安倍晋三は日本製自動車と自動車部品への追加関税を避けるためにトランプに防衛装備品購入の媚を売った

2018-09-29 09:13:02 | 政治


 安倍晋三は2018年は9月26日午後(日本時間27日未明)、米ニューヨークのパレスホテルでトランプと首脳会談を行った。2018年9月27日21時07分発信の「朝日新聞デジタル」が、《トランプ氏「日本はすごい量の防衛装備品を買うことに」》と題して首脳会談後のトランプの記者会見発言を紹介している。

トランプ「安倍首相と会ってきた。我々は日本と貿易交渉を開始している。日本は長年、貿易の議論をしたがらなかったが、今はやる気になった。私が『日
本は我々の思いを受け入れなければならない。巨額の貿易赤字は嫌だ』と言うと、日本は凄い量の防衛装備品を買うことになった」

トランプの発言趣旨からすると、一見、安倍晋三は2017年で689億ドルにも上る巨額な米国の対日貿易赤字を減らすために昨今の日本の安全保障環境に合わせて「凄い量の防衛装備品」の購入で埋め合わせようとしたかに見える。

 この購入に関して官房長官の菅義偉の9月28日閣議後記者会見発言と防衛相の小野寺五典の同じく閣議後記者会見発言を2018年9月28日付「NHK NEWS WEB」記事が伝
えている。

 菅義偉「日米首脳会談で、安倍総理大臣からトランプ大統領に対し、厳しい安全保障環境に対応するため、今後とも米国の防衛装備品を含め、高性能な防衛装備品の導入が、わが国の防衛力強化にとっては重要であるという旨を伝えた。日米間では、引き続いて緊密に協力していくことで一致しているということだ」

 この発言を見ると、安倍晋三の方から引き続いて米国製を含めた防衛装備品の導入を図っていくことを伝えたように見える。首脳会談での議論の一つは米国の対日貿易赤字削減に関する文脈で日米物品貿易協定締結の話が交わされ、日本製自動車に対する追加関税について話し合いが行われたはずである。このような経緯の中、アメリカからの購入に限ったことではない防衛装備品の導入について話をするだろうか。

 小野寺五典「安全保障環境が一層厳しさを増す中、防衛力について、質および量を、必要かつ十分に確保することが不可欠だ。最新鋭の装備品の導入は非常に重要で、引き続き日米間で緊密な協力を行っていく。自衛隊の装備品は、防衛計画の大綱などに基づき、アメリカ製を含めて計画的に取得していて、今後も主体的な判断のもと、防衛力の強化に努めていく」

 小野寺五典は「防衛計画の大綱などに基づいた」主体的な判断のもとの計画的な防衛装備品の導入だと言っている。いわば菅義偉も小野寺五典も、トランプが「巨額の貿易赤字は嫌だ」と言ったら、安倍晋三が「凄い量の防衛装備品の導入」で応じたとしているストーリーを否定していることになる。トランプのフェイクニュース、もしくはハッタリで片付けたことになる。

 もし安倍晋三が「防衛計画の大綱などに基づいた」引き続いての防衛装備品導入の話をトランプに伝えたのだったら、首脳会談後の「内外記者会見」でなぜこの話をしなかったのだろう。だが、一言も触れていない。

 日米首脳会談後の「日米共同声明」外務省)でも、触れていない。

 〈大統領は、相互的な貿易の重要性、また、日本や他の国々との貿易赤字を削減することの重要性を強調した。総理大臣は、自由で公正なルールに基づく貿易の重要性を強調した。〉との記述はあるが、トランプの貿易赤字削減欲求に対して日本の対米投資の実績や将来的投資、さらに米国製の防衛装備品導入計画で米国の対日貿易赤字の相殺の役目を果たしていることを主張、その主張を日米共同声明に盛り込んでもいいはずだが、どこにも見当たらない。

 対米投資額が大きければ大きい程、アメリカ経済に対する波及効果は大きくなり、対日貿易赤字相殺の役目は大きくなる。

 日米共同声明にあるように首脳会談が米国の対日貿易赤字削減が主要なテーマの一つになっていたことは明らかで、そのテーマに添っている安倍晋三の内外記者会見での発言を見てみる。

 安倍晋三「トランプ大統領が就任してからの1年半、日本企業は、アメリカ国内に新たに200億ドルの投資を決定しました。これにより、3万7,000人の新しい雇用が生み出されます。これは、世界のどの国よりも多い。すべては、自由貿易の旗を高く掲げ、両国が経済関係を安定的に発展させ、成熟させてきた帰結であります」――

 対米投資を一つの方法とした日本のアメリカ経済に対する大いなる貢献を訴えることで、そのことを以って米国の対日貿易赤字と差し引きさせて、赤字額だけで日米関係を律することの不足性を間接的に指摘している。

 当然のこと、実際にもトランプとの首脳会談で日本のこういった対米貢献に触れているはずで、触れていなければならなかった。

 だとすると、アメリカ防衛産業の経営維持や雇用維持の経済的波及効果をプラスさせることになるアメリカからの防衛装備品の導入も、米国の対日貿易赤字を相殺する一方法となるのだから、それが実際に「防衛計画の大綱などに基づいた」導入であるなら、内外記者会見でも日米共同声明でも触れていいはずだが、影形も見えない。

 考えられる理由はトランプ自身の記者会見発言がフェイクニュースでもハッタリでもなく、事実そのものだからだろう。

 トランプの発言を再度ここに上げてみる。

トランプ「安倍首相と会ってきた。我々は日本と貿易交渉を開始している。日本は長年、貿易の議論をしたがらなかったが、今はやる気になった。私が『日
本は我々の思いを受け入れなければならない。巨額の貿易赤字は嫌だ』と言うと、日本は凄い量の防衛装備品を買うことになった」

 トランプは「巨額の貿易赤字」削減の方法として、昨日のブログに書いたが、米国の対日貿易赤字の8割弱(2017年対日貿易赤字額は689億ドル=約7.6兆円)を自動車関連が占めている関係から、米国輸入の外国製自動車や自動車部品に25%の追加関税を課す輸入制限を検討課題の一つとしていた。

 対して日本は追加関税は日本の自動車産業に与える打撃が大きいことから、何としてもその回避に務めなければならない状況に立たされていた。昨日のブログではNHK NEWS WEB記事を引用して、〈トヨタ自動車は関税が25%に引き上げられるとアメリカに輸出する車1台当たりの平均で6000ドル、日本円で67万円程度の負担が増えると試算したほか、民間のシンクタンク「大和総研」は関税が20%になると、日本の自動車メーカーなどの追加負担額は、合わせて1兆7000億円余りになると試算するなど、大きな影響が懸念される。〉と書いた。

 安倍晋三が日本製自動車や自動車部品への追加関税を何としても回避するために米国の対日貿易赤字を相殺させる意味合いで「凄い量の防衛装備品」の導入を申し出たとしても、何の矛盾もない。いや、当然過ぎる申し出と見ることができる。

 但しそれが小野寺五典が言うように「防衛計画の大綱などに基づいた」主体的な判断のもとの計画的な防衛装備品の導入ではなかったとしたら、米国の対日貿易赤字の相殺と言うよりも自動車関連への追加関税回避を目的とした単なる交換条件となって、交換条件のための防衛装備品の導入などは恐ろしい謀(はかりごと)となり、一切の正当性を失う。

 だから、安倍晋三は内外記者会見でも日米共同声明でも触れずに情報隠蔽を謀ることになった。

 要するに安倍晋三は日本製自動車と自動車部品への追加関税を避けるためにトランプに防衛装備品購入の媚を売ったのである。

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安倍晋三は日本の農業を犠牲にして自動車産業を守る戦略に基づいた対米物品貿易協定交渉で臨む違いない

2018-09-28 12:16:37 | 政治


 安倍晋三が9月26日(2018年)午後、米ニューヨークのパレスホテルでトランプと会談、日米物品貿易協定締結に向け2国間交渉開始で合意した。会談後の内外記者会見から、交渉に関する発言のみを拾ってみる。

 「内外記者会見」(首相官邸/2018年9月26日) 

 安倍晋三「トランプ大統領が就任してからの1年半、日本企業は、アメリカ国内に、新たに200億ドルの投資を決定しました。これにより、3万7,000人の新しい雇用が生み出されます。これは、世界のどの国よりも多い。すべては、自由貿易の旗を高く掲げ、両国が経済関係を安定的に発展させ、成熟させてきた帰結であります。

 時計の針を決して逆戻りさせてはならない。むしろ、この関係を一層進化させていくことで、互いの貿易・投資をもっと活発にしていくことが必要です。

 その大きな認識をトランプ大統領と共有し、先ほどの日米首脳会談で、日米間の物品貿易を促進するための協定、TAG交渉を開始することで合意しました。

 その前提として、農産品については、過去の経済連携協定で約束した内容が最大限である。この日本の立場を、今後の交渉に当たって、米国が尊重することを、しっかりと確認いたしました。

 同時に、この協議が行われている間は、本合意の精神に反する行動をとらないこと、すなわち日本の自動車に対して、232条に基づく追加関税が課されることはないことを確認しました。さらに、その他の関税問題も早期の解決に努めることで、一致しました」

 安倍晋三はトランプのTPP離脱表明以後も多国間の自由貿易を主張、トランプにTPP復帰を働きかけてきた。例えば2018年1月31日の参院予算委員会。

 安倍晋三「TPPについてでございますが、トランプ大統領に対しましては、トランプ氏が大統領に就任する前、一昨年の11月に米国で会談をした際にも、TPPの意義、重要性、米国が入る意義等についてお話をさせていただきました。

 そして、昨年の訪米時に、2月の訪米時にも相当時間を掛けて、フロリダにおいて、例えばゴルフの合間を縫って昼食をした際にもこのTPPの意義についてお話をしたところでありますが、米国と日本、この価値を、普遍的価値を共有する両国がしっかりとしたルールをつくっていくべきだという話をしたところでありますが、この意義についてですね、意義についてトランプ大統領から反論あるいは異議はなかったわけでございまして、ずっと話には耳を傾けて頂いたところでございまして、先般のトランプ大統領のTPPへの復帰可能性についてですね、に関する発言がTPPの意義や重要性への認識を示すものであれば、歓迎したいと思います。
 
 我が国としては、まずはTPP11の早期署名、発効の実現を最優先として進めていきたい、3月の8日署名を目指して進めていきたいと、このように思いますが、引き続き米国とは意思疎通をしていきたい、そして、やはり米国がしっかりとこの自由で開かれた高いルールのTPPを日本とともに牽引していくべきだということも含めてトランプ大統領にも働きかけをしていきたいと、このように考えております」――

 トランプに対して「TPPの意義、重要性、米国が入る意義等」を繰返し説いてきた。「フロリダでゴルフの合間を縫って昼食をした際」もTPP復帰を働きかけた。「意義についてトランプ大統領から反論あるいは異議はなかったし、ずっと話には耳を傾けて頂いた」から、脈はあったはずで、その現れが「トランプのTPPへの復帰可能性の発言」ではなかったかと、かなり期待を抱いている節がある。

 「トランプのTPPへの復帰可能性の発言」とは、ネットで調べてみると、2018年4月、トランプが米通商代表部のライトハイザー代表と国家経済会議のクドロー委員長に「より良い協定に交渉できるかどうか改めて考えるよう指示した」ことを指す。
 
