ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

王妃の紋章

2008年05月18日 | 映画レビュー
 中国恐るべし。夫婦喧嘩や親子喧嘩もここまで派手にされると唖然というほかはない。北京オリンピックの演出を任されたチャン・イーモウがこれでもかの渾身の絢爛豪華さを見せつける。

 時代は後唐王朝、短くも派手派手しく隆盛を誇った王家の家庭内紛争の物語。

 チャ・イーモウ作としては「HIRO」「LOVERS」の流れを汲む一大スペクタクル史劇だが、3作の中ではこの「王妃の紋章」がもっとも好感を持った。絢爛豪華さはほとんど頂点を極めてもうこれ以上できることはなかろうというぐらいの目眩がするほどのきらびやかさであり、大量動員人海作戦の戦闘シーンの迫力もただ呆然。しかし、そういった見世物としての面白もさりながら、この映画が役者の演技力を大きな魅力としていることも指摘する必要がある。主役のコン・リーの気品と美しさは目もくらむばかりであり、国王チョウ・ユンファの不敵で不気味な貫禄もまた絶品。

 そして、どんなに金をかけて大がかりな作品を作ろうとも、物語の根幹がホームドラマである点で、この映画はわかりやすくわたしたちにとっても身近なものなのだ。だからすんなりと受け入れやすい。テーマは政治と権力ではなく、家庭内の血肉の争いである。要するに夫婦喧嘩親子喧嘩、不倫もの、といったよくある話にすぎない。とはいえ、この「よくある話」の結末は悲痛悲惨なものである。

 王妃は王の先妻の息子である皇太子と不倫し、それを知った王は密かに王妃を毒殺しようと毎日少しずつ毒を飲ませている。毒を飲まされていることを知りながら王妃は毎日毎日王が特別に処方してくれた「薬」を飲み干す。王妃の身体は日に日に衰えていくが、国の重要な祝いである重陽の節句を期して王妃はクーデータを企てようとしていたのだった。辺境の地に修行にやらされていた第2王子も王宮に戻ってきたことであり、いよいよ重陽の節句の宴は開かれようとしていた…



 小心者の皇太子、勇敢な第2王子、まだ幼い第3王子。それぞれの個性も大変わかりやすく、また彼らの家庭内での微妙な位置関係もなかなか興味深い。偉大すぎる父王と美しく賢い母王妃。皇太子には不倫相手の義母王妃だけではなく若い愛人もいて、これまたややこしい話になり…。というように、スケールの違いだけで、どこそこの家庭にいくらでも転がっていそうなお話であるので、物語の筋はつかみやすい。さらにアクションシーンのスピードや迫力も堪能させてもらった。ワイヤーアクションもかなり控え目なので「作りすぎ」で辟易させられることはない。

 それにしても中国は人件費が安いおかげなのか全部CGで描いたのかは知らないが大軍勢の迫力は恐るべきものである。大軍の肉弾戦は「ロード・オブ・ザ・リング」以来幾度も見たのですっかり飽きたかと思ったが、なかなかどうして、これまた色彩の塗り分けや形式美の導入により、ものすごく面白い。血まみれの戦闘が「面白い」というのもなんだかぁとか「夫婦喧嘩に巻き込まれて死んでいく兵士もいい迷惑やなぁ」とか思ったけど、ここまで派手に美しく作ってしまうともう、「戦場の悲惨」などというものは感じられない。ただただ圧巻である。

  劇場でないとこの迫力は楽しめないでしょう。TVで見るなら大画面でないとダメ。

 中国の力技の恐ろしさを知りました。へへぇ~参りました、北京オリンピックのプレ広報映画とも言えますね。

 王家の滅亡を描く壮大な悲劇には、チャン・イーモウの哲学がかいま見える。栄耀栄華を誇り、権力欲に取り憑かれたど派手王朝の末路は現代中国の未来にも重ならないか?


 ところで、中国の大地震、たいへん心が痛む。ミャンマーのサイクロン災害といい、なんとかささやかな支援はできないものかと思うが、義捐金を送るぐらいしか能がない。ミャンマーに関しては軍事政権に金が渡ってしまわないよう、NGO「日本ビルマ支援センター」の人々が募金活動を始めている。ご協力を。

http://www.burmainfo.org/brcj/

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王妃の紋章
CURSE OF THE GOLDEN FLOWER
満城尽帯黄金甲
中国/香港、2006年、114分
監督: チャン・イーモウ、アクション監督: チン・シウトン、製作: ビル・コン、脚本: チャン・イーモウ、ウー・ナン、ビエン・ジーホン、撮影: チャオ・シャオティン、音楽: 梅林茂
出演: チョウ・ユンファ、コン・リー、ジェイ・チョウ、リィウ・イエ、リー・マン、ニー・ターホン、チェン・ジン、チン・ジュンジエ

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