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世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

ホワイトハウス・ビールサミット開催  They agreed to disagree

2009-08-01 | 米国・EU動向
2009年8月1日(土)

先週以来、米国のメディアは、ハーバード大学の黒人教授を、白人の警官が、誤認逮捕した事件を、連日「人種差別捜査」(racial profiling)の観点から大きく、またセンセーショナルに取り上げてきた。 そして、オバマ大統領は、警官の逮捕についておろかな行動(acted stupidly)と論評したことについて、不注意な言葉使いであったと認め、和解と事件の沈静化を目指して、件の教授と警官に、「ホワイトハウスでビールをいっぱいやりながら話し合いましょう」と誘いこの「ビールサミット」が金曜日に実現した。

The New York Timesの見出しは、”No apologies”「謝罪なし」となっている。

会談後、警官Crawly氏は、弁舌さわやかに「今日は、二人の男が会って、お互いの見解の相違を確認した(agreed to disagree)日だ」と語った。

Gates教授は、「大統領でなければ、二人を引き合わすなどと思いつかないでしょう。二人は、会った直後から、馬が合いました(hit it off from the beginning)。彼は、私を逮捕するなんてことをしなければ、いいやつ(a really likable guy)ですよ」と発言。

一方、大統領は、直後に、「わざわざ来てくれて、和やかで心のこもった話し合い(a friendly, thoughtful conversation)をしてくれた二人に感謝したい」とのステートメントを出した。

なとなく、ちぐはぐムードが、各者の発言に漂っているのは、二人の戸惑いを象徴しているように見える。なおこの「サミット」には、酒が飲めないバイデン副大統領も急遽参加したが、白人2名、黒人2名というバランスを取るためだったと、同紙は論評している。




オバマ発言、人種偏見に基づく捜査問題を再燃 Racial Profiling

2009-07-25 | 米国・EU動向
2009年7月25日(土)

昨日取り上げた、黒人ハーバード大学教授逮捕事件に関するオバマ大統領のコメントが、米国内で大きな波紋を起こしつつある。金曜日の日刊紙には、この16日に起こった誤認逮捕事件の詳報を、教授が手錠をかけられて家から連行される場面の写真を掲載しながら伝えた。

一方、逮捕したほうの警官は、「一切謝罪しない」と強硬に反発しており、地区の警官の労組も、正当な捜査であったとして抗議行動に出ている。オバマ大統領は、こうした事態の思わぬ方向への展開と拡大に、「自分は、逮捕した警官を、『馬鹿だ』(stupid)と呼んだつもりはない」と、発言内容を後退させた。(オバマ大統領は、馬鹿な行為(stupid conduct)とは言ってはいる。)一方渦中の教授は、容疑を解かれて解放されているが、沈黙を守っている。

この騒ぎ自体は、いつか収束するのであろうが、この騒ぎの焦点にあるのが、Racial Profilingというキーワードである。まだ、日本語には定訳が定まってはいないので、『人種偏見に影響された犯人像の予見』、またはそれに基づく捜査とでも訳すよりほかない。ある種の犯罪や、不法行為を犯しやすい人種の存在をあらかじめ想定して捜査を進めることである。

米国では、多くの黒人が、「白人に比べて、車を運転しているときに、はるかに多くの頻度で、停車を命じられたり、車内の捜索を受けている」と感じているとの統計が存在する。黒人は麻薬密売にかかわる率が高い、などの先入感が支配的なため、誤った捜査が行われたり、誤認逮捕につながったりするのであると、黒人人権団体は、"racial profiling"にこれまでも強く反対してきた。

今度のケースでも、「白人が容疑者が、その場でハーバード大学教授とわかれば、手錠まで掛けて、「錯乱行動」で連行されることは、なかったであろう。教授が黒人がゆえに、「押し入り強盗が鍵を壊している」と即断され、説明も受け入れなかったという差別を受けた、これこそRacial Profilingそのものである」ということになりつつある。

しかし、オバマ大統領は、この問題が拡大して、健保改革法案の審議の遅延することをより心配しているのである。


オバマ、ハーバード大学黒人教授の誤認逮捕にコメント

2009-07-24 | 米国・EU動向
2009年7月24日(金)

