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世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

世界の電力消費戦後初の減少 3.5% Fall in ElectricityDemand

2009-05-27 | 環境・エネルギー・食糧
2009年5月27日(水)

2009年の世界の電力消費が、1945年以来はじめて、前年比で減少することが国際エネルギー機関(International Energy Agency)から発表された。しかも、その幅が3.5%に達するというのも大きな驚きと受け止められている。

経済危機の影響を受けて、経済成長が減退する中でも、電力消費は、ここ2年、2007年には4.7%、2008年には2.5%の伸びを示していたのであるから、2009年の電力消費の減少は、いかに大きな変化が起こっているかを、示すものである。

国別で見ると、中国が2%減、ロシアはほぼ10%減、OECD諸国全体では5%の減少となると予測される。増加しているのは、唯一インドが1%の伸びを予想していることが目立つだけである。ちなみに今年の石油消費は全世界で、3%減少すると予測されている。

一方、化石燃料が枯渇するという事態への、予感がだんだん確かになるにつれ、また二酸化炭素が地球環境を破壊していることが、強く実感されるにつれて、発電のために、風力と太陽光といった再生可能エネルギーの導入の機運が高まっている。

そして石油・石炭・天然ガスという化石燃料の火力発電への使用を削減しなければならないという方向性は、すでに日本の電力会社も「低炭素社会」への転換として政策に盛り込んでいる。

二酸化炭素をほとんど排出しない原子力の重要性はますます強まってきている。そして自動車がガソリンを燃焼させて走ることが、終わりに近くなってきたことは、各メーカーの、技術開発の動向と、ハイブリッドや電気自動車への転換を見れば一目瞭然である。

先進国では、経済成長と電力需要の右肩上がりの成長の時代は、終わった。あたらしいパラダイムは、電気自動車が、先導するであろう。(米国・日本の電力消費の急減については、4月14日付けの本欄記事を参照)

OPECは75ドルを目指す Boosting oil prices to $75

2009-03-16 | 環境・エネルギー・食糧
2009年3月16日(月)

石油輸出国のカルテル機構であるOPECは、アラブ世界の平日である日曜日に、ウィーンで総会を開いて、追加減産を、見送ることを決定した。これはとりもなおさず、1バレル当たり40ドル台に「低迷」する価格を75ドルまで押し上げるという目標を、当面ごり押しをしないということである。尋常ではない世界の景気後退への配慮からというのが、公式説明である。

昨年、11月22日の本欄の「産油国不協和音」でも取り上げたが、OPEC各国の事情を分けているのは、各国が石油収入の増加をあてにした国家経済の成長計画をそれぞれの価格見通しに基づいて、策定しているためである。

各国の国家財政収支を均衡させるために必要な2009年の原油価格レベルの推計値は次のようになっている:

   ベネズエラ 103ドル/バレル
   イラン 83
   サウジアラビア 54
   クエート 52
   UAE 46
   アルジェリア 31
  
この一覧を見れば、$75以上のレベルを各国が望む理由がよくわかる。そして、イランやベネズエラが、現在減産協定破りを行っている理由も、またよく理解できるのである。国家財政へのインパクトを避けるために、当面は、効果のはっきりしない減産による価格上昇への期待よりも、減産による減収の恐れのほうがより大きいということである。

そして、原油価格が急速に上がりすぎて、オバマ政権のグリーン・ニューディールにドライブがかかることや、欧州の原子力回帰、すなわち「原子力ルネサンス」がさらに拡大してしまうのも、さらに言えば、ブラジルや米国のバイオエネルギーが息を吹き返して、石油価格に圧力がかかるのも、OPECにとっては、「禁忌」である。。

このように、「持てる国」にとって、原油価格が上がりすぎるのも、下がりすぎるのも困るのである。ちなみに、テキサスなどに散在する小さい油井は、原油の値崩れを見て、蓋をされてしまったという昨今である。




