本側の思惑に過ぎないことを承知していながら乗った妥協の産物としての合意だとしたら、そこに日韓双方共に国際社会や韓国民に向けて一種のカラクリを仕掛けていたことになる。

 このことは中山恭子が上記2016年1月18日の参議院予算委員会で触れたように国際社会の多くが旧日本軍が強制連行と強制売春を認めた合意だと解釈したことに反して安倍晋三以下日本側がそのような解釈を否定したことにも現れることになるカラクリでもあろう。

 日韓合意がこういった経緯が正体だとすると、安倍晋三は「国際約束が守られないのであれば、国と国との関係が成り立たなくなってしまう」だ、「韓国には国際社会の一員として責任ある対応を望みたい」などと偉そうな口を叩く資格はないことになる。

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安倍晋三・山下貴司の技能実習制度1割使い捨て・9割機能の正当性に見る外国人材受入れの実態は安価な労働力獲得が目的

2018-11-21 11:40:17 | 政治

 外国人労働者受入れ拡大を目指す入管難民法改正案が国会で審議入りしたが、野党は外国人技能実習制度に多くの矛盾した問題点を抱えていて、その問題の検証・解決なくして外国人材受入れ拡大の来年4月導入を目指して今国会成立を譲らない政府の態度は余りにも拙速、外国人材を必要とする企業側の要望に応えて来年夏の参院選対策に利するためではないのかとまで反発、国会質疑は紛糾している。

 そこに来て先週、失踪した技能実習生の調査内容を集計した法務省の資料に誤りが見つかり、野党側が反発。いわば技能実習制度や新たな外国人材受入れ制度を管轄する法務省の技能実習生に関わる誤ったデータに基づいて安倍晋三も山下貴志も野党の質問に国会答弁を繰返していた。

 特に技能実習生の少なくない就労現場からの失踪動機に関して「より高い賃金を求めて」約87%という数字を掲げていたことは技能実習生側の姿勢と責任の問題としていたことになるが、新たな調査では「低賃金」が約67%を占めていると公表、主として使用者側の姿勢と責任の問題問題であったことが明らかになって野党は更に反発、国会質疑はより紛糾することになった。

 2018年11月7日の参議院予算委員会でも共産党の小池晃の質問に安倍晋三も山下貴志も法務省の誤ったデータを基に技能実習制度1割使い捨て・9割機能論をブチ上げていたことになる。

山下貴司「先ず制度全体のファクトの問題として申し上げます。即ち29年、技能実習で在留していた、前年度末で在留していた技能実習生が22万超。そしてそして新規入国者数が29万超。そしてその中で失踪された方が7089人でございます。

 で、そうすると、少なくとも9割を遥かに超える技能実習生の方々が技能実習生計画に基づいてこの日本での、まあ、実習に勤しみ、そしてそれを見守る方々がおられるという制度なんです。このことを前提に考えなければならないと思っております」――

 安倍晋三「ですから、今山下大臣がお答えしたようにですね、今までもですね、9割の方々が技能実習生、まさに目的に添った形でですね、日本で技能を身に付け、母国に帰って、その技能を活かして、活躍しておられるんだろうと、こう思っておりますが、その中に於いて小池委員がですね、指摘をされた問題、我々もそれを把握しているということを申し上げておきます」

 要するに技能実習制度の問題点は失踪する側の姿勢と責任にあって、残る9割に関しては技能実習制度に順応、十分に機能しているからと、その9割を以って外国人材受入れ拡大政策も順調に機能する根拠としている。

 いわば1割程度の切り捨ては問題にしなくてもいいということになる。

 ところが、この1割切り捨て論も法務省の誤ったデータに基づいていたことになる。法務省が失踪外国人技能実習生に再聴取した「聴取票」は「立憲民主党」サイト記載の「20181116法務理事懇資料(技能実習者からの聴取票の集計ミス)」として紹介されている。

 但しこの聴取は不法残留等の入管法違反で入国管理局が保護(逮捕?)した技能実習生からの聴取であって、当然のことだが、帰国しないまま不法滞在の形で行方不明となっている元実習生は含まれていない。

 PDF記事から法務省の「失踪理由」と「失踪動機」、「1ヶ月あたりの月額給与」を纏めた画像を借用、転載しておいた。 

 (注1)に、〈聴取票上は,『より高い賃金を求めて』というチェック項目はない。これに対応するものとして『低賃金』『低賃金(契約賃金以下)』『低賃金(最低賃金以下)』という項目があり,今回の精査結果については,このうちいずれかあるいは複数にチェックしている者の人数を計上したもの。〉とあるが、「原提出資料」では『より高い賃金を求めて』というチェック項目を設けていたが、今回調査では設けなかったという意味であろう。

 要するに『より高い賃金を求めて』というチェック項目はふさわしくないとして却下したことになる。元々の調査では失踪実習生は賃金に関わるチェック項目がなかったから、仕方なく『より高い賃金を求めて』というチェック項目に誘導されてチェックを入れたことになる。

 この点を見ただけでも、調査は意図的作為に基づいて行われた捏造を疑わざるを得ない。

 調査対象の2870人から各月額賃金分布の割合を見てみる。

 「10万円以下」57%
「10万円超~15万円以下」36%
「15万円超~20万円以下」5%
「20万円超」0.49%

 「10万円以下」が半数を超えた57%で、「10万円超~15万円以下」の36%をプラスすると、93%、ほぼ全体を占める。

 技能実習制度はその報酬の額を「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上」と定めている。にも関わらず、低賃金を理由とした失踪、と言うよりも、逃亡が1割を占めている。

 但し残り9割は技能実習制度に順応、十分に機能していると安倍晋三も山下貴志も請け合っている。つまり失踪実習生だけがたまたま低賃金労働に遭遇し、他の9割は日本人と同等の報酬を保証されていたのかが問題となる。

 「外国人技能実習制度の現状、課題等について」(厚労省/2018年3月23日)から、2017年6月末時点の《在留資格「技能実習」の国籍別在留者数》の主なところをみてみる。

 ベトナム104802人
 中国79959人
 総数251721人
  
 ベトナム人実習生+中国人実習生で全体の73%を占めている。日々変動するが、円とベトナムのドンの為替レートを見てみる。ネットで調べてみると、11月20日時点で1円 はベトナム206.79ドンとなっている。更にベトナムの物価は一般的には日本よりも安いと言われている。

 つまり日本で働いて10万円貰うと、ベトナムでは60万円分になる。しかも一般的には日本よりも物価が安いとなれば、60万円以上のお得感が出る。当然、日本人と同等の報酬であることは前以って説明を受けているだろうから、誰にしたってその保証を強く求めることになる。

 中国の為替レートを見てみる。1円 は0.062中国人民元。10万円の給与であっても、中国で6200円分にしかならない。これでは物価の多寡にさして関係なく、お得感は出てこないはずだ。このようなことから中国人実習生が減って、ベトナム人実習生に取って代わられた理由なのかもしれない。