オバマ大統領は、今週本欄で取り上げたように、46百万人の無保険者の根絶を目指す健康保険改革法案の今期中成立のための、記者会見やインタビューに加えて精力的な遊説行脚を始めた。水曜日の記者会見もその一環として行い、キーワードは、”This has to get done.”(改革は、成就されねばならない)であった。

その記者会見の最後に、記者から、大統領の友人でもある黒人のハーバード大学教授が、自分の家のドアの鍵が開かず、壊して入ろうとしているのを、近隣の住人に通報され、駆けつけた警官が、同教授を、有無を言わせずに逮捕したことについて意見を求められた。

普段は、人種偏見問題になってもことを大きくすることはまれな大統領も、この事件を、「大統領選挙結果には、差別問題の改善が反映されたけれど、米国にまだ根強く残る人種差別を思い出させてくれた」(a reminder of the persistent racism in the United States)と評したのである。

しかし、大統領は、ユーモアも失わなかった。「所轄署の警官は馬鹿な行動を取った」(acted stupidly)と批判しながらも、「そんな通報を受けたら現場に警官が急行するのは、あたりまえだ。私が、ホワイトハウスの鍵をこじ開けて(jimmy)いるのを見られたら、射殺されるだろうし(I’d get shot.)」と、スマイルとともに締めくくったのである。

この事件を報じているUSA Todayの囲み記事によると、門前で警官と争ったのは、黒人のGates教授、逮捕理由は、「錯乱した行為(disorderly conduct)」、逮捕した警官の名前は、James Crowleyであると報じられている。


バーナンキFRB議長の「出口探し」 Exit strategy

2009-07-22 | 米国・EU動向
2009年7月22日(水)

バーナンキ連邦準備制度(FRB)議長は、下院の金融関連委員会で、経済状況に関する報告した。その中で、現在FRBがとっている「ゼロ金利」(near-zero interest rates)政策からの出口戦略(“exit strategy”)は、万全であるとしながらも、「すぐに発動するには、経済の状態は、依然あまりにも脆弱(fragile)である」と語った。

同議長は、「経済に改善の兆し(glimmers of improvement in the economy)は見えるものの、当面超低金利政策は長期にわたり持続する」との方針を明らかにし、その理由として、今年の末には経済成長に転じることを予想できるとしながらも、現在9.5%まで悪化している失業率の改善には、2011年いっぱいまでかかることを認めた。

長期国債の相場は、この証言に反応して、利回りを下げている。経済が先行き回復に向かうとの予測と、経済刺激支出と健保改革による財政赤字の拡大が予想されている状況では、インフレ懸念から、長期金利は上昇に転じてしかるべきであるが、逆の動きとなっているのである。そして、市場のカネは、債券市場から株式市場に流れ込み、米国と英国の株式市場は、7日連続の上げとなって、株価も久しぶりの高値に戻している。

グリーンスパン前議長の長期にわたるカリスマ的運営が、金融崩壊に繋がったことで、FRBの信用は失墜したままであるが、バーナンキ議長は、FRBの独立性を守るべきとしている。一方、米国の金融システムの監視・規制制度が、FBR, 財務省、SECなどに分散している状況を改め、銀行と証券業務の垣根を元に戻し、金融新商品の規制を強化せよとの議論も根強い。

日本は、金融危機対処の「入口戦略」にも、「出口戦略」にも失敗して、「失われた10年」を招いてしまった。今回の米国は、もう「出口戦略」を言い始めているが、それはインフレの足音が、あまりにも大きく響き始めているからに他ならない。



オバマ、健保改革法通過に全力 This isn’t about me.