二酸化炭素排出権価格暴落 Threat to ‘green investment’

2009-02-03 | 環境・エネルギー・食糧
2009年2月3日(月)

為替や、国際商品と同列の投機対象として、欧米ファンドが虎視眈々とその成長に期待をかけてきた「二酸化炭素排出権」の価格が、欧州で暴落している。欧州の二酸化炭素排出権取引市場は、EUETS(EU’s emissions trading scheme)と呼ばれており、設立以来5年になるが、EUは、その拡大を世界に呼びかけてきたにもかかわらず、いまだ限定的である。

理由ははっきりしていて、その排出抑制に対する効果がはっきりしない上に、またもや金融商品として投機のおもちゃになることが目に見えていることに、世界は懐疑の目しか向けていないからである。そして二大排出国の中国と米国が無視しているからである。欧州の中でも、石炭にエネルギー源を依存している、旧東欧諸国は、その貧しさからも積極的な歓迎の意を表していないのである。

この排出権は、当然のことながら、原油取引のヘッジに使われて、昨年中半まで急騰したのであるが、原油価格の暴落とともに、現在約3分の1まで値下がりしている。ピークで30ユーロまで上昇していたものが、現在10ユーロ近辺まで落ちているのである。

二酸化炭素抑制のための、クリーン(またはグリーン)エネルギー投資を誘発する効果が期待されているが、その効果が発揮できるためには、45ユーロくらいまで排出権価格は上昇しなければならないといわれている。しかし本当に目に見える効果があるのは、「高い原油価格」であることは、昨年原油が147ドルまで上昇したとき需要が急減して、二酸化炭素発生抑制に極めて効果的であったことで証明されたのである。

排出権取引価格が上がらないと、「グリーン投資(green investment)が減退して、地球環境によろしくない」というのは、価格が上がって欲しいという、市場関係者の願望の言葉としか聞こえないのは皮肉である。どこかに論理の倒錯もあるのである。


原油価格は37ドル台に A resounding vote of no confidence

2008-12-19 | 環境・エネルギー・食糧
2008-12 No.016


原油価格が大幅に下落し、その対策のためにOPECが、日量200万バーレルの減産に続いて、さらに200万バーレルの減産を決定しました。これが実行されると、世界の40%を閉めるOPECの生産量は2900万バーレルから2490万バーレルまで急減することになります。

しかし市場は、耳を貸しません。原油需要が長期に減退するとの読みもさることながら、減産合意は厳格に守られたためしがないからです。専門家は、『価格が30ドル台に突っ込んだのは、「カルテルが減産できるはずがないという、市場の圧倒的不信任投票”A resounding vote of no confidence”」である」と論評しています。

この急落は、「原油価格は200ドルを目指す」はずだった人々には大変なショックでしょうし、新規油田・ガス田の開発中ないし出荷開始を待つ企業は収益予想の見直しをしなければなりません。長期的な開発を待つ代替エネルギーの開発スピードは急速に落ちるでしょう。バイオエタノールをめぐる状況は一変しています。(本コラム10月22日「エタノール燃料は…..」参照)

しかし「下がったものは必ず上がる、上がったものは必ず下がる」という循環を繰り返すこと以外に真実はありません。短期的予想をしてもまったく無意味です。代替エネルギーに人類が本当に命運をかけるようになるまで景気循環の波動と投機資金のおもちゃとなって原油価格の乱高下は続くことでしょう。


石炭利用が温暖化ガス削減交渉の障害 Coal-reliant utilities

2008-12-12 | 環境・エネルギー・食糧
2008-12 N0.011

現在、EU内部では「2050年に60-80%の温暖化ガス削減」を京都議定書以降の目標とする合意に向けて折衝が続けられていますが、石炭に依存する欧州諸国特にポーランドが、国家のエネルギー政策の根幹を揺るがすと強い抵抗を示しています。またドイツの電力会社の中でも石炭火力に大きく依存するRWEなども強い懸念を示しています。