 但し日本も他のTPP参加国も、再交渉に否定的で、応じたとしても、前大統領オバマが一旦署名した合意のハードルを下げる余地は与えなかったはずだ。そもそもからしてトランプのターゲットは米国の巨額な貿易赤字の削減であって、削減の手段として対米貿易黒字国の対米輸出品の関税を上げて米国への輸入を減らすことで米国製品と米国産業を守り、対米貿易黒字国の米国からの輸入製品の関税を下げさせて、米国製品の輸出を増やすと同時に輸出に関わる米国産業を守る方法を取っている。

 そのための、一部適用除外規定を設けているものの、日本やその他の国の鉄鋼製品やアルミ製品に対する関税の割増賦課という個別対応であって、個別対応の自由をTPPはトランプに与えることはできなかったろう。

 さらに米国に輸入される各国製自動車や自動車部品に25%の追加関税を課す輸入制限も検討課題としていた。2018年9月27日付「NHK NEWS WEB」記事が、〈去年1年間に日本がアメリカに輸出した自動車の台数は174万台。関連部品と合わせた輸出額は5兆5000億円余りと、アメリカへの輸出額全体に占める割合も36%と最大で〉、〈トヨタ自動車は関税が25%に引き上げられるとアメリカに輸出する車1台当たりの平均で6000ドル、日本円で67万円程度の負担が増えると試算したほか、民間のシンクタンク「大和総研」は関税が20%になると、日本の自動車メーカーなどの追加負担額は、合わせて1兆7000億円余りになると試算するなど、大きな影響が懸念される。〉と伝えている。

 このことを防ぐために安倍晋三はトランプとの首脳会談で、「この協議が行われている間は、本合意の精神に反する行動をとらないこと、すなわち日本の自動車に対して、232条に基づく追加関税が課されることはないことを確認した」ということなのだろうが、一見安倍晋三の外交成果のように見えるが、あくまでもトランプの狙いは対日貿易赤字削減であって、それが望み通りにならない「日米物品貿易協定」であったなら、それまでの命となりかねない追加関税だと考えなければならない。

 2018年9月27日付の「朝日新聞デジタル」はトランプが安倍晋三との会談中、「交渉は満足できる結論になると信じている。もし、そうならなければ……」と言って安倍晋三の顔を覗き込み、対して安倍晋三が苦笑いを浮かべたと書いている。

 「満足できる結論」とは米国の対日貿易赤字の大幅な削減以外に眼中にないはずで、上記「NHK NEWS WEB」記事が伝えているように自動車と関連部品を合わせた輸出額がアメリカへの輸出額全体に占める割合は36%であっても、2017年4月6日付「時事ドットコム」記事には2017年の米国の対日貿易赤字は689億ドル(約7.6兆円)で、自動車関連が8割弱を占めていると解説していて、それ程にも日本がアメリカに対して日本製自動車を売りまくっている以上、自動車関連での大幅な譲歩があって初めてトランプにとっての「満足できる結論」となる。

 参考のために上記記事掲載の「米国の国別貿易赤字」の画像を添付しておく。
 要するにトランプは「日米物品貿易協定」協議に於ける日本の譲歩が米国の対日貿易赤字の8割弱を占める自動車関連へと収束していくことを合意事項に於ける重要な柱として頭に置いているはずだ。

 冗談めかしてホンネをちらつかせるということもある。「満足できる結論」云々とはあくまでも自動車関連での日本の譲歩を指していて、警告を含んでいた可能性もある。安倍晋三は日本製自動車に対する追加関税を一時的に先延ばしにしただけで、外交成果でも何でもなく、安倍晋三とトランプ、いずれに成果が帰するか否かはあくまでも結論としての合意内容によって決まる。但しトランプの方が強い立場にあることが成果に向けた決定的要素になりかねない。

 安倍晋三は「農産品については、過去の経済連携協定で約束した内容が最大限である。この日本の立場を、今後の交渉に当たって、米国が尊重することを、しっかりと確認いたしました」と言って、TPPやその他の経済連携協定の内容上回る関税の引き下げには応じないことを確認したとして、自動車のみならず、日本の農業を守る姿勢も見せたが、あくまでも確認であって、結論ではない。果たして結論へと導き出すことができるかどうかにかかっている。

 2017年の日本の輸出総額78兆2864億円に対して農産物は4968億円で、僅かに0.63%しか占めていない。日本の農業がGDPに占める割合にしても1%と、これも僅かな存在でしかない。工業のみが肥大化し、農業が置き去りにされた。

 輸出額やGDPだけではなく、日本の農業は零細型、あるいは小規模型が多くて、集約型の農業との間に力の格差が生じていることからも分かるように産業全体から見た場合、相対的にも個別的にも日本の農業の力が弱いにも関わらず、TPPでは日本の農産品の多くに対して品別に関税を撤廃したり、段階的に引き下げたり、TPPの参加国に新たに輸入枠を設けたりしている。

 例え相手国に対してもバランスを取った措置を施していたとしても、農業の力の差、あるいは経営規模の差で日本の農業が受けるマイナスの影響は大きいはずである。当然、工業以上に農業を守らなければならなかったはずだが、農業の比ではない工業が持つ国に与える重要性から、力のある工業を優先的に守った。

 いわばTPPの段階で既に日本の農業は工業を守るための犠牲の対象とされてきた。安倍晋三がトランプに日本の農業に関してTPPやその他の経済連携協定の内容上回る関税の引き下げには応じないと約束したとしても、日本の自動車への追加関税が農業の比ではない日本の産業や国力に与える影響の大きさから、「日米物品貿易協定」協議はトランプに少しでも「満足できる結論」を与えるために日本の自動車産業と関連産業に与える犠牲を最小限にして、最小限の身代わりを農業にかぶって貰う犠牲の方程式で交渉を進めるに違いない。

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安倍晋三は日朝首脳会談を拉致解決に資するものと条件づけ、条件付けずに22回も重ねる日ロ首脳会談との二重基準

2018-09-27 10:14:54 | 政治
 

 国連総会一般討論演説のためにニューヨークを訪れていた日本の首相安倍晋三が9月25日(2018年)午前(日本時間26日未明)、ホテル「パーカー・ニューヨーク」で韓国の文在寅大統領と首脳会談を行った。その内容について「外務省」(2018年9月25日)が公表している。

 〈文大統領より、先般の南北首脳会談の結果について具体的な説明があった。これに対し安倍総理より今回の文大統領による努力が朝鮮半島の非核化に向けた具体的な成果に繋がるよう日本も協力を惜しまない、そのために安保理決議の完全な履行が重要であり、引き続き韓国と連携したい旨述べた。また、文大統領から金正恩委員長に対して改めて拉致問題を提起した旨の説明があったのに対し、感謝の念を伝えた上で引き続きの協力をお願いしたい、自分(総理)としても、相互不信の殻を打ち破り、金正恩委員長と直接向き合う用意がある旨述べた。〉

 この外務省サイトでは触れていないが、文在寅大統領が安倍晋三に対して「これまで3回に亘って金正恩朝鮮労働党委員長に日本人の拉致問題の解決など日朝の対話と関係改善を模索するよう勧めた」ことを明らかにし、この勧告に対して金正恩が「適切な時期に日本と対話をし、関係改善を模索していく用意がある」と表明したと「NHK NEWS WEB」や他のマスコミが伝えている。

 「適切な時期に」とは「ふさわしい時期に」と言うことであって、現在のところはふさわしい時期ではないということなのだろう。ふさわしい時期がいつ訪れるのかは双方の姿勢にかかっているということなのだろう。

 日韓首脳会談翌日の9月25日午後、安倍晋三は国連総会で「一般討論演説」(首相官邸サイト)を行っている。北方四島問題と北朝鮮問題に触れている箇所を抜粋してみる。

 安倍晋三「私は先刻、北東アジアから積年の戦後構造を取り除くため、労を厭わないと申しました。

 私は今、ウラジーミル・プーチン大統領と共に70年以上動かなかった膠着を動かそうとしています。

 大統領と私は今月の初め、ウラジオストクで会いました。通算22度目となる会談でした。近々、また会います。両国の間に横たわる領土問題を解決し、日露の間に平和条約を結ばなくてはなりません。日露の平和条約が成ってこそ、北東アジアの平和と繁栄はより確かな礎を得るのです。

 皆様、昨年この場所から、拉致、核・ミサイルの解決を北朝鮮に強く促し、国連安保理決議の完全な履行を訴えた私は北朝鮮の変化に最大の関心を抱いています。

 今や北朝鮮は歴史的好機を掴めるか否かの岐路にある。手付かずの天然資源と大きく生産性を伸ばし得る労働力が北朝鮮にはあります。

 拉致、核・ミサイル問題の解決の先に不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す日本の方針は変わりません。私たちは北朝鮮が持つ潜在性を解き放つため、助力を惜
しまないでしょう。

 ただし幾度でも言わなくてはなりません。全ての拉致被害者の帰国を実現する。私は、そう決意しています。

 拉致問題を解決するため、私も、北朝鮮との相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接向き合う用意があります。今決まっていることは、まだ何もありませんが、実施する以上、拉致問題の解決に資する会談にしなければならないと決意しています」(以上)

 「私は先刻」申したとしている「戦後構造」とは冒頭で「議長、御列席の皆様、向こう3年、日本の舵取りを続けることとなった私は、連続6度目となります本討論に思いを新たに臨みます。今からの3年、私は、自由貿易体制の強化に向け、努力を惜しみません。北東アジアから戦後構造を取り除くために、労を厭(いと)いません」と発言したことを指している。

 北方四島に関しては領土問題の解決を条件として平和条約を結ぶ。北朝鮮に対しては不幸な過去の清算に基づいた日朝国交正常化は拉致、核・ミサイル問題の包括的解決を条件としている。いわば拉致、核・ミサイル問題の包括的解決が先にあるべしを突きつけている。

 ところが金正恩側は「日本は自分らの過去を至急、清算すべきだ」、あるいは「日本は過去の清算なしには、一歩も未来に進むことはできない」と日本の過去の清算が先にあるべしを突きつけている。このように日朝の態度が相衝突し合うようでは金正恩が韓国大統領の拉致解決に向けた勧告に対して日本との対話と関係改善の模索を試みる旨応じたとされる「適切な時期」はそう簡単には実現しないように思える。

 安倍晋三は「全ての拉致被害者の帰国を実現する」との発言を「幾度でも言わなくてはなりません」と断っているが、「金正恩と直接向き合う用意がある」、但し向き合う以上は「拉致問題の解決に資する会談にしなけれならない」と発言していることも、数え上げたならキリがない程に「幾度でも」言っている。

 要するに安倍・金正恩首脳会談前に外務省の次官クラスの事務方、あるいは秘密裏にその役目を担わされた政治家と北朝鮮側との間で何回かの交渉を経た上で前以って拉致被害者全員の生存確認と帰国決定がセッテングされ、それゆえに解決が約束されることになる首脳会談が「拉致問題の解決に資する会談」ということになる。

 勿論、拉致被害者全員の生存確認と帰国決定を導いた事務方、あるいは政治家は裏方であって、表に出ることはなく、金正日が拉致被害者4人の生存を認めた(帰国は5人)2002年9月の小泉純一郎・金正日首脳会談がそうであったように安倍・金正恩首脳会談でも金正恩が日本側が挙げている拉致被害者全員の生存とその帰国を自身がその場で初めて認める体裁を取り、それに対して安倍晋三が金正恩の措置に感謝し、歓迎するという会談の進め方をするはずである。

 金正恩に認めさせる代償として経済援助の形を取った多額の戦争賠償で応じる。

 この手の成果・手柄の一番美味しいところは一度の会談で拉致解決が一挙に実現する形を見せるために小泉純一郎がそうであったように安倍晋三が独占することになって、その外交能力は高く評価され、暫くの間はその能力を褒めそやす声は途絶えることなく続き、最終的には政治史に安倍晋三の名を残すことになるだろう。

