2023年11月3日、伏見エリア歴史散策の後半ルートを原付ビーノで回りました。春の4月22日に実施した御香宮から伏見稲荷大社までのルートの続きでした。この日も旧伏見城の遺構を見るのが主な目的でした。
周知のように、豊臣期および徳川期の伏見城からの移築伝承をもつ建物は、京都市内だけでも三十ヶ所近くにのぼりますが、由来や様式からみて確かな建築遺構だけに絞ると半数以下の十四、五ヶ所になります。非公開の建物も少なくないので、いつでも見学出来るのは十ヶ所前後となります。全部が京都市内にありますから、いずれはそれらを回って連載で紹介しようかと考えています。
その十ヶ所前後のうちの三ヶ所が、伏見城近辺のエリアに含まれます。春4月の伏見歴史散策では御香宮の旧大手門と源空寺の伝旧城門を見て回りましたので、今回は残る一ヶ所に行きました。上図の栄春寺でした。
入り口の横にある案内説明板です。栄春寺は、伏見区桃山町丹下に所在する曹洞宗の寺院で、西を通る旧奈良街道に面しています。御覧のように、永禄十一年(1568)開創で、総門と墓地の惣構え土塁が伏見城の遺構とされています。
旧奈良街道から境内地に入ってまっすぐ東に向かって進むと、上図の総門があります。寺そのものは本堂も観音堂も南向きに配置され、表門も南に向いていますので、山門にあたるこの総門だけが西向きになっているのには、ちょっと違和感を覚えます。
南向きの寺の敷地のなかで、この総門だけが西向きなのは、中世戦国期からの旧奈良街道に面しているからですが、もう少し考えますと、この位置が本来の位置であって、寺の墓地に残る惣構え土塁との位置関係からみて、土塁に付属する通用門であった可能性も考えられます。
ですが、大部分の城郭関係の門建築遺構がそうであるように、この総門も原位置からは移動していると受け止めるのが無難でしょう。元の位置については寺でも把握していないようで、関連する資料も情報も見当たりませんでした。
近寄ってみて、すぐに古い建物だと感じました。柱や貫などの構造材ももちろんですが、上図の門扉もかなり古い状態のままで、由緒ある建物であるがゆえに大切に維持されてきたことを伺わせます。伏見城の遺構、とは豊臣期、徳川期の二通りありますが、この総門はどちらに相当するのでしょうか。
屋根部分を見上げました。各所に修理や補修が入っているようで、少なくとも屋根の裏板や下地板は江戸期に取り替えられているようです。
ですが、主構造材である左右の太い柱、それを上で繋ぐ太い頭貫は古いもののようです。頭貫の両端に木製の端飾りが見えるのは、追加補修なのかな、と思いましたが、双眼鏡で見ると彫り込みによる意匠のようにも見えて、よく分かりませんでした。
ただ、このような木製の端飾りは、豊臣期でも徳川期でも多く見られ、当該時期の城郭関係の建物には多く見られますが、江戸期になると金属製が多くなってくるので、木製であるのは古いほうかな、と思います。
再び門扉を見ました。門の堅牢さを確保するために、板ごとに釘を打って釘隠しをはめるので、釘隠しの列が上から下まで四段に並びます。蝶番の懸け金具も長く伸びて枠と板をしっかり固定し、力強さにあふれています。寺院の門の扉には似つかわしくない、耐久性が求められる実用本位の門扉です。城郭の門の扉としては、ごく一般的な造りです。
ですが、門自体の規模は小型に属し、防御性も高くはありません。城郭の主要な門ではなく、それとは別の、通用門クラスの遺構と思われます。
門扉の内側を見ました。閂(かんぬき)だけが新しく見えました。これは日々の開閉時に動かして使用する消耗品ですから、長い間使っていれば擦り減ったりヘタってきたりします。建立当初からの閂(かんぬき)がそのまま伝わっているケースは、寺院の門でもなかなかありませんので、消耗度が激しい城郭の門のそれが残っているのは稀です。
典型的な二脚門ですので、上図の後ろの柱は控柱(ひかえばしら)に当たります。上部で屋根の後ろを支えているので、相当な負荷を受けて痛み易い部材になります。それで交換されたようで、上図の控柱とその上下の貫全てが新しい感じになっています。
ともあれ、古い城郭系の門建築であることは間違いありません。伏見城の遺構、とされるのも単なる伝承ではなく、惣構えの土塁に近接する位置からみても、本物であると考えるのが自然でしょう。
端的に言えば、伏見城の惣構えの門である、ということになりますが、豊臣期のものか、それとも徳川期のものかは、残念ながら分かりません。
それで、今度は惣構えの土塁を見学することにして、境内地の西側の墓参道へと向かいました。上図の右奥の建物が本堂、左の小さな堂が観音堂で、それらの背後に墓地があります。
その墓地が、かつての伏見城の惣構えの土塁にあたります。伏見城の惣構えの土塁が現存するのは、実はここだけですが、このことは意外にもあまり知られていないそうです。 (続く)