 但し「中国の格差:安すぎる、中国のお給料事情」(中国語講座チャイニーズドットコムのブログ)なるサイトを見ると、技能実習制度に応募してお得感を感じることができる中国人は都市部の住人ではなく、地方の山村部の中国人程、お得感が出てくることが分かる。

 この記事は日付が記載されていないから、いつの記事か正確には分からないが、〈上海の平均月収は8,000元です。今のレートは16元ですので計算すると平均月収は日本円で128,000円になります。〉との記述があるから、8,000元÷128,000円=0.0625元/1円となり、最近の記事だと分かる。

 但し記事は、〈例えば住む場所でもかなり月収は変わってきます。上海(shànghǎi)や北京(Běijīng)、また広州(guǎngzhōu)などは金融都市で月収も比較的良いですが、山西省(shānxīshěng)などの内陸では非常に低い賃金です。

 山西省では3,000元(48,000円)もらえれば良いほうです。

 中国の田舎は本当の田舎

 日本では田舎(农村 nóngcūn)に住んでいれば、都会程は賃金が高くないでしょう。

 しかし、家は持ち家で食費にお金がかからない場合が多いのではないでしょうか。その分都会に住んでいる人よりも裕福な暮らしができる、と言えることもあります。

 しかし、中国の田舎の場合、そうはいきません。賃金が低すぎてお金に余裕がありません。一か月1,000元(16000円)も貰えるところはないでしょう。〉と書いていて、都市と地方の大きな賃金格差を伝えている。

 一か月1,000元(16000円)なら、日本で10万円稼げば、✕0.62=6200人民元となって、地元でよりも月額6倍の収入となる。ここら辺りの事情が中国人実習生の人数が減っても、決定的に少なくならない、ベトナムに次いで2番目に多い理由なのだろう。

 更に言うと、実習生を使う日本側にしても、いくら低賃金でも、国で貰うよりも多くなるはずだとの計算で低賃金を正当化している可能性も疑うことができる。(2018年11月21日14:05加筆)

 ここで問題となるのは当初説明された月額収入よりも少ない賃金で働かされた場合である。例え少なくても、地元の収入よりも少ないわけではない、多くなるからと我慢する実習生と、日本人と同額の報酬と説明されている以上、契約と看做されるのだから、同額以下は認める訳にはいかないと強い人権意識を働かせる実習生、あるいは同額のカネの必要に迫られている実習生、いわば当初の目算を狂わされた実習生は、その目算の狂いが大きければ大きい程、その現場の労働を拒否する態度に出たとしても、ある意味自然な行動と言える。

 となると、安倍晋三と山下貴志が主張している、問題が生じているのは実習生の1割に過ぎず、技能実習制度に順応、制度は十分に機能していることの根拠としている残り9割の中でも、当初の説明以下の賃金で働かされても、地元の収入よりも少なくなるわけではない、少しは多くなるからと我慢する実習生もかなり混じっていると見なければならない。

 そう見る根拠は実習生の失踪理由が「10万円以下」が半数超えの57%、「10万円超~15万円以下」の36%をプラスすると、93%とほぼ全体を占めていて、この極端な低賃金傾向は失踪実習生以外に反映されている状況にあるのかどうかを考えた場合、技能実習制度の活用業種・企業は人手不足に悩まされているからこその利用であって、人手不足は低賃金、あるいは嫌われる職種程、見舞われる傾向を当てはめると、低賃金傾向は失踪実習生以外にも反映されている状況にあると見ないと、合理的整合性を見つけることはできない。

 安価な労働力獲得が実態となっている技能実習制度であるということであろう。

 政府は14業種に於ける新たな在留資格による外国人材受入れ人数の積算は技能実習生からの移行を期待して推計したということだが、となると、低賃金は新たな制度に対しても反映される傾向と言うことになる。

 反映が事実となった場合、安価な労働力獲得が実態の外国人材活用であることを益々色濃くすることになる。この低賃金傾向は日本人の労働者に反映されないはずはない。

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安倍晋三も下村博文も「戦争には反対」なら、戦前の日本の戦争を侵略戦争と認め、国家と戦争肯定の靖国参拝をやめよ

2018-11-20 11:02:01 | 政治

 自身の後援会が無届けの政治団体のまま政治活動をしていた疑惑や不正な寄付疑惑が報じられたり、加計学園の獣医学部認可問題でも安倍晋三の政治関与に一枚噛んでいた疑惑が持たれている自由民主党憲法改正推進本部長下村博文の憲法改正に関わる熊本県合志市での講演発言を2018年11月18日付「NHK政治マガジン」(2018年11月18日)が紹介していた。

 下村博文「憲法9条に自衛隊を付け加えることは、話し合いの中で一部修正は入るだろうが、丁寧に議論していけば、ほかの党も含め、賛成が得られる可能性は十分ある。

 安倍政権は、いかにも戦争をしそうなイメージで捉えられているところがあるかもしれないが、我々も戦争には反対だ。戦争をさせないための抑止として、自衛隊をきちんと憲法に明記することを訴えていきたい」(文飾当方)

 講演後、記者団に対して。

 下村博文「何らかの形で憲法に自衛隊を明記すべきだと考えている他党の人もいる。先ずは(今国会で憲法審査会を開き)自民党の案を説明する機会を作ってもらいたい」

 「戦争には反対だ」と言うなら、戦前の日本の戦争を侵略戦争と認めなければならない。戦前の日本国家とその戦争肯定の儀式である靖国神社参拝をやめ、戦後の日本国憲法の平和主義を貫徹しなければならない。

 こういった歴史認識から距離を置いている者がいくら「戦争には反対だ」と口にしようが、果たして信用できるだろうか。

 ブログに何度も書いているが、靖国神社参拝での「国のために戦い、尊い命を犠牲にされた御英霊に対して哀悼の誠を捧げる」云々の英霊に対する称揚と哀悼は戦前日本国家と国民の関係性を理想としているからこそ発露される精神性であって、当然、参拝は靖国神社を舞台として戦争犠牲者に対する鎮魂の姿を借りた戦前日本国家を理想の国家像とする称揚の儀式でもあり、このような儀式を政治の次元で重要としているのは理想とする戦前の日本国家像を戦後日本国家に連続させたい、あるいは置き換えたいと欲しているからに他ならない。

 こういった精神性によって戦前回帰主義が戦後の日本社会に跋扈することになる。

 戦前日本国家を理想の国家像とする精神性なくして英霊に対して「国のために戦った」とする称揚の精神性は発揮されることはない。そして「国のために戦った」と称揚する精神性こそが、その戦争を肯定し、正当化している証拠そのものとなる。もし戦前の日本の戦争を侵略戦争だと歴史認識していた場合、「国のために戦った」と称揚することは「国のために侵略戦争を戦った」との意味を持たせた称揚となって、自らの歴史認識と自らの精神性を破綻させることになる。

 「下村博文記者会見」(文科省/2014年8月15日)