 但し解決が約束されなければ首脳会談は行わないという姿勢に正当性を与えることができるのだろうか。

 一方で北方四島の帰属問題の解決に資する会談とはなっていないにも関わらず、プーチンとは通算で22回目にもなる会談を開いている。解決に資する会談とはなっていないことは2018年9月10日の22回目となる日ロ会談2日後の東方経済フォーラム全体会合で中国の習近平国家主席らと共にテーブルに就いていた安倍晋三は同じテーブルに就いていたプーチンから、「今思いついた。先ず平和条約を締結しよう。今すぐにとは言わないが、ことしの年末までに。いかなる前提条件も付け
ずに。

 その後、この平和条約をもとに、友人として、すべての係争中の問題について話し合いを続けよう。そうすれば70年間、克服できていない、あらゆる問題の解決がたやすくなるだろう」(NHK NEWS WEB)と、前提条件なしの、いわば領土の帰属問題抜きの平和条約締結を持ちかけられたことが何よりの証明となる。

 このことはバカだって理解できるだろう。22回の日ロ首脳会談が少しでも北方四島の帰属問題の解決に資する会談となっていたら、当事者同士で仕切り直しを話し合うなら兎も角、他国首脳がいる面前でそれまで積み重ねてきた議論を反故にするような発言はできないはずだ。積み重ねてきた議論をさらに積み重ねる方向に話を進めるはずだ。

 だが、そういった22回の日ロ首脳会談ではなかった。北方四島の帰属問題の解決に資する会談とはなっていなかったからこそできる反故発言であろう。

 一方で北方四島の帰属問題の解決に資する役には立っていない日ロ首脳会談を22回も行い、その一方で「拉致問題の解決に資する会談」でなければ金正恩とは会わないと言っている。このことは二重基準であるということだけではなく、拉致問題の解決に資する会談とならなくても、金正恩と何度でも会い、直接働きかけて、拉致問題を解決に導こうと心がける練り強さや誠実さが認められない点、あるいは「拉致は安倍内閣で解決する」と発言している手前から言っても、拉致家族会に対して失礼に当たる。

 練り強さや誠実さを欠いていながら、裏方の力を借りで拉致解決が約束される日朝首脳会談に持っていき、一番美味しい成果・手柄は独り占めするようなことを考えている。名を残すための手段を選ばない貪欲さだけはおぞましいばかりに一人前以上のようだ。


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安倍晋三の「安倍政権で拉致問題を解決する」は同じ箇所で同じ文句を繰返し聞かされる壊れたレコード盤

2018-09-25 11:57:32 | 政治

 

 安倍晋三が国連総会出席とトランプとの日米首脳会談等のために2018年9月23日に羽田空港からアメリカに向けて出発する際、午後4時30分から2分間、報道各社のインタビューを受けた。拉致に関する発言のみを拾ってみる。

 「記者会見」(首相官邸/2018年9月23日)

 安倍晋三「今回の国連総会においては、トランプ大統領あるいは文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領を始め、各国の指導者たちと首脳会談を行い、北朝鮮をめぐる問題、核問題、ミサイル問題、そして何よりも重要な拉致問題の解決の重要性について訴えてまいります。

 トランプ大統領とは今晩2人だけで会談、夕食を共にする予定でありまして、そしてまた26日にも日米の首脳会談を行います。北朝鮮をめぐる問題について認識を共有し、そしてその方向性について一致させたいと考えています」(以上)

 「何よりも重要な拉致問題の解決の重要性について訴えてまいります」と言っている。

 安倍晋三はこの9月23日午後4時30分から2分間の記者会見より先の午後2時2分から同26分まで東京都千代田区の砂防会館別館シェーンバッハサボーで開催された「全拉致被害者の即時一括帰国を!国民大集会」に出席して、スピーチを行っている。「安倍晋三スピーチ」(首相官邸/平成30年9月23日)

 安倍晋三「今後一層、米韓両国との緊密な協力に加えて、中国、ロシアを始めとする国際社会と連携し、北朝鮮の核・ミサイル、そして、何よりも重要な拉致問題の解決に向け、全力で取り組んでいく決意であります。

 特に拉致問題については、我が国が主体的に解決していかなければなりません。米朝首脳会談では、トランプ大統領から金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長に対し、拉致問題に関する私の考え方を明確に伝えていただきましたが、最後は私自身が金正恩委員長と直接向き合わなければならない。そしてこれを行う以上は、拉致問題の解決に資するものにしなければなりません。核・ミサイル、そして、何よりも重要な拉致問題を解決し、そして新たな日朝関係を築いていかなければならないと考えています。

    ・・・・・・・・・・

 安倍政権でこの問題を解決する。拉致問題は、安倍内閣の最重要・最優先の課題であります。拉致被害者の方々と御家族の皆様が抱き合う日が訪れるまで、私の使命は終わらない。2002年の10月15日に5名の被害者の皆様が御帰国をされ、家族と再会されました。ただそれ以外の御家族の皆様は、まだ再会することができていない。私はあのとき、全ての拉致被害者の御家族がしっかりと、お嬢さんを、お子さんを抱きしめる日がやって来るまで、私の使命は終わらないと、こう固く決意したところでございます」――

 なかなかの決意表明となっている。但し「拉致問題については、我が国が主体的に解決していかなければなりません」も、拉致の解決のためには「最後は私自身が金正恩委員長と直接向き合わなければならない」も、金正恩と直接向き合った会談を行うためには「拉致問題の解決に資するものにしなければなりません」も、「安倍政権でこの問題を解決する」も、「拉致問題は、安倍内閣の最重要・最優先の課題であります」も、「拉致被害者の方々と御家族の皆様が抱き合う日が訪れるまで、私の使命は終わらない」も、何度か聞かされたか、あるいは何度も何度も聞かされた言葉である。

 拉致解決に何の進展を見ないままに同じ言葉を聞かされたなら、拉致被害者家族は大抵はウンザリするはずだが、ウンザリするどころか、同じ言葉を口にすることを許している。

 2018年6月12日にシンガポールで行われた「米朝首脳会談では、トランプ大統領から金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長に対し、拉致問題に関する私の考え方を
明確に伝えていただきました」と言っている。

 この2018年6月12日の米朝首脳会談の2日後の2018年6月14日に安倍晋三は拉致被害者家族と首相官邸で面会している。「面会」(一部抜粋)

 安倍晋三「拉致問題につきましては、先に行われた日米の首脳会談で、トランプ大統領に、金正恩委員長に対して、日本にとって最重要課題である拉致問題を提起していただくようお願いをしたところでございますが、既に記者会見でも述べられたように、金正恩委員長に対して拉致問題を提起されたということでありました。

 その後、電話でお話をさせていただきましたが、明確にアメリカと、また日本にとって重要課題である大切な拉致問題について金正恩委員長に提起しました、というようなお話を頂いたところでございました。

 この米朝の首脳会談を機会として捉え、あとは正に日本の問題として日本は北朝鮮と直接向き合い、この問題を解決していく決意でございます。

     ・・・・・・・・・・・・

 拉致問題を提起したということは、私がトランプ大統領に首脳会談において述べてきた、私の拉致問題に対する考え方を、それをそのまま金正恩委員長に伝えたとそういうことでございます。

 もちろん日朝の首脳会談というのは拉致問題が前進していくものにならなければ意味がないわけでありますから、しっかりとそういうことも踏まえながら、対応していきたい。

 しかし申し上げましたように、拉致問題というのは日朝の問題でありますから、日本が主体的に責任をもって解決していかなければならない問題であろうと、このように思います」

 米朝首脳会談2日後の2018年6月14日に拉致被害者家族と首相官邸で面会した際の安倍晋三の拉致発言と2018年9月23日に「全拉致被害者の即時一括帰国を!国民大集会」に出席して行った安倍晋三のスピーのうちの拉致問題箇所はほぼ同じ繰返しとなっている。

 単に同じ繰返しとなっていると言うだけではなく、安倍晋三の今日に於ける拉致に向けた姿勢と矛盾が見える。

 米朝首脳会談2日後の2018年6月14日に拉致被害者家族と首相官邸で面会した際は安倍晋三は「この米朝の首脳会談を機会として捉え、あとはまさに日本の問題として日本は北朝鮮と直接向き合い、この問題を解決していく決意でございます」と発言、アメリカの問題でもトランプの問題でもない、「あとは正に日本の問題」だとの表現で当事国問題として主体的解決の姿勢を提示した。

 更に約3カ月後の一昨日、2018年9月23日の「全拉致被害者の即時一括帰国を!国民大集会」でも、「特に拉致問題については、我が国が主体的に解決していかなければなりません」と、同じく主体的解決の姿勢を前面に打ち出している。

 このような主体的解決の姿勢が「日本は北朝鮮と直接向き合い、この問題を解決していく決意だ」(2018年6月14日の拉致被害者家族との首相官邸面)と金正恩との直接会談を視野に入れることになったのだろう。尤もその主体性の提示は金正恩との直接会談は、「拉致問題の解決に資するものにしなければなりません」との物言いで、拉致解決に役に立たない会談は行わないと言っているのだから、失敗を避ける計算高さがあるものの、拉致解決に向けた日本の主体性とは拉致問題はアメリカの手から離れた、あるいはトランプの手から離れたと言っているに等しいはずである。

 あるいは拉致解決に関しては日本は独り立ちすることの宣言でもあるはずだ。

 ところが今回アメリカに向かう羽田空港での記者会見では特にトランプに対してだろう、「何よりも重要な拉致問題の解決の重要性について訴えてまいります」と発言、自らよる主体的解決に託した以上、今更直接当事者ではない第三者に訴えても始まらないにも関わらず、このことは米朝首脳会談でトランプが金正恩に拉致解決の提起を行ったが、役に立っていないことが証明しているはずだが、独り立ちどころか、依然として他人頼りなところを見せている。

 そしてこのことは2018年6月12日の米朝首脳会談前に安倍晋三がトランプに米朝首脳会談の際に金正恩委員長に対して拉致の解決に向けた問題提起をお願いしたことの繰返しそのものの姿勢で、何も変わっていない。

 安倍晋三はニューヨークに到着後、トランプタワー最上階58階のトランプの私邸で9月23日夜(日本時間24日午前)、トランプと夕食会を行っている。予定していた1時間を大幅に上回って約2時間半に及んだとマスコミは伝えている。夕食会後の安倍晋三の拉致に関係する対記者団発言を、「NHK NEWS WEB」(2018年9月24日 12時02分)記事からみてみる。

 安倍晋三「出発前に拉致被害者の家族会の皆さんから切実な思いを伺い、メッセージをトランプ大統領に伝えた。次は私自身が、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長と向き合い、1日も早い拉致問題の解決のためにあらゆるチャンスを逃さないという決意で取り組んでいく」

 前半の発言は拉致解決に向けたトランプに対する協力のお願い。協力をお願いしながら、後半の発言は拉致問題を日本の当事国問題として主体的解決で臨む姿勢を提示している。前半の発言にしても、後半の発言にしても、以前の発言の繰返しに過ぎないが、「次は私自身」が「1日も早い拉致問題の解決」に取り組む「決意」であるなら、トランプに拉致解決の協力をお願いする必要はないはずだが、今以ってお願いするという前後矛盾した姿勢を同時に曝け出している。

