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ターハイ。

2005年06月25日 | 
宮本輝【森のなかの海】
阪神大震災の直後に愛人のもとへ走った夫。
謎に満ちた女性・毛利カナ江から
奥飛騨の広大な土地を譲り受けた希美子は、家族に支えられながら、
地震で親を失った少女たちとの共同生活を始める。

宮本輝を久しぶりに読んだ。
彼の作品を読むといつも思うが、
心の動きと行動の関係の表現がなんてうまいんだろう。
ほんのチョッとした言葉に泣きそうになったり、
「ああ、俺もこんな状況ではこんな事言っちゃいそう。」と思ったり。
非常に沢山の事柄が次々に起こり、それぞれが示唆に富んでいる。
それぞれの年代に対して、どうあるべきか、何らかの方向性を示してくれる。
大人の男の薀蓄みたいな台詞も多くて、それも彼の作品の楽しみの一つだ。

この作品では実際に震災を体験した筆者によって、
その時の様子がなんとも恐ろしく、悲しく描かれる。
昨日まで普通に接していた人が目の前で死んでいく。
亡くなったり、怪我したり、愛する人を失った人に、
年齢や性別の区別は無い。そして、身体的・精神的後遺症。
僕はこれまでお酒を飲んだときなどに震災の話になると、
成人式の後、大阪に帰ってきて地震にあったときの事や、
その直後、神戸で廃材撤去のバイトをしていた事などを、
面白おかしくでは無いが、ある意味ネタとして話していた。
なんと配慮に欠けていて、恥ずべき事であったかを痛感した。
現地でどんな事が起こり、どんなに悲惨だったかは報道で知っていたはずなのに。
そういう状況下で人間がどういう行動を取るかを織り交ぜた、
宮本輝の文章によって、この震災で本当に悲しい出来事とは何かを知った。

その犠牲となった登場人物たちが、
僕の故郷、飛騨の森でで癒し癒されていく。
大樹と苔生す美しい森が眼に見えるようだ。