2009-07-21 | 米国・EU動向
2009年7月21日(火)

米国議会の夏休み入りを3週間後に控えて、今会期中に、国民皆保険化のための健康保険改革(Health Care Reform)法案の通過を目指すオバマ大統領は、今週は支持を訴える説得活動に全力を上げる予定を組んでいる。

昨日の演説会では、 Jim DeMint共和党上院議員が、「ここでオバマ大統領の改革法案を阻止できれば,ウォータールーの戦いで、ナポレオンを破ったような勝利となる。」 ("If we're able to stop Obama on this, it will be his Waterloo. It will break him.)といったことに対して、「この問題は、私が勝つかどうかという問題ではない。政争の具でもない。」(This isn't about me. This isn't about politics.)と反論。

そして、「法案に反対して現状維持(status quo)を図ろうとするのは、保険会社や製薬会社の利益を擁護しようとする人々である。しかし、問題を認識していても、改革を一日、一年、十年と少しでも延ばしても大丈夫と思っている人々もいる。今こそ行動を起こすべきときである」と訴えた。

しかし、オバマ改革案の財政支出の膨張に対しては、強硬に反対している共和党議員のみでなく、民主党議員の中にも不安が広がっている。またABC/Washington Postの世論調査では、オバマ大統領の支持率が60%を切ったことに加え、健保改革法案に対する支持率は8ポイント下がり、49%に急降下した。

今会期中の法案成立は、オバマ大統領が自らに課した政策目標であるが、政権発足半年で決着をつけるには、時間が不足しているように見え、前回のクリントン政権の改革の試みが失敗に終わった轍を踏む危険性が増大している。国民皆保険導入による格差是正と社会正義の実現を図ろうとするオバマ大統領の手腕に、成否がかかっている。

オバマ怒る、G8と国連は時代遅れ antiquated and ill-prepared

2009-07-11 | 米国・EU動向
2009年7月11日(土)

昨日、本欄にて懸念したとおり、残念ながら、イタリアにおける、G8に続いて開催されたその他主要国を加えたG17において、温暖化ガスの削減について合意が成立せず、今後の交渉のヘゲモニーが、G8から中国・インドなどの発展途上国に移動したことが明確となった。

総括会見の中で、オバマ大統領は、「G8も国連も、地球全体が抱える問題に対して、時代遅れで、対応能力を失った」(the G-8 and the U.N.as antiquated and ill-prepared for the challenges facing the globe.)と言い切って、不快感をあらわにした。
して
そして、「こうした首脳国際会議は儀式化してきて、創設時に役目と定められた問題に対する対応能力を失って久しい。席とりごっこ(musical chairs)のような遊びの会議はもううんざりだ。就任以来6ヶ月に開催されたこれに類する首脳会議の回数は多すぎた」とまでいって批判したのである。TVに映された、休憩時間中の首脳間の雑談の風景の中でも、国連事務総長への態度は、見ていて「そそくさ」と応対した印象を与えた。

オバマ大統領としては、今回交渉の中心となるべきであった中国の胡錦涛主席の直前の欠席もあって、十分な存在感を示しえなかったことに、大きな失望感を抱いて帰国することになったと推測される。

そしてG8が、そのかつての「金持ち国」の指導的立場を完全にうしなっているのも明白な事実である。さらには、「米国一国指導体制」も、金融危機の発信源となったことで、自由主義経済の旗手としての地位とともに失った。オバマ大統領の怒りは、米国一国だけが君臨した20年間の「超大国」からの転落の嘆きでもある。

こうした流れを見ていると、9月の国連総会では、国連の非効率・官僚化・肥大化に対して、近年特に米国から不満が高まっているので、国連の機能強化、予算の強化と引き換えに、オバマ大統領は大胆な「行政改革」を、提案するかもしれない。



ペーリン、アラスカ州知事突然辞任 A curve ball?

2009-07-05 | 米国・EU動向
2009年7月5日(日)

前回大統領選挙で、敗れたMcCain氏の副大統領候補として突然昨年の秋口に浮上して、数々の「お馬鹿ぶり」を披露して、選挙戦を盛り上げた現職のペイリン・アラスカ州知事(45歳)が、何の前触れもなく(sudden and unexpected)、約2年の任期を残して突然辞任を発表した。

「彼女に関して予測が付くのは、予測の付かないことをするということだけだ」と揶揄され、選挙期間中からあれやこれや取りざたされた倫理問題に関して、「もうアラスカにはもう飽き飽きしてしまった」のだろうとも、「2010年の知事再選すら危うくなったので早々と転進したのでは?」などの憶測を呼んでいる。