 同じ発言の繰返しや前後矛盾した姿勢を拉致問題を解決に向けて一向に進展させることができていない状況で見せていることを考えると、このような状況を埋め合わせて進展しているかのように見せかけるための目論見が誘因となっている同じ発言の繰返しや前後矛盾した姿勢であるはずだ。もし進展していたなら、同じ発言の繰返しや前後矛盾した姿勢を曝け出す必要はどこにもない。

 当然、拉致解決に向かっているように思わせるニュアンスで拉致解決に懸命に取り組んでいる姿勢を様々な機会を捉えた様々な発言で表現していることになる。実際にも安倍晋三の拉致問題に関する発言を見ると、拉致解決に向かっているように思わせるし、「安倍政権で拉致問題解決する」等の言葉は安倍晋三が如何にも拉致解決に向けて懸命に取り組んでいるかのような姿勢を彷彿とさせる。

 トランプに協力をお願いするのもそのためだろう。

 拉致が解決に向けて進んでいないのに進んでいると見せかける誤魔化しのためとは言え、あるいは安倍晋三自身が拉致解決に向けて懸命に取り組んでいると見せかける誤魔化しのためとは言え、現実には一向に拉致問題が解決に向かって前に進んでいかない状況下で同じ発言を繰返しされたり、矛盾した姿勢を見せられるのは同じ箇所で同じ文句を繰返し聞かされる壊れたレコード盤以外の何ものでもない。

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安倍晋三の石破派閣僚起用見送りは報復人事 憲法改正の考え方同調条件はお門違い

2018-09-24 11:42:56 | 政治
  

 2018年9月22日、安倍晋三が総裁3選を受けた内閣改造で対立候補だった石破茂が率いる石破派からの閣僚起用を見送る意向だと各マスコミが伝えた。「共同通信」

 閣僚起用見送りの理由を、〈憲法改正の考え方に同調することを人選で重視する。〉と書いている。現在、石破派からは「石破を応援するなら辞表を書け」と言われた農水相の斎藤健ただ一人が入閣しているが、〈記事は交代させる方針だ。〉と伝えている。

 さらに、〈首相は石破派からの党役員登用も避ける見通し。〉だと、その意向を解説している。

 安倍晋三のこのような起用方針に対しての石破氏発言を記事は紹介している。

 石破茂「同じ党の同志だ。『誰を支持した』を(人事の)判断基準にするのは明らかに間違っている。国家国民に誠実な姿勢ではない」と批判したを紹介している。

 確かに憲法改正の考え方に違いがあれば、安倍晋三案で憲法を改正する閣議決定の際、閣内不一致に直面する危険性を考慮せざるを得ない。一見尤もらしい理由に見えるが、安倍晋三の憲法改正案を国民大多数にとって正当性ある内容だとすることができるかである。

 国民の大多数が正当性ある内容であると認めている場合は、国民は他の憲法改正案を正当性から排除していることになって、そのような憲法改正案を掲げる党員を閣僚に起用することは閣内不一致の要因となりかねず、そのことを避けるための閣僚起用見送りは正当性ある措置となる。

 当然、国民の大多数が正当性ある内容であると認めていなければ、他の憲法改正案が正当性持つ可能性があることになり、先ずは自民党内でどちらの憲法改正案に正当性を認め得るか、国民にそれぞれの改正案を時間をかけて丁寧に説明し、理解を得る手続きを行わなければならない。

 安倍晋三の憲法改正案はそういった手続きを取ったのだろうか。そのような手続き取っていないのは世論調査を見れば分かる。NHKが2018年9月15日から17日まで行った世論調査は安倍晋三が秋の臨時国会に自民党の改正案を提出できるよう党内議論を加速させたい考えを示していることに対しての質問を設けている。

「提出すべき」18%
「提出する必要はない」32%
「どちらともいえない」40%

 この「どちらともいえない」の40%は提出するかどうかは決めかねていると解釈すべきだろう。もし安倍晋三の憲法改正案に正当性を認めていたなら、提出を決めかねているという状況は起き得ない。

 朝日新聞が2018年8月4、5両日に行った世論調査での憲法改正に対する国民の考えについて見てみる。

 安倍政権のもとでの憲法改正に賛成か反対か。

 賛成31%
 反対52%

 内閣支持層での反対26%
 内閣不支持層での反対84%

 とてものこと、国民の大多数が安倍晋三の憲法改正案に正当性を認めているとは言い難い。にも関わらず、安倍晋三は「全ての自衛官が誇りを持って任務を全うできる環境を整えることは、今を生きる政治家の責任だ。憲法の中に、わが国の独立と平和を守ることと、自衛隊をしっかりと明記することで責任を果たしていく決意だ」とか、「憲法に自衛隊を明記して違憲論争に終止符を打つ」と自身の改憲意思に基づいた改憲内容を絶対として繰返し口にするのみで、国民の多くに理解を得る十分な説明という手続きを尽くしているとは見えない。

 このことは次の一文にも現れている。

 「憲法記念日にあたって」(自民党/2018年5月3日)

本日、憲法記念日を迎えました。
わが党は結党以来、現行憲法の自主的改正を目指し、党内外で自由闊達な議論を行い、数々の試案を世に問い続けてまいりました。
これらの知見や議論をもとに、国民の皆様に問うにふさわしいと判断された4つの項目、すなわち、(1)安全保障に関わる自衛隊、(2)統治機構のあり方に関する緊急事態、(3)一票の較差と地域の民意反映が問われる合区解消・地方公共団体、(4)国家百年の計たる教育充実 について、精力的に議論を重ね、本年3月末に、各項目の条文イメージ(たたき台素案)について、一定の方向性を得ることができました。
今後わが党は、この案をもとに衆参両院の憲法審査会で議論を深めるとともに、各党や有識者のご意見も踏まえながら、憲法改正原案を策定し、憲法改正の発議を目指して参ります。
何よりも大切なことは、国民の皆様のご理解を得て、慎重に進めて行くことであります。わが党が先頭に立って活発な国民運動を展開し、自らの未来を自らの手で切り拓いていくという気概で、憲法改正の議論をリードしていく決意です。

 自民党内で議論を行い、〈国民の皆様に問うにふさわしいと判断された4つの(改憲)項目〉を決めた。次に、〈この案をもとに衆参両院の憲法審査会で議論し、各党や有識者の意見も踏まえながら、憲法改正原案を策定し、憲法改正の発議を目指す。〉

 そして最後に、〈何よりも大切なことは、国民の皆様のご理解を得て、慎重に進めて行くことであります。〉と、国民投票で3分の2以上を得るための国民に対する説明と理解の獲得を最後に置いている。

 もし国民投票で否決されたなら、膨大な時間と膨大なエネルギーをムダに使ったことになる。〈国民の皆様に問うにふさわしいと判断された4つの項目〉を議論し、決めたなら、自民党として必要と望むこういう方向での憲法改正を目指しますが、国民の考えはどうでしょうかと問い、理解を得るための時間をかけた十分な説明を尽くし、その責任を果たした上で衆参両院の憲法審査会での議論、憲法改正原案の策定、憲法改正の発議に向けた手続きに入るのが国民の負託を受けた国会や内閣のする最良の方法であるはずだ。

 こういった手続きを取った説明責任を果たさないばかりか、安倍晋三は自らの憲法改正案に対してのみ正当性を与えて、党内をその案で集約して、憲法改正の発議に持っていこうとしている。

 対して石破茂が考えている憲法改正案の手続きを見てみる。

 石破茂は安倍晋三の9条2項は維持したまま3項を付け加えて、そこに自衛隊の根拠規定を明記する案に対して9条2項を削除し、交戦権に疑義が出ないよう改正案を考えている。この案は国民の理解を簡単には得ることはできないように思えるが、但し改正に向けた手続きは次のようになっている。

 2018年8月10日に国会内で行われた「石破茂氏総裁選出馬表明会見」産経ニュース/ 19:26)

 石破茂「憲法も論点になるでしょう。私は優先順位をきちんと定めるべきだと思っております。来年の参院選までの合区解消のための憲法改正は間に合いませんでした。4年後には次の選挙があります。このための憲法改正は時限性のあるものです。さらに、国民の人権を決して不当に侵害しない。そういう前提に立った元で、緊急事態条項は必要であります。憲法上に根拠がなければそれが行われず、被害が拡大をする、そういうことはございます。
憲法9条については、国民の深い理解が必要であり、必要なものを急ぐ。最後に申し上げれば、自民党の憲法改正草案には『政府は国民に対して説明する責務を負う』。それは『権利と義務』の章に定めております。急ぐものは何か、今必要なものは何か。そういうことをきちんと意識しながら、憲法改正に取り組んでまいりたい」

 石破茂は憲法改正は自民党の憲法改正草案に「政府は国民に対して説明する責務を負う」と規定しているように「国民の深い理解が必要」だと言って、安倍晋三の手続きと異なって憲法改正の発議よりも先に国民に対する説明責任を置いている。
実際に自民党憲法改正草案の「国政上の行為に関する説明の責務」について第21条で「国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う」と、極々当たり前のことだが、規定している。

 2018年8月17日に国会内で行った記者会見でも、憲法改正の発議よりも国民に対する説明責任を先の手順としている。

 石破茂「(『自衛隊の明記』は緊急性があるとは思わないと指摘したうえで)9条改正は国民の理解を得て、世に問うべきものだ。理解なき改正をスケジュール感ありきで行うべきではない」(NHK NEWS WEB

 安倍晋三は自身の憲法改正案を正当性ある内容なのかどうか、先ずは国民に説明し、理解を得る手続きを取らないままに石破茂の改正案や発議に向けた手続きを排除して、自らの案のみを絶対として発議に持っていくための閣議決定の際に閣内不一致の危険性から閣僚起用見送る、あるいは党役員登用を避ける。この遣り方のどこに正当性を認めることができるだろうか。

 正当性を認め難い以上、閣僚の起用の見送りや党役員登用の回避は総裁選で石破茂が善戦したことで安倍晋三の評価を下げたことに対するお門違いな報復人事でしかない。

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総裁選安倍晋三の議員票と党員票の懸隔、石破茂の党員票善戦は人事へのシガラミのない党員が見せた安倍政治不満の反映

2018-09-21 12:33:42 | 政治
 

 2018年9月20日の自民総裁選では安倍晋三が石破茂に勝利し、3選を決めた。安倍晋三国会議員票405票に対して329票(81%)。石破茂同じ405票に対して73票(18%)。その違い、256票の大差。(無効票3票は無視し、四捨五入して計算した)

 対して党員票は安倍晋三405票に対して224票(55%)。石破茂405票に対して181票(45%)。その違い、約10%差の43票。党員票は国会議員票の両者に於ける懸隔の大きさとは異なって、かなり接近している。

 一般的には党員は地元議員の支持態度を一定程度反映する関係にある。国会議員の81%もが安倍晋三一極集中的と言うか、雪崩現象的と言うか、支持を寄せていながら、党員たちの多くはその支持態度を反映させて安倍晋三に向けた一極集中的な、あるいは雪崩現象的な投票行動を見せずに、逆に国会議員の支持態度に反して多くが石破茂に投票した。何らかの理由があるはずだ。

 石破茂も、安倍晋三に対する国会議員票と党員票との間の懸隔について、「国会議員がこうだから従えということにはならない。この乖離は冷静に分析しなければいけない」(NHK NEWS WEB)と発言している。

 安倍陣営は当初、地方票7割の獲得を目指していたが、安倍選対本部事務総長の甘利明が55%獲得へとハードルを下げたという。当初の地方票7割獲得の目論見は安倍陣営自身が固めたと計算し、マスコミが安倍晋三は国会議員票(405票)の7割超(280票程度)を獲得する勢いと伝えていた7割という数字であろう。だが、実際には国会議員票は8割以上の支持を集めた。

