THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「『かわいい』論」(四方田犬彦/ちくま新書)

2006年03月28日 | Weblog
近頃の若者は女性を中心に、何でも「かわいい!」と言います。最近では、老人などのほか、気持ちが悪いものに対しても「きもかわ」などと言うそうです。

 そんな中で見つけたのが、この本。なかなか面白かったです。

 日本製のキャラクター商品が世界中を席巻していますが、その市場規模は2兆円ともいわれるとか! 消費社会の文化商品として大きな意味を担うようになりました。
 本書は、「かわいい」を21世紀の美学として位置づけ、その構造を通時的・共時的に分析しています。

「春になったら苺を摘みに」(梨木香歩/新潮文庫)

2006年03月25日 | Weblog
  ベストセラー小説「西の魔女が死んだ」の作者が書いた初エッセイ集。春らしく、美味しそうなタイトルにひかれて読んでみました。
 本書は、作者が英国で生活していた時代の回想録で、学校での恩師・ウェスト夫人との交流を中心に書かれています。

 「理解はできないが、受け容れる」。それがウェスト夫人の生き方だった。「私」が学生時代を過ごした英国の下宿には、女主人ウェスト夫人と、さまざまな人種や考え方の住人たちが暮らしていた。ウェスト夫人の強靱な博愛精神と、時代に左右されない生き方に触れて、「私」は日常を深く生き抜くということを、さらに自分に問い続ける……。 (本書カバーから引用)

 はじめは軽い読み物と思っていましたが、人種差別、戦争やテロへの反発、宗教(信仰)、貧困(世界の経済的格差)、人権……など、重たいテーマを扱っており、考えさせされる点も多く、読み応えがありました。

 個人的には、「子ども部屋」「それぞれの戦争」「クリスマス」の3編が特に好きです。

「博士の愛した数式」(くりた陸/講談社コミックスDX)

2006年03月21日 | Weblog
 大ベストセラーで映画化にもされた小川洋子の小説を少女漫画界の人気作家・くりた陸が完全コミック化。小説では表せなかった人間の内面も深く描いています。
 作者は少女漫画が得意で、年配の男性=「博士」をうまく描けるかどうか悩んだそうですが、描き始めると、だんだんと感情移入してしまい、「博士」を描くことがいちばん楽しかったといっています。
 「世界の中心で愛を叫ぶ」や「いま、会いに行きます」など映画化されたベストセラー小説が次々にコミックされています。それは、活字離れの進む今の若者が文章を読んでストーリーを頭の中で映像化できなくなってきているからだといいます。
 私は文学作品をコミックで読むことに抵抗感があった。しかし、この本を読んで、小説(文章)では表しきれない細かい設定・描写を表現できる漫画の可能性を強く感じました。
 巻末で原作者が言っているように、この漫画では「数式」の美しさを文字以上に表現することに成功しています。

「翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった」(金原瑞人/牧野出版)

2006年03月18日 | Weblog
ユニークなタイトルにひかれて買った本書は、ベテラン翻訳家(英語)が翻訳の悦びと悩ましさ、世界文学との出会いから青春時代の思い出までを語り尽くした初のエッセイ集。翻訳についてや本が出版されるまでの裏事情がよく分かり、読み出したら面白くて次々にページをめくってしまいました。
 翻訳や英語に関心のある人はもちろん、海外の文学が好きな人にもオススメの1冊です!

「県庁の星」(桂望実/小学館)

2006年03月15日 | Weblog
織田裕二主演の映画「県庁の星」が今、大人気というので、私は先週の土曜日に友達と映画館に行きました。しかし、行ってみると、30分前に初回がすでに始まっており、2回目の上映は約5時間後ということが分かり、それまで時間をつぶせないと、泣く泣く映画を見るのを諦めました。
 でも、せっかくだから……ということで、その帰りに原作本を書店で買って読み始めました。
 役人根性全開の県庁のエリートが民間との交流研修で1年間、倒産寸前の田舎のスーパーで働くことになるのですが、本末転倒、怒り心頭、抱腹絶倒……彼はスーパーの裏事情や不正を知り、社員らと対立します。しかし、なんとかスーパーを再建しようと、彼は計画を自ら提出し、あの手この手で社員らの団結を強めようと奮闘します。
 手に汗握るエンターテインメント小説。読み始めると、ストーリーの中に引きづり込まれ、あっという間に読み終えました。
 今度、ぜひ映画を見てみたいと思います!