とりわけマスコミの興味を引くのは、2012年の米国大統領選挙への出馬準備としての、知事辞任という観測である。自伝が、来春には出版されるので、その印税を軍資金にして、出馬をぶち上げる可能性は十分あるのだ。

共和党は、今年から来年にかけて、約40州で、知事の改選が行われるので、Palin女史が大いに、選挙応援で力を発揮してくれるだろうと期待する向きもあるが、党の中では、「彼女のイメージはマイナス」("She has become a damaging figure on the Republican stage,")という見方のほうが強いようだ。

そして肝心の大統領選挙に関しても、「8か月以上も彼女と付き合える選挙参謀と運動員はいない」だろう、と悲観的で、何よりも彼女に、政治的な経験に不足していることが「不適格」の決定的要因である、との意見が支配的である。

ABC放送切っての論客Cokie Roberts女史のコメントが、全米の意見の公約数を代表していると思われる: 「わけがわからない。(mystifying)」 「いっていることが飛んでしまっている。(a bizarre announcement)」。「意味不明で、とても大統領選に出ようとする人のすることではない(It didn't make a lot of sense, and it doesn't seem to be the kind of thing someone would do if someone was running for president.")

決定的なオバマ大統領への対抗候補を出せない共和党は、本命を絞り込む前哨戦中に、彼女の「反社会主義政策」を、反オバマキャンペーンに大いに「活用」することは十分考えられる。


オバマ、グリーンで雇用創出を  smart grid, clean green energy

2009-07-03 | 米国・EU動向
2009年7月3日(金)

オバマ大統領は、地球環境保護と温暖化対策のために、電力網への、ITとエレクトロニクスの導入による電力の効率利用を図る「スマート・グリッド」構想(smart grid)と、再生可能エネルギー(green energy)の導入の加速的推進を、重要な政策課題に挙げている。

そして、昨日も、エネルギー業界のトップとの会談を終えて出てきた大統領は、「クリーンな新エネルギーによる経済再生(a new clean energy economy)が、長期的な繁栄をもたらす」ものであり、「新エネルギーを生産し、貯蔵し、配送することで数百万人分の雇用が創造できる」と力説した。

ところで、6月の失業は、予想値を上回って、絶対数で46.7万人の増加となり、5月の32万人を大きく超え、失業率を9.5%まで押し上げた。 3月に、人々が、”green shoots(緑の若い茎)”がにょきにょき伸び始めたかと期待した経済の底打ち・反転上昇は息切れ状態である。

このところの株価の動きが象徴するように、好材料・悪材料が交錯して現れ、経済学者、政策担当者、相場師、マスコミは、「一喜一憂」を絵に描いたような発言を続けている。昨日、「日銀短観」(tankanは、英語になっている)は、「2年半ぶりの改善」と発表されたが、Wall Streetは、それは無視して、足元の失業増大に目が行き大きく値をさげてひけた。

2007年の後半から始まったとされる今回の米国景気の後退(recession)で、失われた職は600万を超える。クライスラー・GMという大型の、Chapter 11適用の影響が大きく、波及効果が絶大な住宅と自動車の二大産業の不振が続く限り、米国に”green shoots”は現れるはずはない。

消費・サービスが伸びてきても、その商品の生産やサービスの中国への依存は高いので、農業・製造業の雇用増大に即効性はない。そんな中で、息を吹き返しつつあるのは、レストラン業であるという。ただし、来店の客単価は、恐ろしく下がっていて、売れ筋は、4.99ドルのサンドイッチだそうだ。アメリカもワンコイン化している。


オバマ、‘global war on terror’という言葉を使用禁止に

2009-07-01 | 米国・EU動向
2009年7月1日(水)

言葉は大切である。言葉は思想を体現する。思想は行動を規定する。不注意に使った言葉が、民族の破滅と、人民を不幸に陥れた例は、枚挙に暇がない。わが国でも「大東亜共栄圏」、「八紘一宇」などがそれにあたる。