 にも関わらず、党員票獲得の目論見を7割から55%へと下げざるを得なかったのは現場の状況を見てのことだったに違いない。甘利明は安倍晋三の国会議員票と党員票の懸隔の理由を分析している。「産経ニュース」2018.9.20 14:53)

 甘利明「党員には当然、判官びいきやバランス感覚が働く。いいところに落ち着いて絶妙だ」
 だが、党員に働いた「判官びいきやバランス感覚」は国会議員に働かなかった。甘利明の分析が正しいとすると、地方議員に働いて国会議員に働かなかったのはどのような理由からなのだろう。
 党員の投票行動が地元議員の支持態度を一定程度反映する関係にあることは次の記事によって証明することができる。2018年9月20日付「産経ニュース」

 記事は、〈高い得票率を上げた地域は、首相を支持した派閥幹部の地盤が目立った。ただ、接戦だった地域も多く、首相の得票率55%は、81%だった国会議員票との差が顕著となった。〉と解説している。

 具体的には――

 1位 安倍晋三出身地山口県87.6%
 2位 二階俊博地元和歌山県81.3%
 3位 岸田文雄地元広島県71.0%

 6位 麻生太郎地元福岡県64.0%

 一方の石破茂。

 1位 石破茂出身地鳥取県95.0%
 順位不明 竹下亘地盤島根県77.4%

 これで地元議員がどの総裁選立候補者を支持しているかで党員の投票行動がほぼ左右される関係を見ることができる。もしこの関係が断絶していたなら、国会議員は自らの選挙区で当選することは覚束なくなる。この関係性が密接であればある程、いわば党員の地元議員に対する支持が濃密であればある程、当選回数を経ている証明ともなるし、今後共当選回数を重ねていく担保ともなる。
 
 同記事が取り上げている注目点は8月末に出馬を断念した総務相野田聖子の地元岐阜県での党員票の行方である。安倍晋三が勝利したものの、石破茂との得票率の差は僅か6.4ポイントだと伝えている。

 野田聖子は20人の推薦員が集まらずに出馬断言を公表した後、安倍晋三支持を表明、そして総裁選当日、安倍晋三に投票したことを明らかにしている。だが、地元党員の多くは野田聖子の安倍晋三支持の態度には応じなかった。野田聖子が党員も満足に纏めることができないのかと安倍晋三の不評を買うかもしれないのになぜなのだろう。
 
 首相の権力の最大の源泉は解散権と人事権と言われている。もう一つ、内閣支持率も影響力行使や求心力に関係してくるが、最近の多くの世論調査では50%前後で支持・不支持が拮抗している。中には40%前後で支持・不支持が拮抗している世論調査もある。つい最近まで不支持が支持を逆転していた一時期もあった。支持の理由も「他に適当な人がいない」といった消極的支持の割合が高い。

となると、解散権と人事権が頼りとなる安倍晋三の権力ということになるが、特に総裁選は首相を決める選挙でもあって、続投の場合でも、内閣改造を行って、一新した姿を見せることになるために、当然、何らかの役職を現時点で欲している国会議員は、特に当選回数を重ねているそういった議員は、総裁選であるなら、党員票獲得の功績を上げて、その見返りとして人事権を握っている安倍晋三の人事評価の対象となることを欲しているはずだ。

 このことは将来に備えて役職に就く状況を手に入れることを欲している当選回数の少ない議員にしても同じであるろう。勿論、これといった功績がなくても、犬の首輪に繋いで大人しくさせる鎖の役目を持たせる意味で役職につけて従順さや何らかの功績を求める人事というものもある。

 大体が国会議員として何らかの存在感を示すためには、特に地元有権者に存在感を示すためにはただの国会議員では満足できず、一定程度の役職を欲することになるだろう。

当然、人事権を握っている安倍晋三と役職を欲している国会議員は相互に論功行賞を求める関係にあり、後者は求める必要上、前者に対して従順であろうとする姿勢を取ることになる。
 石破派所属の農水相斎藤健が「安倍応援団の一人に『石破さんを応援するのなら辞表を書いてからやれ』と言われた」と暴露したが、これも安倍晋三が握っている権力の最大の源泉の一つである人事権に関係させて石破茂を応援しないことを論功として求めた不当強要であろう。応援しないなら、農水相の地位にとどまってもいいよと暗に行賞をちらつかせた。

 もし安倍晋三が権力としての人事権を握っていないとしたら、斎藤健に対する強要は効果を生む目論見は期待できないことになる。口にした以上、効果を生む目論見を持っていた。

 また、総裁選後の人事で「応援しなかった議員は干す」との声が首相陣営から出ているとの指摘にしても、安倍晋三が強力な人事権を握っているからこそ、有効な目論見をもたせた言葉として口にすることができた。

 要するに自民党衆参国会議員405人のうち、今回の総裁選で安倍晋三に投票した81%に当たる329人のうち多くは、あるいは推測するに殆どは安倍晋三に対してその人事権を前にして多かれ少なかれ論功行賞の関係を求めた。

 このことを言い換えると、安倍晋三の人事権が持つシガラミに縛られていた。ところ今回の党員票の行方から判断すると、地元議員を通して影響することになるはずであるにも関わらず、安倍晋三が持つ人事権へのシガラミからは自由な党員が多く存在したことになる。

 このことこそが甘利明が言っている、「判官びいきやバランス感覚」が党員に働いて石破茂が党員票を増やすことができ、国会議員には働かなかった理由であろう。あるいは安倍晋三に投票した野田聖子の地元岐阜県では野田聖子の意向に反して党員票は安倍晋三と石破茂との得票率の差は僅か6.4ポイントという結果になったはずだ。

 党員の多くが人事権へのシガラミからは自由でいられるという同じ理由で国会議員のようには安倍晋三への投票に縛られることなく、投票先を石破茂に決めることができた結果、安倍晋三の国会議員票405票のうち329票(81%)であるのに対して石破茂が405票のうち73票(18%)と、その違いが256票の大差であることに反して党員票は安倍晋三の405票のうち224票(55%)であるのに対して石破茂が405票のうち43票差の181票(45%)も獲得できた結末であったはずだ。

 少なくとも安倍晋三に投票した国会議員票329票から同じ安倍晋三に投票した党員票224票を差し引いた党員票105票の行方の多くは安倍晋三へのシガラミを持たない自由投票と見ることができ、それが「判官びいきやバランス感覚」からの投票変更であったとしても、そこに安倍政治に対する何らかの不満があったからで、その正直な反映と理由付けることが可能となる。

 安倍晋三に投票された国会議員票にほぼ比例して安倍晋三に投票されるべき党員票のうち、100票近くが石破茂に流れた。安倍政治に対する支持傾向は安倍晋三が権力として持つ人事権へのシガラミに縛られやすい国会議員票のみで評価するのではなく、シガラミから自由でいられる党員も存在する党員票からこそ、評価すべきだろう。

 石破茂の党員票善戦は安倍政治不満の反映と見るべき理由がここにある。
 
 最後に野田毅が投票結果を読み上げて安倍晋三の当選を伝えたときの安倍晋三にしてやったりの表情でほくそ笑んだが、その箇所のgifアニメと静止画を載せておく。前者はgifだから音声なし。静止画を見ると、してやったりの表情が十分に見て取れる。

 因みに「してやったり」の意味を「日本語俗語辞書」から引用してみる。

〈してやったりとは事が思った通りに運んだ際の達成感を表す感嘆詞で、人が騙せたときや人に秘密で進めていたことを成し遂げたとき、人から(一般的に)は無理と思われていることを成し遂げたときなど、達成に対して驚く対象がある(又は想定される)場合に使われる。これは元々『してやる』(註1)という行為の達成に対して使われた感嘆詞のためである。
 註1)【為て遣る(してやる)】:「(たくらみ・悪事などを)まんまとしておおせる」「だましとる」(広辞苑より)という意味で「○○してあげる」が崩れた『してやる』ではない。受動態の『為て遣られる(してやられる)』が一般的。〉

私自身は(たくらみ・悪事などを)まんまとしておおせる」という意味で安倍晋三の顔の表情を解釈した。

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安倍晋三の自民党総裁選の私物化と小泉進次郎の最後の土壇場での石破茂への投票意向に見る総裁選私物化

2018-09-20 12:05:02 | 政治

 
 2018年9月19日、自民党総裁選最終日となった。安倍晋三は秋葉原で午後5時半頃からJR秋葉原駅前で最後の街頭演説を行ったとマスコミは伝えている。石破茂は渋谷駅駅前で竹下総務会長らと街頭演説を行ったという。総裁選の趨勢は安倍晋三が国会議員票(405票)の7割超(280票程度)を獲得する勢いであり、党員は議員の支持態度を一定程度反映する関係にあることからだろう、その票は過半数を超え、6割は獲得し、3選間違いなしの見立てがマスコミでは一般的となっている。

 安倍晋三は勝利すればいいという態度ではなく、2019年の参院選挙のためにも貪欲にも1票でも多く上積みして、その票を以って国民に対して自身への求心力の現れとして誇示したいようだ。但しこの欲張った姿勢は普段口にしている「謙虚に政権運営に当たる」としている言葉に反している。

 なぜなら、自民党総裁選でいくら多くの票を獲得しようと、安倍晋三自身の偉さに比例するとは限らないからだ。票の増減は政治的な駆け引きによっても影響を受けるし、馬の鼻の先にぶら下げた人事に関わるニンジン効果の実現性にも影響を受ける。当選は間違いないだろうからと、勝ち馬に乗る便乗傾向が1票の利害を決する場合もある。

 もしこういった政策のみで勝負するのではなく、その裏側で政策以外の駆け引きで票獲得の動きに出ているとしたら、公共のルールに則らない、個人的ルールに従わせた選挙の私物化に相当することになる。

 安倍晋三の9月19日の自民党総裁選最終日の秋葉原での演説の模様を2018年9月19日付「時事ドットコム」記事が、「安倍辞めろ」コールで騒然=秋葉原の首相演説会場-自民総裁選」と題して伝えている。
 
 安倍陣営は演説会場としたJR秋葉原駅前ロータリー周辺を柵で囲い、内側には参加許可を示すシールを貼った党員だけが入れるようにした。その演説を伝えている動画を見ると、腰高の移動式鉄柵を繋げて屋根に上ってマイクを握ることができるワンボックスの選挙カーを遠巻きに囲ったようだ。

 要するに参加許可を示すシールを貼った党員だけが柵の内側に陣取ることができ、党員以外の聴衆は柵の外へと追いやられることになった。

 JR秋葉原駅前ロータリーを演説の場として使用許可を取ったとしても、演説会場が公共の建物内で入場を党員のみに限る場合なら許されるが、JR秋葉原駅前ロータリーは公共の場であって、そのような公共の場で党員と党員以外の立ち位置を別々に制限を加えることは公共のルールに則らない、個人的ルールに従わせた選挙の私物化であって、果たして許されるだろうか。

 また、一国の首相の演説は、それが自由民主党の総裁選向けの演説であっても、入場制限を加えた建物以外の公共の場では党員と党員以外との区別なしに誰もが自由に聴く資格を持ち、自由に評価も批判もできる公共の情報である。

 にも関わらず、公共の情報に対して聴く場所を党員と党員以外では別々の場所とする制限を加えたことは、やはり公共のルールに則らない、個人的ルールに従わせた選挙の私物化でなくて何であろうか。