 記者「靖国参拝についてなのですが、終戦記念日の今日、安倍総理大臣が参拝せず私費で玉串料を納めました。また、これまでに2閣僚、新藤大臣と古屋国家公安委員長が参拝されましたが、こうした閣僚の参拝についてどのように」

 下村博文「実は私自身、毎年8月15日、今年で4回目ぐらいだと思いますけれども、『下村博文と靖国神社を正式参拝する会』がありまして、今日も40人ぐらいの方が参拝されますが、私自身は参拝は今日はいたしません。

 それは、いろいろな信条の問題はありますが、私としては、特に教育・文化・スポーツ・科学技術を扱う立場から、この分野においては政治的な、近隣諸国と直接的な対立というのがあると思っていませんから、9月には、例えば日中韓文化大臣会合を横浜でやるということでもありますし、周辺諸国や国際情勢をトータル的に配慮した中で、私自身は今日、靖国には参拝しないということを決めております」――

 下村博文は日本会議を支える国会議員懇談会のメンバーで、安倍晋三は懇談会の特別顧問を務めている。日本会議は戦前の日本の戦争を「自存自衛と大東亜の解放を掲げて戦われた」としていて、そのことを公式の歴史認識としている。

 要するに下村博文は、安倍晋三も同じだが、戦前日本国家を理想の国家像とし、その戦争が侵略戦争であったことを否定、逆に肯定・正当化する歴史認識の持ち主に他ならない。

 戦前の日本の戦争は侵略戦争ではなかったとする歴史認識の持ち主が「戦争には反対だ」といくら口を酸っぱくして言おうと、果たして信用できるだろうか。

 2013年4月23日の参院予算委。

 安倍晋三「特に侵略という定義については、これは学界的にも国際的にも定まっていないと言ってもいいんだろうと思うわけでございますし、それは国と国との関係において、どちら側から見るかということにおいて違うわけでございます」

 侵略の定義が定まっていないことを理由に戦前の戦争が侵略戦争であったか否かの自らの歴史認識を曖昧にする。曖昧にすること自体が侵略戦争否定そのものの歴史認識を表している。

 2013年5月8日の参院予算では侵略の定義について次のように答弁している。現在立憲民主党の衆議院である大河原まさこが「この間の侵略の定義はないんだというご答弁は私は撤回していただきたい」と求めた。

 安倍晋三「絶対的な定義は、あのとき申し上げたのは、学問的には決まっていないということを申し上げたわけでございます」

 「絶対的な定義は学問的には決まっていない」くても、そうであればこそ、歴史的事象や歴史的事件に対して人は持てる自らの知識や経験をフル活用して、それぞれに自身の解釈を施して自らの歴史認識とする。

 つまり安倍晋三自身が戦前の日本の戦争を侵略戦争と解釈するのか、否定して日本会議の公式見解同様に自存自衛と大東亜解放の戦争だったと肯定的な解釈を施すのか、いずれの歴史認識に立つのかが問題となっていることに対して「学問的には決まっていない」ことを持ち出して自らの解釈・自らの歴史認識を明らかにすまいとしているに過ぎない。理由は正々堂々とは公にはできない前者の歴史認識に立っているからに他ならない。

 このような安倍晋三が「戦争には反対だ」と言ったとしても、誰が信用できるだろうか。

 「安倍晋三内外情勢調査会講演」(首相官邸サイト/2014年9月19日)
 
 安倍晋三「これから安倍内閣が取り組む、新しい安全保障法制の整備もまた、我が国の更なる平和と繁栄の基盤となるものであると確信しています。

 いかなる事態であっても、国民の命と平和な暮らしを守り抜く。内閣総理大臣である私には、その大きな責任があります。

 7月に閣議決定を行いました。いわゆる「グレーゾーン」に関わるものから、集団的自衛権に関わるものまで、切れ目のない安全保障法制の整備に向けて、準備を進めてまいります。

 自衛の措置をとる場合も、それは、他に手段がないときに限られ、かつ、必要最小限度でなければならない。憲法解釈の基本的考え方は、何ら変わりません。自衛隊が、かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことも、決してありません。

 このように明確に申し上げてもなお、『日本を戦争する国にしようとしている』といった、いわれなき批判があります。『戦争に巻きこまれる』、果ては『徴兵制につながる』といった、まったく根拠のない、不安を煽るだけの批判は、60年安保改定の時もたくさんありました」(文飾は当方)

 戦前の戦争が侵略戦争であったことを否定し、自存自衛と大東亜解放の戦争だったと肯定・正当化している安倍晋三が「日本を戦争する国にしようとしている」「戦争に巻きこまれる」「徴兵制につながる」等々の云々は新安保法制に対する「まったく根拠のない、不安を煽るだけの批判」に過ぎないと言おうと、信用のカケラも置くことはできない。

 毎年終戦記念日の8月15日が近づくと、安倍晋三は談話を発表して、「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」とのたまうが、日本の戦争が侵略戦争だったことを否定して正しい戦争だったとする精神性の持ち主である安倍晋三の言うことを誰が信用できるというのだろうか。

 信用されたいなら、戦前の日本の戦争を侵略戦争と認め、その国家と戦争肯定の靖国神社参拝を中止しなければならない。このように改めた歴史の解釈・歴史認識こそが戦前の戦争に対する心からの深い反省を証明することになり、初めて「戦争には反対だ」という言葉にしても、「いかなる事態であっても、国民の命と平和な暮らしを守り抜く」という言葉にしても、信用に値することになる。

 「侵略の絶対的な定義は学問的には決まっていない」などと歴史に対する自らの解釈、自らの歴史認識を隠すような首相は何を言っても信用出来ない。

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安倍晋三の日ソ共同宣言ベースの歯舞・色丹二島先行返還と他二島継続返還を経た平和条約締結は質の悪いペテン

2018-11-19 11:46:20 | 政治

 11月16日(2018年)の当「ブログ」に安倍晋三と官房長官の菅義偉が安倍晋三のあと3年の任期の間にプーチンと北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結するかのように言っていることに対して安倍晋三がASEAN首脳会議に合わせて11月13日(2018年)に行った通算23回目となるプーチンとの首脳会談で提案した1956年の日ソ共同宣言に基づいた歯舞・色丹二島返還交渉が二島返還を全ての決着とする提案であろうと、二島返還を先行させて四島返還に持っていくことを全ての決着とする狙いの提案であろうと、さも交渉が前に進んでいると見せかける単なる時間稼ぎに過ぎないと書いた。

 安倍晋三は首脳会談後、シンガポールからAPEC首脳会議が行われるパプアニューギニアに移動の途中、オーストラリアに立ち寄り、内外記者会見を開催、そのときの北方四島に関わる発言を見て、単なる時間稼ぎという思いを強くしたばかりか、質の悪いペテンを交えていることに気づいた。

 「安倍晋三内外記者会見」(首相官邸)