ところで “global war on terror”(「テロとのグローバル戦争」)というブッシュ政権が、2001年の9/11事件以来使用してきた言葉を、オバマ政権においては、極力使わないようにとの指示が出ていたが、今回訪欧したJanet Napolitano国家安全保障省長官(secretary for homeland security)が、「今後一切使用を禁止する」と決めたことを明らかにした。

イラク侵攻そのものや、テロ容疑者を一方的に逮捕して、理由を開示しないで無期限に拘留しながら、水攻め(waterboarding)などの拷問による自白の強要を正当化してきたのが、この“global war on terror”という言葉である。そして使用禁止理由のひとつとして、「warという言葉は、国民国家間の争いを想起させるが、テロ行為の原因は必ずしも国家間の関係に起因するとは限らないからだ」と説明した。

そして、「テロの根絶のために必要なのは、「社会の柔軟性」( public “resiliency”)であり、この点で米国は欧州、とりわけ英国から学ぶべきことは多い。今回それを学びに来た」のだと言明した。英国は長年のアイルランドのIRAによるテロ対策を行い、それを沈静化させた実績があることを指しているものと思われる。

そして、同長官は、イラク戦争からの帰還兵が、一匹狼(lone wolf)となる可能性を否定できないとし、米国内における反オバマ極右勢力が、テロ行為に走る(大統領暗殺を暗に指している)危険性があることを認め、その対策をとっていることも明らかにした。この意味で、「グローバル」という言葉が、当てはまらないことは明らかである。

オバマの住宅ローン地獄防止策 ‘Plain-vanilla Rules”

2009-06-30 | 米国・EU動向
2009年6月30日(火)


今週月曜日、NY連邦地裁では、元Nasdaq会長Bernard L. Madoff(71)が、巨大なねずみ講(Ponzi scheme)を動かして、20年以上にわたり多数の投資家を欺き、6.5兆円の損害を与えた罪で、150年の禁固刑を科すとの判決が下された。また、NYでは、さらに一件の巨大ねずみ講に絡んだStanford事件が立件され、裁判が開始されている。これらは、摘発されても、されても尽きることのないねずみ講の典型である。

一方、オバマ政権は、全世界で、400兆円以上の連鎖損失が発生する原因となったサブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)のように、ローンの条件をよく理解しないままに、実際は返済不能に陥る危険性が高い借り入れ契約をして破綻する悲劇から、一般消費者を保護する政策の導入を模索中である。

新たに新設が計画されているのは、Consumer Financial Protection Agency(消費者金融保護庁)で、貸し手が、複雑な仕組みを十分消費者に説明しないまま、初期の低金利(a lower introductory “teaser” rate)や極端な返済の逓増方式で消費者を釣ることを禁止することなど、住宅ローンに関する監督機能をもたせようというものである。

特に、消費者の理解を意図的に妨げる複雑な、融資契約条件を原則禁止にしようとしている。これをPlain-vanilla Rulesと呼んでいるが、単純明快な条件提示をバニラアイスクリームにたとえたものである。

The Wall Street Journalが、漫画入りで解説する、住宅ローン契約のバニラアイスクリーム方式とは、①銀行は、借り手の年収証明書を確認する、②繰上げ返済を認める、③税や保険料がかかることを明記し、引き当て勘定を設定する、④借り入れ期間、返済日、金利条件、商用費用を全面的に開示するとなっている。常識的には、金銭の貸借では当たり前のことを、ことさらPlain-vanilla Rulesと呼ばなければならないほどに、サブプライムローンは、ある意味できわめて不透明であったことを、公式に認めたということである。

そして、この解説記事の見出しは、”Plain-vanilla rules could melt bank profits” 「プレーンバニラルールは、銀行の収益を圧迫する可能性あり」となっていることがすべてを物語っている。(ここで動詞にmelt「溶かす」を使ったのはアイスクリームに掛けた言葉遊びである)



オバマ、医療保険改革断固進めよPolicy Wonk & Post-Partisan

2009-06-28 | 米国・EU動向
2009年6月28日(日)