 記事は柵の外からしか演説を聴くことができなかった党員以外によって、一部なのだろう、〈「安倍内閣は退陣を」「独裁やめろ」などと書かれたプラカードも林立し、陣営関係者がのぼり旗でこれを隠そうとするつばぜり合いも見られた。〉と解説、その中から「安倍辞めろ」コールが起こり、騒然としたと、その雰囲気を伝えている。
 こういったことを予想して参加許可を示すシールを貼った党員だけを選挙カーを遠巻きに囲った柵の内側に入れたのだろうし、「安倍辞めろ」コールは演説という公共の情報に対する妨害――公共のルールに則らない、演説に対する個人的ルールに従わせた私物化であって、それを少しでも防ぐために柵を設けて、党員と党員以外の聴く場所を区別したと言うかもしれないが、「安倍内閣は退陣を」、「独裁やめろ」などと書いたプラカードを林立させるのも、「安倍辞めろ」コールにしても、抗議として許されている公共の場での公共の情報であって、それにどのような制限を加えることも公共のルールに則らない、個人的ルールに従わせた抗議活動制限の私物化に当たる。

 このように安倍陣営が個人的ルールに従わせようとする私物化の精神を自らの血肉としているから、自民党最大派閥で安倍晋三出身母体、安倍晋三の自民党内最大支持基盤である細田派(94人)が派所属議員に対して9月の党総裁選では「全力を尽くして応援するとともに、必ず支持することを誓約する」などと書いた誓約書に署名させ、内心の自由への侵害に当たるにも関わらず、自由であるべき投票行動に制限を加える個人的ルールによる選挙の私物化が横行することになったのだろう。

 あるいは農水相の斎藤健に対して「安倍内閣に所属していながら、石破茂を支持するなら、辞表を書いてからやれ」と、自由であるべき政治活動に強要という名の制限を加えるような個人的ルールによる政治活動の私物化がのさばることになったはずだ。

 誓約書に対する署名も、斎藤健に対する辞表強要も安倍晋三を総裁として、あるいは首相として絶対視しているからこそ血肉とすることになった個人的ルールによる総裁選の私物化であって、この絶対信仰の対象者は周囲の絶対視を受けて、往々にして自己の絶対化に走り、独裁権力者がそうであるように自身を絶対とすることによって権力の私物化を属性とする傾向にある。

 自民党内と政権内に於ける安倍一強が安倍晋三をして強引な政権運営に走らせているが、総裁選で国会議員の7割までもが支持に回る傾向にしても対安倍絶対信仰からの安倍一強を物語っていて、この一強が森友・加計問題での権力の私物化そのもの、あるいは権力の私物化紛いのことを許すことになっている。

 当然、対安倍絶対信仰をベースとした安倍陣営の個人的ルールによる総裁選の私物化は安倍晋三の権力の私物化傾向と相互対応した精神とすることができる。いわば安倍晋三の権力の私物化傾向を受けた安倍陣営の個人的ルールによる総裁選の私物化という関係を取っていることになる。

 安倍晋三自身が権力の私物化を自らの精神に些かも巣食わせていなかったら、いわば何事に対しても常に謙虚な姿勢でいたなら、取り巻きが総裁選の私物化に走ることは決してない。取り巻きにしても安倍晋三の謙虚な姿勢を見習う。見習ったのは安倍晋三の権力の私物化傾向と相互対応させた総裁選の私物化であった。

 2018年9月20日付「NHK NEWS WEB」記事が、総裁選で誰を支持するか明らかにしてこなかった小泉進次郎が石破茂に投票する意向であることを周辺に明らかにしたと伝えている。

 当該記事は小泉進次郎が総裁選で誰を支持するか明らかにしてこなかった理由を自らの態度表明が選挙の情勢に影響を与えるのは本意でないとしてのことだと解説している。

 関係者の話として小泉進次郎の発言を伝えている。

 小泉進次郎「政権に対する苦言も厭わない存在が党内には必要だ。日本の発展は、人と違うことを強みに変えられるかどうかにかかっている。自民党は、異なる意見を抑えつけるのではなく、尊重する党にならなければいけない」
 小泉進次郎が「自民党は、異なる意見を抑えつけるのではなく、尊重する党にならなければいけない」と言っていることは、安倍晋三総裁のもとにある、あるいは安倍首相のもとにある現実の自民党は逆の状況にあることの形容となる。自民党のこのような状況も対安倍絶対信仰からの安倍晋三と取り巻き相互の自己の絶対化を受けた権力の私物化が原因となっているはずだ。

 但し小泉進次郎が「異なる意見を抑えつけるのではなく、尊重する」精神を党内にもたらす人物が次の総裁に相応しいとして石破茂に投票する意向であり、安倍晋三をこのような人物像に反するとして総裁として自らの意中外に置くなら、自身の精神、あるいは希望を早くから表明して、石破茂支持を打ち出すことで、その精神、希望を石破茂の獲得票に少しでも多く変えて自民党に影響を与えるべく努力すべきだったが、そうはせずに自らの態度表明が選挙の情勢に影響を与えるのは本意でないからと言って総裁選直前まで支持を明らかにしなかったのは総裁選を個人的な問題としてのみ扱ってきたことになって、安倍晋三と同様の総裁選の私物化に当たるはずだ。

 尤も小泉進次郎の総裁選の私物化は安倍晋三の総裁選の私物化よりもずっとタチがいい。安倍晋三の方のタチの悪さは最悪と言うことができる。

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安倍晋三、語るに落ちる 農水相斎藤健に「石破を応援するなら辞表を書け」と言った事実も誰の発言かも承知していた

2018-09-19 11:35:09 | 政治


 相変わらずのウソつき名人の安倍晋三となっている。ウソで不都合な事実を巧みに切り抜ける。事の発端からこの件に関わる安倍晋三の発言を3本の「朝日新聞デジタル」から取り上げてみる。

 《「安倍応援団から辞表を書いてと」 石破派の斎藤農水相》朝日新聞デジタル/2018年9月14日23時18分)

 2018年9月14日、千葉市中央区の石破氏の講演会で。

 斎藤健農水相「ある安倍応援団の1人に『内閣にいるんだろ。(総裁選で)石破(茂元幹事長)さんを応援するんだったら辞表を書いてからやれ』と言われた。『石破派だとわかってて大臣にしたんだろ。だったらなぜ大臣にしたんだ。おれが辞めるんじゃなくて、首を切ってくれ』と、そういう風に言い返した。
 そういう空気はよくない。圧力とか、そういうことで何とか浮上しようなんていう発想は、総理の発想だとは思わないが、そういう空気が蔓延(まんえん)している。これは打破したい。何でも自由に言える雰囲気を自民党全体に行き渡らせたい。今それをしなければ、いずれ見放される」

 《安倍・石破両氏、テレビで論戦 人事やモリカケ問題語る》

 2018年9月17日、安倍晋三と石破茂が日本テレビのニュース番組「news every」に出演、総裁選後の人事や森友・加計学園問題などをテーマに論戦を繰り広げた際、斎藤健の暴露発言も取り上げられた。

 石破茂「誤った発言だ。党のためにもならない。本当にそうだったとしたら、決していいことだと思わない」

 安倍晋三「戦いですから、(田中角栄、福田赳夫両氏による)角福戦争の頃、おやじの秘書をしていたから分かっているが、こんなもんじゃない。激しい戦いだった。私もいいこととは思っていないが、そういう発言が、今までだんだんヒートアップしてきたら、あったのは事実
 総裁選後の人事で「応援しなかった議員は干す」との声が首相陣営から出ているとの指摘について。

 石破茂「ポストは個人のためにあるのではなく、国民、天下国家のため。そういう発言をしているとすれば党のあり方を考え違いしている」

 安倍晋三(橋本龍太郎、小泉純一郎両氏の一騎打ちとなり、橋本氏が勝利した1995年の総裁選を振り返り)「我々は小泉さんを応援した。『お前ら、干してやるぞ』と言われたと、みんな言っていたし、そう報道された。でも、誰が誰に言ったか、事実はなかった。

 今回も誰が誰に言ったかって(いう報道は)ない。そもそも私、そういう(干すような)ことはしていない」

 加計学園問題で安倍晋三のお友達である加計孝太郎理事長の国会招致の必要性を問われことへの発言。

 安倍晋三「友人を呼ぶかどうか。『総裁だから(招致を)指示しろ』となるかもしれないが、行政府の長が指示していいのか。国会で決める」
石破茂「加計さんも時間制限を設けることなく、記者会見はきちんとした方が良かった。それが友情」

 加計学園問題は斎藤健問題とは別問題だが、ここで少し取り上げておく。安倍晋三は加計孝太郎理事長の国会招致に関して相変らず潔くない。国民の不信を解くために国会招致だろうと何だろうとあらゆる手段を講ずるべきで、そうすることが不信解消の最良の方法となるはずだが、そういった姿勢を一切見せずに「ご批判は真摯に受けとめながら、謙虚に丁寧に政権運営に当たっていきたいと考えています」と言葉だけで済ましているのは安倍晋三が潔い人間に仕上がっていないからに他ならない。

 安倍晋三と石破茂は昼は日本テレビのニュース番組午後5時前後の「news every」に出演(時事通信の首相動静によると、午後4時50分から同5時25分まで出演となっている)、夜は朝日テレビの「報道ステーション」に出演。そこでの発言を、《首相、農水相への圧力否定 「名前を言って頂きたい」》(朝日新聞デジタル/2018年9月18日00時53分)から見てみる。
 安倍晋三「本当にそういう出来事があったのか、陣営に聞いた。みんな『あるはずはない』と大変怒っていた。そういう人がいるのであれば名前を言って頂きたい」
 石破茂「斎藤健さんは、作り話をする人では絶対にない。財務省のセクハラ疑惑に似ているような気がする」

 記事は「本当にそういう出来事があったのか」以下の発言を次のような解説で紹介している。

 〈首相は夕方の日本テレビの番組で「私もいいこととは思っていない」と語っていたが、夜のテレビ朝日の番組では一変。「本当にそういう出来事があったのか、陣営に聞いた。みんな『あるはずはない』と大変怒っていた。そういう人がいるのであれば名前を言って頂きたい」と斎藤氏の発言を否定した。〉

 日本テレビ「news every」での安倍晋三発言を改めてここに取り上げてみる。

 安倍晋三「戦いですから、(田中角栄、福田赳夫両氏による)角福戦争の頃、おやじの秘書をしていたから分かっているが、こんなもんじゃない。激しい戦いだった。私もいいこととは思っていないが、そういう発言が、今までだんだんヒートアップしてきたら、あったのは事実

 一見この「そういう発言が、今までだんだんヒートアップしてきたら、あったのは事実」の発言は斎藤健の暴露発言自体を事実と認める発言のように見えるが、そうだとしたら、この発言自体の前後の脈絡が相矛盾するだけではなく、「news every」と「報道ステーション」での発言の豹変そのものが許されないことになる。。
この「そういう発言が、今までだんだんヒートアップしてきたら」「今まで」は今回の総裁選で次第にヒートアップしてきた現況の推移を指す「今まで」ではなく、安倍晋三の言葉の使い方が悪いだけで、角福戦争と擬えられた当時の総裁選で推移してきた状況を指す「今まで」であるはずだ。
もし現況の推移を指す「今まで」であったなら、斎藤健に対して誰かがそう言った事実そのものを認めることになって、報道ステーションでの否定は一旦認めた事実を四、五時間もしないその日のうちに自ら覆すことになって、態度の軽さ・言葉の軽さが問われることになる。
 つまり、「角福戦争の頃ははもっとひどかった。こんなもんじゃない」と、その時代の妨害や不当干渉の程度の悪さを言ってから、「ヒートアップしていくと、そういった妨害や不当干渉があったのは事実だから、現在あっても不思議はない」といった趣旨の一般論を口にしたはずだ。