石炭依存率を見ると、ポーランドは発電量の90%以上、ドイツ・デンマーク・ブルガリアが40%レベルでならび、英国が続きます。こうした石炭依存電力会社(coal-reliant utilities)の存在が大きな交渉の障害となっています。とくに金融危機と景気の急速な後退のさなか、排出権購入のコストの圧迫が、経済全体に及ぼす影響が大きな問題となります。

旧東欧諸国の石炭火力は、一般的には老朽化していることもあり、熱効率が悪いばかりでなく、公害対策も不十分です。二酸化炭素発生源でもあるばかりでなく重大な公害発生源でもあるのです。EUは世界の温暖化ガス抑制のリーダーとして世界を牽引していくためには、まずその内部での「石炭問題」を解決しなければなりません。それなくしては、石炭消費大国の中国や米国から譲歩を引き出すことはできません。

来週のブリュッセルでのEUトップレベルの交渉の結果は重要です。

世界はいまだ飢えている Almost 1bn people undernourished

2008-12-11 | 環境・エネルギー・食糧
2008-12 No.010

世界農業食料機関(FAO)は、2008年の世界の飢餓の状況について報告書を発表しましたが、その中で2005年までは8.5億人レベルで推移していた慢性的に飢餓状態にある(chronically hungry)人の数が、07年は9.2億人、08年は9.6億人と反転上昇傾向にあると警告しました。

世界の総人口(67億人)に対する飢餓人口比は現在17%であり、まさに6人に1人が飢えている状態です。とくにサハラ砂漠以南(sub-Sahara)の地域ではその比率は3人に1人となっています。今年の報告書の表題は「世界の食料不安(Food Insecurity)の現状」なっており、まさにキーワードは、「food insecure」であります。原因は穀物価格の高騰と、飢餓地域の国々の通貨安による二つの原因の合成にあります。今夏の急騰状態から世界の穀物価格相場はおおむね50%の下落を見ましたが、以前の水準にはまだ戻っていません。

2000年9月に国連で採択された「国連ミレニアム開発目標」(the UN Millennium Development Goals)では、2015年までに世界の飢餓人口を1990年の半分にすることを目指すことが宣言されていますが、この目標への達成は金融危機への対応追われる先進国政府の対応の低下や、穀物価格の異常高騰によって後退(setback)を余儀なくされています。世界はいまだ飢えていることを先進諸国は再認識する必要があります。

食料自給率を40%以下にして世界の貴重な穀物を大量に輸入しながら、一方で各種の農業補助金と高関税で農民ではなく「農業依存人口」を保護する農業政策を続ける政府の方針は、この世界の飢餓というコンテクストから考え直す必要があります。また生産される野菜・果物の30%が「規格外」として捨てられている農業流通の実態、そして毎日大量に廃棄されるコンビニ弁当とファーストフードも同じ次元から考え直す必要があります。


産油国不協和音 Opec disarray as oil sinks to $50

2008-11-22 | 環境・エネルギー・食糧
2008-11 No.021

7月に1バレルあたり147ドルまで上昇した原油相場も、最近は50ドル近辺まで急降下して逆の意味でデフレショックが世界を駆け巡っています。これはこの消費国にとっての朗報でありますが、オイルメジャーや産油国にとっては最も聞きたくないニュースであります。

そして産油国の組織であるOPECの内部分裂にもつながりかねない緊張状態を作りだしています。価格の下落を食い止めるために減産を主張するOPECを構成する大多数の国に対して、石油収入の確保のためには量を確保しなければならぬとするナイジェリアなどの一部の産油国は減産に反対するのみならず、逆に増産に踏み切る姿勢さえ示し始めています。

各国の事情を分けているのは、各国が石油収入の増加をあてにした国家経済の成長計画をそれぞれ策定しているためであります。このため各国の収支を均衡させるために必要とする原油価格の理論的数値に大きな相違が出てきています。各国の国家財政を均衡させるために必要な2009年の原油価格レベルは次のようになっています。