 【冒頭発言】

 安倍晋三「プーチン大統領との首脳会談では、2年前の長門(ながと)会談以降の両国の信頼関係の積み重ねの上に領土問題を解決して、平和条約を締結する。戦後70年以上残されてきた課題を、次の世代に先送りすることなく、私と大統領の手で、必ずや、終止符を打つ、という強い意思を共有することができました。1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる。そのことをプーチン大統領と合意しました。

 来年のG20においてプーチン大統領をお迎えしますが、その前に、年明けにも私がロシアを訪問する。今回の合意の上に私とプーチン大統領のリーダーシップの下、戦後残されてきた懸案である、平和条約交渉を仕上げていく決意であります。

 【質疑応答】

 原NHK記者「総理、日露首脳会談について伺います。先ほど、総理も仰られましたが、日露首脳会談では、日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速することで合意されましたけれども、平和条約を締結した後に、歯舞(はぼまい)・色丹(しこたん)を引き渡すというものと、四島の帰属の問題を解決した後、平和条約を締結するとした日本政府の方針は、必ずしも一致していないようにも見えますが、この点について総理はどのように考えておられますでしょうか。

 併せまして、共同宣言を基礎とすることで、二島先行返還で交渉が進むのではないかという見方が出ていますけれども、この点について、今後の総理の交渉方針を教えてください。

 そして最後に、プーチン大統領は昨日の記者会見で、歯舞・色丹を返す場合も、主権の問題については協議する必要があるという考えを示しました。日本に島が返された場合でも、主権が返ってこないということがあるのでしょうか。この点について総理の受け止めを教えてください。

 安倍晋三「先ず初めに申し上げておきたいことは、領土問題を解決して平和条約を締結するというのが我が国の一貫した立場でありまして、この点に変更はないということであります。

 1956年共同宣言第9項は、平和条約交渉が継続されること、及び、平和条約締結後に、歯舞群島、色丹島が日本に引き渡されることを規定しています。

 従来から政府が説明してきているとおり、日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります。したがって、今回の1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるとの合意は、領土問題を解決して平和条約を締結するという従来の我が国の方針と何ら矛盾するものではありません。

 御指摘のプーチン大統領と記者とのやり取りでございますが、この一つ一つのやり取りについて、コメントすることは差し控えたいと思います。今後もプーチン大統領と緊密に協議し、私とプーチン大統領の間で、双方に受け入れ可能な解決策に至りたいと考えております。そして、平和条約交渉の仕上げを行う決意であります」

 先ず、「領土問題を解決して、平和条約を締結する」と言っていることの"領土問題を解決"とは11月16日の当ブログにも書いたが、日本政府が北方領土は日本固有の領土であることを基本姿勢としている以上、四島共に日本への帰属を着地点に据えていることになる。

 このことは質疑応答で「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」と答えていることと符合する。

 そして領土問題解決と平和条約締結を経て、「戦後70年以上残されてきた課題を、次の世代に先送りすることなく、私と大統領の手で、必ずや、終止符を打つ」と言っていることと、「私とプーチン大統領の間で、双方に受け入れ可能な解決策に至りたいと考えております」と言っていることは任期3年で遣り遂げるという意味を取る。

 さらに戦後70年以上未解決だった領土問題解決と平和条約締結の課題に「終止符を打つ、という強い意思を(プーチンと)共有することができた」、「1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる。そのことをプーチン大統領と合意した」と言っていることは、安倍晋三提唱の歯舞・色丹二島先行返還交渉と国後・択捉二島継続返還交渉の二段階方式はプーチンと合意した交渉プロセスであり、当然のこと、その交渉プロセスを両者間で共有事項としたことになる。

 この交渉プロセスは「従来の我が国の方針と何ら矛盾するものではありません」と発言していることに対してもプーチンは合意していなければならない方針であって、その方針を共有していることになる。単に違う点はこれまでの交渉は四島帰属を一括対象としていたのに対して二島ずつ二段階の帰属へと対象替えしたことのみとなる。

 だが、プーチンが首脳会談の結果についてロシアメディアの取材に答えた発言は四島一括から二島ずつ二段階の帰属交渉となったことへのどのような自覚も窺うことはできない。「NHK NEWS WEB」(2018年11月15日 19時55分)

 プーチン「日本はかつてこの宣言を議会で批准しながら実行しなかった。しかしきのう、日本の首相がこの問題を日ソ共同宣言に基づいて協議する用意があると言ってきた。

 日ソ共同宣言には平和条約の締結のあとに2つの島を引き渡すと書かれているが、引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない。これは本格的な検討を必要とする」――

 安倍晋三が「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」と言っていることとは反して歯舞・色丹の二島のみを交渉対象とすることの自覚のみである。二段階方式に合意して、その合意を共有する立場からの発言であることはどこからも窺うことはできない。

 ロシア報道官もプーチンと同じ自覚の発言をしている。「NHK NEWS WEB」(2018年11月15日 4時06分)

 ロシア大統領府ペスコフ報道官(プーチン大統領と安倍総理大臣との間で行われた首脳会談の結果について)「1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約に関わる問題をめぐって、交渉を活発化させることで合意した」――

 「交渉を活発化させることで合意した」と言っていることは四島一括の帰属交渉は停滞していた、何ら進展がなかっために安倍晋三が今回の首脳会談で1956年の日ソ共同宣言に基づいた歯舞・色丹二島の帰属交渉を提唱、プーチンがその提唱に応じて「交渉を活発化させることで合意した」という趣旨を発言全体としては取ることになる。

 やはりこの発言からも一括から二段階方式へ転換したとの自覚は窺うことができないし、取り敢えずは二島でといったニュアンスも一切漂わせてはいない。

 もし安倍晋三がプーチンに対して二段階方式を隠して歯舞・色丹の二島に限った帰属交渉を提唱し、それを以って記者会見では「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」との二段階方式の態度を取り、国民への説明としているとしたら、プーチンに対しても、国民に対しても質の悪いペテンを働いていることになる。

 なぜこのようなペテンを働かなければならないかは、交渉が前に進むかのように見せかけるためであり、そのための時間稼ぎであろう。任期切れになっても、ここまで進めたのだからと自己正当化し、あとは後継首相に託すといった次のペテンに転ずるに違いない。

 質の悪いペテンであることは2018年11月16日付「asahi.com」記事からも見て取ることができる。

 記事は首相官邸幹部が明らかにした情報として、〈北方領土をめぐる日ロ交渉で、安倍晋三首相がプーチン大統領に対し、1956年の日ソ共同宣言に沿って歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島が日本に引き渡された後でも、日米安保条約に基づいて米軍基地を島に置くことはないと伝えていたことが分かった。首相はプーチン氏の米軍基地への強い懸念を払拭(ふっしょく)し、2島の先行返還を軸に交渉を進めたい考えだ。米国とも具体的な協議に入る。〉――