「あしたはうんと遠くへいこう」(角田光代/角川文庫)

2006年03月13日 | Weblog
 昨年、直木賞を獲った角田光代。受賞作「対岸の彼女」は読まなかったのですが、文庫で作家デビュー作「幸福な遊戯」を呼んで、私はたちまち彼女のファンになりました。しっかりとした文章を書く人だなぁと思いました。それ以来、私は彼女の作品を数冊ほど読んできましたが、最近買った読んだのが本書、彼女が初めて書いた恋愛小説です。
 主人公「泉」は田舎の温泉町から東京に出てきた女の子。「今度こそ幸せになりたい」と願って恋愛しているだけなのに、失敗ばかりしている。東京の大学に出てきて、卒業して、働いて。今度こそ幸せになりたいと願い、さまざまな恋愛を繰り返しながら、少しずつ少しずつ明日を目指して歩いていく。そして、波瀾万丈な恋愛生活の果てに「泉」は……。
 本書は、1人の女の子の15年間の恋愛生活を綴った連作小説というスタイルをとっていて、同時代を知るものにとっては懐かしいものの描写がたくさんあります。。「How sonn is now? 1985」から「Start again 2000」まで、すべてその時代の音楽にのせて語られています。村上春樹や村上龍の作品を意識して書かれたものだと感じました。

「100万回生きたねこ」(佐野洋子/講談社)

2006年03月12日 | Weblog
 オススメ本や新聞の書評欄によく登場する本書。私は以前から知人に薦められていましたが、今回やっと買って読むことができました。
 初版以来30年近くもの間人気を維持している猫絵本の不朽の名作。読む年代によって受ける印象が変わってくるという不思議な魅了に満ちあふれた素晴らしい「おとなの絵本」という感じがします。
 詳しい内容については割愛しますが、いろいろな場所でいろいろな人から飼われて、死んでは生き返った雄ねこが、心をひく雌ねこと出会い、結ばれます。そして、2匹は幸せな生活を送るのですが、ある日突然、雌ねこがなくなります。しばらく何日間も愛する「妻」の死体に寄り添い続けるねこ。そんな、彼も最後の詩が訪れて……。ラストシーンは何度読んでも、胸にジンときます。その理由をうまく表現することはできませんが、読後もそのシーンがなかなか頭から離れることができません。こういうことが本書が長年愛されて、読み告がれている大きな理由ではないでしょうか。

「我輩ハ作者デアル」(原田宗典/集英社文庫)

2006年03月12日 | Weblog
 私の大好きな作家・原田宗典氏の最新エッセイ集。
 作者であるからして、日々いろんなことを考える。いろんなものを見る。いろんなものを聴く。いろんな場所へ行く。そして、いろんな人を想う……。本書には、原田氏がそんな「作者的日常」から生み出した、笑えて、心にしみる文章がたくさん詰まっています。

「下流社会 新たな階層集団の出現」(三浦展/光文社新書)

2006年03月12日 | Weblog
 昨年の大ベストセラーで、「下流社会」という言葉も流行になった同書は、マーケティング・アナリストである著者が豊富なデータを元に書き上げた「階層問題における初の消費社会論」です。
 「下流」の人間たちは、コミュニケーション能力、生活能力、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、人生への意欲が低いので、所得が上がらず、未婚のままである確率も高い。「下流社会」とは具体的にどんな社会で、若い世代の価値観、生活、消費は今どう変わりつつあるのか? 本書は、さまざま独自調査をもとに「下流社会」について分析されており、興味深く読むことができました。
 冒頭に「下流人度」をチェックする項目表があり、私もチェックしてみましたが、なんとか「下流人」の手前でした。
 

「あの頃ぼくらはアホでした」(東野圭吾/集英社文庫)

2006年03月09日 | Weblog
 TBSの連続ドラマ「白夜行」が大人気、今年1月に直木賞を受賞した東野圭吾氏。東野氏の作品はダークな内容で長編が多いので、私はこれまで彼の小説を読んだことがなかったのですが、エッセイ集ならば…と買ってみたのが本書「あの頃ぼくらはアホでした」。300ページを超える本ですが、読み始めると、面白すぎて、あっという間に読み終えてしまいました!
 給食が怖かった小学時代から、無法地帯同然のクラスで学級委員をしていた命がけの中学時代、学園紛争元祖の学校での熱血高校時代、授業をさぼってなかなかやる気が出なかった予備校時代、大学時代、そして就職……。本書は、人気作家・東野氏が赤裸々に当時の自分や友達の「アホさかげん」を吐露した青春記といえるでしょう。
 本書を読んで、はじめて私は作家「東野圭吾」の半生を知りました。子どもの頃から国語や読書が大嫌いで、理科系の高校・大学(工学部電気工学科)に進み、エンジニアとして就職した彼が、小説家になるなんて……?! 人生とは分からないものです。
 怪獣映画が大好きな東野氏。巻末には「ガメラ」の金子監督との対談も収録されています。
 笑えるエピソードが満載! 部分的にも、ぜひ映画化してほしい1冊でした。