   ベネズエラ 103ドル/バレル
   イラン 83
   サウジアラビア 54
   クエート 52
   UAE 46
   アルジェリア 31
   カタール 8

このまま50ドルレベルの原油価格が続くとすると、国家予算を黒字で運営できるのは、UAE, アルジェリア、カタールのみです。そしてもっとも親米国であるサウジの均衡点が54ドルであることに注目する必要があります。さらに重要なことは、反米路線のベネズエラ、イランが50ドルでは赤字幅が巨大となることです。これらの各国事情が大きな世界の不安定要因となることを認識する必要があります。


エネルギー業界再編へ Dawn of A Disturbing New Reality

2008-11-04 | 環境・エネルギー・食糧
2008-11 No.003

ここ一月あまりの間に世界はとてつもなく大きな変化に見舞われ、その最も大きな影響はウォール・ストリートに出たわけですが、負けず劣らず環境とエネルギー問題の行方にも大きな影響を与えています。

このまま推移すると、環境に配慮したエネルギー開発を行って行こうとしていた石油会社などの意欲を殺ぐことになるとの懸念が広がっているわけです。たとえば、Chevronは、豪州政府の二酸化炭素排出権に「キャップ・アンド・トレード」方式が導入されれば、Gorgonガス田開発の経済性が損なわれてしまうとの警告を行いました。

またRoyal Dutch Shellは英国沖で計画していた海上大規模風力発電プロジェクトを延期し、リスクの少ない米国の内陸部の風力開発に専心するとの発表をしました。

原油価格の前例のない急降下によって、多くの油田・ガス田開発が取り消されたり、延期されつつあります。このことは中・長期の供給に関して大きな不安材料となりつつあります。すなわち価格上昇の圧力になります。

特に開発コスト高いカナダのオイルサンド(oil sand)や、アフリカ沖の深海油田(deep-sea)開発はすでに延期されました。ロシアの次期巨大ガス田であるShtokmanプロジェクトはGazprom社の信用不安もあって動揺しています。すでに広く伝えられているとおり、ロシアの油田はピーク・アウト(peak-out)しており、ガス生産も当面は伸張する余地は少ないとIEA(国際エネルギー機関)は予測しています。

現在の生産量を維持し、開発を継続するためには、全世界で年間36兆円の新規資金の注入が必要と算定されています。もし原油価格が低迷すれば産油国や石油会社は、信用収縮とのダブルパンチとなってcashの不足をきたすので新規投資を当然抑えることになります。

こうした動きはまさに、エネルギー業界の新しい現実(a new reality)であるとFTはそのエネルギー特集記事の中で論評しています。そしてこの新しい現実の中でエネルギー会社の資金不足、株価低迷が続くと業界再編が確実に、しかも急速に進むであろうと予測しています。それゆえ、特集の見出しを"The dawn of a disturbing new reality"、すなわち「混乱の新時代の夜明け」としたのです。


中国温暖化ガス削減交渉に新条件 The Price of Cooperation

2008-10-29 | 環境・エネルギー・食糧
2008-10 No.028


温暖化ガス削減のための国際条約である、いわゆる「京都議定書」は2012年に期限が到来するため、来年11月末のコペンハーゲンで開催されるCOP15における新条約合意を目指して交渉が継続されています。

しかし昨年末のインドネシア・バリ島におけるCOP13においても議論百出の状態で特に先進国と発展途上国との間における利害相反は大きく簡単には解決できない状況でありました。続く今年7月の洞爺湖サミットでは「2050年までに排出を半減するとの長期目標」は「共有」しましたが、足元の「数値」は国連交渉に委ねるという曖昧な終り方をしています。

また先進国、特に米国が「条約に復帰」していかなる立場をとるのかは、新大統領の政策如何ということになります。現今の厳しい経済情勢のもと産業活動を制限し、産業界に負担を強いることになる断固たる政策を実行できるかどうかは予断を許しません。