 伝えた時期は2016年11月19日のペルーAPEC首脳会議の際の日露首脳会談を前に国家安全保障局長谷内正太郎とプーチン側近の安全保障会議書記パトルシェフが会談、パトルシェフが1956年宣言を履行して2島を引き渡したら「米軍基地は置かれるのか」と質問したのに対して谷内正太郎が「可能性はある」と回答したことで交渉が行き詰まったが、このあと安倍晋三がプーチンに対して2島が引き渡されても、島に米軍基地を置くことはないとの考えを直接伝えたと記事は書いているから、多分、2016年11月19日の日ロ首脳会談の場で伝えたということなのだろう。

 11月16日の上記ブログで国際条約というものがいつ破ることもできる、あるいは相手国からいつでも破られることもある不確実性から、いくら日本側が約束したとしても、国家安全保障上、ロシア領の近くの島にトロイの木馬(=米軍基地)を招き寄せかねない危険性のある賭けをすることはないだろうといった趣旨のことを書いたが、実際に歯舞・色丹二島返還後、約束どおりに米軍基地を置かなかったとしても、もし安倍晋三が二段階方式を取っていて、日本返還後の国後・択捉に同じく米軍基地を置かない約束をしなければ、ロシアにとっては何の意味もないことになる。

 後者の約束があって初めて四島一括から二島ずつの二段階方式への転換にしても、「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」との姿勢にしても整合性ある正当性を獲ち得る。

 もし2016年11月の段階で歯舞・色丹二島先行返還と国後・択捉二島継続返還の二段階方式を頭に置いていたなら、置いていなければ、「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場」であることの終始一貫性を安倍晋三自身が破ることになるあり得ない事実であって、返還された場合の国後と択捉の二島にも米軍基地を置かない約束をしなければ、二段階方式の帰属の可能性そのものを潰すことになる。

 だが、後者の約束はせず、前者の約束のみで済ましている。このことに正当性を与えるとしたら、口で言っていることとは反対に「四島の帰属の問題」は断念して、実際は二島のみの帰属を頭に置き、国民への説明は二段階方式での「四島の帰属」を装うことであとの任期3年を何とかお茶を濁す時間稼ぎをするということでなければならない。

 恥の上塗りという言葉があるが、質の悪いペテンの上塗りそのものであろう。

2018年10月30日の衆院本会議代表質問で野田佳彦が次のように追及している。一部抜粋。

 野田佳彦「無所属の会を代表して質問いたします。

 まずは、七月豪雨、北海道胆振東部地震、台風第二十一号、大阪北部地震などの災害によってとうとい命を失われた皆様に、心からお悔やみを申し上げます。そして、被災をされた皆様に心からお見舞いを申し上げます。

 歴代内閣総理大臣は、総理になった暁には後世のために何か一つは仕事をなし遂げようと懸命に頑張ったと思います。(発言する者あり)難しいんです。

 そして、振り返ってみると、佐藤政権は沖縄返還、中曽根政権は国鉄民営化、そして小泉政権は郵政民営化でありました。

 来年の十一月には桂太郎政権を超えて憲政史上最長記録を更新するかもしれない安倍政権は、これまで、地方創生、女性活躍、一億総活躍など次々とスローガンを打ち立ててきましたが、みんな尻すぼみです。アベノミクスに至っては、永遠に道半ばであります。政治は結果であると口癖のようにおっしゃる総理でありますが、御自身は特筆すべき結果を何か残しているんでしょうか。

 長さこそが、継続こそが力であるとおっしゃいました。本人が言うべきことではありません。長さをもってとうとしとせず。この言葉を肝に銘じるべきではないですか。総理の御所見をお伺いいたします。

 困難な課題に立ち向かわないのが安倍総理ですが、その最たるものが財政再建の先送りです」(以上)

 「安倍政権は、これまで、地方創生、女性活躍、一億総活躍など次々とスローガンを打ち立ててきましたが、みんな尻すぼみです」

 北方四島の帰属問題にしても、「新しいアプローチ」だとして日ロ双方の主権に属さない「特別な制度」の創設とそれに基づいた北方四島の日ロ共同経済活動を掲げて領土問題の進展を謀ったが、ロシア側が自らの主権に拘って経済活動は何ら進展せず、今度は質の悪いペテンでしかない二島先行返還・継続二島返還を掲げた。野田佳彦の言う「次々とスローガンを打ち立て」ることで目先を変えて政権を維持する安倍晋三の狡猾な手口を北方四島問題にも当てはめて、内閣支持率を傷つけることなく北方領土に関わる外交問題を残る3年間、引っ張ることで時間稼ぎしようとしているのだろう。

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安倍晋三の北方領土二島返還への戦術転換は着地点如何に関せず、プーチンの前提条件なし平和条約締結提案に屈した時間稼ぎとなる

2018-11-16 12:10:58 | Weblog
                                     
 次の外務省サイトに北方四島に関わる記述が載せされている。
  
 「日本の領土をめぐる情勢 北方領土」(平成28年5月17日)

日本の基本的立場

(1)北方領土は、ロシアによる不法占拠が続いていますが、日本固有の領土であり、この点については例えば米国政府も一貫して日本の立場を支持しています。政府は、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するという基本的方針に基づいて、ロシア政府との間で強い意思をもって交渉を行っています。

(2)北方領土問題の解決に当たって、我が国としては、1)北方領土の日本への帰属が確認されるのであれば、実際の返還の時期及び態様については、柔軟に対応する、2)北方領土に現在居住しているロシア人住民については、その人権、利益及び希望は、北方領土返還後も十分尊重していくこととしています。

(3)我が国固有の領土である北方領土に対するロシアによる不法占拠が続いている状況の中で、第三国の民間人が当該地域で経済活動を行うことを含め、北方領土においてあたかもロシア側の「管轄権」に服したかのごとき行為を行うこと、または、あたかも北方領土に対するロシアの「管轄権」を前提としたかのごとき行為を行うこと等は、北方領土問題に対する我が国の立場と相容れず、容認できません。  したがって、日本国政府は、広く日本国民に対して、1989年(平成元年)の閣議了解で、北方領土問題の解決までの間、ロシアの不法占拠の下で北方領土に入域することを行わないよう要請しています。

(4)また、政府は、第三国国民がロシアの査証を取得した上で北方四島へ入域する、または第三国企業が北方領土において経済活動を行っているという情報に接した場合、従来から、しかるべく事実関係を確認の上、申入れを行ってきています。

 ここで言っている日本固有の領土とは国後・択捉・歯舞・色丹の四島全てを対象としていて、この四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することが日本政府の基本的方針であるということは当然のこと、四島の日本への領土回復を謳っていることになる。日本への領土回復が四島から二島にでも変わったなら、北方領土は我が国固有の領土だとする主張は崩れることになる。

 安倍晋三は11月13日(2018年)にシンガポールで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の翌11月14日、プーチンと通算23回目の首脳会談を行った。会談後、同シンガポールで「記者会見」を行っている。