 また、「戦いですから、(田中角栄、福田赳夫両氏による)角福戦争の頃、おやじの秘書をしていたから分かっているが、こんなもんじゃない。激しい戦いだった」との形容のもと、その当時の総裁選で妨害や不当干渉が「あったのは事実」とすることで、斎藤健が言われたとしている「石破を応援するなら辞表を書け」程度の発言そのものを擁護し、正当化していることになる。

 例え「そういう発言が、今までだんだんヒートアップしてきたら、あったのは事実」「今まで」が今回の総裁選のヒートアップの推移を指す言葉であったとしても、「あったのは事実」は、角福戦争の頃のよりひどい状況と比較しているのだから、その程度の発言は仕方がないと、発言そのものを擁護し、正当化していることに変わりはない。

 当然、擁護し、正当化している以上、発言の事実だけで承知していたのではなく、誰の発言かも承知していたことになる。前者を承知していたなら、後者を首相の立場として確認するはずだからだ。
 「報道ステーション」での発言の存在の否定と、「そういう人がいるのであれば名前を言って頂きたい」が、安倍晋三好みの言葉で言うと、「ファクト」そのものであるなら、「news every」で角福戦争当時の妨害や不当干渉と比較して、その程度ことはたいしたことはないとの趣旨で擁護し、正当化する必要性は出てこない。

 また、角福戦争当時は億単位の「実弾(現金)」が飛び交っていたと言われていて、田中角栄が福田赳夫に総裁選で勝利した1972年と今とでは時代が全く違うのだから、角福戦争当時の時代を持ち出すこと自体の時代錯誤感は否めない。

 だが、わざわざ持ち出して、比較せざるを得なかった。
 要するに斎藤健に対する「石破を応援するなら辞表を書け」の発言そのものと発言の主を擁護し、正当化する必要性から、よりひどい時代の妨害や不当干渉と比較した場合、大したことはないと相対化するために角福戦争に言及し、擁護し、正当化するに至った。

 このような言及自体が語るに落ちる形で発言の事実も誰の発言かも承知していたことの証明となる。

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安倍晋三の総裁選での3年と期限を区切った防災・減災の緊急対策発言は国土強靱化の無策を隠す発言

2018-09-17 11:49:34 | 政治
 

 9月7日告示・20日開票の自民党総裁選の立会い演説会が2018年9月10日午前、自民党本部で開かれ、安倍晋三はそこで自然災害対応の減災・防災対策を打ち出した。その発言を以下のサイトから引用してみる。

 《総裁選立会い演説会》NHK NEWS WEB/2018年9月11日)
  
 安倍晋三「安倍晋三でございます。所見を申し述べるに先立ちまして、まず冒頭、北海道胆振東部地震によりまして、お亡くなりになられた方々に衷心より哀悼の意を表します。

 そしてすべての被災者の皆さまにお見舞いを申し上げます。

 政府としては発災以来、昼夜を分かたず、災害応急対応にあたって参りました。献身的に現場にあって被災者救出に全力を尽くしている自衛隊、警察、消防、海上保安庁、すべての関係者の皆さまに感謝申し上げたいと思います。

 被災者の皆さまが1日も早く安心して暮らせる生活を取り戻すことができるよう、政府が一丸となって総力をあげて取り組んで参ります。また、台風21号、西日本豪雨、そして大阪北部地震、また熊本地震、そして政権奪還の原点である、東日本大震災からの復興にも全力を尽くして参ります。

 そして、電力インフラ、また空港などの重要な交通インフラについて、さまざまな災害に際して、そのライフラインを維持することができるよう、全国で緊急に総点検を行い、その強靱化に取り組んで参ります。さらには集中豪雨などの近年の気象の変化に対応し、防災・減災、国土強靱化のための緊急対策を3年、集中で講じ、安心できる強靭な日本を作り上げて参ります。

 この話をしてから、再度の立候補を伝え、「尊敬する石破茂候補とともに、品格ある希望にあふれた総裁選挙にしていきたい、こう考えております」と告げている。

 安倍晋三自身やその妻安倍昭恵の森友・加計問題に関わる対行政不当介入の政治関与が疑われ、自民党が8月(2018年)末に総裁選での「公平・公正な報道」の要請を求める文書を新聞・通信各社に出したのは安倍晋三に不利にならないための、いわば自分たちの利益のために「公平・公正」という言葉を使った不当な報道介入であって、安倍晋三は「品格」とか「ある希望」という言葉を使う資格はない。

 にも関わらず、平然として使うことができるのは狡猾な人間に仕上がっっているからであって、そのような人間がそのような言葉を使うこと自体、人間が軽いからであり、当然、言葉も軽いということになる。人間も軽く、その軽さに応じて言葉も軽いから、津各資格もない言葉をいくらでも口にすることができる。

 安倍晋三は「集中豪雨などの近年の気象の変化に対応し、防災・減災、国土強靱化のための緊急対策を3年、集中で講じ、安心できる強靭な日本を作り上げて参ります」と、このことを総裁選に当選した場合の首相として公約に掲げた。

 9月14日に行われた対立候補石破茂との日本記者クラブでの討論会でも、同じ発言をしている。

 安倍晋三「近年の気象の変化に対応し、防災、減災、国土強靱化のための緊急対策を3年集中で講じ、そして、強靭なふるさとを構築していく。美しく伝統あるふるさとを次の世代に引き渡してまいります」

 歴代自民党政府が地元利益誘導の土建政治を繰り広げて人口の都市集中(=地方の過疎化・人口減少)を招いただけではなく、借金だけを増やし、「美しく伝統あるふるさと」を台無しにしてきた事実を隠して「美しく伝統あるふるさとを次の世代に引き渡してまいります」と言うことができる。この白々しさも人間が軽いからであって、そのような人間が発する言葉が重みを持つことはない。

 安倍晋三が立会演説会と討論会で発言していることは「集中豪雨などの近年の気象の変化に対応」させた、今後3年と期限を区切った国土強靱化緊急対策の構築ということである。但し第2次安倍政権が減災・防災対策を打ち出したの主として2011年3月11日発災の東日本大震災をキッカケとしてのことである。「集中豪雨などの近年の気象の変化」を受けてのことではない。   

 2011年3月11日の東日本大震災から約1年半近く後の野党だった自民党は2012年6月に一度国会に提出した「国土強靭化基本法案」を政権復帰後の2013年5月に再提出し、2013年12月4日の参院本会議可決、成立させ、同2013年12月11日に正式名「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」として施行させている。

 そして翌年の2014年6月3日、「国土強靱化基本計画」を閣議決定している。

 そこには次のような文言が並べられている。

 〈2 国土強靱化を推進する上での基本的な方針

 国土強靱化の理念を踏まえ、事前防災及び減災その他迅速な復旧復興、国際競争力の向上等に資する大規模自然災害等に備えた国土の全域にわたる強靱な国づくりについて、東日本大震災など過去の災害から得られた経験を最大限活用しつつ、以下の方針に基づき推進する。〉

 この文言によって、主として東日本大震災をキッカケとした防災・減災だと分かる。そして安倍晋三は記者会見や施政方針演説等で「国土強靱化基本計画」に基づいて防災・減災についての発言を行っている。いくつかを取り上げてみる。

 「2015年2月12日第189回国会に於ける施政方針演説」

 安倍晋三「御嶽山の噴火を教訓に、地元と一体となって、観光客や登山者の警戒避難体制を充実するなど、火山防災対策を強化してまいります。近年増加するゲリラ豪雨による水害や土砂災害などに対して、インフラの整備に加え、避難計画の策定や訓練の実施など、事前防災・減災対策に取り組み、国土強靱化を進めてまいります」

 「第190回国会における施政方針演説」(首相官邸/2016年1月22日)
 
 安倍晋三「昨年も関東・東北豪雨を始め自然災害が相次ぎました。堤防の強化対策、避難訓練の実施、的確な防災情報の提供など、事前防災・減災対策に徹底して取り組み、国土強靱化を進めてまいります」

 「記者会見」(首相官邸/2016年・2016年3月10日)

 安倍晋三「政府としては、災害から国民の命と財産を守るため、多くの尊い犠牲の上に得られた貴重な教訓を踏まえて、防災・減災対策を徹底していく考えであります」

 「第195回国会における所信表明演説」

 安倍晋三「本年も、全国各地で自然災害が相次ぎました。激甚災害の速やかな指定が可能となるよう、その運用を見直します。事前防災・減災対策に徹底して取り組み、国土強靱(じん)化を進めてまいります」

 「長州『正論』懇話会講演要旨」産経ニュース/2018.8.14 10:00)

 安倍晋三「西日本豪雨では、たくさんの方がお亡くなりになった。改めてご冥福をお祈りします。

 前政権の時代、『コンクリートから人へ』といったスローガンが叫ばれた。河川の改修や治水事業、砂防ダムの建設、ため池の維持改修など、まるで公共事業全てが悪いように批判され、予算は大幅に削られてしまった。国民の命を守る、防災や減災に必要なインフラまで削ってはならない。減災・防災の観点から、河川の浚渫(しゅんせつ)なども含めて安心な暮らしを確保するための対策を全国的に早急に講じる必要がある」

 以上挙げた閣議決定の政策や安倍晋三の発言の多くは事前に起きた自然災害に基づいて今後起き得る危険性のある同規模、あるいはそれ以上の規模をも予想した自然災害への備えとしての防災・減災の位置づけとなっている。

 このことは既に見てきたように立会演説会と討論会の発言も同じ構図を取っている。比較のために総裁選立会い演説会の発言を再度ここに取り上げてみる。

 「台風21号、西日本豪雨、そして大阪北部地震、また熊本地震、そして政権奪還の原点である、東日本大震災からの復興にも全力を尽くして参ります」と言ってから、「集中豪雨などの近年の気象の変化に対応し、防災・減災、国土強靱化のための緊急対策を3年、集中で講じ、安心できる強靭な日本を作り上げて参ります」と発言している。

 但しこのような構図は事前に起きている自然災害を起点として国土強靱化の「防災・減災」に備えることにしたという意味合いを取ることになる。つまり「国土強靭化基本法」が施行された2013年12月11日時点からの安倍政権の「防災・減災」対策がどの程度の成果を上げたのか、上げなかったのか、取り合わない発言となっている。

 もしも2013年12月11日の時点から2018年9月半ばまでの現在までに国土強靱化対策が何らかの成果を上げていたなら、事前に起きている自然災害を起点として国土強靱化の「防災・減災」に備えることにしたという構図の発言は、それまでの成果を自ら蔑ろにする矛盾を曝け出すことになって許されなくなる。

 このこととは逆に今日までに国土強靱化が何も成果を上げていなかったなら、事前に起きている自然災害を起点として国土強靱化の「防災・減災」に備えることにしたとする発言は許されることになる。

 要するに今日まで何も成果を上げることができなかったから、その無策を隠すために事前に起きている自然災害を起点とした発言に迫られることになった。これまで無策であるなら、無策を繰返すことになるはずで、3年と期限を区切った「3年」は決意をそれらしく見せる耳に聞こえの良い言葉に成り下がる。


 言っていることが立派に聞こえても、人間が軽い、それゆえに言葉も軽い。しっかりと見極めなければならない。

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安倍晋三の拉致問題は「安倍内閣で必ず解決する決意」の「決意」と自負のニセモノ性を総裁選討論会に見る