こうしたなか本日のFTは、新興国の中でも、先進国の削減案や、途上国援助に不満を明確に表明してきた中国が、新たな条件を提示してきたことを報じています。その中国の新提案とは、「先進国はそのGDPの1%を途上国の温暖化ガス削減努力を支援するための技術援助に拠出すべし」というものです。

米国と並んで世界の二大温暖化ガス排出国である中国の加盟なくしては新条約は実効性を持ちえませんが、中国が今年12月のポーランドにおけるCOP14の交渉に先立って、大きな重石となる条件で先手を打ってきたのです。FTの表現を借りると、それは"Price of Cooperation"(協力の代償)ということになります。

そして削減目標の合意ができたとして、その実行を各国でどのように政策化していくかというもっと大きな問題が待っています。


「エタノール燃料」は投資家の「希望の星」から「カス」に急転

2008-10-22 | 環境・エネルギー・食糧
2008-10 No.21

本日のFTの第一面には「エタノール・ブームは蒸発」という記事が目を引き、別の紙面を割いて大きな特集記事が組まれています。その見出しは”From hope to husk”(希望の星がいまやとうもろこしの皮のようなカスと化した)です。

一時は米国の農家の窮迫、大気汚染、輸入石油依存といった問題に対する切り札としてもてはやされた「とうもろこし」を原料とするエタノール産業の2005年からの株価ブームは完全に破裂したといえます。(boom and bust)

上場エタノール製造会社のうち大手6社の株価総額は、06年のピークに較べると850億ドル(8.5兆円)が失なわれたものとFTは算定しています。06年からのブームは石油精製業に対してバイオ燃料をガソリンに混合を義務付けた05年の立法によって始まったのです。

この時価総額の喪失はピークに較べると90%にも達しており、破裂の巨大さが際立っています。ビル・ゲーツ氏のエタノール燃料会社への投資を行うPacific Ethanolも巨額の損失を記録しているようです。

エタノールを混合する精製会社にはすでに、112億ドル(1.12兆円)の税制上の恩典が与えられており、エタノール製造産業には連邦・州ベースで800億ドル(8兆円)の助成金が支払われています。

こうした措置を取るにあたってその理由とされてきたのがエネルギーの自給率向上であったのですが、今となっては幻滅のタネでしかなく、さらに悪いことにバイオ燃料は世界の食糧価格急騰の元凶として非難の対象となってしまったことです。

地面に置かれたとうもろこしの写真につけられたキャプション:「地に帰る(Back to earth)」・・・・エタノール生産のために米国の1/4のとうもろこしが消費され、そのコストは納税者に。


フランスの原子力攻勢 Going nuclear

2008-10-06 | 環境・エネルギー・食糧
2008-10 No.006

世界が金融危機で緊急対応のさなか、いまひとつのグローバルな問題であるエネルギー問題の分野でフランスが活発に動いています。先月末に、英国の原子力公社であるBritish Energy社に対してフランス電力公社EDFが行っていた約2.5兆円の買収提案が受け入れられたのです。

フランスでは、58基の原子力発電所が稼動しており、フランスの電力の80%をまかなっている世界に冠たる原子力大国であります。今回の買収により英仏海峡を挟んで原子力の大きなネットワークが形成されることになり、まさに「原子力ルネサッサンス」の旗手としてのフランスの野心満々ということであります。

EDFのピエール・ガドネー総裁は来年任期切れとなるために今年中にどうしても後世に「原子力の中興の祖」としての名を残したいとの思いがあるようで、本日のFTとのインタビューに応じて、「永遠に生きると信じなければ、60年にもわたる原子力プロジェクトには取り組めない」、「しかしわたしもいつかは退任するのだ。わたしが永遠に生きることになっているのを信じない人たちもいるから」と哲学的な心情を吐露しています。