 「先程、プーチン大統領と日露首脳会談を行いました。その中で、通訳以外、私と大統領だけで平和条約締結問題について相当突っ込んだ議論を行いました。

 2年前の長門(ながと)での日露首脳会談以降、新しいアプローチで問題を解決するとの方針の下、元島民の皆さんの航空機によるお墓参り、そして共同経済活動の実現に向けた現地調査の実施など、北方四島における日露のこれまでにない協力が実現しています。この信頼の積み重ねの上に、領土問題を解決して、平和条約を締結する。この戦後70年以上残されてきた課題を、次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つという、その強い意思を大統領と完全に共有いたしました。

 そして1956年共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。本日そのことで、プーチン大統領と合意いたしました」(一部抜粋)

 1956年(昭和31年)10月19日に日ソがモスクワで署名した1956年日ソ共同宣言は、「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡し(譲渡)する」(Wikipedia)、その他を取り決めている。

 ソ連側は歯舞・色丹島共にソ連領であると主張、返還ではなく、「両国間の友好関係に基づいた同地域の引き渡し」という形式を示しているという。

 1956年日ソ共同宣言を基礎とした平和条約交渉加速の提案は安倍晋三側から打ち出したものだと言う。「NHK NEWS WEB」(2018年11月15日 19時55分)

 プーチン(ロシアメディアの取材に答えて)「日本はかつてこの宣言を議会で批准しながら実行しなかった。しかしきのう、日本の首相がこの問題を日ソ共同宣言に基づいて協議する用意があると言ってきた。

 日ソ共同宣言には平和条約の締結のあとに2つの島を引き渡すと書かれているが、引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない。これは本格的な検討を必要とする」

 と言うことは、安倍晋三はシンガポールでのプーチンとの通算23回目の首脳会談以前の22回の首脳会談全てで北方四島は日本固有の領土だとする立場から、四島の日本への領土回復を目的として会談に臨んでいたことになるが、23回目の首脳会談にして初めて二島のみの日本への領土回復へと姿勢を転換したことになる。

 この姿勢転換からは22回の首脳会談では四島の日本への領土回復交渉が全然捗っていなかった状況が自ずと浮かんでくる。このような状況が北方四島共に日本固有の領土であり、その帰属問題を解決して平和条約を締結するという日本政府の従来からの基本的方針の放棄を安倍晋三をして迫られたということになる。

 今回の首脳会談後の記者会見から約2年前の2016年12月20日の「内外情勢調査会全国懇談会スピーチ」でも、安倍晋三は会見発言と同じようなことを言っている。

 「70年以上解決されてこなかった平和条約の締結という困難な課題は、1回や2回の首脳会談で達成できるほど、容易なものではありません。しかし、私とプーチン大統領は、この戦後ずっと残されてきた課題に終止符を打つ。その強い決意を共有しています」

 四島返還を目的として会談してきながら、二島返還への転換は安倍晋三が首脳会談について発言してきたこと全てをウソにすることになる。

 いずれにしても四島返還から二島返還への転換は2018年9月10日のロシア・ウラジオストクでのプーチンとの22回目となる首脳会談2日後の2018年9月12日東方経済フォーラム全体会合で安倍晋三がプーチンのみならず習近平中国国家主席等が列席している場でロシアの繁栄は安倍晋三自身と日本が主導するかのような思い上がったスピーチを行い、「プーチン大統領、もう一度ここで、たくさんの聴衆を証人として、私たちの意思を確かめ合おうではありませんか。今やらないで、いつやるのか、我々がやらないで、他の誰がやるのか、と問いながら、歩んでいきましょう」と平和条約締結を迫ったあと、プーチンが突然、「今思いついた」こととして、「今年の年末までに如何なる前提条件も付けずに平和条約を締結しよう」と提案したことがキッカケとなっていることは確かである。

 安倍晋三が首脳会談の場ではなく、東方経済フォーラム全体会合という場で平和条約締結交渉の進展を求めたこと自体と、プーチンが同じ東方経済フォーラム全体会合の場で無条件の平和条約締結を提案したこと自体がそれまで22回も重ねた首脳会談の場では交渉進展がなかったことの証明としかならない。

 当然、この証明は東方経済フォーラム全体会合から2日後の2018年9月14日に日本記者クラブで行われた「自民党総裁選立候補者討論会」での安倍晋三の発言にも反映されることになる。

 安倍晋三「そこで、プーチン大統領が述べたこと、さまざまな言葉からサインを受け取らなければならないんだろうと思います。

 1つは、『とにかく平和条約をちゃんとやろうよ』と言ったことは事実です。勿論、日本の立場は領土問題を解決をして平和条約を締結する、これはその立場でありますし、それについては、あの発言の前も後もちゃんと私は述べておりますし、プーチン大統領からの反応もあります。でも、それは今私が申しあげることはできません。交渉の最中でありますから。

 そこで、いわば私はプーチン大統領の平和条約を結んでいくという真摯な決意を、長門会談の後の記者会見で表明をしています。つまり、平和条約が必要だということにつ
いての意欲は示されたのは間違いないだろうと思います。そこで申しあげることができるのは、今年の11月、12月の首脳会談、これは重要な首脳会談になっていくと思って
います」――

 東方経済フォーラム全体会合でのプーチンの発言のあと、「領土問題を解決をして平和条約を締結する」「日本の立場」は「私は述べておりますし、プーチン大統領からの反応もあります」と言っていることは、プーチンも日本の立場を承知しているという意味を取る。

 以上の発言を交渉進展がなかったことの証明が反映されていると見ると、交渉進展がなかったことを言い繕う誤魔化しとなる。事実、プーチンが日本の立場を承知していたなら、23回目の首脳会談で安倍晋三は四島返還の日本の基本的立場を棄てて、二島返還に転じることはなかったろう。

 要するに安倍晋三はプーチンの突然の無条件平和条約締結提案で四島返還を基準としたこれまでの北方領土帰属交渉が無益だったと悟った。そこで代替策として、「1956年の日ソ共同宣言を基礎とした平和条約交渉の加速」で意見を一致させざるを得なかった。

 ここで問題となるのはせめて歯舞・色丹の二島だけでも日本への帰属とし、それを以って全ての決着とすべくロシアに妥協する姿勢を見せたのか、先ずは二島返還の交渉を先行させて、その決着を日本への帰属という形で見たあと、残る二島の返還を求める戦術に出たのか、いずれなのかということである

 官房長官の菅義偉が23回目の首脳会談についての記者会見を11月15日の午前に行っている。「NHK NEWS WEB」(2018年11月15日 12時42分)

 菅義偉「両首脳の間で合意されたことは非常に意義があることだ。今後の日ロ関係のさらなる進展に弾みを与える非常に有意義な会談だった。

 政府としては従来より、実際の返還時期、対応および条件について柔軟に対応するという方針を維持してきた。北方四島の帰属の問題を解決し、平和条約を締結するというのが我が国の一貫した立場であり、この点に変更はない」

