ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

歓びを歌にのせて

2008年03月20日 | 映画レビュー
 川を見れば「泳ごう」と言い出していきなり若い女がすぱっと全裸になったり、牧師が突然発情したり、最後は無理やり主人公を死なせてしまったり、なんだかけったいな映画。基調となる映画のトーンにときどき「あれ?」と思わせるような破調を持ち込むという点ではなかなか面白いのだが、なんとなくすっきりしない終わり方で、「感動もの」の割には感動が薄い。ひとつずつの場面がどこかきれぎれな感じがして、パズルがぴたっと収まる快感がないからだろう。つまり完成度が低いということ。しかしながら、個々の場面は魅力的なシーンで溢れている。

 さて物語は…

 主人公は世界的に有名な指揮者ダニエル・ダレウス。マエストロ(巨匠)といわれる彼は8年先までスケジュールがびっしり詰まっている。だが、ストレスの多い生活を続けたせいなのか、彼の心臓はボロボロで、ついに引退を決めたダニエルは生まれ故郷の寒村に戻ってくる。幼少から神童と言われた彼はしかし、村では子ども達のイジメに遭っていた。7歳で引越し、名前を変えて音楽界にデビューした偉大な指揮者のことをかつての村の人間だとは誰も気付かない。有名人がやってきたという好奇心満々の瞳で村人達はダニエルを見るし、教会の牧師からは聖歌隊の指導をしてほしいと頼まれる。最初は嫌々だったが、やがて聖歌隊の人々の素朴な声と人柄にふれたダニエルは、本気で合唱指導を始めるのだった。だが、ダニエルのやりかたが牧師の逆鱗にふれることとなり、また一方で聖歌隊のメンバーがコンテストへの出場に応募したりと、いろいろ波乱がおきる…



 世界的権威の指揮者が素人集団の聖歌隊をどのように指導するのか、とても興味のあるところだ。ダニエルの指導はたいへんユニークで興味深い。合唱の基本は「他者の音に耳を澄ませ、他者の音を聞いてそれに合わせる」という、心合わせなのだ。そのことが如実にわかる作品だった。だからこそ、ラストシーンの「心合わせ」が感動を呼ぶ。

 映画の作り方としては、素人集団の中にきら星のごとく存在する美声の持ち主の女性にソロを歌わせるという場面がクライマックスとなるのだが、それがちょっと早く来すぎたきらいがある。映画全体のクライマックスを早めに持って来すぎたために、後の展開がトーンダウンした。また、もう少しコーラスの苦労話を挿入していればより説得力があったのだが…。どう聴いてもここの聖歌隊は歌が下手なので、そんなことでコンテストに出るなどは無謀だ。もちろんダニエルにはそんなことはわかっているだろうが、観客に理解できるようなセリフがほしかった。

 独身のまま中年になってしまった孤独の人ダニエルが恋をする相手が奔放なレナという若い女性であるところがなかなか面白い。レナは恋多き女性で、ダニエルの前でも奔放に振る舞い、彼を振り回す。

 この映画の面白いところは、教会秩序への異議申し立てというテーマを含む作品が、そのテーマそのままに随所に自由な破調や逸脱を含むということだ。さきほど完成度が低いと書いたが、案外それも計算のうちかもしれない。全体としてアナーキーな印象を受けるということは、映画の狙いとしては成功しているもかもね。(レンタルDVD)

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SA SOM I HIMMELEN
スウェーデン、2004年、上映時間 132分
監督・脚本: ケイ・ポラック、音楽: ステファン・ニルソン
出演: ミカエル・ニュクビスト、フリーダ・ハルグレン、ヘレン・ヒョホルム、
レナート・ヤーケル、ニコラス・ファルク、インゲラ・オールソン

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