原子力が今後の世界のエネルギー危機に対する重要な処方箋になることは疑いが無いのでしょうが障害も山積しています。そんな中でフランスが期待するのは大型加圧水型新型炉です。自国での建設はもとより、英国、米国、中国、インド、南アフリカへの技術輸出と、フランス企業による発電所建設受注を官民挙げて狙っているのがフランスの国策です。

先月30日に、パリでインドの新首相とサルコジ大統領が、両国間の民生用原子力分野での協力協定に調印しました。核拡散防止協定に加盟しないインドには原子力技術移転は認められないはずでありましたが、米国議会が先週原子力協定を承認したことにより、フランスの協定も発効することになります。国際政治の機微を見抜く力がなければ、こうした大国のご都合主義の動きにのっていくことはできないという典型です。

一方EDFの米国進出の戦略は、電力会社コンスタレーション・エナジー・グループの買収にあったのですが、この目論見はウオーレン・バッフェット氏によって粉砕されました。(2008-9 No.016 参照) しかしEDFはまだあきらめていないようで近々カウンターを繰り出すということです。

はからずもこの攻防の中で明らかになったのは、コンスタレーションの経営陣は株主であるEDFのことが大きらいであったことでした。

OPEC原油収入倍増 beyond their absorptive capacity

2008-08-11 | 環境・エネルギー・食糧
昨年来の原油価格の高騰により石油輸出国機構(OPEC)13カ国の、石油代金収入(petrodollar)は急増しており、今年6月までの6ヶ月間の収入合計が昨年1年間の収入とほぼ同額になったようです。

昨年1年間のOPECの総収入は6,710億ドルであったのに対して、今年6ヶ月間で、すでに6,450億ドルに達しています。原油の増産も行われており13カ国の生産は、直近で日量3,260万バレルまで達しています。

このため、現在原油価格は120ドル/バレルを割り込んでいますが、今年前半の原油価格の平均値は111.1ドル/バレルですから、今年後半も、大体前期の収入レベルは維持されるものと大方は予測しています。

急増する石油収入は、OPEC諸国でインフラの建設や、旺盛な個人消費に回っていますが、当然のことながら、湾岸各国のインフレを点火しており、軒並み二桁の物価上昇を招いています。さらに短期に急増した収入を使いきれず、いわば「宝の持ち腐れ」状態(beyond absorptive capacity)に陥っています。

その結果、中東の余剰ドルは、従来からの習慣である米国国債の買い入れのみならず、最近では政府系ファンド(national wealth fund)として、欧米金融界のサブプライム危機救済や、先進国の企業買収や資産買収資金に回されています。

日本だけでも、原油高騰の結果流出した国民所得は、年間ベースで26兆円と推定されていますが、こうした大規模かつ急速な「富の移動」は、今後の世界経済問題の焦点となるでしょう。

英原発会社売却:EDF takeover is preferred option

2008-08-06 | 環境・エネルギー・食糧
英国で原子力発電のみを行う電力卸売会社British Energy(BE)のフランスの電力公社EdFへの売却交渉が大詰めに来て難航しています。

英国は財政難解消の、政策の一端としてすでに、2006年2月に英国原子燃料会社(BFNL)をウェスチングハウス社を含めて54億ドルで東芝に売却した経緯があります。

今回は、原子力発電所建設を再開しようとする英国政府の政策転換の中で、基幹エネルギー会社を外国政府の運営する電力公社に売却しようとするものであります。この大胆な外資導入は英国政府の経済開放政策の面目躍如たるものです。

EdFとの交渉は、先週金曜日に235億ドル(約2.5兆円)で発表というところまで進んでいたのが、木曜日に大株主2社からの反対によって劇的破談となったものです。理由は「安すぎる」でした。

これを見て、英国ガス会社(BG)の親会社Centrica(電力会社も傘下においている)が、「BEとの何らかの提携による原子力分野への進出機会としたい」との意向表明とともに「買収も視野に入れている」と発表しました。