 記者「安倍総理大臣の任期を踏まえ、3年の期限を区切って平和条約を締結するのか」

 菅義偉「安倍総理大臣は次の世代に課題を先送りすることなく、両首脳の手で必ずや終止符を打つ強い意思を共有したと発言した。まさにそのとおりだと思う」

 菅義偉は「北方四島の帰属の問題を解決し、平和条約を締結するというのが我が国の一貫した立場であり、この点に変更はない」と言いつつ、いわばプーチンとの交渉は北方四島の帰属を対象としていることに変更はないとしつつ、「政府としては従来より、実際の返還時期、対応および条件について柔軟に対応するという方針を維持してきた」との文言で、暗に二島の帰属を対象とすることに問題なしと正当性を与えている。

 やはりここでも二島返還を決着とするのか、二島返還を手付として、四島返還まで持っていくのかが問題となる。

 但し安倍晋三がシンガポールでの23回目となるプーチンとの首脳会談で歯舞・色丹二島返還を謳った1956年の日ソ共同宣言基づいて協議する用意があると提案したことに対してプーチンは既に上で触れたように「日ソ共同宣言には平和条約の締結のあとに2つの島を引き渡すと書かれているが、引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない。これは本格的な検討を必要とする」と主張している。

 「引き渡す根拠」は日ソ共同宣言に置くことができる。問題は「どちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない」と言っていることである。時と場合によっては二島返還に応じる意思があるなら、その場合の主権は日本への帰属が当然の事実となるゆえに「どちらの主権のもとに島が残るのか」などといった発言は合理性を認めることはできない。

 にも関わらず、そのような言葉を使うこと自体、ロシアの「主権のもとに島が残る」ことも頭に入れた発言となる。ロシア側は返還した場合の歯舞・色丹の二島に日米安保条約に基づいて米軍が駐留することを危惧しているということだが、駐留しないことを日露間で国際条約として締結したとしても、ロシアの友好国であるイランと米英仏独中ロの間で2015年7月に締結した核合意からのトランプの離脱表明の例、あるいは中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱表明の例は国際条約の信頼性を蔑ろにする一方的措置であって、ロシアに於けるこのことの経験は国際条約というものの不確実性を強く実感させていると見なければならない。

 大体がロシアの前身であるソ連自体が国際条約である日ソ不可侵条約を一方的に破棄して満州に侵攻した例を自ら抱えている。国際条約というものに信頼性を置くことも確実性も置くこともできなければ、歯舞・色丹の二島に米軍を駐留させないことの国際条約を結んで約束するとしたとしても、万が一の国家的安全保障の観点から、その約束に乗る確率はゼロに近いことを予想しなければならない。

 もし約束に乗った場合、ロシア側自身がトロイの木馬をロシア領の近くの島に招き寄せる事態になると危惧している可能性も考えなければならない。更にロシア政府は「北方四島は第2次世界対戦の結果ロシア領となった」と日本側に対してではなく、ロシア国民に対しても公式見解としている。

 となると、四島返還が戦後70年以上も交渉して決着を見ることができていないように安倍晋三の1956年の日ソ共同宣言に基づいた歯舞・色丹二島返還交渉の提案にしても、それが二島返還を全ての決着とする提案であろうと、二島返還を先行させて四島返還に持っていくことを全ての決着とする狙いの提案であるなら尚更に簡単な年月では解決しない保証を孕んでいる提案と心しなければならない。

 この困難な保証に対して菅義偉が上に挙げた記者会見で記者の「安倍総理大臣の任期を踏まえ、3年の期限を区切って平和条約を締結するのか」との問いに、「安倍総理大臣は次の世代に課題を先送りすることなく、両首脳の手で必ずや終止符を打つ強い意思を共有したと発言した。まさにそのとおりだと思う」と、いとも簡単に3年の期限を区切った平和条約締結としている矛盾は安倍晋三の任期の3年間を、さも交渉が前に進んでいると見せかける単なる時間稼ぎに利用されることになると見なければ、整合性を見い出すことはできない。

 当然、プーチンの前提条件なし平和条約締結提案に屈した時間稼ぎということになる。安倍晋三は今後共プーチンと会談を重ねて、交渉が有意義に進展していると見せかけることになるだろう。これまでの会談で実際に何ら進展がなかったにも関わらず、進展があるかのように発言を繰返してきたのと同じく。

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安倍晋三の外国人材受入れ拡大策はアベノミクス生産性向上の公約違反が結末

2018-11-15 11:55:12 | 政治
 
 生産性向上とは、難しいことは言うことはできないから、簡単に言うと、より少ない限られた人材を用いて生産の効率を上げると同時に常に新たな発想に基づいた新たな価値を付加したモノを生み出し続けることを言うはずである。

 と言うことは、生産性向上はより少ない限られた人材を元手とするから、生産の効率という点では少子高齢化、このことを受けた人手不足に自ずと対応させることになる課題となる。ところが安倍晋三は第2次安倍政権発足当時はまだ人手不足に対応させた課題とはしていなかった。

 安倍晋三は2013年6月14日閣議決定「日本再興戦略閣議決定」で次のように生産性について各々謳っている。

 〈今回の成長戦略を始めとする三本の矢を実施することなどを通じて、中長期的に、2%以上の労働生産性の向上を実現する活力ある経済を実現し、今後10年間の平均で名目GDP 成長率3%程度、実質GDP 成長率2%程度の成長を実現することを目指す。〉

 〈特に、20年の長きにわたる経済低迷で、企業もそこで働く人々も守りの姿勢やデフレの思考方法が身に付いてしまっている今日の状況を前向きな方向に転換していくためには、賃金交渉や労働条件交渉といった個別労使間で解決すべき問題とは別に、成長の果実の分配の在り方、企業の生産性の向上や労働移動の弾力化、少子高齢化、及び価値観の多様化が進む中での多様かつ柔軟な働き方、人材育成・人材活用の在り方などについて、長期的視点を持って大所高所から議論していくことが重要である。

 〈(女性が働きやすい環境を整え、社会に活力を取り戻す)

 特にこれまで活かしきれていなかった我が国最大の潜在力である「女性の力」を最大限発揮できるようにすることは、少子高齢化で労働力人口の減少が懸念される中で、新たな成長分野を支えていく人材を確保していくためにも不可欠である。〉

〈2.雇用制度改革・人材力の強化

 経済のグローバル化や少子高齢化の中で、今後、経済を新たな成長軌道に乗せるためには、人材こそが我が国の最大の資源であるという認識に立って、働き手の数(量)の確保と労働生産性(質)の向上の実現に向けた思い切った政策を、その目標・期限とともに具体化する必要がある。

 このため、少子化対策に直ちに取り組むと同時に、20歳から64歳までの就業率を現在の75%から2020 年までに80%とすることを目標として掲げ、世界水準の高等教育や失業なき労働移動の実現を進める一方で、若者・女性・高齢者等の活躍の機会を拡大する。これにより、全ての人材が能力を高め、その能力を存分に発揮できる「全員参加の社会」を構築する。〉云々――

