
「アテレコ」とはすなわち「吹き替え」のこと。映画やドラマの世界では、後から台詞だけを録音することを「アフレコ(アフター・レコーディング)」と呼びますが、アテレコはこれをもじったもので、外国映画の日本語版を作成する際、原版の映像に合わせて吹き替えの台詞を当てることから、この名が付いたそうです。今ではほとんど耳にしなくなりましたが、古い時代を知っている人にとっては懐かしい言葉のひとつかもしれませんね。
著者の額田やえ子さんはそんなアテレコの世界に身を置き、吹き替え用台本の執筆を手掛けてきた翻訳家です。草分け的存在として数多くの外国映画や海外ドラマの日本語版を世に送り出してきました。かの名作テレビドラマ「刑事コロンボ」で「マイ・ワイフ」という原文に「うちのカミさん」という翻訳を当てた人といえば、少しはその功績がわかってもらえるでしょうか。まさに「小池コロンボ」のイメージを決定付けた名訳ですよね(シリーズ開始時は別の翻訳者が担当しており、そのときは普通に「女房」と訳されていたそうです)。その他、古くは「コンバット」や「逃亡者」から、「刑事コジャック」、「マイアミ・バイス」、「ジェシカおばさんの事件簿」、「シャーロック・ホームズの冒険」など、手掛けた作品は有名どころがずらりと並びます。字幕翻訳の大家が戸田奈津子さんならば、吹き替え翻訳のそれは額田さんと言えるでしょうね。
本書は学生時代から読もう読もうと思っていながら、今まで先延ばしになっていた一冊。このところ読書熱が再燃しているので、その勢いに乗って借りてきました(笑)。初版(単行本)が出たのは1979年、文庫化の際に加筆訂正が行われましたが、それでも1989年。業界の舞台裏としては、いささか古さを感じる部分もありますが、試行錯誤しながら築かれた独自の翻訳技術はアテレコに興味のある方なら一読の価値ありです。また著者の生い立ちと共に語られる "昭和" という時代。戦後復興期を生きた者でなくとも、映画という存在が今以上に特別なものであったことが伝わってくるのではないでしょうか。喜怒哀楽が織り交ぜられた語り口も軽妙で、著者の人間味溢れる人柄が感じられる珠玉のエッセイ集です。
僕自身、映画は基本的に原語+字幕で見ますが、実は吹き替え版もかなり好きです(まあこんな本を読むくらいですからねぇ)。映画ファンの中には吹き替えを苦手とする人が多いことは知っています。ただ僕にとってはどちらがいいという問題ではなく、それぞれの楽しみ方があるというだけなんですよね。ジャッキー・チェンの声は本人よりも石丸博也さんの方がしっくりくると思っている人は少なくないのではないでしょうか。そういったハマり役も楽しみのひとつです。吹き替え声優さんに詳しくなってくると、新しくドラマが始まるたびに、キャストの妙を味わったりして、一人ほくそ笑んだりもします。吹き替え声優陣のチェックは音楽ファンがアルバムのクレジットをチェックするようなものだと思ってください(笑)。広川太一郎、池田昌子、中村正、大塚周夫、熊倉一雄、といった大御所はもちろん、池田秀一、安原義人、江原正士、山寺宏一、堀内賢雄らの世代も大好き。ケビン・コスナーの津嘉山正種、マイケル・ダグラスの小川真司など、お気に入りのハマり役を探すのも楽しいですね。自称吹き替えマニアの僕にとって、声優さんは「姿なき映画俳優」という存在なんです。
P.S. 今回、この記事を書くにあたり、著者の額田さんが 2002年にこの世を去られていたことを知りました。心からご冥福をお祈りいたします。




戸田奈津子さんは存じていましたが、額田さんは知りませんでした。勉強がたりませんね。
>吹き替え声優陣のチェックは音楽ファンがアルバムのクレジットをチェックするようなもの
これ、とてもよく分かります。新聞のTV欄をチェックする時も、おぉ今日の映画は石丸さんが…賢雄が…なんて思いますよね(笑)
実は昨日ジャッキー・チェンの映画観ていた時に家族で似たような話をしたんです。
テレビで何回もジャッキーの映画見てると吹き替えの声のイメージが強くなるよね、というような。
母は野沢那智さんを引き合いに出していましたが^^;
僕も基本的には字幕で観ますが、家のTVでリラックスして見る時は吹き替えはいいと思います。
吹き替えというと外国映画やアニメなわけですが、アニメの場合、翻訳作業はありませんし、地上波での洋画枠も縮小傾向にあるようです。つまり吹き替え翻訳家の活躍の場は徐々に狭まってきている気がするんですね。これも時代の流れかも知れませんが、僕としては淋しい限りです。
海外ドラマにひとつハマると一通りの声優さんをチェックしちゃいます。そうやって自然と好きな声優さんが増えてきました。今ではバラエティなどで大活躍の山寺さん、それに堀内さんも出会いは「フルハウス」でした。このドラマは日本でも人気が高いようで地上波、衛星問わず、何度も再放送されているようですね。
野沢那智さんというと「チキチキマシン猛レース」のナレーションが思いで深いです。古くはアル・パチーノ、近年ではブルース・ウィリスがハマり役ですよね。
>家のTVでリラックスして見る時は吹き替えはいいと思います。
僕もまったく同感です。集中して観れる環境では字幕がベストなんですが、テレビ放送の映画などは家族と過ごしながらのことが多く、映画以外の話題で会話も挿まれたり・・・。なんとなく日本語のセリフが流れてくるほうが心地良く感じますね。
学生時代読もう読もうと思っていたものを
今・・・?
驚きました。
それはともかく、長年読みたい本を忘れて居なかった事がすごいです。ぼくはそれを忘れてしまっている可能性大です汗
GWさんおっしゃるとおり、それぞれに良い特徴がありますよね^^まじめに映画を見るときは、
字幕じゃないと雰囲気がでない!
だけど、ジャッキーは吹き替えですね^^
あと、24も吹き替えの方が面白いです。
「おまえにやる、タンメンはねえ~」
これは吹き替えだから、笑える事かも
しれないですね^^
いえいえ、今まで計画的であったことなんてないですよ(笑)。いつも思い付きだけが支配する多分に衝動的なブログです(笑)。本書もふと思い出しただけだったんですから。
買うとなると店頭で探すという手間が介入してしまうため、どうしても奥手になりがちです。その点、図書館のネット予約は週末に受け取りに行くだけでよいので無精者の僕には打ってつけでした(笑)。「いつか読もう」と思っている本はいつまでも読まない、といわれますが、思い立ったら吉日の心を少しでも持ち続けたいですね。
吹き替えには時代を反映した遊びが入ることがありますが、それもまた吹き替えの一興ですよね。