診療所だより

開業医gobokuの日記

こんなこと考えながら、
こんな生活しています。

嗄声

2016年09月06日 | 診療
先日のこと、
いつも通院している奥さんに付き添われて、
今日はご主人が診察にみえました。

なんでも、声がかすれているのが、もう2,3ヶ月続いているとのことです。
咳も少しあるようです。

おとなしそうなご主人は、
いろいろ尋ねても、小さい声で返事をされます。
よく聞くと確かに 声がかすれているようです。
そばには、奥さんが、「そうでしょう?」という顔で座っています。

長いこと声が嗄れているなら、喉の病気かな、
普通なら 喉の薬と咳止めで様子をみましょう
と言うところなのですが

なぜかそのとき、頭の中に浮かんだ言葉は、
「反回神経麻痺ではないか」
いつもは決してそんなことは考えないのですが、
そのときは なぜかそう思ってしまったのです。

不思議なことですが、今から考えると、
目の前に座っているご主人の身体が
僕に向かってそう訴えていたのかもしれません。
僕の頭は たまたまその信号をキャッチしただけかもしれません。

んで、
反回神経麻痺なら縦隔に何かあるはず。
胸部写真を撮ってみよう。と
それも、正面だけではなく

いつもは撮らない側面も
「側面もお願いね」と自然と言葉が出ていました。

すると
写真には、縦隔の病変ははっきりしませんでしたが、
心臓と重なり4cmほどの円形の陰が、
肺の後ろに写っていました。
側面の写真がとても有効でした。

反回神経麻痺かどうかはわかりませんが、
肺がんの疑いがあります。
もっと詳しく検査する必要のある病変が見つかりました。

ご主人の身体は、きっとこれを見つけてほしかったのだろうと、
そんなこと勝手に思いながら、
市中病院へ紹介状を書きました。

もし、胸部写真を撮らなかったら、
病変の発見はもっとずっとあとになっていたのは
間違いありません。

どうやら
藪と呼ばれる一歩手前のところで、
踏みとどまれたようで、よかったです。