 安倍晋三の頭の中ではこの頃はまだ生産性向上は単なるアベノミクス成長戦略の一つの方便としているに過ぎない。少子高齢化はアベノミクス成長戦略にとっての一つの障害と見ている。そのために少子高齢化による労働力人口減少を補う素材として女性の活用を訴えている。

 つまり生産性向上そのものを人手不足に対応させた課題とするにはまだ至っていなかった。

 2013年4月19日の安倍晋三の日本記者クラブ講演「成長戦略スピーチ」は約2ヶ月後の上記2013年6月14日閣議決定「日本再興戦略閣議決定」に反映させていることは、女性の価値を労働力の一つと見ていることからも明らかである。

 〈人材、資金、土地など、あらゆる資源について、その眠っている「可能性」を、存分に発揮させる。そして、生産性の低い分野から、生産性の高い分野へ、資源をシフトさせていくこと。「成長」とは、それを実現していくことに他なりません。
 優秀な人材には、どんどん活躍してもらう社会をつくる。そのことが、社会全体の生産性を押し上げます。
 現在、最も活かしきれていない人材とは何か。それは、「女性」です。〉――

 このスピーチには「人手不足」という言葉は一つとして見当たらない。あくまでも生産性向上はアベノミクス成長戦略推進のエンジンの一つとしてのみ把握している。

 2015年7月9日の「安倍晋三基調講演」(首相官邸)では、次のように発言している・

 安倍晋三「生産性革命によって、未来を切り拓く。これが、先週決定した新たな成長戦略のキーワードです」

    ・・・・・・・・・・・・・

 女性、さらには外国人材なくして、もはや、グローバルな舞台で戦うことはできません。多様で柔軟な働き方を可能とし、労働の質を高めていくことも必要でしょう。ITやロボット、新たな技術もどんどん活用していきます」(文飾当方)

 ここでは少子高齢化という言葉も人手不足という言葉も一言も発していないが、女性や外国人材を用いなければならないということは少子高齢化を受けた人手不足に対応さた課題としていることは見て取れるが、生産性向上と人手不足を未だに直接的には繋げていない。

 2017年9月20日の「ニューヨーク証券取引所における安倍晋三経済スピーチ要旨」(外務省)でも、「人口減少の中で,『生産性革命』と『人づくり革命』に取り組む」と発言しているが、これらの革命をアベノミクス成長戦略の最大の柱と位置づけているのみで、直接的には人手不足に対応させた生産性向上を謳っているわけではない。

 2017年年11月17日に首相官邸で第12回未来投資会議が開催され、そこでの「スピーチ」(首相官邸)で、アベノミクス成長戦略推進の鍵として掲げていた「生産性革命」の実現を約束する中で、「雇用情勢が大きく改善する中、人手不足に悩む中小・小規模事業の生産性向上は国の課題です」と発言して、このときが初めてかどうか分からないが、生産性向上を人手不足に対応させた課題として掲げている。但し中小・小規模事業限定の課題となっている。

 2017年12月15日の「共同通信加盟社編集局長会議 安倍晋三スピーチ」(首相官邸)で明確に生産性向上を人手不足に対応させた課題として前面に打ち出している。

 安倍晋三「5年間のアベノミクスによって、史上初めて47全ての都道府県で有効求人倍率が1倍を超え、その状態が続いています。そうした中で、深刻な人手不足に悩む中小・小規模事業者の皆さんのためにも、生産性革命のうねりを全国に広げていかなければならない。そのため、昨日決定した税制改正大綱では、自治体の自主性に配慮しつつ、設備投資にかかる固定資産税が0となる初めての税制を導入することを決定しました。

 生産性をしっかりと上げていくことができれば、人手が少なくて済むだけではなくて、賃金も上げることができる。当然一人一人の生産性が上がっていくわけでありますから、賃金も上げていくことが可能となっていきます。そうすれば、人手不足の解消にもつながると期待しています」

 「生産性をしっかりと上げていくことができれば、人手が少なくて済むだけではなくて、賃金も上げることができる」と、生産性向上が人手不足解消の良策であるとしているが、「中小・小規模事業者の皆さんのためにも」と、ここでも特に中小・小規模事業者を対象としている。

 安倍晋三は通常国会閉会を受けて2018年7月20日に「記者会見」を行っている。

 安倍晋三「深刻な人手不足に直面する中小・小規模事業者の皆さんへの支援もしっかりと行ってまいります。生産性を向上させるための投資には、固定資産税をゼロにするかつてない制度がスタートしました。ものづくり補助金や持続化補助金により、中小・小規模事業者の皆さんによる経営基盤の強化を応援します。4月からは相続税の全額猶予により、次世代への事業承継を力強く後押ししています。一定の専門性、特定の技能を持った優秀な外国人材を受け入れるための新たな在留資格の創設に向けて準備を進めてまいります」(文飾当方)

 ここもで特に「中小・小規模事業者の皆さん」を対象としているが、「一定の専門性、特定の技能を持った優秀な外国人材」の受入れを訴えることで外国人材受入れ拡大策を人手不足に対応させた課題として掲げている。

 当初はアベノミクス成長戦略の推進を目的として生産性向上を公約として掲げていた。そのための方策の一つが新たな成長分野を支えていく人材確保の対象とした女性の社会参加であり、高齢者の活用であった。

 生産性向上を人手不足に対応させた必要課題として掲げるのはあとになってからだが、当初から掲げていた生産性向上の公約を見事果たしていたなら、政府が2018年11月14日に衆院法務委員会理事懇談会に外国人材受入れ人数の試算を提示したが、初年度に最大4万7550人、5年間で最大34万5150人も受入れる必要はなかったはずだ。

 「日本の労働生産性の推移」(日本労働生産性本部)

 労働者就業1時間当たりの日本の労働生産性水準

 2012年 4358円
 2013年 4440円
 2014年 4511円
 2015年 4568円
 2016年 4671円
 2017年 4694円 (2017年は別PDF記事から)

 第2次安倍政権が発足する前の2012年から2017年まで、336円しか上がっていない。8時間労働として1日2688円。このような生産性だからこそ、OECD データに基づく2017年の日本の労働生産性はOECD加盟35カ国中、2016年と順位は変わらない20位ということなのだろう。

 安倍晋三はアベノミクス成長戦略で掲げた「生産性革命を我が国がリードする」とか、「生産性革命によって、未来を切り拓く」などと立派なことを言っていたが、「生産性革命」と大層な名前を付けようが付けまいが、生産性向上が日本の労働者に機能して少子高齢化を受けた人手不足の解消を結末とするのではなく、結局のところ、外国人受入れ拡大によって人手不足の解消を目的とする結末を迎えることになった。

要するに大言壮語(「実力以上に大きな事を言うこと」を吐いただけで終わった公約違反と言ったところであるはずだ。

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