ノーベル経済学賞受賞のポール・クルーグマン(Paul Krugman)教授は、リベラルな主張と、民主党支持で知られた論客である。The New York Timesに定期的なコラムを持つとともに、ABC放送の辛口討論会でも舌鋒鋭い持論を展開している。その同氏が、最新のコラムで、「大統領、やる気が足りませんよ」(Not enough audacity)との見出しのもと医療保険改革での腰砕けは破滅のもとになると、強烈な苦言を呈している。

米国の医療保険は、GMなどの大企業が運営する保険制度を持っているのは例外で、普通の人は、民間の保険会社に個人加入することが基本になっている。公的な制度としては、老齢者向医療保険制度Medicareと、生活保護者向けのMedicadeがあるが、これらの自助保険や公的保険から、保険料が払えずはみ出した「無保険者」が、全人口3億人のうち46百万人もいる。国民皆保険化(universal care)は、民主党政権の悲願とも言うべきものであるが、医者をはじめとする医療機関、製薬会社は既得権の侵害を恐れて、強烈な反対運動を続けており、「皆保険は財政破綻を起こす、’大きな政府’による悪政」と主張する共和党の反対の原動力となっている。

クルーグマン氏は、このところのオバマ大統領の姿勢を見ていると「二人のオバマ大統領」が同居しているように見えると分析する。ひとりは、”Barack the Policy Wonk”。もう一人は、”Barack the Post-Partisan”。前者はいわば、見ていても聞いていても好感の持てる「政策へのこだわり」を見せるオバマ。後者は、対決回避型、足して二で割ってことを収めようとする、「論敵におもねる」オバマである。この「妥協型オバマ」は、先般の金融安定化法案がかろうじて3票の共和党員票で上院を通過したあたりから出現したと、クルーグマン教授は解説する。

「政府管掌の方が、民間の保険に比べて、人員効率もよく、医薬・検査料も安くする交渉力でも勝っていることは、これまでの実績から明らかである」ならば、オバマ大統領は自信を持って、財政面での問題を論ずればよいのだ、とクルーグマン氏は説く。「もし公的保険が、非能率だと非難するなら、民間は、政府管掌保険と競争すれば必ず勝つはずだ。官業による民業圧迫・駆逐というのは論理破綻」といなせば済むことだ、と続ける。

クルーグマン教授は、大統領よ、民主党よ、「医療改革は、成功させねばならぬ。(to be done right) 耳障りのよいことばかりいうのはそろそろやめにして、歯を食いしばってがんばれ(Hang tough!)」と活を入れて、コラムを締めくくっている。


オバマ、健保改革取り組みへ 46 million uninsured people

2009-06-16 | 米国・EU動向
2009年6月16日(火)

いよいよ、オバマ米大統領が、大統領選挙で公約した国民健康保険改革に、本格的に乗り出す。約1兆ドルと予想される医療保険制度改革コストの財源として、今後10年間に高齢者医療保険(Medicare)、低所得者医療保険(Medicaid)その他のプログラムへの支出を3130億ドル追加削減することを提案した。この新たな支出削減により、2月の予算教書で示した6350億ドルの医療保険準備金への拠出への積みあげを図ろうとする意欲的な計画である。

前回の、Bill Clintonの全面的な医療保険制度改革を粉砕したのは、共和党の後ろで強い反対勢力を結集した、医者の団体(American Medical Association)と製薬業界であった。オバマ大統領は、まず医師を味方につけるために、シカゴで行われたAMAの大会に出席して、改革への意欲を、熱ぽく訴えた。「現在全米で、無保険者が、4600万人もいる状態を解消する」のが目的であると説明した上で、一方、医師団体が強く求める、医療事故補償の上限設定については、反対を表明した。

医師団体からは、「強欲な弁護士(voracious trial lawyers)が、医療過誤を食い物にしていて法外な補償を患者に求めさせてくる。だから、安全をとって不必要な検査を行い、他の診療科にも意見を聞き(referrals)、長く入院をさせてしまうので、医療費がうなぎのぼりになるのは当たり前」という声が上がっている。これに対して、大統領は、「それは大問題だとは思うが、本当の医療過誤(malpractice)の犠牲者の補償にも上限(cap)をはめることは公平性を欠く。患者の安全、医師の治療への専念、事故後の公平な裁定を担保する仕組みを考えよう」と訴えた。