2018-09-16 12:31:58 | Weblog
 
 
 自民党総裁選立候補者討論会が2018年9月14日に日本記者クラブで行われ、拉致問題についての議論もマスコミが記事にしていた。2013年4月5日の当ブログ記事《安倍晋三の「拉致はこの内閣で解決」は拉致解決の実態に反映しない踊る言葉と化している - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で取り上げた安倍晋三の発言を質問者が問題にしていて、それに対する安倍晋三の発言を伝えていたから、興味を惹かれてその発言の妥当性を以下の記事から確かめてみることにした。

 《自民党総裁選討論会・第2部》NHK NEWS WEB/2018年9月14日)

 質問者「(森友・加計問題や北方四島問題に於ける政治家の責任を問題にしてから)私の責任という意味ではね。今、石破さんにもお伺いしますけども、この拉致問題をどうするかという、安倍政権は一貫して拉致問題解決できるのは、安倍政権だけだと、そう言われてたわけですよね。

 一体どうなってるのか。もうこれはご家族の方も相当高齢になってるというところでその一体、現状はどうなってるのか、見通しはあるのか。ということをまず安倍さんにお伺いしたい」

 安倍晋三「拉致問題を解決できるのは、安倍政権だけだと私が言ったことはございません。これは、ご家族の皆さんがですね、そういう発言をされた方がおられることは承知をしておりますが。ですから私も大変大きな責任を感じております。

 あの2002年ですね、羽田に5人の被害者の方々が帰国をされて、家族の方と抱き合っていた。横田滋さん、早紀江さん滋さん会長を務めておられましたが、そこにおられた。しかし残念ながらそこにはめぐみさんの姿なかった、涙を流しておられた。なんとかですね、ご両親の手で子供たちを抱きしめる日を迎えたいと思ってずっとやってまいりました。そこで先般、米朝首脳会談が行われましたし。そして、そこで拉致問題について私の考え方、日本の考え方を金正恩委員長に伝えました。次は、私自身が金正恩委員長と向き合い、この問題を解決しなければならないと決意しています。もちろん相手があることでありますが、そう簡単ではありませんが、あらゆるチャンスを逃さずに…」

 質問者「進んでるんですか?」

 安倍晋三「これは、あらゆるチャンスを逃さずにそのチャンスをつかみたいと。こう思ってます。あの今、どういう交渉しているかということはもちろん申し上げれませんし、どういう接触をしてるかということも申し上げることはできませんが、あらゆるチャンスを逃さないという考え方のもとにですね、今申し上げた、決意のもとに進めていきたいと思ってます」

 質問者「石破さんならどうします?」

 石破茂「それは平壌に、日本の、東京に北朝鮮の、連絡事務所を置くところから始めなければいけないと思っています。つまりストックホルム合意で、北朝鮮がいろんなことを言ってきた。だけど、これは信用ならないということで無視することになっちゃったわけですね。それから足がかりは何もなくなっちゃった。

 で北朝鮮とアメリカが何で話をするに至ったかってのは、それは圧力が加わったからということもあるでしょうけど。中国の後ろ盾というのがはっきりした。アメリカまで届くミサイルの技術に自信を持ってる。核の小型化にも。

 拉致問題は日本の話なので、外国にお願いしてどうのこうのという話ではありません。そして外交交渉ですから、一つ一つ確認をしていかなければ前進はないのであって、向こうがいろんな情報を出す、じゃあそれは本当なのかということを日本として確認をしていかなきゃいかんでしょ。一つ一つ積み上げていって、お互いが連絡員事務所を持って、向こうも出す情報をきちんと日本国として確認をしていく、その末に、この解決はあるのだと思っています。

 着実にやっていかなければならないし、北朝鮮は北朝鮮として、体制の生き残りをかけて、ものすごく大きな絵を書いてるんです。我々として、それも念頭に置きながら、一つ一つ着実に少しずつ進んだね。その先に拉致問題の解決があるということは絶対に忘れてはならないことです。

 質問者「拉致問題ですね、一つ懸念していることがあるんですね。安倍さんは拉致被害者をですね、生きて全員奪還ということをずっとおっしゃっていたと思うんですね。ところが北朝鮮の言い分は、政府認定の拉致被害17人のうち、5人は蓮池さんたちで返したと。それから4人は未入国、8人は亡くなっているという、彼らは情報を出してます。で、それは多分一貫して変わっていないのかと思いますね。その事実認識の差がですね、埋めることをしなかった、埋める努力をしなかったのがですね、拉致問題がここまで長引かせてきた一つの要因だと思うんですが、そこで質問です。拉致問題のゴールがですね、安倍さんの頭の中の一体どこにあるのか。何が解決すれば、拉致問題の解決になるのか。安倍さんがずっと全員奪還、生きて奪還とおっしゃった中にですね、安倍さんとして本当に確証があったのかどうか。もしそれが不都合な真実が出てきたらですね、どういう責任をお取りになるのか教えてください。

 安倍晋三「埋める努力をしなかったとおっしゃいましたが、埋める努力というのは北朝鮮の言い分を私達が飲めと言うことなんですか」

 質問者「いや、違います。向こうの言い分も聞き、検証することです。相互に納得のいくような形で」

 安倍晋三「これは今検証するとこうおっしゃいましたね。つまり日本人を拉致したのは彼らです。一体どうやって何人拉致をしているかということは、全貌は私達は分からない。はっきりと認定できているのは、今言われた17人であります。そこで死亡したというですね、確証が、我々、彼らが出していないわけです。彼らが送ってきた遺骨は実は違った。であるならば政府としては、生きてるということを前提に交渉するのは当たり前じゃありませんか。私達がそうではないということを疑っていますということになればですね、彼らは自分たちが言ってる通りでしょうということになるわけであります。

 拉致問題を解決をするというのは、彼らがまさに実際に実行しているわけでありますから、それを正直に私たちを納得させるということに他ならないわけでありまして、これはまさに実行したのは彼らであって、拉致をされたのは日本側であります。その観点をですね、忘れては、まさに北朝鮮の思うつぼなんですよ。この思うつぼにはまってはならないわけでありまして、我々が死亡ということを確認できない以上は政府としてですね、生きているということを前提にですね、交渉しなければならない、これ当然のことなんだろうと思います。そういう観点に立って今交渉しているということであります」

 読みやすいように段落を適宜変えた。

 質問者が「安倍政権は一貫して拉致問題解決できるのは、安倍政権だけだと、そう言われてたわけですよね」と問うと、安倍晋三は「拉致問題を解決できるのは、安倍政権だけだと私が言ったことはございません」と否定している。

 安倍晋三は拉致の解決を言うとき、「安倍内閣で必ず解決する決意で拉致問題に取り組む」と、「決意」という単語を常に付け加えている。いわば「安倍内閣で必ず解決する」と断言することは避けて、決意表明にとどめている。「決意」にしておけば、断言して解決できなかった場合の責任回避の担保となり得るからだろう

 だが、「安倍内閣で必ず解決する決意で拉致問題に取り組む」を「安倍内閣で」と断った上で、「必ず」という言葉をつけて言う以上、単なる決意では終わらない、解決の"自負"を示したことになる。この"自負"は拉致を解決するのは安倍内閣を措いて他にないだろうとの自信の程度を示しているはずで、示していなければ、「必ず」という言葉は単に取ってつけた言葉と化すか、取り組む姿勢、あるいは取り組む自らの能力を宣伝するための言葉と化す。

  大体が自分ならできるという自負がなければ、如何なる決意も示すことはできない。このことを言い換えると、ホンモノの「決意」であるなら、ホンモノの自負という関係を取ることになるし、ニセモノの自負であるなら、ニセモノの「決意」という関係を取る。

 更に言うと、一国の首相が安倍内閣ならできるというそれ相応の自負に基づいて「決意」を掲げる以上は、当たり前のことだし、安倍晋三もそのように鋭意努力していると言うだろうが、それだけで終わらせるのではなく、その「決意」を拉致解決という具体的成果で応える責任履行を自負どおりに常に進行形で進めているはずだ。

 「決意」であって、約束ではなかったのだから、安倍内閣では解決できなかったという結末を迎えることになっても、万止むを得ないで済ましたなら、自らが自らの自負を裏切り、「決意」共々意味がなかったことにしてしまうことになる。

 また、進行形で進めたものの、自負どおりには具体的成果で応えることができなかった責任履行であるなら、責任履行そのものが空回りしたことになって、思った程の自負でもなく、立派に見えた「決意」は見かけ倒しと受け取られ、そういった点での能力の至らなさを国民に謝罪し、如何なる批判も甘んじる姿勢を前以って覚悟した上で「決意」を示さなければならないことになる。

 そしてこのような前以っての覚悟が自負を確かなものにしていく。

 但しそういった覚悟は責任履行が空回りし、「決意」が見掛け倒しで終わる危険性を常に孕んでいる関係性を前以って認識していることによって強い自負とすることができる。いわば具体的成果を簡単に上げることができない難しい問題であるなら、非常に謙虚な気持ちで「決意」を掲げなければならないし、自分ならできるという自負は心して用意することになる。

 いずれにしても安倍晋三はかねがね「安倍内閣で必ず解決する決意で拉致問題に取り組む」と、「安倍内閣で」と断りつつ、「解決する決意」を強い自負に基づいて国民の前に示した。となると、安倍晋三の拉致問題に関するこの言葉と質問者の「安倍政権は一貫して拉致問題解決できるのは、安倍政権だけだと、そう言われてたわけですよね」の発言は使っている言葉は違っても、自負の点で見ると、さして変わらない。

 だが、安倍晋三は言葉が示す自負の類似性には目を向けずに、「拉致問題を解決できるのは、安倍政権だけだと私が言ったことはございません」と言葉だけの解釈で否定した。

 もし安倍晋三が普段から口にしている「安倍内閣で必ず解決する決意で拉致問題に取り組む」の「決意」と自負がホンモノなら、「言葉は違っても、決意と自負という点では大きな違いはありません」と答えて、「決意」と自負に変わりはないことを示したはずだ。

 だが、そうしなかったのは「決意」と自負がホンモノではなく、ニセモノの疑いが出てくる。

 質問者が日朝間の拉致交渉で示された事実関係の検証を求めると、安倍晋三は「日本人を拉致したのは北朝鮮で、全貌は私達は分からない。実行者の北朝鮮が全貌を日本側に納得させるべきで、日本側には検証しなければならない義務はない」といった趣旨で質問に答えているが、安倍晋三が言っていることは拉致犯罪を取り調べる警察官の役目を拉致犯罪を犯した張本人である北朝鮮側に負わせ、日本政府は取り調べの責任を負ってはいないとする宣言となる。

 北朝鮮の一般人が犯した拉致犯罪なら、北朝鮮当局に事実関係の追及を任せる手も仕方がないが、北朝鮮当局、それも金正日が犯した拉致犯罪である。日本政府が警察の役目を負わずに北朝鮮に負わせた場合、事実解明はできないことは勿論、交渉に活かす材料さえ見い出すことは不可能となる。

 にも関わらず、北朝鮮任せとなっている。

 勿論、日本政府が警察の役目を負ったとしても、厳密な事実解明は不可能であっても、交渉に活かす材料の見い出し可能性は否定できない。

 安倍晋三の拉致問題に向き合う姿勢は最終的には日本の問題だと解決に於ける日本の主体性を口にしているものの、口先だけのことで、トランプに対して米朝首脳会談の機会を利用して金正恩に拉致問題の提起を頼んだことからも、警察の役目を北朝鮮に負わせていることからも、他人任せの部分が大きい。

 この他人任せからも、拉致問題の解決に向けた「決意」と自負はホンモノではなく、ニセモノの疑いが濃厚となる。

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