ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ハプニング

2008年08月11日 | 映画レビュー
 これまでさんざん期待を裏切られてきたシャマラン監督だけれど、ついに今回はマシなものを作ってくれた。ほとんど金をかけていないチープな作りだけれど、そのチープさを感じさせない恐怖を観客に与える。宇宙人の襲来なんていう荒唐無稽な話より、植物が人間の環境破壊に反撃するという話のほうがよほどリアリティがあって恐ろしいというもの。実際、いくつかの種類の植物は毒を持っているし、近づくだけでかぶれる植物もあるし、花粉を飛ばして人間に花粉症をもたらす植物もあるではないか。

 この物語は、ある日突然多くの人々が一斉に謎の自殺を遂げるというパニックもの。化け物に襲われるとか連続殺人鬼が襲ってくるという恐怖ではなく、突然自分自身で自分を攻撃してしまうというのもかなりリアルに怖いということがこの映画を見て知った。物語のアイデアはユニークだ。そして、すっきりと謎解きをしなかったことも本作の場合は成功している。

 「敵」が何者なのか判然としない時に、人々はいったいどのような行動をとるのだろうか? この映画でも、ある者は助かり、ある者たちは助からなかった。その閾はどこにあるのだろう。シャマランはそこに「愛」や「勇気」、「沈着な判断」といった、古典的な要素を盛り込んだ。本作で不満点は、主人公の若い夫婦の諍いと和解という中途半端な家庭不和事情を持ち込んだこと。全体が古典色あふれる作風であるのだが、家庭不和ものを中途半端に挿入するというのはいかがなものか。せっかくの恐怖映画に甘さを持ち込んでしまったことは減点かと。

 しかし、人々が死んでいく様は実に恐ろしい。こんなにじわじわと静かに怖い映画も久しぶりであった。絶海の孤島ならぬ、大草原の一軒家に文明から孤絶した一人暮らしを続ける意固地な老婦人もかなり怖くて、シャマランの人間観というものに少し疑問を感じつつも、やっぱりあの女の人は怖かったなぁという納得の(笑)映画。環境問題を恐怖の根源に置いたというあたりが古典的な中にも今風の味付け。わたしは「風の谷のナウシカ」の腐海の瘴気を思い出してしまった。

 ところで、いつも自分の作品に登場するシャマランだけれど、本作では顔を出しません。そのかわり声の出演をしています。(PG-12)

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ハプニング
THE HAPPENING
アメリカ、2008年、上映時間 91分
製作・監督・脚本: M・ナイト・シャマラン、製作: バリー・メンデル ほか、音楽: ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演: マーク・ウォールバー、ズーイー・デシャネル、ジョン・レグイザモ、アシュリー・サンチェス、スペンサー・ブレスリン、ベティ・バックリー