ここで、大統領は、「結果がすべてという医療システムを構築したいと」話しかけ、医者たちが、最後に大拍手を送った名言で締めくくったのである:"You did not enter this profession to be bean-counters and paper-pushers. You entered this profession to be healers -- and that's what our health care system should let you be." (Bean-counterとは、一銭一厘の金を数えながら一生を送る会計担当、paper-pusherとは、書類作成と整理をするばかりの事務員。)

ところで、オバマ大統領の、医療制度改革は、民間保険制度に対して、公的な健康保険制度を導入して、競争させることによって、質を向上させ、政府支出と個人負担を軽減しようとするものであり、いわば「官」「民」競合を起こさせるという、今までの民営化路線の逆を行こうとしている。2008年の新自由主義(neo-liberaism)崩壊後の、米国の新たな挑戦である。前回の民主党Bill Clinton元大統領時代に、健康保険改革は、共和党を押したてた医師会・製薬業界の連合軍に粉砕され、その苦汁を飲まされ最も屈辱感を味わった人こそがHilary Clinton現国務長官である。



欧州右旋回 Center right makes gains amid EU vote apathy

2009-06-09 | 米国・EU動向
2009年6月9日(火)

EU27カ国にほぼ人口比で各国に割り振られる736議席を争う欧州議会選挙が行われたが、得票率が年を追って下がり続ける中、今回も投票率は、43%と低調で、欧州各国での、EUそのものに対する「無関心」(apathy)を裏付けたものとなった.

未曾有の経済危機にも関わらず、そのような政治的無関心の支配する欧州でも、いくつかの重要な変化が見られた。全般的には、EUへの「幻滅感」の強まりと、中道左派勢力の後退と中道右派勢力の増勢が変化のキーワードといえる。そして低投票率の合間を縫うように、「緑の党」の大幅躍進、移民排斥を訴える極右政党の進出も大きな変化といえる。「全般的な右旋回の中、分極化」が進んだと評すべき変化である。金融危機に発した景気後退で失業者が増大する中、少数民族や移民を排斥する極右政党が、ひたひたと勢力を伸ばしているのは, ヒットラーが出てきた1930年代と似ているといえなくはない。

ドイツ・フランス・イタリアでは、いわば中道右派の「現政権政党への信任投票」となったこととまったく対照的に、英国では、Brown首相率いる「中道左派」と分類される労働党の大敗は、最も衝撃的な結果であるといえる。同党は、保守党のみならず反EU政党である英国独立党(UK Independent Party)の後塵を拝する3位に転落したのである。この結果は、労働党にとっては、破壊的な衝撃(a devastating blow for Labour)と評されている。

下院議員の公費の乱脈使用が問題となり、議員辞職が相次ぎ、さらには労働党閣僚の中からBrown首相への公然とした不支持を表明して辞任者が出るなど、任期が後一年となった同首相への辞任圧力が高まっているが、政局は、そう簡単には展開しない。選挙結果を受けて開催された、労働党議員団による党大会では、同首相に対する反対勢力が、同首相辞任に追い込むほどにその声を上げることができず、現状維持を認めざるを得ない情勢であったと報じられている。いずこも同じということである。

一方のBrown首相は、"I'm not making a plea for unity, I am making an argument for unity." (私を支持するように団結することを懇願したりはしない。私を支持するように団結せよと議論を挑んでいるのだ)と強気を崩していない。こうした労働党内事情を、勝利したDavid Cameron保守党党首は、「労働党は、緩やかに政治的な死に至る踊りにはまり込んだ」( "a slow dance of political death")と批判を加えている。


オバマ、ナチ収容所訪問 The Ultimate Rebuke

2009-06-06 | 米国・EU動向
2009年6月6日(土)

オバマ大統領は、サウジとエジプトを訪問し、アラブ世界とりわけモスレム教徒との和解と、イスラエルとパレスチナの「二国建設構想」(two-state solution)に基づく平和の道を訴えたあと、ドイツに移動して、ドイツ文化の花開いた地でもあるワイマールに近い、Buchenwaldにある、ナチのユダヤ人強制収容所の跡を訪問した。