これに対してBEの35%の株式を保有する英国政府は、「Centricaには原子力のノウハウが無いから反対する。あくまでEdFへの売却を支持する」と拒絶しました。

原子力発電会社の売却にあたり、フランスに売却することを、自国のエネルギー産業しかもその昔は国営会社であったBGに売却することより優先するところに、他の国には無い、英国の特徴があります。


ドイツの太陽光発電超優遇措置 The feed-in tariff

2008-07-29 | 環境・エネルギー・食糧
脱原発政策では欧州をリードしてきたドイツは再生可能エネルギーである風力と太陽光への傾斜をますます強めています。これらのクリーンエネルギーは、温暖化ガス対策としては極めて好ましいものでありますが、化石燃料による発電に比べれば経済性では遠く及びません。

その対策として、普及促進のために取られる助成措置は2つあります。一つは公的な助成金に基づく電力会社による高い買電価格の設定であります。いまひとつは米国などで取られているようなクリーン電力の発電業者に対する減税や免税措置です。

ドイツでは、太陽光発電促進のために、2000年から他国に先行して極めて優遇効果の高い「feed-in tariff」と呼ばれている電力買取料金が適用になっています。この制度によると、太陽光発電を導入して電力会社に売電すれば、20年間の固定収入が保証されるのです。

この助成措置が奏功して、ドイツでは太陽光発電の導入が飛躍的に進み、その総発電能力は世界の太陽光発電能力の50%に達していています。そして現在ドイツ全体の総発電量の1%にしか過ぎない太陽光発電は、将来総需要の30%を占めるまでに拡大すると予測されています。

この気前のいい助成金付きの売電価格体系「feed-in tariff」は、早期の導入を促進するため、年度ごとに助成金の額が逓減していきます。後から導入すると売電価格は、低く設定されるという仕組みです。

今年は、制度見直し時期に当たっており、「この助成措置は過大であり財政を圧迫するのみでなく、太陽光発電装置メーカーのコスト・ダウン意欲を殺いでいるので大幅削減すべき」という議論がありましたが、急速な削減には太陽光発電装置産業の発展を阻害するとの反対意見が強く、結局2011年までに30%削減という案は10%レベルまでに緩和されました。

このままこの助成措置を続けると、助成金の総額が17兆円にも達してしまい、太陽光は他のクリーンエネルギー源に比較して競争力をまったく失ってしまうという計算も出てきています。

「feed in」の気前よさを永遠には続けられないという「feed back」がかかり始めたということでありましょう。





極北の資源 The melting of arctic ice opens opportunity

2008-07-28 | 環境・エネルギー・食糧
北極圏アラスカ、アメラシアン海盆、東グリーンランド断層海盆、東バレンツ海盆、西グリーンランドー東部カナダ海域。これら聞きなれない5つの地名は何を意味しているのでしょうか? 

最近米国地質調査所(US Geological Suuvey:米国内務省管轄下の官庁)が、北極海の資源の埋蔵可能性についての発表を行いましたが、これら5つの海域には、北極海における未発見原油埋蔵量900億バレルのうち70%があると推定される地域なのです。同じように、天然ガスの未発見埋蔵量が集中する地域を3つ特定しました。

昨年ロシアは、北極点の真下に、ロシアの国旗を建てましたが、北極海に隣接する国々は、国境線画定のための論争をすでに二国間ではじめており、国連でも多国間の話し合いがすでに進んでいます。そしてすでに北極海は25の地域に分割されて開発計画が進められています。

こうした動きを加速している理由は二つです。原油の高騰で、厳寒の深海探査と採掘の高コストが、正当化される可能性が現実になったこと。そして地球温暖化の影響で北極海の氷が解けて、水路の確保が突然容易になったことです。

最も重要なことは、「可採埋蔵量」という経済的にも、地政学的にも重要な数字は、確実にこれから調査が進むにつれて急速に増加し、争って開発が進められ、極北の環境も確実に変わるということです。