オバマ大統領は、メルケル首相と、父をこの収容所で失ったノーベル平和賞受賞者Elie Wieselとともに三人で、追悼記念碑にバラを献花した。その際大統領は、「今日なお、ホロコーストの存在そのものを否定する人々がいるが、この収容所の跡こそが、そのような、存在を否定したり、ホロコーストそのものを矮小化してしまおうとする人への、「究極の反論」 “ultimate rebuke” となる。 私は今日見たことを一生忘れない」と演説した。

オバマ大統領が、この地を選んだ理由はいまひとつあった、この収容所が連合軍によって解放された際に、同大統領の「大叔父」(great uncle)が参加していたのである。こうしたエピソードを積み重ねながら、オバマ大統領は、イスラエルに対する配慮を忘れていないことを、イスラエルのユダヤ人にも、米国内のユダヤ人にメッセージを送っているのである。

このゲーテとシラーというドイツを代表する芸術家の生家が近いBuchenwaldにあるナチ強制収容所で殺されたユダヤ人は、56,000にとされている。
ホロコーストで殺されたユダヤ人の総数は600万人、ユダヤ人以外に劣等民族・障害者・政治犯の烙印を押されて殺された人の数を入れると1,000万人に達するとする説が有力である。

メルケル首相は、この日再発防止への誓いの言葉ともに、“I bow before all the victims.”(すべての犠牲者にこうべをたれてたい)と述べたのである。
一方、オバマ大統領の心には、第二次世界大戦末期に、無防備の町ドレスデンに対して、英米空軍が無差別爆撃を、10万人にも達する市民を殺傷するためにのみ行われたことが、重くのしかかっている。

オバマ大統領は、土曜日は、フランス政府が用意している、北フランスノルマンディーで、行われる上陸作戦の犠牲者の慰霊祭に出席する。彼らは歴史を風化させず歴史から学ぶ姿勢を守り続けている。

オバマ、サイバーテロ対策強化 A Weapon of Mass Disruption

2009-05-30 | 米国・EU動向
2009年5月30日(土)

オバマ大統領は、大統領府内にサイバーテロから国家を守るための専門官(the coordinator)のポジションを創設するために、人選を開始していることを発表した。

そしてその専門官を、「サイバー帝王」(A Cyber Czar)と呼んで、自分の直属の側近として、政府関係諸機関の調整に腕を振るわせると説明したが、指揮命令系統や独自の予算措置を持たない、いわば「令外官」(りょうげのかん)と位置づけることも明らかにした。

4月9日付けの本欄「米国電力、サイバーテロ標的に」でも取り上げたが、米国の軍・政府機関は言うに及ばず、電力・水・航空管制などの社会インフラは、中国やロシアなどの外国政府の情報機関が背後にいると推定されるハッカーの侵入をたびたび受けている。その件数は、国防総省の推定では、2007年だけでも44,000にも及ぶという。

大統領は、国民に、「最近ではアルカイダをはじめとする国際的なテロ集団が、破壊目的で米国を標的にしてネット攻撃活動をすることが現実の脅威となってきた、いわば、米国は、大規模機能停止兵器(a weapon of mass disruption)の攻撃にさらされている」と警告した。A weapon of mass disruptionとは、ブッシュ大統領時代に、フセイン大統領が隠匿しているとしてイラク攻撃をして必死に探した大量破壊兵器a weapon of mass destructionをもじったもの。

大統領自身も、大統領選挙中に自らのサイトへ、ハッカーの侵入を受けて被害を受けた経験を持っていることも明らかにして、情報化時代(The Information Age)のいま、ネットの恩恵も受けているが、それを通していかに攻撃されやすくなっているか(one of your greatest vulnerabilities)を認識してほしいと、国民に語りかけた。

ネット上の国家安全保障(cyber-security)という新語を、新聞によってはcybersecurityと一語で表現し始めたことが示すように、日常的な問題として認識される時代が現実に始まっているのである。

さて、「サイバー帝王」に誰が任命されるか?